マザリンの宝石 6

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投稿者投稿者大樹野いいね0お気に入り登録
プレイ回数2346難易度(5.0) 5493打 長文
【シャーロック・ホームズの事件簿】より
長文なので、読書感覚でお楽しみください

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問題文

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(「おどろくのもとうぜんだ。きみはしんしつにもうひとつとびらがあってかーてんのうしろに)

「驚くのも当然だ。君は寝室にもう一つ扉があってカーテンの後ろに

(つうじているのをきづいていなかった。ぼくがにんぎょうをうごかしたとき、)

通じているのを気づいていなかった。僕が人形を動かした時、

(きみにおとをきかれたにちがいないとおもったよ。しかしうんがみかたした。)

君に音を聞かれたに違いないと思ったよ。しかし運が味方した。

(そのおかげで、きわどいはなしをきくちゃんすをものにできたよ。)

そのおかげで、際どい話を聞くチャンスをものに出来たよ。

(もしぼくのそんざいがきづかれていれば、むりやりききだそうとしても)

もし僕の存在が気づかれていれば、無理やり聞き出そうとしても

(ほねがおれるようなはなしをな」はくしゃくはあきらめたようなみぶりをした。)

骨が折れるような話をな」伯爵はあきらめたような身振りをした。

(「まいったよ、ほーむず。おまえはあくまそのもののようだ」「あたらずとも)

「参ったよ、ホームズ。お前は悪魔そのもののようだ」「当たらずとも

(とおからずというところか、なんにせよ」ほーむずはれいぎただしいほほえみを)

遠からずというところか、なんにせよ」ホームズは礼儀正しい微笑みを

(うかべてこたえた。さむ・まーとんのにぶいあたまにも、ようやくすこしずつじょうきょうが)

浮かべて答えた。サム・マートンの鈍い頭にも、ようやく少しずつ状況が

(のみこめてきた。このとき、おもいあしおとがそとのかいだんからきこえてきて、)

飲み込めてきた。この時、重い足音が外の階段から聞こえてきて、

(かれはついにこえをあげた。「つかまったのか!」かれはいった。「しかし、おい、)

彼は遂に声を上げた。「捕まったのか!」彼は言った。「しかし、おい、

(あのうっとおしいばいおりんはどうなっている!まだきこえてくるぞ」)

あのうっとおしいバイオリンはどうなっている!まだ聞こえてくるぞ」

(「ちぃ、ちぃ!」ほーむずはこたえた。「まったくそのとおりだな。)

「チィ、チィ!」ホームズは答えた。「全くその通りだな。

(ひかせておくんだな!こういうあたらしいちくおんきというのはすばらしい)

弾かせておくんだな!こういう新しい蓄音機というのは素晴らしい

(はつめいひんだな」けいさつがとびこんできた。てじょうがかちりとおとをたて、)

発明品だな」警察が飛び込んできた。手錠がカチリと音を立て、

(はんざいしゃたちはまちかまえていたつじばしゃにつれていかれた。わとそんは)

犯罪者達は待ち構えていた辻馬車に連れて行かれた。ワトソンは

(ほーむずのげっけいかんにあたらしいはがいちまいくわわったことをいわってへやにのこった。)

ホームズの月桂冠に新しい葉が一枚加わった事を祝って部屋に残った。

(なにごとにもどうじないびりーがめいしぼんをもってきたので、ふたりのはなしは)

何事にも動じないビリーが名刺盆を持って来たので、二人の話は

(またちゅうだんされた。「かんとるまーきょうです」「おとおししてくれ、びりー。)

また中断された。「カントルマー卿です」「お通ししてくれ、ビリー。

(このかたはちょうじょうりゅうしゃかいをだいひょうするこうめいなじょういんぎいんだ」)

この方は超上流社会を代表する高名な上院議員だ」

など

(ほーむずはいった。「かれはゆうしゅうでちゅうじつなじんぶつだ。しかしかなりかちかちの)

