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問題文

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(はっとりさんはぼくとおなじばいとのみだが、ほんかくてきにおがわしょちょうのじょしゅとして)

服部さんは僕と同じバイトの身だが、本格的に小川所長の助手として

(はたらいていて、おばけたんとうのかなこさんとことなり、)

働いていて、お化け担当の加奈子さんと異なり、

(「まともな」こうしんじょのしごとをしている。)

「まともな」興信所の仕事をしている。

(「・・・・・」)

「・・・・・」

(はっとりさんはむごんのまま、べんとうがはいっているらしいつつみをてにかかげてみせた。)

服部さんは無言のまま、弁当が入っているらしい包みを手に掲げて見せた。

(「そうか」)

「そうか」

(おがわさんもにがわらいをして、むりにはさそわなかった。)

小川さんも苦笑いをして、無理には誘わなかった。

(ぼくはいまだにこのはっとりさんというだんせいのきゃらくたーがつかめないでいた。)

僕は未だにこの服部さんという男性のキャラクターがつかめないでいた。

(ねんれいはかなこさんとおなじくらい。いわゆるふりーたーで、)

年齢は加奈子さんと同じくらい。いわゆるフリーターで、

(このおがわちょうさじむしょではぶなんにしごとをこなしているようだが、)

この小川調査事務所では無難に仕事をこなしているようだが、

(いかんせんぶあいそうでにこりともわらっているのをみたことがなかった。)

いかんせん無愛想でニコリとも笑っているのを見たことがなかった。

(じぶんからははなしかけてこないし、こちらからはなしかけてもはんのうがないことが)

自分からは話しかけてこないし、こちらから話しかけても反応がないことが

(おおい。でんわたいおうなど、じむてきなものはそれなりにやっているが、この)

多い。電話対応など、事務的なものはそれなりにやっているが、この

(じむしょにいるにんげんについてはそのぜんいんをきらっているかのようなつめたさだった。)

事務所にいる人間についてはその全員を嫌っているかのような冷たさだった。

(とくにめがねのおくのめがこわい。)

特に眼鏡の奥の目が怖い。

(つねにものしずかでそんざいかんがうすく、じむしょないにいっしょにいてもいつのまにか)

つねに物静かで存在感が薄く、事務所内に一緒にいてもいつの間にか

(かれがいることをわすれていることがあった。)

彼がいることを忘れていることがあった。

(いちど、おがわさんとかなこさんとぼくとでぜんいんいっしょにがいしゅつしたとき、)

一度、小川さんと加奈子さんと僕とで全員一緒に外出した時、

(るすにするのでとうぜんじむしょにかぎをかけてでていったのだが、)

留守にするので当然事務所に鍵をかけて出て行ったのだが、

(もどってきてかぎをあけるとはっとりさんがひとりでですくにむかってしごとをしていた、)

戻って来て鍵を開けると服部さんが一人でデスクに向かって仕事をしていた、

など

(なんてこともあったりした。)

なんてこともあったりした。

(びこうがとくいで、かつてしょぞくしていたおおてこうしんじょでは)

尾行が得意で、かつて所属していた大手興信所では

(えーすとしてならしていたおがわさんにいわせても、)

エースとして鳴らしていた小川さんに言わせても、

(「あいつはあれだけでくっていける」とのことらしいが、)

「あいつはあれだけで食っていける」とのことらしいが、

(えーすうんぬんからしてじこしんこくなどであてにはならない。)

エース云々からして自己申告などであてにはならない。

(そしてかなこさんははっとりさんのことをかげで「にんじゃ」とよんでいた。)

そして加奈子さんは服部さんのことを陰で「ニンジャ」と呼んでいた。

(なまえともかけているらしい。)

名前とも掛けているらしい。

(このこうしんじょのばいとにほんごしをいれているところをみると、しょうらいは)

この興信所のバイトに本腰を入れているところを見ると、将来は

(このみちにすすみたいのか、ともそうぞうするが、このしごとはいわばきゃくしょうばいであり、)

この道に進みたいのか、とも想像するが、この仕事はいわば客商売であり、

(このたいじんすきるでだいじょうぶかとたにんごとながらしんぱいになる。)

