怪人二十面相53

関連タイピング
問題文
(そこで、せっかくでむかえてくれたぞくを、しつぼうさせるよりは、)
そこで、せっかく出むかえてくれた賊を、失望させるよりは、
(いっそ、そのさそいにのったとみせかけ、にじゅうめんそうのちえのていどを)
いっそ、そのさそいに乗ったと見せかけ、二十面相の知恵の程度を
(ためしてみるのも、いっきょうであろうとかんがえたのでした。)
ためしてみるのも、一興であろうと考えたのでした。
(「あけちくん、いまぼくのたちばというものを、ひとつそうぞうしてみたまえ。)
「明智君、今ぼくの立ち場というものを、ひとつ想像してみたまえ。
(きみは、ぼくをとらえようとおもえば、いつだって、できるのですぜ。)
きみは、ぼくをとらえようと思えば、いつだって、できるのですぜ。
(ほら、そこのべるをおせばいいのだ。そしてぼーいにおまわりさんを)
ほら、そこのベルをおせばいいのだ。そしてボーイにおまわりさんを
(よんでこいとめいじさえすればいいのだ。ははは・・・・・・、なんてすばらしい)
呼んでこいと命じさえすればいいのだ。ハハハ……、なんてすばらしい
(ぼうけんだ。このきもち、きみにわかりますか。いのちがけですよ。ぼくはいま、)
冒険だ。この気持、きみにわかりますか。命がけですよ。ぼくは今、
(なんじゅうめーとるともしれぬぜっぺきの、とっぱなにたっているのですよ。」)
何十メートルとも知れぬ絶壁の、とっぱなに立っているのですよ。」
(にじゅうめんそうはあくまでもふてきです。そういいながら、めをほそくして)
二十面相はあくまでも不敵です。そういいながら、目を細くして
(たんていのかおをみつめ、さもおかしそうにおおごえにわらいだすのでした。)
探偵の顔を見つめ、さもおかしそうに大声に笑いだすのでした。
(にじゅうめんそうはあくまでふてきです。そういいながら、めをほそくして)
二十面相はあくまで不敵です。そういいながら、目を細くして
(たんていのかおをみつめ、さもおかしそうにおおごえにわらいだすのでした。)
探偵の顔を見つめ、さもおかしそうに大声に笑いだすのでした。
(「ははは・・・・・・。」)
「ハハハ……。」
(あけちこごろうも、まけないおおわらいをしました。)
明智小五郎も、負けない大笑いをしました。
(「きみ、なにもそうびくびくすることはありゃしない。きみのしょうたいを)
「きみ、なにもそうビクビクすることはありゃしない。きみの正体を
(しりながら、のこのこここまでやってきたぼくだもの、いま、きみを)
知りながら、ノコノコここまでやってきたぼくだもの、今、きみを
(とらえるきなんかすこしもないのだよ。ぼくはただ、ゆうめいなにじゅうめんそうくん)
とらえる気なんか少しもないのだよ。ぼくはただ、有名な二十面相くん
(と、ちょっとはなしをしてみたかっただけさ。なあに、きみをとらえること)
と、ちょっと話をしてみたかっただけさ。なあに、きみをとらえること
(なんか、いそぐことはありゃしない。はくぶつかんのしゅうげきまで、まだここのかかんも)
なんか、急ぐことはありゃしない。博物館の襲撃まで、まだ九日間も
(あるじゃないか。まあ、ゆっくり、きみのむだぼねおりをはいけんする)
あるじゃないか。まあ、ゆっくり、きみのむだ骨折りを拝見する
(つもりだよ。」)
つもりだよ。」
(「ああ、さすがはめいたんていだねえ。ふとっぱらだねえ。ぼくは、きみに)
「ああ、さすがは名探偵だねえ。太っぱらだねえ。ぼくは、きみに
(ほれこんでしまったよ・・・・・・。ところでと、きみのほうでぼくをとらえない)
ほれこんでしまったよ……。ところでと、きみのほうでぼくをとらえない
(とすれば、どうやら、ぼくのほうで、きみをとりこにすることに)
とすれば、どうやら、ぼくのほうで、きみをとりこにすることに
(なりそうだねえ。」)
なりそうだねえ。」
(にじゅうめんそうはだんだん、こえのちょうしをすごくしながら、にやにやとうすきみ)
二十面相はだんだん、声の調子をすごくしながら、ニヤニヤとうすきみ
(わるくわらうのでした。)
悪く笑うのでした。
(「あけちくん、こわくはないかね。それともきみは、ぼくがないみにきみを)
「明智くん、こわくはないかね。それともきみは、ぼくが無意味にきみを
(ここへつれこんだとでもおもっているのかい。ぼくのほうに、なんのよういも)
ここへつれこんだとでも思っているのかい。ぼくのほうに、なんの用意も
(ないとおもっているのかね。ぼくがだまって、きみをこのへやからそとへ)
ないと思っているのかね。ぼくがだまって、きみをこの部屋から外へ
(だすとでも、かんちがいしているのじゃないのかねえ。」)
出すとでも、かんちがいしているのじゃないのかねえ。」
(「さあ、どうだかねえ。きみがいくらださないといっても、ぼくが)
「さあ、どうだかねえ。きみがいくら出さないといっても、ぼくが
(むろんここをでていくよ。これからがいむしょうへいかなければならない。)
むろんここを出ていくよ。これから外務省へ行かなければならない。
(いそがしいからだだからね。」)
いそがしいからだだからね。」
(あけちはいいながら、ゆっくりたちあがって、どあとははんたいのほうへ)
明智はいいながら、ゆっくり立ちあがって、ドアとは反対のほうへ
(あるいていきました。そして、なにかけしきでもながめるように、)
歩いていきました。そして、なにか景色でもながめるように、
(のんきらしく、がらすごしにまどのそとをみやって、かるくあくびをしながら、)
のんきらしく、ガラスごしに窓の外を見やって、かるくあくびをしながら、
(はんかちをとりだして、かおをぬぐっております。)
ハンカチをとりだして、顔をぬぐっております。
(そのとき、いつのまにべるをおしたのか、さいぜんのがんじょうな)
そのとき、いつのまにベルをおしたのか、さいぜんのがんじょうな
(ぼーいちょうと、おなじくくっきょうなもうひとりのぼーいとが、どあを)
ボーイ長と、同じくくっきょうなもうひとりのボーイとが、ドアを
(あけてつかつかとはいってきました。そして、てーぶるのまえで、)
あけてツカツカとはいってきました。そして、テーブルの前で、
(ちょくりつふどうのしせいをとりました。)
直立不動の姿勢をとりました。
(「おい、おい、あけちくん、きみは、ぼくのちからをまだしらないようだね。)
「おい、おい、明智君、きみは、ぼくの力をまだ知らないようだね。
(ここはてつどうほてるだからとおもってあんしんしているのじゃないかね。きみ、)
ここは鉄道ホテルだからと思って安心しているのじゃないかね。きみ、
(たとえばこのとおりだ。」)
たとえばこのとおりだ。」
(にじゅうめんそうはそういっておいて、ふたりのおおおとこのぼーいのほうをふりむきました。)
二十面相はそういっておいて、ふたりの大男のボーイのほうをふりむきました。