ホームズは言った。「彼は優秀で忠実な人物だ。しかしかなりカチカチの

(きゅうたいせいはだ。ちょっとほぐしてやろうかな?あえてちょっと)

旧体制派だ。ちょっとほぐしてやろうかな?あえてちょっと

(ぶしつけなことをしてみるか?かれはなにがおこったか、まったくしらないだろうしな」)

ぶしつけな事をしてみるか?彼は何が起こったか、全く知らないだろうしな」

(とびらがあいてやせたおもくるしいひとかげがまねきいれられた。ほそくとがったかおに)

扉が開いて痩せた重苦しい人影が招き入れられた。細くとがった顔に

(たれさがったちゅうきヴぃくとりあちょうのくろぐろとこうたくのあるほおひげをはやしているが、)

垂れ下がった中期ヴィクトリア朝の黒々と光沢のある頬髯を生やしているが、

(まがったせなかとよぼよぼしたあしどりにはまるでにあわない。)

曲がった背中とよぼよぼした足取りにはまるで似合わない。

(ほーむずはあいそよくあゆみより、きのりのしないてをにぎりしめた。)

ホームズは愛想よく歩み寄り、気乗りのしない手を握り締めた。

(「はじめまして、かんとるまーきょう。このきせつにしてはさむいですね。)

「はじめまして、カントルマー卿。この季節にしては寒いですね。

(しかししつないはちょっとあたたかいです。こーとをあずかりましょうか?」)

しかし室内はちょっと暖かいです。コートを預かりましょうか?」

(「いや、けっこうだ。ぬぐきはない」ほーむずはしつこくかたにてをかけた。)

「いや、結構だ。脱ぐ気はない」ホームズはしつこく肩に手をかけた。

(「こーとをあずかりましょう!ゆうじんのわとそんいしが、こういうおんどへんかが)

「コートを預かりましょう!友人のワトソン医師が、こういう温度変化が

(いちばんゆだんならないといってくれる」かんとるまーきょうはちょっといらいらして)

一番油断ならないと言ってくれる」カントルマー卿はちょっとイライラして

(てをふりはらった。「べつにあつくはない。そんなにながくいるひつようはない。)

手を振り払った。「別に暑くはない。そんなに長くいる必要はない。

(わたしはただきみがみずからひきうけたしごとのしんちょくじょうきょうをしるために)

私はただ君が自ら引き受けた仕事の進捗状況を知るために

(ちょっとよっただけだ」「たいへんです、・・・・ひじょうにたいへんです」)

ちょっと寄っただけだ」「大変です、・・・・非常に大変です」

(「そうなるんじゃないかとしんぱいしていたんだ」かんとるまーきょうの)

「そうなるんじゃないかと心配していたんだ」カントルマー卿の

(ことばとたいどには、はっきりとけいべつのようすがあった。「だれでもじぶんのげんかいを)

言葉と態度には、はっきりと軽蔑の様子があった。「誰でも自分の限界を

(しるときがある、ほーむずくん。しかしすくなくともそれでじこまんぞくという)

知る時がある、ホームズ君。しかし少なくともそれで自己満足という

(じゃくてんをきょうせいできるのだ」「ええ、わたしはひじょうにとほうにくれています」)

弱点を矯正できるのだ」「ええ、私は非常に途方にくれています」

(「もちろん、そんなところだろう」「とくにひとつのてんにかんしてです。)

「もちろん、そんなところだろう」「特に一つの点に関してです。

(よろしければごじょりょくいただけますか?」)

よろしければご助力いただけますか?」

(「わたしのじょげんをきくのがちょっとおそすぎるよ。)

「私の助言を聞くのがちょっと遅すぎるよ。

(きみはどくじのなんでもできるやりかたをもっていたとおもったがね。それでも、)

