食べる -6-(完)

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師匠シリーズ
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問題文

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(「だいじょうぶだよ。ふるくたってしっかりとしおづけされているから、)

「大丈夫だよ。古くたってしっかりと塩漬けされているから、

(またたべられるよ。しおからいけど」)

また食べられるよ。塩辛いけど」

(そういっておじさんはじぶんのくちもとにゆびをはわせ、にくへんのようなものをかんだ。)

そう言っておじさんは自分の口元に指を這わせ、肉片のようなものを噛んだ。

(くちゃくちゃと、わたしにもきこえるように。)

クチャクチャと、わたしにも聞こえるように。

(そのしゅんかん、ぶるぶるとおじさんのかおぜんたいにこまかいけいれんがはしった。)

その瞬間、ぶるぶるとおじさんの顔全体に細かい痙攣が走った。

(ほんのすうびょうだったが、そのあいだおじさんのめだまもこきざみにうごいたのがみえた。)

ほんの数秒だったが、その間おじさんの目玉も小刻みに動いたのが見えた。

(「こんなに、おいしいのに」)

「こんなに、おいしいのに」

(かおのけいれんがとまってもめだまはあっちこっちにうごきつづけている。)

顔の痙攣が止まっても目玉はあっちこっちに動き続けている。

(わたしはどうしようもなくこわくなり、あとずさる。)

わたしはどうしようもなく怖くなり、後ずさる。

(「はなしがとちゅうだったね。きのうほう。きのうほうなんだよ。)

「話が途中だったね。帰納法。帰納法なんだよ。

(てんぐのにくだからふろうちょうじゅなんじゃない。ぐうじたちのかんさつのけっか、)

天狗の肉だから不老長寿なんじゃない。宮司たちの観察の結果、

(このにくをたべればふろうちょうじゅがえられると、そうおもわれたんだ」)

この肉を食べれば不老長寿が得られると、そう思われたんだ」

(めだまはふるえているけれど、おじさんのこえはしっかりしていた。)

目玉は震えているけれど、おじさんの声はしっかりしていた。

(ただとほうもないきょうきをはらんで。)

ただ途方もない狂気を孕んで。

(あとずさるだけ、ちかよってくる。つぼをかかえたまま。)

後ずさるだけ、近寄ってくる。ツボを抱えたまま。

(「ふれいざーのいうるいかんじゅじゅつだよ。るいじしたものにはるいじしたちからがやどる。)

「フレイザーの言う類感呪術だよ。類似したものには類似した力が宿る。

(かんさつだ。かんさつされたんだ。きのうほうなんだ。るいじしたものはそうごにえいきょうを)

観察だ。観察されたんだ。帰納法なんだ。類似したものは相互に影響を

(およぼしあう。ふうふなかをよくしたければ、おしどりをしょくすればいい。)

及ぼしあう。夫婦仲を良くしたければ、オシドリを食すればいい。

(こだからにめぐまれたければ、こだからにめぐまれたじょせいをしょくすればいい。)

子宝に恵まれたければ、子宝に恵まれた女性を食すればいい。

(たべることはもっともげんしょてきでじゅんすいなじゅじゅつだ」)

食べることはもっとも原初的で純粋な呪術だ」

など

(じりじりとちかづいてくる。)

じりじりと近づいてくる。

(つぼにもういちどかたてがさしいれられる。)

ツボにもう一度片手が差し入れられる。

(ぶつり。)

ぶつり。

(にくがちぎれるいやなおと。あたまがかってにそのおとをなんどもなんどもさいせいする。)

肉が千切れる嫌な音。頭がかってにその音を何度も何度も再生する。

(くろいもの。いやなもの。おそろしいものが、そのゆびににぎられている。)

黒いもの。嫌なもの。恐ろしいものが、その指に握られている。

(さしだされるそれをさけようとのけぞるが、かたいものがせなかにあたる。)

差し出されるそれを避けようと仰け反るが、硬いものが背中に当たる。

(ほんだなでこのじがたにかこわれたくぼみにわたしはいた。)

本棚でコの字型に囲われた窪みにわたしはいた。

(おくのほんだなにせなかをおしあて、それいじょうさがれないわたしは、)

奥の本棚に背中を押し当て、それ以上下がれないわたしは、

(どうしようどうしようと、そればかりあたまのなかでくりかえしていた。)

どうしようどうしようと、そればかり頭の中で繰り返していた。

(そして、そのとき、きいてしまったのだ。)

そして、その時、聞いてしまったのだ。

(おじさんのうでにかかえられたつぼのなかから。)

おじさんの腕に抱えられたツボの中から。

(ku・・・・・)

Ku・・・・・

(ちいさな、うめきごえを。)

小さな、うめき声を。

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