山本周五郎 赤ひげ診療譚 駈込み訴え 12

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問題文
(いちねんちかくたって、おくにがひとりでみせばんをしていると、)
一年ちかく経って、おくにが独りで店番をしていると、
(ふいにちちおやがはいってきた。)
ふいに父親がはいって来た。
(おくにはそれがちちおやだとしって、にげようとおもったが、)
おくにはそれが父親だと知って、逃げようと思ったが、
(おそろしさのあまりみうごきができなかった。)
怖ろしさのあまり身動きができなかった。
(「おとっさんはあたしに、うちへかえろうといいました、)
「お父っさんはあたしに、うちへ帰ろうと云いました、
(いまでもおぼえています、おとっさんはあおいかおをして、)
いまでも覚えています、お父っさんは蒼(あお)い顔をして、
(むりやりにやさしくわらいかけながら、いっしょにかえってくれ、)
むりやりにやさしく笑いかけながら、いっしょに帰ってくれ、
(おくに、おまえはおれのだいじな、たったひとりのむすめだって、ーー」)
おくに、おまえはおれの大事な、たった一人の娘だって、ーー」
(おくにのこえはほそくなり、ひどくふるえをおびた、)
おくにの声は細くなり、ひどくふるえを帯びた、
(「おれのだいじな、たったひとりのむすめだって」)
「おれの大事な、たった一人の娘だって」
(かのじょのめからなみだがこぼれおちた。)
彼女の眼から涙がこぼれ落ちた。
(だが、おくにはそれをふこうともせず、こぼれおちるままにしてかたりつづけた。)
だが、おくにはそれを拭こうともせず、こぼれ落ちるままにして語り続けた。
(ちちおやのようすをみて、おくにのきょうふはさった。)
父親のようすを見て、おくにの恐怖は去った。
(かのじょはもうじゅうさんになっていたのだ。)
彼女はもう十三になっていたのだ。
(みっつのとしからさとごにやられて、いっしょにくらしたのはにねんほどである。)
三つの年から里子にやられて、いっしょに暮したのは二年ほどである。
(おやこというあいじょうも、まだはっきりとはかんじていなかった。)
親子という愛情も、まだはっきりとは感じていなかった。
(ーーいやです、あたしおっかさんといっしょにいます。)
ーーいやです、あたしおっ母さんといっしょにいます。
(おくにははっきりそういった。)
おくにははっきりそう云った。
(ろくすけはしばらくおくにをみまもっていたが、)
六助は暫くおくにを見まもっていたが、
(ではなにかこまったことがあったらおいで、)
ではなにか困ったことがあったらおいで、
(おまえのためならどんなことでもしてやるから、そういってたちさった。)
おまえのためならどんなことでもしてやるから、そう云ってたち去った。
(おくにはそのことをははにもとみさぶろうにもだまっていた。)
おくにはそのことを母にも富三郎にも黙っていた。
(ちちはもうにどとこないだろうとおもったから、)
父はもう二度と来ないだろうと思ったから、
(ーーじじつ、それからじゅうねんも、ろくすけはすがたをみせなかった。)
ーー事実、それから十年も、六助は姿をみせなかった。
(そしておくにはじゅうろくのなつ、ははにしいられてとみさぶろうとふうふになった。)
そしておくには十六の夏、母にしいられて富三郎と夫婦になった。
(じぶんではいやでたまらなかったが、ははにないてくどかれた。)
自分ではいやでたまらなかったが、母に泣いてくどかれた。
(ーーそうしなければおっかさんといっしょにいられなくなるんだから。)
ーーそうしなければおっ母さんといっしょにいられなくなるんだから。
(おっかさんのためだとおもってしょうちしておくれ、そうくりかえしてときふせられた。)
おっ母さんのためだと思って承知しておくれ、そう繰り返して説き伏せられた。
(おくにはきもちがよほどおくてだったのだろう、ふうふとはどういうものか、)
おくには気持がよほどおくてだったのだろう、夫婦とはどういうものか、
(よくしらないままでとみさぶろうのつまになった。)
よく知らないままで富三郎の妻になった。
(そうして、うちのなかがあれだした。)
そうして、うちの中が荒れだした。
(もちろんめずらしいはなしではない。)
もちろん珍らしい話ではない。
(ははおやはおくにとふうふにすることで、とみさぶろうをつなぎとめようとしたのだ。)
母親はおくにと夫婦にすることで、富三郎を繋ぎ留めようとしたのだ。
(もうしじゅうちかいとしになって、)
もう四十ちかい年になって、
(こののちかれのほかにたよるおとこができようともおもえない。)
こののち彼のほかに頼る男ができようとも思えない。
(かのじょにとってはそれがゆいいつのしゅだんだったのである。)
彼女にとってはそれが唯一の手段だったのである。
(けれども、おんなとしてせいじゅくのさかりにあったかのじょは、おとこをつなぎとめたとどうじに、)
けれども、女として成熟のさかりにあった彼女は、男を繋ぎ留めたと同時に、
(はげしいしっとになやまなければならなくなった。)
激しい嫉妬に悩まなければならなくなった。
(おくにはそのことをかたった。)
おくにはそのことを語った。