人間失格(第一の手記)1
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問題文
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(はじのおおいしょうがいをおくってきました)
恥の多い生涯を送って来ました。
(じぶんにはにんげんのせいかつというものがけんとうつかないのです)
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
(じぶんはとうほくのいなかにうまれましたので)
自分は東北の田舎に生れましたので、
(きしゃをはじめてみたのはよほどおおきくなってからでした)
汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
(じぶんはていしゃじょうのぶりっじをのぼっておりてそうしてそれが)
自分は、停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが
(せんろをまたぎこえるためにつくられたものだということにはぜんぜんきづかず)
線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、
(ただそれはていしゃじょうのこうないをがいこくのゆうぎじょうみたいにふくざつにたのしく)
ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、
(はいからにするためにのみせつびせられてあるものだとばかりおもっていました)
ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。
(しかもかなりながいあいだそうおもっていたのです)
しかも、かなり永い間そう思っていたのです。
(ぶりっじののぼったりおりたりはじぶんにはむしろ)
ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、
(ずいぶんあかぬけのしたゆうぎでそれはてつどうのさーヴぃすのなかでも)
ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、
(もっともきのきいたさーヴぃすのひとつだとおもっていたのですが)
最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、
(のちにそれはただりょかくがせんろをまたぎこえるための)
のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための
(すこぶるじつりてきなかいだんにすぎないのをはっけんしてにわかにきょうがさめました)
頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めました。
(またじぶんはこどものころえほんでちかてつどうというものをみてこれもやはり)
また、自分は子供の頃、絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、
(じつりてきなひつようからあんしゅつせられたものではなくちじょうのくるまにのるよりは)
実利的な必要から案出せられたものではなく、地上の車に乗るよりは、
(ちかのくるまにのったほうがふうがわりでおもしろいあそびだから)
地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊びだから、
(とばかりおもっていました)
とばかり思っていました。
(じぶんはこどものころからびょうじゃくでよくねこみましたが)
自分は子供の頃から病弱で、よく寝込みましたが、
(ねながらしきふまくらのかヴぁかけぶとんのかヴぁをつくづく)
寝ながら、敷布、枕のカヴァ、掛蒲団のカヴァを、つくづく、
など
(つまらないそうしょくだとおもいそれがあんがいにじつようひんだったことを)
つまらない装飾だと思い、それが案外に実用品だった事を、
(はたちちかくになってわかってにんげんのつましさにあんぜんとし)
二十歳ちかくになってわかって、人間のつましさに暗然とし、
(かなしいおもいをしました)
悲しい思いをしました。
(またじぶんはくうふくということをしりませんでした)
また、自分は、空腹という事を知りませんでした。
(いやそれはじぶんがいしょくじゅうにこまらないいえにそだったといういみではなく)
いや、それは、自分が衣食住に困らない家に育ったという意味ではなく、
(そんなばかないみではなくじぶんにはくうふくというかんかくはどんなものだか)
そんな馬鹿な意味ではなく、自分には「空腹」という感覚はどんなものだか、
(さっぱりわからなかったのです)
さっぱりわからなかったのです。
(へんないいかたですがおなかがすいていても)
へんな言いかたですが、おなかが空いていても、
(じぶんでそれにきがつかないのです)
自分でそれに気がつかないのです。
(しょうがっこうちゅうがっこうじぶんががっこうからかえってくるとしゅういのひとたちが)
小学校、中学校、自分が学校から帰って来ると、周囲の人たちが、
(それおなかがすいたろうじぶんたちにもおぼえがある)
それ、おなかが空いたろう、自分たちにも覚えがある、
(がっこうからかえってきたときのくうふくはまったくひどいからな)
学校から帰って来た時の空腹は全くひどいからな、
(あまなっとうはどうかすてらもぱんもあるよなどといってさわぎますので)
甘納豆はどう?カステラも、パンもあるよ、などと言って騒ぎますので、
(じぶんはもちまえのおべっかせいしんをはっきしておなかがすいたとつぶやいて)
自分は持ち前のおべっか精神を発揮して、おなかが空いた、と呟いて、
(あまなっとうをじゅっつぶばかりくちにほうりこむのですがくうふくかんとはどんなものだか)
甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのですが、空腹感とは、どんなものだか、
(ちっともわかっていやしなかったのです)
ちっともわかっていやしなかったのです。
(じぶんだってそれはもちろんおおいにものをたべますがしかしくうふくかんから)
自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、
(ものをたべたきおくはほとんどありません)
ものを食べた記憶は、ほとんどありません。
(めずらしいとおもわれたものをたべます)
めずらしいと思われたものを食べます。
(ごうかとおもわれたものをたべます)
豪華と思われたものを食べます。
(またよそへいってだされたものもむりをしてまでたいていたべます)
また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。
(そうしてこどものころのじぶんにとってもっともくつうなじこくは)
そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、
(じつにじぶんのいえのしょくじのじかんでした)
実に、自分の家の食事の時間でした。
