有島武郎 或る女㉑
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問題文
(「とんだふうをしていましてごめんくださいまし。さ、おはいりあそばせ。なんぞ)
「飛んだふうをしていまして御免くださいまし。さ、おはいり遊ばせ。なんぞ
(ごようでもいらっしゃいましたの」とようこはわらいかまけたようにいった。こうろくは)
御用でもいらっしゃいましたの」と葉子は笑いかまけたようにいった。興録は
(いよいよどをうしないながら、「いいえなに、いまでなくってもいいのですが、もとの)
いよいよ度を失いながら、「いいえ何、今でなくってもいいのですが、元の
(おへやのおまくらのしたにこのてがみがのっこていましたのを、ぼーいがとどけてきました)
お部屋のお枕の下にこの手紙が残っていましたのを、ボーイが届けて来ました
(んで、はやくさしあげておこうとおもってじつはなにしたんでしたが・・・」といい)
んで、早くさし上げておこうと思って実は何したんでしたが・・・」といい
(ながらかくしからにつうのてがみをとりだした。てばやくうけとって)
ながら衣嚢(かくし)から二通の手紙を取り出した。手早く受け取って
(みると、ひとつはことうがきむらにあてたもの、ひとつはようこにあてたものだった。)
見ると、一つは古藤が木村にあてたもの、一つは葉子にあてたものだった。
(こうろくはそれをてわたすと、いっしゅのいみありげなわらいをめだけにうかべて、かおだけは)
興録はそれを手渡すと、一種の意味ありげな笑いを目だけに浮かべて、顔だけは
(いかにももっともらしくようこをみやっていた。じぶんのしたことをようこもしたと)
いかにももっともらしく葉子を見やっていた。自分のした事を葉子もしたと
(こうろくはおもっているにちがいない。ようこはそうすいりょうすると、かのむすめのしゃしんをとこのうえ)
興録は思っているに違いない。葉子はそう推量すると、かの娘の写真を床の上
(からひろいあげた。そしてわざとうらをむけながらみむきもしないで、「こんな)
から拾い上げた。そしてわざと裏を向けながら見向きもしないで、「こんな
(ものがここにもおちておりましたの。おいもうとさんでいらっしゃいますか。おきれい)
ものがここにも落ちておりましたの。お妹さんでいらっしゃいますか。おきれい
(ですこと」といいながらそれをつきだした。こうろくはなにかいいわけのようなことを)
ですこと」といいながらそれをつき出した。興録は何かいいわけのような事を
(いってへやをでていった。とおもうとしばらくしていむしつのほうからじむちょうの)
いって部屋を出て行った。と思うとしばらくして医務室のほうから事務長の
(らしいおおきなわらいごえがきこえてきた。それをきくと、じむちょうはまだそこにいた)
らしい大きな笑い声が聞こえて来た。それを聞くと、事務長はまだそこにいた
(かと、ようこはわれにもなくはっとなって、おもわずきかえかけたきもののえもんに)
かと、葉子はわれにもなくはっとなって、思わず着かえかけた着物の衣紋に
(ひだりてをかけたまま、うつむきかげんになってよこめをつかいながらみみをそば)
左手をかけたまま、うつむきかげんになって横目をつかいながら耳をそば
(だてた。はれつするようなじむちょうのわらいごえがまたきこえてきた。そしていむしつの)
だてた。破裂するような事務長の笑い声がまた聞こえて来た。そして医務室の
(とをさっとあけたらしく、こえがきゅうにいちばいおおきくなって、「deviltake)
戸をさっとあけたらしく、声が急に一倍大きくなって、「Devil take
(it!notamecreaturethen,eh?」とらんぼうにいう)
it! No tame creature then,eh?」と乱暴にいう
(こえがきこえたが、それとともにまっちをするおとがして、やがてはまきを)
声が聞こえたが、それとともにマッチをする音がして、やがて葉巻を
(くわえたままのくちごもりのすることばで、「もうじきけんえきせんだ。じゅんびはいい)
くわえたままの口ごもりのする言葉で、「もうじき検疫船だ。準備はいい
(だろうな」といいのこしたままじむちょうはせんいのへんじもまたずにいってしまった)
だろうな」といい残したまま事務長は船医の返事も待たずに行ってしまった
(らしかった。かすかなにおいがようこのへやにもかよってきた。ようこは)
らしかった。かすかなにおいが葉子の部屋にも通(かよ)ってきた。葉子は
(ききみみをたてながらうなだれていたかおをあげると、しょうめんをきってなんという)
