有島武郎 或る女㉟
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問題文
(そのときろくろくのっくもせずにじむちょうがはいってきた。ようこのただならぬすがたには)
その時ろくろくノックもせずに事務長がはいって来た。葉子のただならぬ姿には
(とんじゃくなく、「もうすぐけんえきかんがやってくるから、さっきのやくそくを)
頓着(とんじゃく)なく、「もうすぐ検疫官がやって来るから、さっきの約束を
(たのみますよ。しほんいらずでたいやくがつとまるんだ。おんなというものはいいものだな。)
頼みますよ。資本入らずで大役が勤まるんだ。女というものはいいものだな。
(や、しかしあなたのはだいぶしほんがかかっとるでしょうね。・・・たのみますよ」)
や、しかしあなたのはだいぶ資本がかかっとるでしょうね。・・・頼みますよ」
(とじょうだんらしくいった。「はあ」ようこはなんのくもなくしたしみの)
と戯談(じょうだん)らしくいった。「はあ」葉子はなんの苦もなく親しみの
(かぎりをこめたへんじをした。そのひとこえのなかには、じぶんでもおどろくほどなこわくのちからが)
限りをこめた返事をした。その一声の中には、自分でも驚くほどな蠱惑の力が
(こめられていた。じむちょうがでていくと、ようこはこどものようにあしなみかるくちいさな)
こめられていた。事務長が出て行くと、葉子は子供のように足なみ軽く小さな
(せんしつのなかをこおどりしてとびまわった。そしてとびまわりながら、かみを)
船室の中を小跳(こおど)りして飛び回った。そして飛び回りながら、髪を
(ほごしにかかって、ときどきかがみにうつるじぶんのかおをみやりながら、こらえきれない)
ほごしにかかって、時々鏡に映る自分の顔を見やりながら、こらえきれない
(ようにぬすみわらいをした。)
ようにぬすみ笑いをした。
(じゅうしちじむちょうのさしがねはうまいつぼにはまった。けんえきかんはえじままるのけんえきじむを)
【一七】事務長のさしがねはうまい坪にはまった。検疫官は絵島丸の検疫事務を
(すっかりとしとったじいのいかんにまかせてしまって、じぶんはせんちょうしつでせんちょう、じむちょう、)
すっかり年とった次位の医官に任せてしまって、自分は船長室で船長、事務長、
(ようこをあいてに、はなしにはなをさかせながらとらんぷをいじりとおした。あたりまえ)
葉子を相手に、話に花を咲かせながらトランプをいじり通した。あたりまえ
(ならば、なんとかかとかかならずくじょうのもちあがるべきえいこくふうのこやかましいけんえきも)
ならば、何とかかとか必ず苦情の持ち上がるべき英国風の小やかましい検疫も
(あっさりすんでほうとうものらしいけっきざかりなけんえきかんは、ふねにきてからにじかんそこそこ)
あっさり済んで放蕩者らしい血気盛りな検疫官は、船に来てから二時間そこそこ
(できげんよくかえっていくことになった。とまるともなくしんこうをとめていたえじままるは)
できげんよく帰って行く事になった。停まるともなく進行を止めていた絵島丸は
(かぜのまにまにすこしずつほうこうをかえながら、ふたりのいかんをのせていく)
風のまにまに少しずつ方向を変えながら、二人の医官を乗せて行く
(もーたー・ぼーとがげんそくをはなれるのをまっていた。おりめただしいながめなこんのせびろ)
モーター・ボートが舷側を離れるのを待っていた。折り目正しい長めな紺の背広
(をきたけんえきかんはぼーとのかじざにたちあがって、てすりからようこといっしょにむねからうえを)
を着た検疫官はボートの舵座に立ち上がって、手欄から葉子と一緒に胸から上を
(のりだしたせんちょうとなおじょうだんをとりかわした。ふなばしごのしたまで)
