パノラマ奇島談_§22

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著者:江戸川乱歩
売れない物書きの人見廣介は、定職にも就かない極貧生活の中で、自身の理想郷を夢想し、それを実現することを夢見ていた。そんなある日、彼は自分と瓜二つの容姿の大富豪・菰田源三郎が病死した話を知り合いの新聞記者から聞く。大学時代、人見と菰田は同じ大学に通っており、友人たちから双生児の兄弟と揶揄されていた。菰田がてんかん持ちで、てんかん持ちは死亡したと誤診された後、息を吹き返すことがあるという話を思い出した人見の中で、ある壮大な計画が芽生える。それは、蘇生した菰田を装って菰田家に入り込み、その莫大な財産を使って彼の理想通りの地上の楽園を創造することであった。幸い、菰田家の墓のある地域は土葬の風習が残っており、源三郎の死体は焼かれることなく、自らの墓の下に埋まっていた。

人見は自殺を偽装して、自らは死んだこととし、菰田家のあるM県に向かうと、源三郎の墓を暴いて、死体を隣の墓の下に埋葬しなおし、さも源三郎が息を吹き返したように装って、まんまと菰田家に入り込むことに成功する。人見は菰田家の財産を処分して、M県S郡の南端にある小島・沖の島に長い間、夢見ていた理想郷を建設する。

一方、蘇生後、自分を遠ざけ、それまで興味関心を示さなかった事業に熱中する夫を源三郎の妻・千代子は当惑して見つめていた。千代子に自分が源三郎でないと感付かれたと考えた人見は千代子を、自らが建設した理想郷・パノラマ島に誘う。人見が建設した理想郷とはどのようなものだったのか。そして、千代子の運命は?

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問題文

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(ひろすけはちよこのてをとって、すうにんのらじょによってつくられたれんだいのうえにおしあ)

広介は千代子の手を取って、数人の裸女によって作られた蓮台の上に押し上

(げ、じぶんもそのあとから、ちよことならんで、にくのこしかけにざをしめました。)

げ、自分もそのあとから、千代子と並んで、肉の腰掛に座をしめました。

(じんにくのはなびらは、ひらいたまま、そのちゅうおうにひろすけとちよことをつつんで、はなの)

人肉の花びらは、ひらいたまま、その中央に広介と千代子とを包んで、花の

(やまやまをめぐりはじめるのです。)

山々をめぐり始めるのです。

(ちよこは、めのまえのせかいのふしぎさと、らじょたちのあまりのむかんどうにげんわくし)

千代子は、目の前の世界の不思議さと、裸女たちのあまりの無感動に幻惑し

(て、いつしかこのよのしゅうちをわすれてしまったかたちでした。かのじょはひざのしたにきふくす)

て、いつしかこの世の羞恥を忘れてしまった形でした。彼女は膝の下に起伏す

(る、こえふとったふくぶのやわらかみを、むしろこころよくさえかんじていました。)

る、肥え太った腹部のやわらかみを、むしろ快くさえ感じていました。

(きゅうりょうときゅうりょうとのあいだの、たにともみるべきぶぶんに、ほそいみちはいくまがりしながらつづ)

丘陵と丘陵との間の、谷とも見るべき部分に、細い道はいく曲がりしながら続

(きました。そのらじょたちのすあしがふみしだくところにも、おかとおなじようにひゃっか)

きました。その裸女たちの素足が踏みしだくところにも、丘と同じように百花

(がみだれさいているのです。にくたいのやわらかなばねじかけのうえに、ふかぶかとしたこの)

が乱れ咲いているのです。肉体の柔らかなバネ仕掛けの上に、深々としたこの

(はなのじゅうたんは、かれらののりものを、いっそうなめらかにここちよくしました。)

花の絨毯は、彼らの乗り物を、一層滑らかに心地よくしました。

(しかし、このせかいのびは、たえずかれらのはなをうっているふしぎなかおりよりも、)

