『言の葉掬い』
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問題文
(いえない。)
言えない。
(いえない。)
言えない。
(でも、ほんとうはなんどもこころのなかでいっていた。)
でも、本当は何度も心の中で言っていた。
(だからこんなにくるしい。)
だからこんなに苦しい。
(はなたれたことばはのどをとおらずうみのおくふかくへ。)
放たれた言葉は喉を通らず海の奥深くへ。
(もうすくえない。)
「もう掬えない。」
(ぼくがあきらめたしゅんかんに、ことばはきえないきずとなった。)
僕が諦めた瞬間に、言葉は消えない傷となった。
(きずがいたむ、ぼくはわらう。)
傷が痛む、僕は笑う。
(わらうことさえできなくなったら、)
笑うことさえできなくなったら、
(しんでしまうかもしれないとおもったから。)
死んでしまうかもしれないと思ったから。
(わらう。)
笑う。
(わらえ。)
笑え。
(いつかのぼくはそういった。)
いつかの僕はそう言った。
(いまのぼくはどうだ。)
今の僕はどうだ。
(きずつくだけならこころなんかいらない。)
傷つくだけなら心なんかいらない。
(ぼくをおわらせることはいつでもできる。)
僕を終わらせることはいつでもできる。
(あとはこころがおいつくのをまつだけだ。)
あとは心が追いつくのを待つだけだ。
(ないふはもうみぎてに。)
ナイフはもう右手に。
(さよなら、ぼくのひび。)
さよなら、僕の日々。
(さよなら、ぼくのゆううつ。)
さよなら、僕の憂鬱。
(たいせつなひと、たいせつなもの、たいせつなばしょ。)
大切な人、大切なもの、大切な場所。
(かけがえのないものなんかない。)
かけがえのないものなんかない。
(もう、なにもいらない。)
もう、何もいらない。
(そういったはずなのに、ぼくはまだ、ここにいる。)
そう言ったはずなのに、僕はまだ、ここにいる。
(こころにはくうはく。)
心には空白。
(そこになにがあったのかさえおもいだせない。)
そこに何があったのかさえ思い出せない。
(かこのぼくはうらぎられたとおこり、)
過去の僕は裏切られたと怒り、
(かこのぼくはむくわれたとないている。)
過去の僕は報われたと泣いている。
(ごめんね。)
ごめんね。
(でも、いきるってこういうことだとおもうんだ。)
でも、生きるってこういうことだと思うんだ。
(まえばかりみてあるくひつようも、)
前ばかり見て歩く必要も、
(けしきをみてたのしむひつようも、)
景色を見て楽しむ必要も、
(いままでのみちのりをなつかしむひつようもない。)
今までの道のりを懐かしむ必要もない。
(もっとみんなじゆうになれたら、)
もっとみんな自由になれたら、
(でも、それがほんとうにむずかしいんだよな。)
でも、それが本当に難しいんだよな。
(ひびはかわりつづける。)
日々は変わり続ける。
(ひともおなじく。)
人も同じく。
(きのうのぼくはもう、ここにはいない。)
昨日の僕はもう、ここにはいない。
(ぼくはぼくをころしつづける。)
僕は僕を殺し続ける。
(こころのなかみはだれにもわからない。)
心の中身は誰にもわからない。
(きっとかみさまにだって。)
きっと神様にだって。
(でも、ぼくはしっている、ぼくだけはしっている。)
でも、僕は知っている、僕だけは知っている。
(ぼくにしかすくえないことばは、まだうみのそこに。)
僕にしか掬えない言葉は、まだ海の底に。
(あしたはちゃんというから。)
明日はちゃんと言うから。
(だから、どうかまだしなないで。)
だから、どうかまだ死なないで。