パノラマ奇島談_§25

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著者:江戸川乱歩
売れない物書きの人見廣介は、定職にも就かない極貧生活の中で、自身の理想郷を夢想し、それを実現することを夢見ていた。そんなある日、彼は自分と瓜二つの容姿の大富豪・菰田源三郎が病死した話を知り合いの新聞記者から聞く。大学時代、人見と菰田は同じ大学に通っており、友人たちから双生児の兄弟と揶揄されていた。菰田がてんかん持ちで、てんかん持ちは死亡したと誤診された後、息を吹き返すことがあるという話を思い出した人見の中で、ある壮大な計画が芽生える。それは、蘇生した菰田を装って菰田家に入り込み、その莫大な財産を使って彼の理想通りの地上の楽園を創造することであった。幸い、菰田家の墓のある地域は土葬の風習が残っており、源三郎の死体は焼かれることなく、自らの墓の下に埋まっていた。

人見は自殺を偽装して、自らは死んだこととし、菰田家のあるM県に向かうと、源三郎の墓を暴いて、死体を隣の墓の下に埋葬しなおし、さも源三郎が息を吹き返したように装って、まんまと菰田家に入り込むことに成功する。人見は菰田家の財産を処分して、M県S郡の南端にある小島・沖の島に長い間、夢見ていた理想郷を建設する。

一方、蘇生後、自分を遠ざけ、それまで興味関心を示さなかった事業に熱中する夫を源三郎の妻・千代子は当惑して見つめていた。千代子に自分が源三郎でないと感付かれたと考えた人見は千代子を、自らが建設した理想郷・パノラマ島に誘う。人見が建設した理想郷とはどのようなものだったのか。そして、千代子の運命は?
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ねね 4205 ごくごく普通 4.3 96.5% 1514.8 6610 239 98 2024/02/25

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問題文

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(ひろすけはわざとよゆうをみせて、ねこのようにかのじょへちかよるのです。ちじょうにはなにものも)

広介はわざと余裕を見せて、猫のように彼女へ近寄るのです。地上には何物も

(いないことは、このおうこくのあるじであるかれにはよくわかっていました。すこしばかり)

いないことは、この王国の主である彼には良くわかっていました。少しばかり

(しんぱいなのは、かのじょのひめいが、はなびのつつをとおして、はるかのちかへつたわりはしな)

心配なのは、彼女の悲鳴が、花火の筒を通して、はるかの地下へ伝わりはしな

(いかということでしたが、さいわいにもかのじょのじょうりくしたのはそれのはんたいがわでした)

いかということでしたが、幸いにも彼女の上陸したのはそれの反対側でした

(し、またちかのはなびうちあげそうちのすぐそばには、はつでんようのえんじんがひどい)

し、また地下の花火打ち上げ装置のすぐそばには、発電用のエンジンがひどい

(おとをたてていて、めったにちじょうのこえなどがきこえるはずもないのでした。それ)

音を立てていて、めったに地上の声などが聞こえるはずもないのでした。それ

(にもっとあんしんなのは、ちょうどいま、じゅういくはつめかのはなびがうちあげられて、さっ)

にもっと安心なのは、ちょうど今、十幾発目かの花火が打ち上げられて、さっ

(きのひめいはそのおとのために、ほとんどうちけされてしまったことです。)

きの悲鳴はその音のために、ほとんど打ち消されてしまったことです。

(まだきえやらぬこんじきのかえんは、あちこちとでぐちをさがしてにげまどうちよこのいたま)

まだ消えやらぬ金色の火焔は、あちこちと出口を探して逃げ惑う千代子の痛ま

(しいすがたを、まざまざとうつしだしています。ひろすけはひととびにかのじょのからだにとび)

しい姿を、まざまざとうつし出しています。広介はひと飛びに彼女の体に飛び

(ついて、そこへおりかさなってたおれると、なんのくもなくそのくびにりょうてをまわすこと)

