夏目漱石「抗夫」4

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「抗夫」4
夏目漱石の「抗夫」です。

「もくてき」であったり一方で「めあて」と読んだりややこしいですが頑張ってください。

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問題文

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(ふしぎなことにいっそのこととかんねんしてみたがべつにどきんともしなかった。) 不思議な事に一層の事と観念してみたが別にどきんともしなかった。 (いままでとうきょうにいたじぶんいっそのこととむふんべつをおこしかけたこともたびたびあるが、) 今まで東京に居た時分一層の事と無分別を起しかけた事も度々あるが、 (そのたびたびにどきんとしないことはなかった。) その度々にどきんとしない事はなかった。 (あとからぞっとして、まあよかったとおもわないこともなかった。) 後からぞっとして、まあ善かったと思わない事もなかった。 (ところがこんどはてんからどきんともぞっともしない。) ところが今度は天からどきんともぞっともしない。 (どきんとでもぞっとでもかってにするがいいというくらいに、) どきんとでもぞっとでも勝手にするが善いと云う位に、 (ふあんのねんがむねいっぱいにひろがっていたんだろう。) 不安の念が胸一杯に広がっていたんだろう。 (そのうえいっそのことをだんこうするのがいまがいまではないというあんしんが) その上一層の事を断行するのが今が今ではないと云う安心が (どこかにあるらしい。) どこかにあるらしい。 (あしたになるかあさってになるか、ことによったらいっしゅうかんもかかるか、) 明日になるか明後日になるか、ことに由ったら一週間も掛るか、
(まかりまちがえばむきげんにのばしてもさしつかえないと) まかり間違えば無期限に延ばしても差支ないと (たかをくくっていたせいかもしれない。) 高を括っていたせいかも知れない。 (けごんのたきにしてもあさまのふんかこうにしても) 華厳の瀑にしても浅間の噴火口にしても (みちのりはまだだいぶあるくらいはしらぬまにかんじていたんだろう。) 道程はまだ大分ある位は知らぬ間に感じていたんだろう。 (いきついていよいよとならなければだれがどきんとするものじゃない。) 行き着いて愈とならなければ誰がどきんとするものじゃない。 (したがっていっそのことをだんこうしてみようというきにもなる。) 従って一層の事を断行してみようと云う気にもなる。 (このいちめんにくもったせかいがくつうであって、) この一面に曇った世界が苦痛であって、 (このくつうをどきんとしないていどにおいてまぬかれるのぞみがあるとおもえば) この苦痛をどきんとしない程度に於て免れる望があると思えば (おもいあしもまえにだしがいがある。) 重い足も前に出し甲斐がある。 (まずこのくらいのけっしんであったらしい。) 先ずこの位の決心であったらしい。
など
(しかしこれはあとからかんがえたしんりじょうたいのかいぼうである。) 然しこれはあとから考えた心理状態の解剖である。 (そのとうじはただくらいところへでればいい。) その当時はただ暗い所へ出ればいい。 (なんでもくらいところへいかなければならないと、) 何でも暗い所へ行かなければならないと、 (ひたすらくらいところをめあてにあるきだしたばかりである。) ひたすら暗い所を目的に歩き出したばかりである。 (いまかんがえるとばかばかしいが、あるばあいになると) 今考えると馬鹿々々しいが、ある場合になると (われわれはしをもくてきにしてすすむのをせめてものいしゃとこころえるようになってくる。) 吾々は死を目的にして進むのをせめてもの慰藉と心得る様になって来る。 (ただしめざすしはかならずえんぽうになければならないということもじじつだろうとおもう。) 但し目指す死は必ず遠方になければならないと云う事も事実だろうと思う。 (すくなくともじぶんはそうかんがえる。) 小くとも自分はそう考える。 (あまりちかすぎるといしゃになりかねるのはしといういんがである。) あまり近過ぎると慰藉になりかねるのは死と云う因果である。 (ただくらいところへいきたい。) 只暗い所へ行きたい。 (いかなくっちゃならないとおもいながら、くもをつかむようなりょうけんであるいてくると、) 行かなくっちゃならないと思いながら、雲を攫む様な料簡で歩いて来ると、 (うしろからおいおいよぶものがある。) 後からおいおい呼ぶものがある。 (どんなにたましいがうろついてるときでも) どんなに魂がうろついてる時でも (よばれてみるとしょうねがあるのはふしぎなものだ。) 呼ばれてみると性根があるのは不思議なものだ。 (じぶんはなんのきもなくふりむいた。) 自分は何の気もなく振り向いた。 (おうずるためといういしきさえもたなかったのはじじつである。) 応ずる為と云う意識さえ持たなかったのは事実である。 (しかしふりむいてみてはじめてきがついた。) 然し振り向いて見て始めて気が付いた。 (じぶんはさっきのちゃてんからまだにじゅっけんとははなれていない。) 自分は先っきの茶店から未だ二十間とは離れていない。 (そのちゃてんのまえのおうらいへ、れいのはんてんとどてらのあいのこがでて、) その茶店の前の徃来へ、例の袢天とどてらの合の子が出て、 (やにだらけのはをあらわにさらしながらしきりにじぶんをよんでいる。) 脂だらけの歯をあらわに曝しながら頻に自分を呼んでいる。
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