聞き耳をたてながらうなだれていた顔を上げると、正面をきって何という
(ことなしにびしょうをもらした。そしてすぐぎょっとしてあたりをみまわしたが、われに)
事なしに微笑をもらした。そしてすぐぎょっとしてあたりを見回したが、われに
(かえってじぶんひとりきりなのにあんどして、いそいそときものをきかえはじめた。)
返って自分一人きりなのに安堵して、いそいそと着物を着かえ始めた。
(じゅういちえじままるがよこはまをばつびょうしてからもうみっかたった。とうきょうわんをでぬけると、)
【一一】 絵島丸が横浜を抜錨してからもう三日たった。東京湾を出抜けると、
(くろしおにのって、きんかざんおきあたりからはこうろをとうほくにむけて、)
黒潮に乗って、金華山(きんかざん)沖あたりからは航路を東北に向けて、
(まっしぐらにいどをのぼっていくので、きおんはふつかめあたりからめだって)
まっしぐらに緯度を上(のぼ)って行くので、気温は二日目あたりから目立って
(すずしくなっていった。りくのかげはいつのまにかふねのどのげんからもながめることは)
涼しくなって行った。陸の影はいつのまにか船のどの舷からもながめる事は
(できなくなっていた。せばねのはいいろなはらのしろいうみどりが、ときどきおもいだしたように)
できなくなっていた。背羽根の灰色な腹の白い海鳥が、時々思い出したように
(さびしいこえでなきながら、ふねのしゅういをむれとぶほかには、いきもののかげとては)
さびしい声でなきながら、船の周囲を群れ飛ぶほかには、生き物の影とては
(みることもできないようになっていた。おもいつめたいがすがのびのけむりの)
見る事もできないようになっていた。重い冷たい潮霧(ガス)が野火の煙の
(ようにもうもうとみなみにはしって、それがあきらしいさぎりとなって、せんたいをつつむかと)
ように濛々と南に走って、それが秋らしい狭霧となって、船体を包むかと
(おもうと、たちまちからっとはれたあおぞらをふねにのこしてきえていったりした。)
思うと、たちまちからっと晴れた青空を船に残して消えて行ったりした。
(かくべつのかぜもないのにかいめんはいろこくなみうちさわいだ。みっかめからはふねのなかにさかんに)
格別の風もないのに海面は色濃く波打ち騒いだ。三日目からは船の中に盛んに
(すてぃーむがとおりはじめた。ようこはこのみっかというもの、いちどもしょくどうにでずに)
スティームが通り始めた。葉子はこの三日というもの、一度も食堂に出ずに
(せんしつにばかりとじこもっていた。ふねによったからではない。はじめてとおいこうかいを)
船室にばかり閉じこもっていた。船に酔ったからではない。始めて遠い航海を
(こころみるようこにしては、それがふしぎなくらいたやすいたびだった。ふだんいじょうに)
試みる葉子にしては、それが不思議なくらいたやすい旅だった。ふだん以上に
(しょくよくさえましていた。しんけいにつよいしげきがあたえられて、とかくうっけつしやすかった)
食欲さえ増していた。神経に強い刺激が与えられて、とかく鬱結しやすかった
(けつえきもこくおもたいなりにもなめらかにけっかんのなかをじゅんかんし、うみからくるいっしゅのちからが)
血液も濃く重たいなりにもなめらかに血管の中を循環し、海から来る一種の力が
(からだのすみずみまでいきわたって、うずうずするほどなかつりょくをかんじさせた。)
からだのすみずみまで行きわたって、うずうずするほどな活力を感じさせた。
(もらしどころのないそのかっきがうんどうもせずにいるようこのからだからこころにつたわって、)
もらし所のないその活気が運動もせずにいる葉子のからだから心に伝わって、
(いっしゅのゆううつにかわるようにさえおもえた。ようこはそれでもせんしつをでようとはしな)
一種の悒鬱に変わるようにさえ思えた。葉子はそれでも船室を出ようとはしな
(かった。うまれてからはじめてこどくにみをおいたようなかのじょは、こどものように)
かった。生まれてから始めて孤独に身を置いたような彼女は、子供のように
(それがたのしみたかったし、またせんちゅうでもかおみしりのだれかれができるまえに、)
それが楽しみたかったし、また船中でも顔見知りのだれかれができる前に、
(これまでのこと、これからのことをこころにしめてかんがえてもみたいともおもった。しかし)
これまでの事、これからの事を心にしめて考えてもみたいとも思った。しかし
(ようこはじぶんがせんきゃくたちからはげしいこうきのめでみられようとしているのをしって)
葉子は自分が船客たちから激しい好奇の目で見られようとしているのを知って
