怪人二十面相35

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問題文
(かかりちょうはぎょっとして、もういちどぞくをにらみつけました。あたまのなかに、)
係長はギョッとして、もう一度賊をにらみつけました。頭の中に、
(ある、とほうもないかんがえがひらめいたのです。ああ、そんなことが)
ある、とほうもない考えがひらめいたのです。ああ、そんなことが
(ありうるでしょうか。あまりにばかばかしいくうそうです。まったく)
ありうるでしょうか。あまりにばかばかしい空想です。まったく
(ふかのうなことです。でも、かかりちょうは、それをたしかめてみないでは)
不可能なことです。でも、係長は、それをたしかめてみないでは
(いられませんでした。)
いられませんでした。
(「きみはだれだ。きみは、いったいぜんたいなにものなんだ。」)
「きみはだれだ。きみは、いったいぜんたい何者なんだ。」
(またしても、へんてこなしつもんです。)
またしても、へんてこな質問です。
(すると、ぞくはそのこえにおうじて、まちかまえていたようにこたえました。)
すると、賊はその声に応じて、まちかまえていたように答えました。
(「あたしは、きのしたとらきちっていうもんです。しょくぎょうはこっくです。」)
「あたしは、木下寅吉っていうもんです。職業はコックです。」
(「だまれ!そんなばかみたいなくちをきいて、ごまかそうとしたって、)
「だまれ!そんなばかみたいな口をきいて、ごまかそうとしたって、
(だめだぞ。ほんとうのことをいえ。にじゅうめんそうといえばせけんにきこえた)
だめだぞ。ほんとうのことをいえ。二十面相といえば世間に聞こえた
(だいとうぞくじゃないか。ひきょうなまねをするなっ。」)
大盗賊じゃないか。ひきょうなまねをするなっ。」
(どなりつけられて、ひるむかとおもいのほか、いったいどうしたと)
どなりつけられて、ひるむかと思いのほか、いったいどうしたと
(いうのでしょう。ぞくは、いきなりげらげらとわらいだしたではありませんか。)
いうのでしょう。賊は、いきなりゲラゲラと笑いだしたではありませんか。
(「へえー、にじゅうめんそうですって、このあたしがですかい。ははは・・・・・・、)
「ヘエー、二十面相ですって、このあたしがですかい。ハハハ……、
(とんだことになるものですね。にじゅうめんそうがこんなきたねえおとこだと)
とんだことになるものですね。二十面相がこんなきたねえ男だと
(おもっているんですかい。けいぶさんもめがないねえ。いいかげんに)
思っているんですかい。警部さんも目がないねえ。いいかげんに
(わかりそうなもんじゃありませんか。」)
わかりそうなもんじゃありませんか。」
(なかむらかかりちょうは、それをきくと、はっとかおいろをかえないでいられませんでした。)
中村係長は、それを聞くと、ハッと顔色をかえないでいられませんでした。
(「だまれっ、でたらめもいいかげんにしろ。そんなばかなことがあるものか。)
「だまれッ、でたらめもいいかげんにしろ。そんなばかなことがあるものか。
(きさまがにじゅうめんそうだということは、こばやししょうねんがしょうめいしている)
きさまが二十面相だということは、小林少年が証明している
(じゃないか。」)
じゃないか。」
(「わははは・・・・・・、それがまちがっているんだから、おわらいぐさでさあ。)
「ワハハハ……、それがまちがっているんだから、お笑いぐさでさあ。
(あたしはね、べつになんにもわるいことをしたおぼえはねえ、ただの)
あたしはね、べつになんにも悪いことをしたおぼえはねえ、ただの
(こっくですよ。にじゅうめんそうだかなんだかしらないが、とおかばかりまえ、)
コックですよ。二十面相だかなんだか知らないが、十日ばかりまえ、
(あのいえへやとわれたこっくのとらきちってもんですよ。なんなら、こっくの)
あの家へやとわれたコックの寅吉ってもんですよ。なんなら、コックの
(おやかたのほうをしらべてくださりゃ、すぐわかることです。」)
親方のほうをしらべてくださりゃ、すぐわかることです。」
(「その、なんでもないこっくが、どうしてこんなろうじんのへんそうをしているんだ。」)
「その、なんでもないコックが、どうしてこんな老人の変装をしているんだ。」
(「それがね、いきなりおさえつけられて、きものをきかえさせられ、)
「それがね、いきなりおさえつけられて、着物を着かえさせられ、
(かつらをかぶせられてしまったんでさあ。あたしも、じつは、よく)
かつらをかぶせられてしまったんでさあ。あたしも、じつは、よく
(わけがわからないんだが、おまわりさんが、ふみこんできなすったときに、)
わけがわからないんだが、おまわりさんが、ふみこんできなすったときに、
(やねうらべやへかけあがったのですよ。)
屋根裏部屋へかけあがったのですよ。
(あのへやにはかくしとだながあってね、そこにいろんなへんそうのいしょうが)
あの部屋にはかくし戸棚があってね、そこにいろんな変装の衣装が
(いれてあるんです。しゅじんはそのなかから、おまわりさんのようふくや、)
入れてあるんです。主人はその中から、おまわりさんの洋服や、
(ぼうしなどをとりだして、てばやくみにつけると、いままできていたおじいさんの)
帽子などをとりだして、手早く身につけると、今まで着ていたおじいさんの
(きものを、あたしにきせて、いきなり、「ぞくをつかまえた。」と)
着物を、あたしに着せて、いきなり、『賊をつかまえた。』と
(どなりながら、みうごきもできないようにおさえつけてしまったんです。)
どなりながら、身動きもできないようにおさえつけてしまったんです。
(いまからかんがえてみると、つまりけいぶさんのぶかのおまわりさんが、)
今から考えてみると、つまり警部さんの部下のおまわりさんが、
(にじゅうめんそうをみつけだして、いきなりとびかかったという、おしばいを)
二十面相を見つけだして、いきなりとびかかったという、お芝居を
(やってみせたわけですね。やねうらべやはうすぐらいですからね。)
やってみせたわけですね。屋根裏部屋はうす暗いですからね。
(あのさわぎのさいちゅう、かおなんかわかりっこありませんや。)
あのさわぎのさいちゅう、顔なんかわかりっこありませんや。
(あたしは、どうすることもできなかったんですよ。なにしろ、)
あたしは、どうすることもできなかったんですよ。なにしろ、
(しゅじんときたら、えらいちからですからねえ。」)
主人ときたら、えらいちからですからねえ。」
(なかむらかかりちょうは、あおざめてこわばったかおで、むごんのまま、はげしくたくじょうの)
中村係長は、青ざめてこわばった顔で、無言のまま、はげしく卓上の
(べるをおしました。そして、けいぶがかおをだすと、けさとやまがはらの)
ベルをおしました。そして、警部が顔を出すと、けさ戸山ヶ原の
(はいおくをほういしたけいかんのうち、おもてぐち、うらぐちのみはりばんをつとめた)
廃屋を包囲した警官のうち、表口、裏口の見はり番をつとめた
(よんにんのけいかんに、すぐくるようにとつたえさせたのです。)
四人の警官に、すぐ来るようにと伝えさせたのです。
(やがて、はいってきたよにんのけいかんを、かかりちょうは、こわいかおで)
やがて、はいってきた四人の警官を、係長は、こわい顔で
(にらみつけました。)
にらみつけました。