乗り出した船長となお戯談(じょうだん)を取りかわした。船梯子の下まで
(いかんをみおくったじむちょうは、ものなれたようすでぽけっとからいくらかをすいふのてに)
医官を見送った事務長は、物慣れた様子でポケットからいくらかを水夫の手に
(つかませておいて、うえをむいてあいずをすると、ふなばしごはきりきりとすいへいにまき)
つかませておいて、上を向いて相図をすると、船梯子はきりきりと水平に巻き
(あげられていく、それをこともなげにみかるくかけあがってきた。けんえきかんのめはじむちょう)
上げられて行く、それを事もなげに身軽く駆け上って来た。検疫官の目は事務長
(へのあいさつもそこそこに、おもいきりはでなよそおいをこらしたようこのほうにすいつけ)
への挨拶もそこそこに、思いきり派手な装いを凝らした葉子のほうに吸い付け
(られるらしかった。ようこはそのめをむかえてじょうをこめたながしめをおくり)
られるらしかった。葉子はその目を迎えて情をこめた流眄(ながしめ)を送り
(かえした。けんえきかんがそのせわしいあいだにもなにかしきりにものをいおうとしたとき、)
返した。検疫官がその忙しい間にも何かしきりに物をいおうとした時、
(けたたましいきてきがいちまつのはくえんをあおぞらにあげてなりはためき、せんびからは)
けたたましい汽笛が一抹の白煙を青空に揚げて鳴りはためき、船尾からは
(すさまじいすいしんきのしんどうがおこりはじめた。このあわただしいふねのわかれをおしむ)
すさまじい推進機の振動が起こり始めた。このあわただしい船の別れを惜しむ
(ように、けんえきかんはぼうしをとってふりうごかしながら、そうおんに)
ように、検疫官は帽子を取って振り動かしながら、噪音(そうおん)に
(もみけされることばをつづけていたが、もとよりようこにはそれはきこえなかった。)
もみ消される言葉を続けていたが、もとより葉子にはそれは聞こえなかった。
(ようこはただにこにことほほえみながらうなずいてみせた。そしてただいっときの)
葉子はただにこにことほほえみながらうなずいて見せた。そしてただ一時の
(いたずらごころからかみにさしていたちいさなぞうかをなげてやると、それがあわよく)
いたずらごころから髪にさしていた小さな造花を投げてやると、それがあわよく
(けんえきかんのかたにあたってあしもとにすべりおちた。けんえきかんがかたてにかじづなをあやつり)
検疫官の肩にあたって足もとにすべり落ちた。検疫官が片手に舵綱をあやつり
(ながら、うちょうてんになってそれをひろおうとするのをみると、ふなばたに)
ながら、有頂天になってそれを拾おうとするのを見ると、船舷(ふなばた)に
(たちならんでものめずらしげにりくちをけんぶつしていたすてやれーじのだんじょのきゃくはいっせいに)
立ちならんで物珍しげに陸地を見物していたステヤレージの男女の客は一斉に
(てをたたいてどよめいた。ようこはあたりをみまわした。せいようのふじんたちはひとしく)
手をたたいてどよめいた。葉子はあたりを見回した。西洋の婦人たちは等しく
(ようこをみやって、そのはなばなしいふくそうからかるはずみらしいきょどうを)
葉子を見やって、その花々しい服装から 軽率(かるはずみ)らしい挙動を
(にがにがしくおもうらしいかおつきをしていた。それらのがいこくじんのなかにはたがわふじんも)
苦々しく思うらしい顔つきをしていた。それらの外国人の中には田川夫人も
(まじっていた。けんえきかんはえじままるがのこしていったはくまつのなかで、こしを)
まじっていた。検疫官は絵島丸が残して行った白沫(はくまつ)の中で、腰を
(ふらつかせながら、わらいきょうずるぐんしゅうにまでいくどもあたまをさげた。ぐんしゅうはまた)
ふらつかせながら、笑い興ずる群集にまで幾度も頭を下げた。群集はまた
