海野十三 蠅男㉞

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※➀に同じくです。


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問題文

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(はえおとこほういじん)

◇蠅男包囲陣◇

(ほむらはてんのうじこうえんのところで、よるのひじょうけいかいせんにひっかかった。かれはこうじを)

帆村は天王寺公園のところで、夜の非常警戒線に引っかかった。彼は後事を

(おおかわしゅにんにたのみ、たからづかのほてるからじどうしゃをとばしてすみよししょにむかうとちゅう)

大川主任に頼み、宝塚のホテルから自動車をとばして住吉署に向かう途中

(だったのだ。すみよししょにいってから、さっきのかれがひとやくかったはえおとことりもののはなしも)

だったのだ。住吉署に行ってから、さっきの彼が一役買った蠅男捕物の話も

(きいたり、それからひさかたぶりできていしたというきじんかんのしゅじんかもしたどくとるにも)

聞いたり、それから久方ぶりで帰邸したという奇人館の主人鴨下ドクトルにも

(あってみるつもりだった。ところがこうえんのちかくまでくると、ひじょうけいかいせんだという)

会ってみるつもりだった。ところが公園の近くまで来ると、非常警戒線だという

(さわぎである。ほむらたんていはくるまをおりて、あごひもをかけたけいかんに、すみよししょの)

騒ぎである。帆村探偵は車を下りて、頤紐をかけた警官に、住吉署の

(まさきしょちょうがきていないかとたずねた。)

正木署長が来ていないかと尋ねた。

(ああまさきさんなら、こうえんみなみぐちのこうしゅうでんわのそばに、うちのしょちょうといっしょに)

「ああ正木さんなら、公園南口の公衆電話のそばに、うちの署長と一緒に

(いやはるはずだっせ。そこにけいかいほんぶがしゅっちょうしてきとりますのや)

居やはるはずだっせ。そこに警戒本部が出張してきとりますのや」

(うちのしょちょうというのは、えびすしょのことをいうのであろう。てんのうじこうえんやしんせかいは、)

うちの署長というのは、戎署のことをいうのであろう。天王寺公園や新世界は、

(このえびすしょのかんかつだった。)

この戎署の管轄だった。

(ほむらたんていはけいかいせんのなかにいれてもらって、しでんのれーるぞいにこうえんみなみぐちのほうへ)

帆村探偵は警戒線の中に入れて貰って、市電のレール沿いに公園南口の方へ

(あるいていった。いくほどになるほどこうしゅうでんわのはこがみえてきた。さっき)

歩いていった。行くほどになるほど公衆電話の函が見えてきた。さっき

(ほてるからはえおとことはなしをしたとき、かいじんぶつはえおとこはあのでんわはこのなかにはいっていたんだ。)

ホテルから蠅男と話をした時、怪人物蠅男はあの電話函の中に入っていたんだ。

(びじんおりゅうも、あのはこのまえあたりにきをくばっていたのかもしれない。)

美人お竜も、あの函の前あたりに気を配っていたのかも知れない。

(ちかづくにしたがって、いったいのけいさつかんがていりゅうじょうのまえにちょりつしているのをみとめた。ちょうど)

近づくに従って、一隊の警察官が停留場の前に佇立しているのを認めた。丁度

(すいかしたけいかんがあったのをさいわい、かれをあんないにたのんで、そのいっこうにちかづいた。)

誰何した警官があったのを幸い、彼を案内に頼んで、その一行に近づいた。

(なるほどまさきしょちょうもいた。ほむらとしたしいむらまつけんじもいた。えびすしょのまっかな)

なるほど正木署長もいた。帆村と親しい村松検事もいた。戎署の真っ赤な

(どうがんもまじっていた。まさきしょちょうはてをあげてほむらをよんだ。)

童顔も交じっていた。正木署長は手をあげて帆村を呼んだ。

など

(やあみなさん。はえおとこがでんわをかけているのをしらせてくれたしゅくんしゃ、)

「やあ皆さん。蠅男が電話を掛けているのを知らせてくれた殊勲者、

(ほむらたんていがこられましたぜ。そのかただす)

帆村探偵が来られましたぜ。その方だす」

(きゅうちもしんちもほむらのほうをむいてそのしゅくんをねぎらった。)

旧知も新知も帆村の方を向いてその殊勲をねぎらった。

(しょちょうさん。はえおとこはどうしました)

「署長さん。蠅男はどうしました」

(さてそのはえおとこやが、せっかくしらせてくれはったあんたにはどうもいいにくい)