ついて、そこへ折り重なって倒れると、何の苦もなくその頸に両手を廻すこと

(ができました。そして、かのじょがだいにのひめいをはっするまえに、かのじょのこきゅうはもうくる)

が出来ました。そして、彼女が第二の悲鳴を発する前に、彼女の呼吸はもう苦

(しくなっていたのです。)

しくなっていたのです。

(「どうかゆるしてくれ、おれはいまでもおまえをあいしている。だがおれはあまりによくがふか)

「どうか許してくれ、俺は今でもお前を愛している。だが俺はあまりに欲が深

(いのだ。このしまでおこなわれるかずかずのかんらくをみすてることができないのだ。おまえひ)

いのだ。この島で行われる数々の歓楽を見捨てることが出来ないのだ。お前ひ

(とりのためにみをほろぼすわけにはいかぬのだ」)

とりのために身をほろぼすわけにはいかぬのだ」

(はてはぽろぽろとなみだをこぼして、「ゆるしてくれ、ゆるしてくれ」とれんこしなが)

果てはぽろぽろと涙をこぼして、「許してくれ、許してくれ」と連呼しなが

(ら、ますますかたくうでをしめていきました。かれのからだのしたでは、にくとにくとをせっし)

ら、ますます固く腕を締めていきました。彼の体の下では、肉と肉とを接し

(て、らたいのちよこが、あみにかかったさかなのように、)

て、裸体の千代子が、網にかかった魚のように、

(ぴちぴちとおどっているのです。)

ピチピチとおどっているのです。

など

(じんこうかざんのたにぞこ、あたたかくにおやかなゆげのなかで、きかいなるはなびのごしきのにじをあ)

人工花山の谷底、温かく匂やかな湯気の中で、奇怪なる花火の五色の虹を浴

(び、ざれくるうにひきのけもののようにふたりのらたいがもつれあう。それはおそろしい)

び、ざれ狂う二匹のけもののように二人の裸体がもつれ合う。それは恐ろしい

(ひとごろしなんかではなくて、)

人殺しなんかではなくて、

(むしろよいしれただんじょのはだかおどりともながめられたのです。)

むしろ酔いしれた男女の裸踊りともながめられたのです。

(おいまわすうで、にげまどうはだ、あるときは、みっちゃくしたほおとほおとのあいだに、しょっぱいなみだが)

追い廻す腕、逃げ惑う肌、ある時は、密着した頬と頬との間に、塩っぱい涙が

(まじりあい、むねとむねとがくるわしきどうきのひょうしをあわせ、そのたきつせのあぶらあせ)

まじりあい、胸と胸とが狂わしき動悸の拍子を合わせ、その滝つ瀬のあぶら汗

(は、ふたりのからだをなまこのようなどろどろのものに)

は、二人のからだをなまこのようなドロドロのものに

(ときほぐしていくかとみえました。)

解きほぐしていくかと見えました。

(とうそうというよりは、ゆうぎのかんじでした。「しのゆうぎ」というものがあるならば)

闘争というよりは、遊戯の感じでした。「死の遊戯」というものがあるならば

(まさしくそれでありましょう。あいてのはらにまたがって、そのほそくびをしめつけてい)

正しくそれでありましょう。相手の腹にまたがって、その細首を締め付けてい

(るひろすけも、おとこのたくましいきんにくのしたで、もがきあえいでいるちよこも、いつしか)

る広介も、男のたくましい筋肉の下で、もがきあえいでいる千代子も、いつしか

(くつうをわすれ、うっとりとしたかいかん、)

苦痛を忘れ、うっとりとした快感、

(めいじょうできないうちょうてんにおちいっていくのでした。)

名状できない有頂天におちいっていくのでした。

(やがて、ちよこのあおざめたゆびが、だんまつまのうつくしいきょくせんをえがいて、いくたびかそら)

やがて、千代子の青ざめた指が、断末魔の美しい曲線を描いて、いくたびか空

(をつかみ、かのじょのすきとおったはなのあなから、)