しかし、この世界の美は、絶えず彼らの鼻をうっている不思議な薫りよりも、

(ちちいろによどんでいるいようなそらのいろよりも、いつからはじまったともなく、はるのそよ)

乳色に澱んでいる異様な空の色よりも、いつから始まったともなく、春のそよ

(かぜのように、かれらのみみをたのしませている、きみょうなおんがくよりも、あるいはまた、)

風のように、彼らの耳を楽しませている、奇妙な音楽よりも、あるいはまた、

(せんしばんこう、いろとりどりのはなのかべよりも、そのはなにつつまれたやまやまのかたりえぬふし)

千紫万紅、色とりどりの花の壁よりも、その花に包まれた山々の語りえぬ不思

(ぎなきょくせんにありました。)

議な曲線にありました。

(ひとはこのせかいにおいて、はじめてきょくせんのあらわしうるびをさとったでありましょう。し)

人はこの世界において、初めて曲線の表しうる美を悟ったでありましょう。自

(ぜんのさんがくと、くさきと、へいやと、じんたいのきょくせんになれたにんげんのめには、ここにそれ)

然の山岳と、草木と、平野と、人体の曲線に慣れた人間の目には、ここにそれ

(らとはまるでちがったきょくせんのこうさくをみるのです。どのようなびじょのようぶのきょくせん)

らとはまるで違った曲線の交錯を見るのです。どのような美女の腰部の曲線

(も、あるいはどのようなちょうこくかのそうさくも、このせかいのきょくせんびにはくらべることが)

も、あるいはどのような彫刻家の創作も、この世界の曲線美には比べることが

など

(できません。それはしぜんをえがきだしたぞうぶつしゅではなくて、それをうちほろぼそ)

出来ません。それは自然を描き出した造物主ではなくて、それを打ちほろぼそ

(うとたくらむあくまだけがえがきうるきょくせんであったかもしれません。)

うと企む悪魔だけが描きうる曲線であったかもしれません。

(あるひとはそれらのきょくせんのかさなりから、いじょうなるせいてきあっぱくをかんずるでありましょ)

ある人はそれらの曲線の重なりから、異常なる性的圧迫を感ずるでありましょ

(う。しかし、それはけっしてげんじつてきなかんじょうをともなうものではないのです。われわれはあく)

う。しかし、それは決して現実的な感情を伴うものではないのです。我々は悪

(むのうちでのみ、おうおうにしてこのしゅのきょくせんにこいすることがあります。)

夢のうちでのみ、往々にしてこの種の曲線に恋することがあります。

(ひろすけは、そのゆめのせかいを、げんじつのつちとはなをもって、えがきだそうとこころみたものに)

広介は、その夢の世界を、現実の土と花をもって、描き出そうと試みたものに

(ちがいありません。それはすうこうというよりも、むしろおわいで、ちょうわてきというより)

違いありません。それは崇高というよりも、むしろ汚穢で、調和的というより

(も、むしろらんざつで、そのひとつひとつのきょくせんと、そこにうみただれたひゃっかのはいちは、)

も、むしろ乱雑で、その一つ一つの曲線と、そこに膿み爛れた百花の配置は、

(かいかんよりはいっそうかぎりなきふかいをあたえさえします。それでいて、そのきょくせんたちに)

快感よりは一層限りなき不快を与えさえします。それでいて、その曲線たちに

(くわえられたふかしぎなるじんこうてきこうさくは、しゅうをたやして、ふきょうわおんばかりの、いよう)

加えられた不可思議なる人工的交錯は、醜を絶して、不協和音ばかりの、異様

(にうつくしいだいかんげんがくをそうしているのでありました。)

に美しい大管弦楽を奏しているのでありました。

(また、このふうけいさっかのいじょうなるちゅういは、らじょのれんだいがとおりすぎるところの、けい)

また、この風景作家の異常なる注意は、裸女の蓮台が通り過ぎるところの、谿

(かんのほそみちがつくるきょくせんにまでもいきとどいていたのです。そこにはきょくせんそのものの)

