パノラマ奇島談_§29【終】
人見は自殺を偽装して、自らは死んだこととし、菰田家のあるM県に向かうと、源三郎の墓を暴いて、死体を隣の墓の下に埋葬しなおし、さも源三郎が息を吹き返したように装って、まんまと菰田家に入り込むことに成功する。人見は菰田家の財産を処分して、M県S郡の南端にある小島・沖の島に長い間、夢見ていた理想郷を建設する。
一方、蘇生後、自分を遠ざけ、それまで興味関心を示さなかった事業に熱中する夫を源三郎の妻・千代子は当惑して見つめていた。千代子に自分が源三郎でないと感付かれたと考えた人見は千代子を、自らが建設した理想郷・パノラマ島に誘う。人見が建設した理想郷とはどのようなものだったのか。そして、千代子の運命は?
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | 布ちゃん | 5409 | けっこう速い | 5.7 | 93.7% | 412.6 | 2392 | 160 | 37 | 2024/11/07 |
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問題文
(にじゅうご)
二五
(それからじゅっぷんばかりあと、きたみこごろうは、あまたのらじょたちにまじって、ゆのいけ)
それから十分ばかり後、北見小五郎は、あまたの裸女たちにまじって、湯の池
(の、におやかなゆげのなかにはんしんをひたして、のどかなきもちで、)
の、匂やかな湯気の中に半身を浸して、のどかな気持で、
(ひろすけのくるのをまちうけていました。)
広介の来るのを待ち受けていました。
(そらはやっぱりいちめんのくろくもにおおわれ、かぜはなし、めじのかぎりのはなのやまは、ぎんねずいろ)
空はやっぱり一面の黒雲に覆われ、風はなし、目地の限りの花の山は、銀鼠色
(にねむって、ゆのいけにさざなみもたたず、そこにゆあみするすうじゅうにんのらじょのむれさえ、ま)
に眠って、湯の池に漣も立たず、そこに湯あみする数十人の裸女の群さえ、ま
(るでしんだようにおしだまっているのです。きたみのめには、そのぜんたいのけしきが、)
るで死んだように押し黙っているのです。北見の目には、その全体の景色が、
(なにかゆううつなてんねんのさしえのようにもみえたことでした。)
何か憂鬱な天然の挿絵のようにも見えたことでした。
(そしてじゅっぷんにじゅっぷんとすぎてゆくあいだが、どのようにながながしくかんじられたこと)
そして十分二十分と過ぎてゆくあいだが、どのように長々しく感じられたこと
(でしょう。いつまでもうごかぬそら、はなのやま、くらいいけ、らじょのむれ、そして、それら)
でしょう。いつまでも動かぬ空、花の山、暗い池、裸女の群、そして、それら
(をこめたゆめのようなねずみいろ。)
を込めた夢のような鼠色。
(しかし、やがて、ひとびとは、いけのかたすみからうちあげられた、ときならぬはなびのおと)
しかし、やがて、人々は、池の片隅から打ち上げられた、時ならぬ花火の音
(に、はっとわれにかえり、つぎのしゅんかんそらをみあげて、そこにさきいでたひかりのはなのあま)
に、ハッと我に返り、次の瞬間空を見上げて、そこに咲き出でた光の花のあま
(りのうつくしさに、ふたたびかんたんのさけびをあげないではいられませんでした。)
りの美しさに、再び感嘆の叫びをあげないではいられませんでした。
(それは、つねのはなびのごばいほどのおおきさで、それゆえほとんどそらいっぱいにひろが)
それは、常の花火の五倍ほどの大きさで、それゆえほとんど空いっぱいに広が
(って、ひとつのはなというよりは、あらゆるはなをあつめていちりんにしたような、ごしきの)
って、一つの花というよりは、あらゆる花を集めて一輪にしたような、五色の
(かべんが、ちょうどまんげきょうのかんじで、くだるにしたがって、はらはらとそのいろと)
花瓣が、ちょうど万華鏡の感じで、くだるにしたがって、ハラハラとその色と
(かたちをかえながら、なおもひろくひろくとひろがっていくのでした。)
形を変えながら、なおも広く広くと広がっていくのでした。
(よるのはなびでもなく、そうかといってひるのはなびともちがい、くろくもとぎんねずいろのはいけい)
夜の花火でもなく、そうかといって昼の花火とも違い、黒雲と銀鼠色の背景
(に、ごしきのひかりがつやけしとなって、それが、こくいっこくめんせきをひろげながら、じりじり)
に、五色の光が艶消しとなって、それが、刻一刻面積を広げながら、ジリジリ
(とつりてんじょうのようにくだってくるありさまは、)
と釣り天井のようにくだってくる有様は、
(しんじつ、たましいもきえるばかりのながめでした。)
真実、魂も消えるばかりの眺めでした。
(そのとき、きたみこごろうは、くらめくようなごしきのひかりのしたで、ふとすうにんのらじょの)
そのとき、北見小五郎は、くらめくような五色の光の下で、ふと数人の裸女の
(かおに、あるいはかたに、べにいろのひまつをみたのです。)
顔に、或いは肩に、紅色の飛沫を見たのです。
(さいしょはゆげのしずくにはなびのいろがうつったのかと、そのままみすごしていたの)
最初は湯気のしずくに花火の色がうつったのかと、そのまま見過ごしていたの
(ですが、やがて、べにのしぶきはますますはげしくふりそそぎ、かれじしんのひたいやほおにも、)
ですが、やがて、紅の飛沫はますます激しく降り注ぎ、彼自身の額や頬にも、
(いようのあたたかなしたたりをかんじて、それをてにうつしてみれば、まごうことなき)
異様の暖かなしたたりを感じて、それを手にうつして見れば、まごうことなき
(しんくのしずく、ひとのちしおにちがいないのでした。そして、かれのめのまえのゆのひょうめん)
深紅のしずく、人の血潮に違いないのでした。そして、彼の目の前の湯の表面
(に、ふわふわただようものを、よくみれば、それはむざんにひきさかれたにんげんのてくび)
に、フワフワ漂うものを、よく見れば、それは無残に引き裂かれた人間の手首
(が、いつのまにかそこへふっていたのです。)
が、いつの間にかそこへ降っていたのです。
(きたみこごろうは、そのようにちなまぐさいこうけいのなかで、ふしぎにさわがぬらじょたち)
北見小五郎は、そのように血なまぐさい光景の中で、不思議に騒がぬ裸女たち
(をいぶかりながら、かれもまたそのままうごくでもなく、いけのほとりにじっとあたま)
をいぶかりながら、彼もまたそのまま動くでもなく、池の畔にじっと頭
(をもたせて、ぼんやりと、かれのむねのあたりにただよっている、なまなましいてくび)
をもたせて、ぼんやりと、彼の胸のあたりにただよっている、生々しい手首
(の、はなをひらいたまっかなきりくちにみいりました。)
の、花を開いたまっかな切り口に見入りました。
(かようにして、ひとみひろすけのごたいは、はなびとともに、こなみじんにくだけ、かれのそうぞうし)
かようにして、人見広介の五体は、花火とともに、粉微塵に砕け、彼の創造し
(たぱのらまこくの、おのおののけしきのすみずみまでも、)
たパノラマ国の、おのおのの景色の隅々までも、
(ちしおとにくかいのあめとなって、ふりそそいだのでありました。)
血潮と肉塊の雨となって、降り注いだのでありました。 《終》