をつかみ、彼女の透き通った鼻の穴から、

(いとのようなちのりが、とろとろとながれでました。)

糸のような血のりが、トロトロと流れ出ました。

(そしてちょうどそのとき、まるでもうしあわせでもしたように、うちあげられたはな)

そしてちょうどその時、まるで申し合わせでもしたように、打ち上げられた花

(びの、きょだいなこんじきのかべんは、くっきりとくろびろーどのそらをくぎって、)

火の、巨大な金色の花瓣は、くっきりと黒ビロードの空を区切って、

(げかいのはなぞのや、いずみや、そこにもつれあうふたつのにくかいを、ふりそそぐきんぷんのなか)

下界の花ぞのや、泉や、そこにもつれ合う二つの肉塊を、ふりそそぐ金粉の中

(にとじこめていくのでした。ちよこのあおじろいかお、そのうえにながれるいとのようにほそ)

に閉じ込めていくのでした。千代子の青白い顔、その上に流れる糸のように細

(く、せきしつのようにあでやかな、ひとすじのちのり、)

く、赤漆のように艶やかな、ひと筋の血のり、

(それがどんなにしずかにうつくしくみえたことでしょう。)

それがどんなに静かに美しく見えたことでしょう。

(にじゅうさん)

二三

(ひとみひろすけがtしのこもだていにかえらなくなったのは、そのひからでした。かれはまったく)

人見広介がT市の菰田邸に帰らなくなったのは、その日からでした。彼は全く

(ぱのらまこくのしゅじんとして--このものぐるわしきおうこくのくんしゅとして、おきのしまにえい)

パノラマ国の主人として――このもの狂わしき王国の君主として、沖ノ島に永

(じゅうすることになりました。)

住することになりました。

(「ちよこはこのぱのらまこくのじょうおうさまだ。にんげんかいへはけっしてにどとすがたをみせない)

「千代子はこのパノラマ国の女王様だ。人間界へは決して二度と姿を見せない

(だろう。おまえはこのしまにあるぐんぞうのくにをみただろうか。ときとしてちよこは、あ)

だろう。お前はこの島にある群像の国を見ただろうか。時として千代子は、あ

(のめまぐるしくりんりつしたらたいぞうのひとりになりすましていることもあるのだよ。)

の目まぐるしく林立した裸体像の一人になりすましていることもあるのだよ。

(そうでないときにはうみのそこのにんぎょか、どくじゃのくにのへびつかいか、はなぞのにさきみだれた)

そうでないときには海の底の人魚か、毒蛇の国の蛇使いか、花園に咲き乱れた

(はなのせいか、そして、そのようなあそびにもあきはてると、このそうれいなきゅうでんのおくふか)

花の精か、そして、そのような遊びにも飽き果てると、この壮麗な宮殿の奥深

(く、にしきのとばりにつつまれた、えいようえいがのじょうおうさまだ。このらくえんのせいかつを、どうし)

く、錦のとばりに包まれた、栄耀栄華の女王様だ。この楽園の生活を、どうし

(てかのじょがこのまないことがあろう。かのじょはちょうどむかしばなしのうらしまたろうのように、とき)

て彼女が好まないことがあろう。彼女はちょうど昔話の浦島太郎のように、時

(をわすれ、いえをわすれて、このくにのうつくしさにとうすいしているのだ。おまえがたはちっとも)

を忘れ、家を忘れて、この国の美しさに陶酔しているのだ。お前方はちっとも

(しんぱいなぞすることはないのだよ。おまえのいとしいしゅじんは、)

心配なぞすることはないのだよ。お前の愛しい主人は、

(いまこうふくのぜっちょうにあるのだから」)

今幸福の絶頂にあるのだから」

(ちよこのとしとったうばが、しゅじんのあんぴをきづかって、わざわざおきのしまへかのじょをお)

千代子の年取った乳母が、主人の安否を気遣って、わざわざ沖の島へ彼女をお

(むかえにやってきたとき、ひろすけは、しまのちかをほじってけんちくしたそうれいなきゅうでんのぎょくざ)