間の細道が作る曲線にまでも行き届いていたのです。そこには曲線そのものの

(びではなく、きょくせんにそってうんどうするもののかんずる、いわばにくたいてきかいかんがけいかくされ)

美ではなく、曲線に沿って運動するものの感ずる、いわば肉体的快感が計画され

(ていました。)

ていました。

(あるいはゆるやかに、あるいはきゅうかくどに、あるいはのぼり、あるいはくだり、みちは)

或いは緩やかに、あるいは急角度に、あるいはのぼり、あるいはくだり、道は

(じょうげさゆうにさまざまのうつくしいきょくせんをえがきました。それはたとえば、くうちゅうにおいて)

上下左右にさまざまの美しい曲線を描きました。それは例えば、空中において

(ひこうかがあじわうような、またわれわれがつづらおりのとうげみちをはしるじどうしゃのなかでかんず)

飛行家が味わうような、また我々がつづら折りの峠道を走る自動車の中で感ず

(るような、きょくせんうんどうのかいかんの、もっとゆるやかにかつびかされたものといえばい)

るような、曲線運動の快感の、もっと緩やかにかつ美化されたものと言えばい

(いでしょうか。)

いでしょうか。

(ときどきのぼりざかはありながら、みちはすこしずつあるちゅうしんてんにむかってくだっていくよう)

時々登り坂はありながら、道は少しずつ或る中心点に向かって下って行くよう

(にみえました。そして、いようなるこうきと、ちのそこからのようにひびくおんがくとは、)

に見えました。そして、異様なる香気と、地の底からのように響く音楽とは、

(そういっそうそのたびをたかめ、ついには、かれらのはなをもみみをも、そのうつくしさにむかんかくに)

層一層その度を高め、ついには、彼らの鼻をも耳をも、その美しさに無感覚に

(してしまうほども、たえまなくつづくのでした。)

してしまうほども、絶え間なく続くのでした。

(ときとすると、けいかんはひろびろとしたはなぞのとひらけ、そのかなたにそらへのかけはしのよ)

時とすると、谿間は広々とした花園とひらけ、そのかなたに空への懸け橋のよ

(うにはなのやまがそびえ、そのぼうばくたるしゃめんによしのやまのはなのくもをすうばいした、げんかいな)

うに花の山がそびえ、その茫漠たる斜面に吉野山の花の雲を数倍した、玄怪な

(るこうけいをてんかいしました。そして、いっそうおどろくべきは、そのしゃめんとこうやとの、にじの)

る光景を展開しました。そして、一層驚くべきは、その斜面と広野との、虹の

(ようなはなをわけて、てんてんと、いくじゅうにんのぜんらのだんじょのむれが、とおくのものはまめのよ)

ような花を分けて、点々と、幾十人の丸裸の男女の群が、遠くのものは豆のよ

(うにちいさく、ききとしてあだむといヴのおにごっこをやっていることでした。)

うに小さく、鬼気としてアダムとイヴの鬼ごっこをやっていることでした。

(やまをかけくだり、のをよこぎって、くろかみをかぜになびかせたひとりのおんなが、かれらからいっ)

山を駈け下り、野を横切って、黒髪を風になびかせた一人の女が、彼らから一

(けんばかりのところへきて、ばったりたおれました。すると、かのじょをおってきたひと)

間ばかりのところへ来て、ばったり倒れました。すると、彼女を追ってきた一

(りのあだむは、かのじょをだきおこして、かれのひろいむねのまえに、いちもんじにかかえると、)

人のアダムは、彼女を抱き起こして、彼の広い胸の前に、一文字に抱えると、

(いだくものも、いだかれたものも、このせかいにじゅうまんするおんがくにあわせて、たからかに)

抱くものも、抱かれたものも、この世界に充満する音楽に合わせて、高らかに

(うたいながら、しずしずとかなたへたちさるのでした。)

歌いながら、しずしずと彼方へ立ち去るのでした。

(またあるかしょには、ほそいたにまのみちをおおって、あーちのように、しろなまずのゆーかりじゅ)