(おもいだしたようにまんばをはなってわらいどよめいた。それをきくと)
思い出したように漫罵(まんば)を放って笑いどよめいた。それを聞くと
(にほんごのよくわかるはくはつのせんちょうは、いつものようにかおをあかくして、きのどくそうに)
日本語のよくわかる白髪の船長は、いつものように顔を赤くして、気の毒そうに
(はずかしげなめをようこにおくったが、ようこがはしたないぐんしゅうのことばにも、)
恥ずかしげな目を葉子に送ったが、葉子がはしたない群集の言葉にも、
(にがにがしげなせんきゃくのかおいろにも、すこしもとんじゃくしないふうで、ほほえみ)
苦々しげな船客の顔色にも、少しも頓着(とんじゃく)しないふうで、ほほえみ
(つづけながらもーたー・ぼーとのほうをみまもっているのをみると、)
続けながらモーター・ボートのほうを見守っているのを見ると、
(おぼこらしくさらにまっかになってそのばをはずしてしまった。ようこは)
未通女(おぼこ)らしく更にまっ赤になってその場をはずしてしまった。葉子は
(なにごともくったくなくただおもしろかった。からだじゅうをくすぐるようなせいのよろこび)
何事も屈託なくただおもしろかった。からだじゅうをくすぐるような生の歓び
(から、ややもするとなんでもなくびしょうがしぜんにうかびでようとした。「けさから)
から、ややもするとなんでもなく微笑が自然に浮かび出ようとした。「けさから
(わたしはこんなにうまれかわりましたごらんなさい」といってだれにでもじぶんのよろこびを)
私はこんなに生まれ代わりました御覧なさい」といってだれにでも自分の喜びを
(ひろうしたいようなきぶんになっていた。けんえきかんのかんしゃのしろいかべも、そのほうに)
披露したいような気分になっていた。検疫官の官舎の白い壁も、そのほうに
(むかってはしっていくもーたー・ぼーともみるみるとおざかってちいさなはこにわのように)
向かって走って行くモーター・ボートも見る見る遠ざかって小さな箱庭のように
(なったとき、ようこはせんちょうしつでのきょうのおもいだしわらいをしながら、てすりをはなれて)
なった時、葉子は船長室でのきょうの思い出し笑いをしながら、手欄を離れて
(こころあてにじむちょうをめでたずねた。と、じむちょうは、はるかはなれたせんそうの)
心あてに事務長を目で尋ねた。と、事務長は、はるか離れた船艙(せんそう)の
(でぐちにたがわふさいとかなえになって、なにかむずかしいかおをしながらたちばなしを)
出口に田川夫妻と鼎(かなえ)になって、何かむずかしい顔をしながら立ち話を
(していた。いつものようこならばさんにんのようすでなにごとがかたられているかぐらいはすぐ)
していた。いつもの葉子ならば三人の様子で何事が語られているかぐらいはすぐ
(みてとるのだが、そのひはただうきうきしたむじゃきなこころばかりがさきにたって、)
見て取るのだが、その日はただ浮き浮きした無邪気な心ばかりが先に立って、
(だれにでもこういのあることばをかけて、おなじことばでむくいられたいしょうどうにかられ)
だれにでも好意のある言葉をかけて、同じ言葉で酬いられたい衝動に駆られ
(ながら、なんのきなしにそっちにあしをむけようとして、ふときがつくと、)
ながら、なんの気なしにそっちに足を向けようとして、ふと気がつくと、
(じむちょうが「きてはいけない」とはげしくめにものをいわせているのがさとれた。きが)
事務長が「来てはいけない」と激しく目に物を言わせているのが覚れた。気が
(ついてよくみるとたがわふじんのかおにはまごうかたなきあくいがひらめいていた。)
付いてよく見ると田川夫人の顔にはまごうかたなき悪意がひらめいていた。