(いた。たてやくはまくあきからぶたいにでているものではない。かんきゃくがまちにまって、)
いた。立役は幕明きから舞台に出ているものではない。観客が待ちに待って、
(まちくたぶれそうになったじぶんに、しずしずとのりだして、ぶたいのくうきを)
待ちくたぶれそうになった時分に、しずしずと乗り出して、舞台の空気を
(おもうさまうごかさねばならぬのだ。ようこのむねのなかにはこんなずるがしこいいたずら)
思うさま動かさねばならぬのだ。葉子の胸の中にはこんなずるがしこいいたずら
(なこころもひそんでいたのだ。みっかめのあさでんとうがゆりのはなのしぼむようにきえるころ)
な心も潜んでいたのだ。三日目の朝電燈が百合の花のしぼむように消えるころ
(ようこはふとふかいねむりからむしあつさをおぼえてめをさました。すてぃーむのとおって)
葉子はふと深い眠りから蒸し暑さを覚えて目をさました。スティームの通って
(くるらでぃえたーから、しんくうになったくだのなかにじょうきのひえたしたたりがおちて)
来るラディエターから、真空になった管の中に蒸汽の冷えたしたたりが落ちて
(たてるはげしいひびきがきこえて、へやのなかはかるくあせばむほどあたたまっていた。みっかの)
立てる激しい響きが聞こえて、部屋の中は軽く汗ばむほど暖まっていた。三日の
(あいだせまいへやのなかばかりにいてすわりつかれねつかれのしたようこは、せまくるしい)
間狭い部屋の中ばかりにいてすわり疲れ寝疲れのした葉子は、狭苦しい
(ばーすのなかにきゅうくつにねちぢまったじぶんをみいだすと、したになったはんしんに)
寝台(バース)の中に窮屈に寝ちぢまった自分を見いだすと、下になった半身に
(かるいしびれをおぼえて、からだをあおむけにした。そしていちどひらいためをとじて、)
軽いしびれを覚えて、からだを仰向けにした。そして一度開いた目を閉じて、
(うつくしくまるみをもったりょうのうでをあたまのうえにのばして、ねみだれたかみをもてあそび)
美しく円味を持った両の腕を頭の上に伸ばして、寝乱れた髪をもてあそび
(ながら、さめぎわのこころよいねむりにまたしずかにおちていった。が、ほどもなく)
ながら、さめぎわの快い眠りにまた静かに落ちて行った。が、ほどもなく
(ほんとうにめをさますと、おおきくめをみひらいて、あわてたようにこしからうえを)
ほんとうに目をさますと、大きく目を見開いて、あわてたように腰から上を
(おこして、ちょうどめどおりのところにあるいちめんにみずけでくもっためまどをながい)
起こして、ちょうど目通りのところにあるいちめんに水気で曇った眼窓を長い
(そででおしぬぐって、ほてったほおをひやひやするそのまどがらすにすりつけながら)
袖で押しぬぐって、ほてった頬をひやひやするその窓ガラスにすりつけながら
(そとをみた、よるはほんとうにはあけはなれていないで、まどのむこうにはひかりのないこい)
外を見た、夜はほんとうには明け離れていないで、窓の向こうには光のない濃い
(はいいろがどんよりとひろがっているばかりだった。そしてじぶんのからだがずっと)
灰色がどんよりと広がっているばかりだった。そして自分のからだがずっと
(たかまってやがてまたおちていくなとおもわしいころに、まどにちかいげんにざあっと)
高まってやがてまた落ちて行くなと思わしいころに、窓に近い舷にざあっと
(あたってくだけていくはとうが、たんちょうなそこぢからのあるしんどうをせんしつにあたえて、ふねは)
あたって砕けて行く波濤が、単調な底力のある震動を船室に与えて、船は
(かすかによこにかしいだ。ようこはみうごきもせずにめにそのはいいろをながめながら、)
かすかに横にかしいだ。葉子は身動きもせずに目にその灰色をながめながら、
(かみしめるようにふねのどうようをあじわってみた。とおくとおくきたというりょじょうが、)
かみしめるように船の動揺を味わって見た。遠く遠く来たという旅情が、
(さすがにしみじみとかんぜられた。しかしようこのめにはおんならしいなみだはうかばな)
さすがにしみじみと感ぜられた。しかし葉子の目には女らしい涙は浮ばな
(かった。かっきのずんずんかいふくしつつあったかのじょにはなにかぱせてぃっくなゆめでも)
かった。活気のずんずん回復しつつあった彼女には何かパセティックな夢でも
(みているようなおもいをさせた。ようこはそうしたままで、すぐるふつかのあいだひまに)
見ているような思いをさせた。葉子はそうしたままで、過ぐる二日の間暇に
(まかせておもいつづけたじぶんのかこをゆめのようにくりかえしていた。れんらくのないおわり)
まかせて思い続けた自分の過去を夢のように繰り返していた。連絡のない終わり