迎えにやってきたとき、広介は、島の地下を穿って建築した壮麗な宮殿の玉座

(にすわって、まるでいっこくのていおうがそのしんかをいんけんするような、おごそかなぎれいをもっ)

に坐って、まるで一国の帝王がその臣下を引見するような、厳かな儀礼をもっ

(て、このむかしもののろうぼをおどろかせました。ろうぼはひろすけのうつくしいことばにあんどしたの)

て、この昔物の老母を驚かせました。老母は広介の美しい言葉に安堵したの

(か、それとも、そのばのこうけいのものものしさにうたれたのか、かえすことばもなくひき)

か、それとも、その場の光景の物々しさにうたれたのか、かえす言葉もなく引き

(さがるほかはなかったのです。)

下がるほかはなかったのです。

(すべてがこのちょうしでありました。ちよこのちちにはかさねがさねのばくだいなひきでもの、)

すべてがこの調子でありました。千代子の父には重ね重ねの莫大な引き出物、

(そのほかのしんるいえんじゃにはあるものにはけいざいじょうのあっぱく、あるものにはそのはんたいにおしげ)

その他の親類縁者にはある者には経済上の圧迫、ある者にはその反対に惜しげ

(もないおくりもの。それからかんぺんへのつけとどけなども、かくだろうじんのてによって、ぬ)

もない贈り物。それから官辺への付け届けなども、角田老人の手によって、抜

(かりなくじっこうされていたのです。)

かりなく実行されていたのです。

(いっぽう、しまのひとびとは、ちよこじょうおうのすがたをかいまみることさえゆるされませんでした。)

一方、島の人々は、千代子女王の姿を垣間見ることさえ許されませんでした。

(かのじょはひるもよるも、ちかのきゅうでんのおくふかく、ひろすけのいまのうらがわのおもいとばりのかげに)

彼女は昼も夜も、地下の宮殿の奥深く、広介の居間の裏側の重いとばりの蔭に

(かくれ、なにびとたりとも、そのへやにはいることをきんぜられていたのです。で)

隠れ、なにびとたりとも、その部屋に入ることを禁ぜられていたのです。で

(も、しゅじんのいじょうなしこうをしっているひとびとは、さだめしそのとばりのおくには、おう)

も、主人の異常な嗜好を知っている人々は、さだめしそのとばりの奥には、王

(さまとじょうおうさまだけの、かんらくとゆめのせかいがひめられているのであろと、にやにやわら)

様と女王様だけの、歓楽と夢の世界が秘められているのであろと、ニヤニヤ笑

(いながらうわさしあうぐらいで、だれひとりうたがいをいだくものとてもありません。いったいしま)

いながら噂しあうぐらいで、誰一人疑いを抱くものとてもありません。一体島

(のひとたちは、すうにんのだんじょをのぞいては、ちよこのかおをはっきりみしっているもの)

の人たちは、数人の男女をのぞいては、千代子の顔をはっきり見知っている者

(もなく、ふとゆきずりにじょうおうさまのおすがたをみたところで、それがはたしてほんとうの)

もなく、ふと行きずりに女王様のお姿を見たところで、それが果たして本当の

(ちよこかどうかみわけるちからもないのでした。かようにして、ほとんどふかのうな)

千代子かどうか見分ける力もないのでした。かようにして、ほとんど不可能な

(ことがらがなしとげられたのです。)

事柄が成し遂げられたのです。

(ひろすけはこもだけのかぎりなきざいりょくによって、あらゆるこんなんにうちかち、すべてのは)

広介は菰田家の限りなき財力によって、あらゆる困難に打ち勝ち、すべての破

(たんをとりつくろうことができました。いままでびんぼうだったしんるいえんじゃたちがたちまちに)

綻を取り繕うことが出来ました。今まで貧乏だった親類縁者たちがたちまちに

(してにわかぶげんとなり、みじめだったきょくばだんのおどりこ、)