君は独自の何でも出来るやり方を持っていたと思ったがね。それでも、

(きみをてだすけするのはいとわんよ」「よろしいですか、かんとるまーきょう。)

君を手助けするのはいとわんよ」「よろしいですか、カントルマー卿。

(じっさいのせっとうはんにたいしてはもちろんこくそすることができますね」)

実際の窃盗犯に対してはもちろん告訴することができますね」

(「はんにんをつかまえたあとだが」「そのとおりです。しかしおうかがいしたいのは、)

「犯人を捕まえた後だが」「その通りです。しかしお伺いしたいのは、

(ーーほうせきのひきとりにんにかんしてはどのようにこくそできるでしょうか?」)

――宝石の引取人に関してはどのように告訴できるでしょうか?」

(「ちょっとじきしょうそうじゃないかね?」「じぜんにじゅんびしておいてもいいでしょう。)

「ちょっと時期尚早じゃないかね?」「事前に準備しておいてもいいでしょう。

(さて、ほうせきのひきとりにんにたいするけっていてきしょうことみなせるのは)

さて、宝石の引取人に対する決定的証拠とみなせるのは

(どんなものでしょうか?」「ほうせきをじっさいにもっているということだ」)

どんなものでしょうか?」「宝石を実際に持っているという事だ」

(「それなら、そのにんげんをたいほしますか?」「いうまでもない」)

「それなら、その人間を逮捕しますか?」「言うまでもない」

(ほーむずはほとんどおおわらいというものをしなかった。)

ホームズはほとんど大笑いというものをしなかった。

(しかし、ふるいゆうじんのわとそんのきおくにあるかぎり、このときのわらいは)

しかし、古い友人のワトソンの記憶にある限り、この時の笑いは

(もっともそれにちかかった。「そういうことでしたら、かんとるまーきょう。)

最もそれに近かった。「そういうことでしたら、カントルマー卿。

(たいへんこころぐるしいのですがあなたをたいほするようにおすすめしなければ)

大変心苦しいのですがあなたを逮捕するようにお勧めしなければ

(なりません」かんとるまーきょうはげきどした。けっしょくのわるいほおにわかいじだいの)

なりません」カントルマー卿は激怒した。血色の悪い頬に若い時代の

(げきじょうのほのおがゆらめいた。「ぶじょくにもほどがあるぞ、ほーむずくん。)

激情の炎が揺らめいた。「侮辱にも程があるぞ、ホームズ君。

(50ねんかんのこうむでこんなことはいちどもなかった。わたしはいそがしいのだ。)

50年間の公務でこんな事は一度もなかった。私は忙しいのだ。

(じゅうようなしごとをてがけていて、ばかなじょうだんをすきこのんできくじかんなどない。)

重要な仕事を手がけていて、馬鹿な冗談を好き好んで聞く時間などない。

(そっちょくにいって、わたしはけっしてきみのじつりょくをしんじてはいなかった。そして)

率直に言って、私は決して君の実力を信じてはいなかった。そして

(わたしはずっとこのじけんはけいさつにまかせたほうがずっとうまくいくというけんかいを)

私はずっとこの事件は警察に任せたほうがずっと上手く行くという見解を

(もっていた。きみのたいどでわたしのかんがえがぜんぶただしかったことがわかった。)

持っていた。君の態度で私の考えが全部正しかった事が分かった。

(かえらせていただく」ほーむずはさっとかんとるまーきょうととびらのあいだに)

帰らせて頂く」ホームズはさっとカントルマー卿と扉の間に

(たちふさがった。「ちょっとまってください」かれはいった。)

立ちふさがった。「ちょっと待ってください」彼は言った。

(「じっさいに、まざりんのほうせきをもちにげされると、いちじてきに)

「実際に、マザリンの宝石を持ち逃げされると、一時的に

(それをもっているげんばをはっけんされるよりも、もっとじゅうざいになりますよ」)