(「またおせっかいだな」いちびょうのちゅうちょもなくおとこのようなくちょうでようこはこうちいさく)
「またおせっかいだな」一秒の躊躇もなく男のような口調で葉子はこう小さく
(つぶやいた。「かまうものか」そうおもいながらようこはじむちょうのめつかいにも)
つぶやいた。「構うものか」そう思いながら葉子は事務長の目使いにも
(むとんじゃくに、かいかつなあしどりでいそいそとたがわふさいのほうにちかづいて)
無頓着(むとんじゃく)に、快活な足どりでいそいそと田川夫妻の方に近づいて
(いった。それをじむちょうもどうすることもできなかった。ようこはさんにんのまえにくると)
行った。それを事務長もどうすることもできなかった。葉子は三人の前に来ると
(かるくこしをまげておくれげをかきあげながらかおじゅうをこわくてきなほほえみにして)
軽く腰をまげて後れ毛をかき上げながら顔じゅうを蠱惑的なほほえみにして
(あいさつした。たがわはかせのほおにはいちはやくそれにおうずるものやさしいひょうじょうがうかぼうと)
挨拶した。田川博士の頬にはいち早くそれに応ずる物やさしい表情が浮かぼうと
(していた。「あなたはずいぶんならんぼうをなさるかたですのね」いきなりふるえを)
していた。「あなたはずいぶんな乱暴をなさる方ですのね」いきなり震えを
(おびたひややかなことばがたがわふじんからようこにようしゃもなくなげつけられた。それは)
帯びた冷ややかな言葉が田川夫人から葉子に容赦もなく投げつけられた。それは
(そこいじのわるいちょうせんてきなちょうしでふるえていた。たがわはかせはこのとっさのきまずい)
底意地の悪い挑戦的な調子で震えていた。田川博士はこのとっさの気まずい
(ばめんをつくろうためなにかことばをいれてそのふゆかいなきんちょうをゆるめようとするらし)
場面を繕うため何か言葉を入れてその不愉快な緊張をゆるめようとするらし
(かったが、ふじんのあくいはせきたってつのるばかりだった。しかしふじんはくちに)
かったが、夫人の悪意はせき立って募るばかりだった。しかし夫人は口に
(だしてはもうなんにもいわなかった。おんなのあいだにおこるふしぎなこころとこころとのこうしょう)
出してはもうなんにもいわなかった。女の間に起こる不思議な心と心との交渉
(から、ようこはなんということなく、じむちょうとじぶんとのあいだにけさおこったばかりの)
から、葉子はなんという事なく、事務長と自分との間にけさ起こったばかりの
(できごとを、りんかくだけではあるとしてもたがわふじんがかんづいているなとちょっかくした。)
出来事を、輪郭だけではあるとしても田川夫人が感づいているなと直覚した。
(ただひとことではあったけれども、それはけんえきかんととらんぷをいじったことをせめる)
ただ一言ではあったけれども、それは検疫官とトランプをいじった事を責める
(だけにしては、はげしすぎ、あくいがこめられすぎていることをちょっかくした。いまの)
だけにしては、激し過ぎ、悪意がこめられ過ぎていることを直覚した。今の
(はげしいことばは、そのことをふかくねにもちながら、けんえきいにたいするふきんしんなたいどを)
激しい言葉は、その事を深く根に持ちながら、検疫医に対する不謹慎な態度を
(たしなめることばのようにしてつかわれているのをちょっかくした。ようこのこころのすみから)
たしなめる言葉のようにして使われているのを直覚した。葉子の心のすみから
(すみまでを、りゅういんのさがるようなこきみよさがこおどりしつつはせ)
すみまでを、溜飲の下がるような小気味よさが小おどりしつつ走(は)せ
(めぐった。ようこはなにをそんなにことごとしくたしなめられることがあるのだろうという)
めぐった。葉子は何をそんなに事々しくたしなめられる事があるのだろうという