また或る個所には、細い谷間の道を覆って、アーチの様に、白鯰のユーカリ樹

(のきょぼくがうでをのべ、そのえだもたわわにらじょのかじつのみがみのっていました。)

の巨木が腕をのべ、その枝もたわわに裸女の果実のみが実っていました。

(かのじょらは、ふといえだのうえにみをよこたえ、あるいはりょうてでぶらさがって、かぜにそよ)

彼女らは、太い枝の上に身を横たえ、あるいは両手でぶら下がって、風にそよ

(ぐこのはのように、くびやてあしをゆすりながら、やっぱりこのせかいのおんがくをがっしょう)

ぐ木の葉のように、首や手足をゆすりながら、やっぱりこの世界の音楽を合唱

(しているのです。らじょのれんだいは、そのかじつのしたを、ふしぎなむかんしんをもって、)

しているのです。裸女の蓮台は、その果実の下を、不思議な無関心をもって、

(しずかにねってゆくのです。)

静かに練ってゆくのです。

(えんちょうにしていちりはたっぷりあったとおもわれる、みちみちのはなのけしき、そのあいだ)

延長にして一理はたっぷりあったと思われる、道々の花の景色、そのあいだ

(に、ちよこのあじわったふしぎなかんじょう、さくしゃはそれをただ、ゆめとのみ、あるいは)

に、千代子の味わった不思議な感情、作者はそれをただ、夢とのみ、あるいは

(かいれいなるあくむとのみ、けいようするのほかはありません。)

瑰麗なる悪夢とのみ、形容するのほかはありません。

(そして、ついにかれらがはこばれたのは、きょだいなるはなのすりばちのそこでありました。)

そして、ついに彼らが運ばれたのは、巨大なる花の摺鉢の底でありました。

(そこのけしきのふしぎさは、すりばちのえんにあたる、ししゅうのやまのいただきから、なめらかなはな)

そこの景色の不思議さは、摺鉢の縁にあたる、四周の山の頂から、滑らかな花

(のしゃめんをつたって、せっぱくのにくかいが、だんごのようにじゅずつなぎにころがりおちて、その)

の斜面を伝って、雪白の肉塊が、団子のように数珠繋ぎに転がり落ちて、その

(そこにたたえられたよくそうのなかへしぶきをたてていることでした。そしてかのじょらは)

底にたたえられた浴槽の中へしぶきを立てていることでした。そして彼女らは

(すりばちのそこのゆげのなかを、ばちゃばちゃとはねまわりながら、あののどかなうたをがっ)

摺鉢の底の湯気の中を、バチャバチャと跳ね廻りながら、あののどかな歌を合

(しょうするのです。)

唱するのです。

(いつきものをぬがされたのか、ほとんどむちゅうのあいだに、ちよこらもはなやかなよっ)

いつ着物を脱がされたのか、ほとんど夢中のあいだに、千代子らも華やかな浴

(かくたちにまじって、こころよいゆのなかにつかっていました。ふしぜんないふくをつけてい)

客たちに交じって、快い湯の中に浸かっていました。不自然な衣服を着けてい

(ることが、むしろはずかしくなるこのせかいでは、ちよこもかのじょじしんのらたいをほ)

ることが、むしろ恥ずかしくなるこの世界では、千代子も彼女自身の裸体をほ

(とんどきにしないでいられたのです。そして、かれらをのせたらじょたちは、ここ)

とんど気にしないでいられたのです。そして、彼らを乗せた裸女たちは、ここ

(でこそもじどおりれんだいのやくめをつとめ、ながながとねそべって、くびからしたをゆにつけた)

でこそ文字通り蓮台の役目を努め、長々と寝そべって、首から下を湯につけた

(ふたりのしゅじんを、かのじょたちのにくたいによってささえなければなりませんでした。それ)

二人の主人を、彼女たちの肉体によって支えなければなりませんでした。それ

(から、めいじょうのできぬいちだいこんらんがはじまったのです。)