(のないえまきがつぎつぎにひろげられたりまかれたりした。きりすとをこいこうて、)
のない絵巻がつぎつぎに広げられたり巻かれたりした。キリストを恋い恋うて、
(よるもひるもやみがたく、じゅうじかをあみこんだうつくしいおびをつくってささげようといっしんに、)
夜も昼もやみがたく、十字架を編み込んだ美しい帯を作って献げようと一心に、
(にっかもなにもそっちのけにして、ゆびのさきがささくれるまであみばりをうごかしたかれんな)
日課も何もそっちのけにして、指の先がささくれるまで編み針を動かした可憐な
(しょうじょも、そのげんそうのなかにあらわれでた。きしゅくしゃのにかいのまどちかくおおきなはなをゆたかに)
少女も、その幻想の中に現われ出た。寄宿舎の二階の窓近く大きな花を豊かに
(ひらいたもくれんのにおいまでがそこいらにただよっているようだった。こくぶんじあとの、むさしの)
開いた木蘭の香いまでがそこいらに漂っているようだった。国分寺跡の、武蔵野
(のいっかくらしいくぬぎのはやしもあらわれた。すっかりしょうじょのようなむじゃきな)
の一角らしい櫟(くぬぎ)の林も現われた。すっかり少女のような無邪気な
(すなおなこころになってしまって、こきょうのひざにみもたましいもなげかけ)
素直な心になってしまって、孤筇(こきょう)の膝に身も魂も投げかけ
(ながら、なみだとともにささやかれるこきょうのみみうちのようにふるえたほそいことばを、)
ながら、涙とともにささやかれる孤筇の耳うちのように震えた細い言葉を、
(ただ「はいはい」とゆめごこちにうなずいてのみこんだあまいばめんは、いまのようことは)
ただ「はいはい」と夢心地にうなずいてのみ込んだ甘い場面は、今の葉子とは
(ちがったひとのようだった。そうかとおもうとさがんのがけのうえからひろせがわをこえてあおばやま)
違った人のようだった。そうかと思うと左岸の崕の上から広瀬川を越えて青葉山
(をいちめんにみわたしたせんだいのけしきがするするとひらけわたった。なつのひはきたぐにの)
をいちめんに見渡した仙台の景色がするすると開け渡った。夏の日は北国の
(そらにもあふれかがやいて、しろいこいしのかわらのあいだをまっさおにながれるかわのなか)
空にもあふれ輝いて、白い礫(こいし)の河原の間をまっさおに流れる川の中
(には、あかはだかなしょうねんのむれがあかあかとしたいんしょうをめにあたえた。くさをしかんばかりに)
には、赤裸な少年の群れが赤々とした印象を目に与えた。草を敷かんばかりに
(ひくくうずくまって、はなやかないろあいのぱらそるにひをよけながら、だまっておもい)
低くうずくまって、はなやかな色合いのパラソルに日をよけながら、黙って思い
(にふけるひとりのおんなーーそのときにはかのじょはどのいみからもおんなだったーーどこまでも)
にふける一人の女ーーその時には彼女はどの意味からも女だったーーどこまでも
(まんぞくのえられないこころで、だんだんとせけんからうずもれていかねばならないような)
満足の得られない心で、だんだんと世間から埋もれて行かねばならないような
(きょうぐうにおしこめられようとするうんめい。たしかにみちをふみちがえたともおもい、ふみ)
境遇に押し込められようとする運命。確かに道を踏みちがえたとも思い、踏み
(ちがえたのは、だれがさしたことだとかみをすらなじってみたいようなおもい。)
ちがえたのは、だれがさした事だと神をすらなじってみたいような思い。
(くらいさんしつもかくれてはいなかった。そこのおそろしいちんもくのなかからおこるつよいこころよい)
暗い産室も隠れてはいなかった。そこの恐ろしい沈黙の中から起こる強い快い
(あかごのうぶごえーーやみがたいぼせいのいしきーー「われすでによにかてり」とでも)
赤児の産声ーーやみがたい母性の意識ーー「われすでに世に勝てり」とでも
(いってみたいふしぎなほこりーーどうじにおもくむねをおさえつけるせいのくらいきゅうへん。かかる)
いってみたい不思議な誇りーー同時に重く胸を押えつける生の暗い急変。かかる
(ときおもいももうけずちからづよくせまってくるふりすてたおとこのしゅうちゃく。あすをもたのみがたいいのちの)
時思いも設けず力強く迫って来る振り捨てた男の執着。あすをも頼みがたい命の
(ゆうやみにさまよいながら、きれぎれなことばでようことさいごのだきょうをむすぼうとする)
夕闇にさまよいながら、切れ切れな言葉で葉子と最後の妥協を結ぼうとする
(びょうしょうのははーーそのかおはようこのげんそうをたちきるほどのつよさであらわれでた。)
病床の母ーーその顔は葉子の幻想を断ち切るほどの強さで現われ出た。