それを持っている現場を発見されるよりも、もっと重罪になりますよ」

(「もういいかげんにしろ!とおせ」「こーとのみぎがわのぽけっとに)

「もういい加減にしろ!通せ」「コートの右側のポケットに

(てをいれてみてください」「なにをいっているんだ?」)

手を入れてみてください」「何を言っているんだ?」

(「さあ、さあ、いったようにしてください」いっしゅんのあと、)

「さあ、さあ、言ったようにしてください」一瞬の後、

(おおきなきいろのほうせきをふるえるてのひらにのせて、かんとるまーきょうは)

大きな黄色の宝石を震える手の平に乗せて、カントルマー卿は

(めをしばたかせ、きょうがくにくちごもりながらたっていた。「なんだ!なんだ!)

目をしばたかせ、驚愕に口ごもりながら立っていた。「何だ!何だ!

(これはどうしたんだ?ほーむずくん」「いけませんね、かんとるまーきょう。)

これはどうしたんだ?ホームズ君」「いけませんね、カントルマー卿。

(いけませんね!」ほーむずはさけんだ。「このきゅうゆうにきけばわかりますが、)

いけませんね!」ホームズは叫んだ。「この旧友に聞けば分かりますが、

(ぼくはわるふざけをするといういけないしゅうかんがあります。)

僕は悪ふざけをするといういけない習慣があります。

(それにぼくはげきてきなばめんにはがまんができないたちなんです。)

それに僕は劇的な場面には我慢が出来ないたちなんです。

(しつれいしました、ーーほんとうにしつれいしました。じつは、あったときに)

失礼しました、――本当に失礼しました。実は、会った時に

(あなたのぽけっとにほうせきをいれたんですよ」かんとるまーきょうは)

あなたのポケットに宝石を入れたんですよ」カントルマー卿は

(ほうせきをにらみつけていたが、ほーむずのほうにえがおをむけた。「なにがおきたかと)

宝石を睨みつけていたが、ホームズの方に笑顔を向けた。「何が起きたかと

(おもったよ。しかし、・・・・そう・・・・これはたしかにまざりんのほうせきだ。)

思ったよ。しかし、・・・・そう・・・・これは確かにマザリンの宝石だ。

(きみにはたいへんなかりができた、ほーむずくん。きみのゆーもあのせんすは、)

君には大変な借りができた、ホームズ君。君のユーモアのセンスは、

(きみもみとめたように、すこしばかりみょうで、あまりにもときをわきまえずに)

君も認めたように、少しばかり妙で、あまりにも時をわきまえずに

(でてくるが、しかしすくなくとも、わたしはじぶんのいけんをすべててっかいするよ。きみは)

出てくるが、しかし少なくとも、私は自分の意見をすべて撤回するよ。君は

(おどろくべきぷろふぇっしょなるなのうりょくをもっていた。しかし、いったい・・・」)

驚くべきプロフェッショナルな能力を持っていた。しかし、いったい・・・」

(「このじけんはまだおわっていません。くわしいことはあとにしましょう。)

「この事件はまだ終わっていません。詳しいことは後にしましょう。

(かんとるまーきょう、あなたはこれからもどってこうきなかたがたにじけんがうまく)

カントルマー卿、あなたはこれから戻って高貴な方々に事件が上手く

(かいけつしたとれんらくすれば、もちろんうれしいでしょうから、それが、)

解決したと連絡すれば、もちろん嬉しいでしょうから、それが、

(ぼくのわるふざけのちょっとしたうめあわせになればさいわいです。)

僕の悪ふざけのちょっとした埋め合わせになれば幸いです。

(びりー、かっかをあんないしてくれ。そしてはどそんふじんにいってくれ。)

ビリー、閣下を案内してくれ。そしてハドソン夫人に言ってくれ。

(できるだけはやくににんぶんのゆうしょくをもってきてもらえればありがたいと」)

出来るだけ早く二人分の夕食を持ってきてもらえればありがたいと」

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