して俄分限となり、惨めだった曲馬団の踊子、

(えいがじょゆう、おんなかぶきたちは、このしまではにほんいちのめいゆうのようにこうぐうされ、)

映画女優、女歌舞伎たちは、この島では日本一の名優のように好遇され、

(わかいぶんし、がか、ちょうこくか、けんちくしたちは、ちいさなかいしゃのじゅうやくほどのて)

若い文士、画家、彫刻家、建築士たちは、小さな会社の重役ほどの手

(あてをうけているのです。たとえそこがおそろしいつみのくにであったとしても、そ)

当てを受けているのです。たとえそこが恐ろしい罪の国であったとしても、そ

(のひとたちにどうしてぱのらまとうをみすてるゆうきがありましょう。)

の人たちにどうしてパノラマ島を見捨てる勇気がありましょう。

(そして、ついにちじょうのらくえんはきたのでした。)

そして、ついに地上の楽園はきたのでした。

(たぐいをぜっしたかーにヴぁるのきょうきが、ぜんとうをおおいはじめました。はなぞのにさくら)

たぐいを絶したカーニヴァルの狂気が、全島を覆い始めました。花園に咲く裸

(じょのはな、ゆのいけにみだれるにんぎょのむれ、きえぬはなび、いきづくぐんぞう、おどりくるうこうてつせい)

女の花、湯の池に乱れる人魚の群、消えぬ花火、息づく群像、踊り狂う鋼鉄製

(のくろかいぶつ、めいていせぬわらいじょうごのもうじゅうども、どくへびのへびおどり、そのあいだをねりある)

の黒怪物、酩酊せぬ笑い上戸の猛獣ども、毒蛇の蛇踊り、そのあいだを練り歩

(くびじょのれんだい、そして、れんだいのうえには、にしきのころもにつつまれたこのくにのおうさま、ひとみ)

く美女の蓮台、そして、蓮台の上には、錦の衣に包まれたこの国の王様、人見

(ひろすけのものぐるわしきわらいがおがあるのです。)

広介のもの狂わしき笑い顔があるのです。

(れんだいはときとして、しまのちゅうおうにかんせいしたこんくりーとのだいえんちゅうの、それにはいちめん)

蓮台は時として、島の中央に完成したコンクリートの大円柱の、それには一面

(にあおいつたがはい、そのあいだをこれはまたてつのつたのようならせんかいが、ねじねじ)

に青い蔦が這い、そのあいだをこれはまた鉄の蔦のような螺旋階が、ネジネジ

(とちょうじょうまでつづいているのですが、そのらせんかいをよじのぼることもありました。)

と頂上まで続いているのですが、その螺旋階をよじ昇ることもありました。

(そこのちょうじょうのきかいなきのこがたのかさのうえからは、しまぜんたいを、はるかなるなみうちぎわまで)

そこの頂上の奇怪な蕈形の傘の上からは、島全体を、はるかなる波打ち際まで

(ひとめにみわたすことができたのですが、そのちょうぼうのふかしぎをなににたとえたらよ)

ひと目に見渡すことが出来たのですが、その眺望の不可思議を何に例えたらよ

(いのでしょう。げかいでのあらゆるふうけいは、らせんかいをのぼるとともにきえさって、)

いのでしょう。下界でのあらゆる風景は、螺旋階を登るとともに消え去って、

(はなぞのも、いけも、ひとも、ただみる いくちょうじょうのだいがんぺきとかわり、ちょうじょうからは、それらの)

花園も、池も、人も、ただ見る幾重畳の大岩壁と変り、頂上からは、それらの

(べんがらしょくのがんぺきがちょうどいちりんのはなのおのおののかべんのかたちで、はるかのなみうちぎわ)

紅柄色の岸壁がちょうど一輪の花のおのおのの花瓣の形で、はるかの波打ち際

(までかさなりあってみえるのです。)

まで重なり合って見えるのです。

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