人間失格(第一の手記)4

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プレイ回数0難易度(3.7) 3532打 長文 かな
太宰治の人間失格
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問題文

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(なんでもいいからわらわせておればいいのだ) 何でもいいから、笑わせておればいいのだ、 (そうするとにんげんたちはじぶんがかれらのいわゆるせいかつのそとにいても) そうすると、人間たちは、自分が彼等の所謂「生活」の外にいても、 (あまりそれをきにしないのではないかしら) あまりそれを気にしないのではないかしら、 (とにかくかれらにんげんたちのめざわりになってはいけない) とにかく、彼等人間たちの目障りになってはいけない、 (じぶんはむだかぜだそらだというようなおもいばかりがつのり) 自分は無だ、風だ、空だ、というような思いばかりが募り、 (じぶんはおどけによってかぞくをわらわせまたかぞくよりも) 自分はお道化に依って家族を笑わせ、また、家族よりも、 (もっとふかかいでおそろしいげなんやげじょにまで) もっと不可解でおそろしい下男や下女にまで、 (ひっしのおどけのさーヴぃすをしたのです) 必死のお道化のサーヴィスをしたのです。 (じぶんはなつにゆかたのしたにあかいけいとのせえたーをきてろうかをあるき) 自分は夏に、浴衣の下に赤い毛糸のセエターを着て廊下を歩き、 (いえじゅうのものをわらわせました) 家中の者を笑わせました。
(めったにわらわないちょうけいもそれをみてふきだし) めったに笑わない長兄も、それを見て噴き出し、 (それあようちゃんにあわないと) 「それあ、葉ちゃん、似合わない」と、 (かわいくてたまらないようなくちょうでいいました) 可愛くてたまらないような口調で言いました。 (なにじぶんだってまなつにけいとのせえたーをきてあるくほど) なに、自分だって、真夏に毛糸のセエターを着て歩くほど、 (いくらなんでもそんなあつささむさをしらぬおへんじんではありません) いくら何でも、そんな、暑さ寒さを知らぬお変人ではありません。 (あねのれぎんすをりょううでにはめてゆかたのそでぐちからのぞかせ) 姉の脚絆を両腕にはめて、浴衣の袖口から覗かせ、 (もってせえたーをきているようにみせかけていたのです) 以てセエターを着ているように見せかけていたのです。 (じぶんのちちはとうきょうのようじのおおいひとでしたので) 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、 (うえののさくらぎちょうにべっそうをもっていてつきのたいはんはそのべっそうでくらしていました) 上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半はその別荘で暮していました。 (そうしてかえるときにはかぞくのものたちまたしんせきのものたちにまで) そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、
など
(じつにおびただしくおみやげをかってくるのが) 実におびただしくお土産を買って来るのが、 (まあちちのしゅみみたいなものでした) まあ、父の趣味みたいなものでした。 (いつかのちちのじょうきょうのぜんやちちはこどもたちをきゃくまにあつめこんどかえるときには) いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、 (どんなおみやげがいいかひとりひとりにわらいながらたずね) どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、 (それにたいするこどもたちのこたえをいちいちてちょうにかきとめるのでした) それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。 (ちちがこんなにこどもたちとしたしくするのはめずらしいことでした) 父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。 (ようぞうはときかれてじぶんはくちごもってしまいました) 「葉蔵は?」と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。 (なにがほしいときかれるととたんになにもほしくなくなるのでした) 何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。 (どうでもいいどうせじぶんをたのしくさせてくれるものなんか) どうでもいい、どうせ自分を楽しくさせてくれるものなんか (ないんだというおもいがちらとうごくのです) 無いんだという思いが、ちらと動くのです。 (とどうじにひとからあたえられるものもどんなにじぶんのこのみにあわなくても) と、同時に、人から与えられるものも、どんなに自分の好みに合わなくても、 (それをこばむこともできませんでした) それを拒む事も出来ませんでした。 (いやなことをいやといえずまたすきなこともおずおずとぬすむように) イヤな事を、イヤと言えず、また、好きな事も、おずおずと盗むように、 (きわめてにがくあじわいそうしていいしれぬきょうふかんにもだえるのでした) 極めてにがく味わい、そうして言い知れぬ恐怖感にもだえるのでした。 (つまりじぶんにはにしゃせんいつのちからさえなかったのです) つまり、自分には、二者選一の力さえ無かったのです。 (これがこうねんにいたりいよいよじぶんのいわゆるはじのおおいしょうがいの) これが、後年に到り、いよいよ自分の所謂「恥の多い生涯」の、 (じゅうだいなげんいんともなるせいへきのひとつだったようにおもわれます) 重大な原因ともなる性癖の一つだったように思われます。 (じぶんがだまってもじもじしているのでちちはちょっとふきげんになり) 自分が黙って、もじもじしているので、父はちょっと不機嫌な顔になり、 (やはりほんかあさくさのなかみせにおしょうがつのししまいのおしし) 「やはり、本か。浅草の仲店にお正月の獅子舞いのお獅子、 (こどもがかぶってあそぶのにはてごろなおおきさのがうっていたけどほしくないか) 子供がかぶって遊ぶのには手頃な大きさのが売っていたけど、欲しくないか」 (ほしくないかといわれるともうだめなんです) 欲しくないか、と言われると、もうダメなんです。 (おどけたへんじもなにもできやしないんです) お道化た返事も何も出来やしないんです。 (おどけやくしゃはかんぜんにらくだいでした) お道化役者は、完全に落第でした。 (ほんがいいでしょうちょうけいはまじめなかおをしていいました) 「本が、いいでしょう」長兄は、まじめな顔をして言いました。 (そうかちちはきょうざめがおにてちょうにかきとめもせず) 「そうか」父は、興覚め顔に手帖に書きとめもせず、 (ぱちとてちょうをとじました) パチと手帖を閉じました。 (なんというしっぱいじぶんはちちをおこらせた) 何という失敗、自分は父を怒らせた、 (ちちのふくしゅうはきっとおそるべきものにちがいない) 父の復讐は、きっと、おそるべきものに違いない、 (いまのうちになんとかしてとりかえしのつかぬものかとそのころ) いまのうちに何とかして取りかえしのつかぬものか、とその夜、 (ふとんのなかでがたがたふるえながらかんがえそっとおきてきゃくまにいき) 蒲団の中でがたがた震えながら考え、そっと起きて客間に行き、 (ちちがせんこくてちょうをしまいこんだはずのつくえのひきだしをあけててちょうをとりあげ) 父が先刻、手帖をしまい込んだ筈の机の引き出しをあけて、手帖を取り上げ、 (ぱらぱらめくっておみやげのちゅうもんきにゅうのかしょをみつけ) パラパラめくって、お土産の注文記入の個所を見つけ、 (てちょうのえんぴつをなめてししまいとかいてねました) 手帖の鉛筆をなめて、シシマイ、と書いて寝ました。 (じぶんはそのししまいのおししをちっともほしくはなかったのです) 自分はその獅子舞いのお獅子を、ちっとも欲しくは無かったのです。 (かえってほんのほうがいいくらいでした) かえって、本のほうがいいくらいでした。 (けれどもじぶんはちちがそのおししを) けれども、自分は、父がそのお獅子を (じぶんにかってあたえたいのだということにきがつきちちがそのいこうにげいごうして) 自分に買って与えたいのだという事に気がつき、父のその意向に迎合して、 (ちちのきげんをなおしたいばかりにしんや) 父の機嫌を直したいばかりに、深夜、 (きゃくまにしのびこむというぼうけんをあえておかしたのでした) 客間に忍び込むという冒険を、敢えておかしたのでした。 (そうしてこのじぶんのひじょうのしゅだんは) そうして、この自分の非常の手段は、 (はたしておもいどおりのだいせいこうをもってむくいられました) 果して思いどおりの大成功を以て報いられました。 (やがてちちはとうきょうからかえってきてははにおおごえでいっているのを) やがて、父は東京から帰って来て、母に大声で言っているのを、 (じぶんはこどもべやできいていました) 自分は子供部屋で聞いていました。 (なかみせのおもちゃやでこのてちょうをひらいてみたら) 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、 (これここにししまいとかいてあるこれはわたしのじではない) これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。 (はてなとくびをかしげておもいあたりましたこれはようぞうのいたずらですよ) はてな?と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。 (あいつはわたしがきいたときにはにやにやしてだまっていたが) あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、 (あとでどうしてもおししがほしくてたまらなくなったんだね) あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。 (なんせどうもあれはかわったぼうずですからね) 何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。 (しらんぷりしてちゃんとかいてある) 知らん振りして、ちゃんと書いてある。 (そんなにほしかったのならそういえばよいのに) そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。 (わたしはおもちゃやのみせさきでわらいましたよ) 私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。 (ようぞうをはやくここへよびなさい) 葉蔵を早くここへ呼びなさい。」
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