(ようなすこししゃあしゃあしたむじゃきなかおつきで、くびをかしげながらふじんを)
ような少ししゃあしゃあした無邪気な顔つきで、首をかしげながら夫人を
(みまもった。「こうかいちゅうはとにかくわたしようこさんのおせわをおたのまれもうしているん)
見守った。「航海中はとにかくわたし葉子さんのお世話をお頼まれ申しているん
(ですからね」はじめはしとやかにおちついていうつもりらしかったが、それが)
ですからね」初めはしとやかに落ち付いていうつもりらしかったが、それが
(だんだんげきしてとぎれがちなことばになって、ふじんはしまいにはげきどうから)
だんだん激して途切れがちな言葉になって、夫人はしまいには激動から
(いきをさえはずましていた。そのしゅんかんにひのようなふじんのひとみと、ひにくに)
息気をさえはずましていた。その瞬間に火のような夫人のひとみと、皮肉に
(おちつきはらったようこのひとみとが、ぱったりとでっくわしてこぜりあいをしたが)
落ち付き払った葉子のひとみとが、ぱったりと出っくわして小ぜり合いをしたが
(またどうじにけかえすようにはなれてじむちょうのほうにふりむけられた。「ごもっとも)
また同時に蹴返すように離れて事務長のほうに振り向けられた。「ごもっとも
(です」じむちょうはあぶにとうわくしたくまのようなかおつきで、がらにもないきんしんをよそおいながら)
です」事務長は虻に当惑した熊のような顔つきで、柄にもない謹慎を装いながら
(こううけこたえた。それからとつぜんほんきなひょうじょうにかえって、「わたしもじむちょうであって)
こう受け答えた。それから突然本気な表情に返って、「わたしも事務長であって
(みれば、どのおきゃくさまにたいしてもせきにんがあるのだで、ごめいわくになるようなことはせん)
見れば、どのお客様に対しても責任があるのだで、御迷惑になるような事はせん
(つもりですが」ここでかれはきゅうにかめんをとりさったようににこにこしだした。)
つもりですが」ここで彼は急に仮面を取り去ったようににこにこしだした。
(「そうむきになるほどのことでもないじゃありませんか。たかがさつきさんにいちどか)
「そうむきになるほどの事でもないじゃありませんか。たかが早月さんに一度か
(にどあいきょうをいうていただいて、それでけんえきのじかんがにじかんからちがうのですもの。)
二度愛嬌をいうていただいて、それで検疫の時間が二時間から違うのですもの。
(いつでもここでよじかんのいじょうもむだにせにゃならんのですて」たがわふじんが)
いつでもここで四時間の以上もむだにせにゃならんのですて」田川夫人が
(ますますせきこんで、やつぎばやにまくしかけようとするのを、じむちょうはこともなげ)
ますますせき込んで、矢継ぎ早にまくしかけようとするのを、事務長は事もなげ
(にかるがるとおっかぶせて、「それにしてからがおはなしはいかがです、へやでうかがい)
に軽々とおっかぶせて、「それにしてからがお話はいかがです、部屋で伺い
(ましょうか。ほかのおきゃくさまのてまえもいかがです。はかせ、れいのとおりせまっこいところ)
ましょうか。ほかのお客様の手前もいかがです。博士、例のとおり狭っこい所
(ですが、かんぱんではゆっくりもできませんで、あそこでおちゃでもいれましょう。)
ですが、甲板ではゆっくりもできませんで、あそこでお茶でも入れましょう。
(さつきさんあなたもいかがです」とわらいわらいにいってからくるりっとようこのほうに)
早月さんあなたもいかがです」と笑い笑いに言ってからくるりッと葉子のほうに
(むきなおって、たがわふさいにはきがつかないようにとんきょうなかおをちょっとしてみせた。)
向き直って、田川夫妻には気が付かないように頓狂な顔をちょっとして見せた。