怪人二十面相68

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問題文
(それはしちまかはちまぐらいのちゅうりゅうじゅうたくで、もんのはしらにはきたがわじゅうろうという)
それは七間か八間ぐらいの中流住宅で、門の柱には北川十郎という
(ひょうさつがかかっています。もういえじゅうがねてしまったのか、まどからあかりも)
表札がかかっています。もう家中が寝てしまったのか、窓から明かりも
(ささず、さもつつましやかなかていらしくみえるのです。)
ささず、さもつつましやかな家庭らしく見えるのです。
(うんてんしゅ(むろんこれもぞくのぶかなのです)がまっさきにくるまをおりて、もんの)
運転手(むろんこれも賊の部下なのです)がまっ先に車をおりて、門の
(よびりんをおしますと、ほどもなくかたんというおとがして、もんのとびらに)
呼びりんをおしますと、ほどもなくカタンという音がして、門のとびらに
(つくってあるちいさなのぞきまどがあき、そこにふたつのおおきなめだまが)
つくってある小さなのぞき窓があき、そこに二つの大きな目玉が
(あらわれました。もんとうのあかりで、それが、ものすごくひかってみえます。)
あらわれました。門燈のあかりで、それが、ものすごく光って見えます。
(「ああ、きみか、どうだ、しゅびよくいったか。」)
「ああ、きみか、どうだ、しゅびよくいったか。」
(めだまのぬしが、ささやくようなこごえでたずねました。)
目玉のぬしが、ささやくような小声でたずねました。
(「うん、うまくいった。はやくあけてくれ。」)
「ウン、うまくいった。早くあけてくれ。」
(うんてんしゅがこたえますと、はじめてもんのとびらがぎいーとひらきました。)
運転手が答えますと、はじめて門のとびらがギイーとひらきました。
(みると、もんのうちがわには、くろいようふくをきたぞくのぶかが、ゆだんなく)
見ると、門の内がわには、黒い洋服を着た賊の部下が、ゆだんなく
(みがまえをして、たちはだかっているのです。)
身がまえをして、立ちはだかっているのです。
(こじきとあかいとらぞうとが、ぐったりとなったあけちたんていのからだをかかえ、)
乞食と赤井寅三とが、グッタリとなった明智探偵のからだをかかえ、
(うつくしいふじんがそれをたすけるようにして、もんないにきえると、とびらは)
美しい婦人がそれを助けるようにして、門内に消えると、とびらは
(またもとのようにぴったりとしめられました。)
またもとのようにピッタリとしめられました。
(ひとりのこったうんてんしゅは、からになったじどうしゃにとびのりました。)
ひとりのこった運転手は、からになった自動車にとびのりました。
(そして、くるまは、やのようにはしりだし、たちまちみえなくなってしまいました。)
そして、車は、矢のように走りだし、たちまち見えなくなってしまいました。
(どこかべつのところにぞくのしゃこがあるのでしょう。)
どこか別のところに賊の車庫があるのでしょう。
(もんないでは、あけちをかかえたさんにんのぶかが、げんかんのこうしとのまえに)
門内では、明智をかかえた三人の部下が、玄関のこうし戸の前に
(たちますと、いきなりのきのでんとうが、ぱっとてんかされました。めも)
立ちますと、いきなり軒の電燈が、パッと点火されました。目も
(くらむようなあかるいでんとうです。)
くらむような明るい電燈です。
(このいえへはじめてのあかいとらぞうは、あまりのあかるさに、ぎょっとしましたが、)
この家へはじめての赤井寅三は、あまりの明るさに、ギョッとしましたが、
(かれをびっくりさせたのは、そればかりではありませんでした。)
彼をびっくりさせたのは、そればかりではありませんでした。
(でんとうがついたかとおもうと、こんどは、どこからともなく、おおきなひとの)
電燈がついたかと思うと、こんどは、どこからともなく、大きな人の
(こえがきこえてきました。だれもいないのに、こえだけがおばけみたいに、)
声が聞こえてきました。だれもいないのに、声だけがお化けみたいに、
(くうちゅうからひびいてきたのです。)
空中からひびいてきたのです。
(「ひとりにんずうがふえたようだな。そいつはいったい、だれだ。」)
「ひとり人数がふえたようだな。そいつはいったい、だれだ。」
(どうもにんげんのこえとはおもわれないような、へんてこなひびきです。)
どうも人間の声とは思われないような、へんてこなひびきです。
(しんまいのあかいはうすきみわるそうに、きょろきょろあたりをみまわしています。)
新米の赤井はうすきみ悪そうに、キョロキョロあたりを見まわしています。
(すると、こじきにばけたぶかが、つかつかとげんかんのはしらのそばへちかづいて、)
すると、乞食に化けた部下が、ツカツカと玄関の柱のそばへ近づいて、
(そのはしらのあるぶぶんにくちをつけるようにして、)
その柱のある部分に口をつけるようにして、
(「あたらしいみかたです。あけちにふかいうらみをもっているおとこです。じゅうぶん)
「新しい味方です。明智に深いうらみを持っている男です。じゅうぶん
(しんようしていいのです。」)
信用していいのです。」
(と、ひとりごとをしゃべりました。まるででんわでもかけているようです。)
と、ひとりごとをしゃべりました。まるで電話でもかけているようです。
(「そうか、それなら、はいってもよろしい。」)
「そうか、それなら、はいってもよろしい。」
(またへんなこえがひびくと、まるでじどうそうちのように、こうしとがおとも)
またへんな声がひびくと、まるで自動装置のように、こうし戸が音も
(なくひらきました。)
なくひらきました。
(「ははは・・・・・・、おどろいたかい。いまのはおくにいるしゅりょうとはなしをしたんだよ。)
「ハハハ……、おどろいたかい。今のは奥にいる首領と話をしたんだよ。
(ひとめにつかないように、このはしらのかげにかくせいきとまいくろほんが)
人目につかないように、この柱のかげに拡声器とマイクロホンが
(とりつけてあるんだ。しゅりょうはようじんぶかいひとだからね。」)
とりつけてあるんだ。首領は用心ぶかい人だからね。」
(こじきにばけたぶかがおしえてくれました。)
乞食に化けた部下が教えてくれました。
(「だけど、おれがここにいるってことが、どうしてしれたんだろう。」)
「だけど、おれがここにいるってことが、どうして知れたんだろう。」
(あかいは、まだふしんがはれません。)
赤井は、まだふしんがはれません。
(「うん、それもいまにわかるよ。」)
「ウン、それも今にわかるよ。」
(あいてはとりあわないで、あけちをかかえて、ぐんぐんいえのなかへはいって)
相手はとりあわないで、明智をかかえて、グングン家の中へはいって
(いきます。しぜんあかいもあとにしたがわぬわけにはいきません。)
行きます。しぜん赤井もあとにしたがわぬわけにはいきません。
(げんかんのあいだには、またひとりのくっきょうなおとこが、かたをいからして)
玄関の間には、またひとりのくっきょうな男が、かたをいからして
(たちはだかっていましたが、いちどうをみると、にこにこして)
立ちはだかっていましたが、一同を見ると、にこにこして
(うなずいてみせました。)
うなずいてみせました。