新妻の手記05
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問題文
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(つらいのは、きしょうのじかんがいっていしていることだった。)
辛いのは、起床の時間が一定していることだった。
(ろくじきっかりにおきなければならない。ははがそのじかんにおきあがるからである。)
六時きっかりに起きなければならない。母がその時間に起き上るからである。
(たまにはにちようびなど、あさねぼうしたいこともあったし、)
たまには日曜日など、朝寝坊したいこともあったし、
(よしかわはゆうゆうとねているのに、ははがろくじでおきるので、わたしもかならずおきあがった。)
吉川はゆうゆうと寝ているのに、母が六時で起きるので、私も必ず起き上った。
(ただひとつ、ぶんがく、といってもつまらぬほんやくだけだが、)
ただ一つ、文学、といってもつまらぬ翻訳だけだが、
(そのてんはははのだいこうをするのだった。つまり、ははにとっては、)
その点は母の代行をするのだった。つまり、母にとっては、
(わたしがそのむそうのこうけいしゃであったろう。)
私がその夢想の後継者であったろう。
(むそうのこうけいしゃで、そしてにちじょうせいかつではじょちゅう、)
夢想の後継者で、そして日常生活では女中、
(いずれにしても、じしゅてきなしゅふとはえんどおい。)
いずれにしても、自主的な主婦とは縁遠い。
(あるいは、いっぽひいてかんがえてみるに、にちじょうせいかつにおいても)
或は、一歩退いて考えてみるに、日常生活に於ても
(はははわたしをこうけいしゃにしたてるため、ささいなてんまでくんれんしようと)
母は私を後継者に仕立てるため、些細な点まで訓練しようと
(してるのかもしれなかった。すっかりははのかたにはまるまで、)
してるのかも知れなかった。すっかり母の型にはまるまで、
(じょちゅうのちいにおいてひとりあるきをさせなかったのではあるまいか。)
女中の地位に置いて独り歩きをさせなかったのではあるまいか。
(しかし、それにしては、おかしなことがあった。)
然し、それにしては、おかしなことがあった。
(かぜをひきこんで、わたしはいっしゅうかんばかりねたことがある。)
風邪をひきこんで、私は一週間ばかり寝たことがある。
(そのときはははじつぼにもまさるほどしんせつにいたわってくれた。)
その時母は実母にもまさるほど親切にいたわってくれた。
(ねつのたかいときは、よるおそくまでおきていてくれ、)
熱の高い時は、夜遅くまで起きていてくれ、
(よなかにもおきあがってこおりまくらをとりあけてくれた。けんおん、ふくやく、しょくじ、)
夜中にも起上って氷枕を取り明けてくれた。検温、服薬、食事、
(すべていっていのじかんにしてくれた。たべものにもきをくばってくれた。)
すべて一定の時間にしてくれた。食物にも気を配ってくれた。
(そういうかんごを、はははすこしもめんどうくさがるようすがなく)
そういう看護を、母は少しも面倒くさがる様子がなく
など
(ちゅうしんからしぜんにやってくれたのである。)
衷心から自然にやってくれたのである。
(そしていっぽうで、にちじょうどおりにかじをうんこうしていった。わたしはかんたんし、)
そして一方で、日常通りに家事を運行していった。私は感嘆し、
(またかんしゃし、なみだでまくらをぬらしたこともある。)
また感謝し、涙で枕をぬらしたこともある。
(はははなかなかわたしをおきあがらせてくれなかった。)
母はなかなか私を起上らせてくれなかった。
(すっかりぜんかいするまではだめだというのである。ようやくゆるされて、ふとんをかたづけ、)
すっかり全快するまではだめだというのである。漸く許されて、布団を片付け、
(ふだんのきものをき、わたしはははのまえにてをついていった。)
ふだんの着物をき、私は母の前に手をついて言った。
(「ほんとにおてすうをかけました。ありがとうございました。)
「ほんとにお手数をかけました。ありがとうございました。
(おつかれになりましたでしょう。」)
お疲れになりましたでしょう。」
(むねがいっぱいになって、ながいことばはでなかった。)
胸が一杯になって、長い言葉は出なかった。
(はははなにのかんがいもなさそうに、けろりとしていた。)
母は何の感慨もなさそうに、けろりとしていた。
(「まあ、はやくなおってよかったですね。わたしのことなら、)
「まあ、早くなおってよかったですね。わたしのことなら、
(つかれもなにもしませんよ。てがかかるといったって、いえのなかのことですからね、)
疲れもなにもしませんよ。手がかかるといったって、家の中のことですからね、
(しごとはおおいほどはりあいがあっていいんです。なんにもようじがないのが)
仕事は多いほど張り合いがあっていいんです。なんにも用事がないのが
(わたしはいちばんいやですよ。かりに、あなたがいをいためていちねんねようと、)
わたしはいちばん嫌ですよ。かりに、あなたが胃をいためて一年寝ようと、
(むねをいためてにねんねようと、つきっきりでかんびょうしてあげます。)
胸をいためて二年寝ようと、つきっきりで看病してあげます。
(まあえんぎでもないことをいって、きをわるくしてはいけませんよ。)
まあ縁起でもないことを言って、気をわるくしてはいけませんよ。
(あんしんしていらっしゃい。わたしはね、うごきまわってるのが、)
安心していらっしゃい。わたしはね、動き廻ってるのが、
(いちばんうれしいんですよ。」)
いちばん嬉しいんですよ。」
(わたしにきがねさせまいとのこころづかいからではなく、ただ、はははそっちょくにいってるのだと)
私に気兼ねさせまいとの心遣いからではなく、ただ、母は率直に言ってるのだと
(わたしはかんじた。はたらくことのうれしさをわたしにおしえてるのでもなかった。)
私は感じた。働くことの嬉しさを私に教えてるのでもなかった。
(そしてたえなことには、そのそっちょくなことばが、わたしのきもちをかえってしらじらしくさせた。)
そして妙なことには、その率直な言葉が、私の気持ちを却って白々しくさせた。
(わたしはははにたいしていっしゅのいふのねんさえいだいたのである。)
私は母に対して一種の畏怖の念さえ懐いたのである。