から、名状のできぬ一大混乱が始まったのです。

(にくかいのたきつせは、ますますそのかずをまし、みちみちのはなはふみにじられ、けちらさ)

肉塊の滝つ瀬は、ますますその数を増し、道々の花は踏みにじられ、蹴散らさ

(れて、まんもくのはなふぶきとなり、そのはなびらと、ゆげと、しぶきとのもうもうといりみだ)

れて、満目の花吹雪となり、その花びらと、湯気と、しぶきとの濛々と入り乱

(れたなかに、らじょのにくかいは、にくとにくとをすりあわせて、おけのなかのいものようにこんらん)

れた中に、裸女の肉塊は、肉と肉とをすり合わせて、桶の中の芋のように混乱

(して、いきもたえだえにがっしょうをつづけ、ひとつなみは、あるいはみぎへ、あるいはひだりへ)

して、息も絶え絶えに合唱を続け、人津波は、あるいは右へ、あるいは左へ

(と、うちよせもみかえす、そのまっただなかに、あらゆるかんかくをうしなったふたりのきゃく)

と、打ち寄せ揉み返す、その真っただ中に、あらゆる感覚を失った二人の客

(が、しがいのようにただよっているのでした。)

が、死骸のように漂っているのでした。

(にじゅういち)

二一

(そうして、いつのまにかよるがきたのです。)

そうして、いつの間にか夜が来たのです。

(ちちしょくであったそらは、ゆうだちぐものあんこくにかわり、ひゃっかのみだれさいたなまめかしきおかおか)

乳色であった空は、夕立雲の暗黒に変わり、百花の乱れ咲いた艶めかしき丘々

(も、いまはものすごいくろにゅうどうとそびえ、あのさわがしいじんにくのつなみも、がっしょうも、ひきしお)

も、今はものすごい黒入道と聳え、あの騒がしい人肉の津波も、合唱も、引汐

(のようにきえさって、よめにもほのしろくたちのぼるゆげのなかには、ひろすけとちよこと)

の様に消え去って、夜目にもほの白く立ち昇る湯気の中には、広介と千代子と

(ただふたりがとりのこされていました。)

ただ二人が取り残されていました。

(かれらのれんだいをつとめたおんなどもも、ふときがつくと、もうかげもかたちもみえないので)

彼らの蓮台をつとめた女どもも、ふと気が付くと、もう影も形も見えないので

(す。そのうえ、このせかいをしょうちょうするかにみえた、あのいっしゅいようのようえんなおんがくも、)

す。その上、この世界を象徴するかに見えた、あの一種異様の妖艶な音楽も、

(よほどまえからきこえないのです。そこしれぬくらやみとともに、よみじのせいじゃくがぜんせ)

よほど前から聞こえないのです。底知れぬ暗闇とともに、よみじの静寂が全世

(かいをりょうしていました。)

界を領していました。

(「まあ!」)

「まあ!」

(やっとじんしんついたちよこは、いくたびとなくくりかえしたかんたんしを、もういちどく)

やっと人心ついた千代子は、いくたびとなく繰り返した感嘆詞を、もう一度繰

(りかえさないではいられませんでした。そしてほっとひといきをつくと、いままでわすれ)

り返さないではいられませんでした。そしてほっと一息をつくと、今まで忘れ

(ていたきょうふが、はきけのようにかのじょのむねにこみあげてきたのです。)

ていた恐怖が、吐き気のように彼女の胸に込み上げてきたのです。

(「さあ、あなたもう、かえりましょうよ」)

「さあ、あなたもう、帰りましょうよ」

(かのじょはあたたかいゆのなかでふるえながら、おっとのほうをすかしてみました。すいめんからくびだ)

彼女は暖かい湯の中で震えながら、夫の方をすかして見ました。水面から首だ

(けが、くろいぶいのようにうきあがって、かのじょのことばをきいても、それはうごきもし)

けが、黒いブイの様に浮き上がって、彼女の言葉を聞いても、それは動きもし

(なければ、なんのへんじをもしないのです。)

なければ、何の返事をもしないのです。

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