この対人スキルで大丈夫かと他人事ながら心配になる。

(「じゃ、ちょっとでてくる」)

「じゃ、ちょっと出てくる」

(そういってどあにむかうおがわさんのあとをおいかける。)

そう言ってドアに向かう小川さんの後を追いかける。

(はっとりさんはかおもあげなかった。)

服部さんは顔も上げなかった。

(ぼすとんはおがわちょうさじむしょのはいっているざっきょびるのいっかいにあるきっさてんで、)

ボストンは小川調査事務所の入っている雑居ビルの一階にある喫茶店で、

(ごじゅうねんぱいのだつさらぐみらしいひげのますたーがやっていた。)

五十年配の脱サラ組らしい髭のマスターがやっていた。

(いつもきゃくのいないかうんたーを「とそうがはげるんじゃないか」と)

いつも客のいないカウンターを「塗装が剥げるんじゃないか」と

(しんぱいするほどていねいにふいている。)

心配するほど丁寧に拭いている。

(あるばいとでおんなのこをひとりやとっていて、)

アルバイトで女の子を一人雇っていて、

(ひかりさんというぼくよりふたつとしうえのせんもんがくせいのそのひとのことを、)

ひかりさんという僕より二つ年上の専門学生のその人のことを、

(かなこさんは「ますたーとできてるんじゃないか」と)

加奈子さんは「マスターとできてるんじゃないか」と

(げせわなそうぞうをかっぱつにはたらかせてにやにやしていた。)

下世話な想像を活発に働かせてニヤニヤしていた。

(「いつもの」)

「いつもの」

(かうんたーのおきにいりのせきにつくと、おがわさんはそうちゅうもんする。)

カウンターのお気に入りの席につくと、小川さんはそう注文する。

(これでなぽりたんがでてくるはずだ。)

これでナポリタンが出てくるはずだ。

(ぼくはすこしかんがえて「めーぷるとーすととあめりかん」といった。)

僕は少し考えて「メープルトーストとアメリカン」と言った。

(このみせはこーひーもりょうりもたいしたものはでてこないが、)

この店はコーヒーも料理もたいしたものは出てこないが、

(めーぷるとーすとだけはべつだった。)

メープルトーストだけは別だった。

(つかっているめーぷるしろっぷはしはんのものではなく、)

使っているメープルシロップは市販のものではなく、

(なんでもますたーにはかなだにいじゅうしているしんるいがいて)

なんでもマスターにはカナダに移住している親類がいて

(きんじょののうかがつくっているものをわけてもらっているらしいのだが、)

近所の農家が作っているものを分けてもらっているらしいのだが、

(それをわざわざくうゆでおくってもらっているのだそうだ。)

それをわざわざ空輸で送ってもらっているのだそうだ。

(しんるいに「にほんででてくるのとはぜんぜんちがうから」と、)

親類に「日本で出てくるのとは全然違うから」と、

(いちどおすそわけでもらったものをしょくぱんにぬってみると、)

一度おすそ分けでもらったものを食パンに塗ってみると、

(これがそうぞういじょうにおいしかったため、むりをいって)

これが想像以上においしかったため、無理を言って

(ていきてきにおくってもらうようにし、きっさてんのめにゅーにくわえたのだった。)

定期的に送ってもらうようにし、喫茶店のメニューに加えたのだった。

(たしかにうまい。ふんわりときつねいろにやきしょくのついたとーすとのしょっかんと、)

確かに美味い。ふんわりとキツネ色に焼き色のついたトーストの食感と、

(あまみのなかにめーぷるのどくとくのにがみとかぜあじがあり、)

甘みの中にメープルの独特の苦味と風味があり、

(これをこーひーでいにながしこむのはしふくのひとときですらあった。)

これをコーヒーで胃に流し込むのは至福のひとときですらあった。

(ならべられたものをむごんでたべていると、かうんたーのおくのてれびが)

並べられたものを無言で食べていると、カウンターの奥のテレビが

(れんぞくとおりまじけんのぞくほうをつげていた。)

連続通り魔事件の続報を告げていた。

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