「さてその蠅男やが、折角知らせてくれはったあんたにはどうも云いにくい

(はなしやがーーじつははえおとこをとりにがしてしもうたんや)

話やがーー実は蠅男をとり逃がしてしもうたんや」

(はあ、にげましたか)

「はア、逃げましたか」

(にげたというても、にげこんだところがわかってるよって、いまみてのとおり)

「逃げたというても、逃げ込んだところが分かってるよって、今見ての通り

(しんせかいとこうえんとをぐるっととりまいてけいかいせんをつくっとるのやがーー)

新世界と公園とをグルッと取り巻いて警戒線を作っとるのやがーー」

(ああなるほど、そのためのひじょうけいかいですか。おんなのほうはどうしました、)

「ああなるほど、そのための非常警戒ですか。女の方はどうしました、

(あのおりゅうとかいう・・・)

あのお竜とかいう・・・」

(ああ、あれもいっしょに、そこのぐんかんまちににげこんでしもて、)

「ああ、あれも一緒に、そこの軍艦町に逃げ込んでしもて、

(あとゆくえしれずや)

あと行方知れずや」

(え、ぐんかんまち?)

「え、軍艦町?」

(はあ、ぐんかんまちには、せまいかんとうにやがたくさんならんでて、どのみせにもおんなのこが)

「はア、軍艦町には、狭い関東煮屋が沢山並んでて、どの店にも女の子が

(しゃみせんをひいとる、えろうにぎやかなよこちょうや。そこへにげこんだがさいご、)

三味線を弾いとる、えろう賑やかな横丁や。そこへ逃げ込んだが最後、

(どこへいったかわかれへん)

どこへ行ったか分かれへん」

(じゃあ、どっちもとらえるみこみうすですね)

「じゃあ、どっちも捕える見込み薄ですね」

(しかしわしのかんがえでは、ふたりともまだこのいっかくのなかにひそんどる。それはたしかや。)

「しかし儂の考えでは、二人ともまだこの一画の中に潜んどる。それは確かや。

(このいっかくぐらいかくれやすいところはないんや。そしていずれすきをみて、)

この一画ぐらい隠れやすいところはないんや。そしていずれ隙を見て、

(ちょろちょろとにげだすつもりやとにらんどる。もっとまたんと、)

チョロチョロと逃げ出すつもりやと睨んどる。もっと待たんと、

(はっきりしたところがわかれしまへんな)

ハッキリしたところが分かれしまへんな」

(そこへひとりのけいかんが、でんれいとみえて、むこうからかけてきた。)

そこへ一人の警官が、伝令と見えて、向こうから駈けて来た。

(いまむかいのどうぶつえんのなかでみょうなようふくおとこがうろうろしとるのをみつけました。)

「今向かいの動物園の中で妙な洋服男がウロウロしとるのを見つけました。

(こっちへでてくるふうでおます。それとなくけいかいしとります)

こっちへ出て来る風でおます。それとなく警戒しとります」

(どうぶつえんというのは、こうえんみなみぐちていりゅうじょうのすぐむかいにあった。このさむいよなかに、)

動物園というのは、公園南口停留場のすぐ向かいにあった。この寒い夜中に、

(どうぶつえんのなかをうろついているというのはいかさまへんなはなしだった。)

動物園の中をうろついているというのはいかさま変な話だった。

(そのときむらまつけんじが、れいのびょうにんのようなほねばったかおをこっちへちかづけてきた。)

そのとき村松検事が、例の病人のような骨ばった顔をこっちへ近づけてきた。

(おいほむらくん。なにかおもしろいはなしでもきかさんか。わしはしごくたいくつしているんだ)

「オイ帆村君。何か面白い話でも聞かさんか。儂は至極退屈しているんだ」

(けんじはうかぬかおをしていた。せっかくのとりものがうまくいかないので、)

検事は浮かぬ顔をしていた。折角の捕物がうまくいかないので、

(くさっているらしい。)

腐っているらしい。

(おもしろいはなしは、こっちからうかがいたいくらいですよ。はえおとこがあめりかのぎゃんぐの)

「面白い話は、こっちから伺いたいくらいですよ。蠅男がアメリカのギャングの

(ようにきかんじゅうをこわきにかかえてだだだっとやったときのこうけいはいかがでした)

ように機関銃を小脇に抱えてダダダッとやった時の光景はいかがでした」

(うん、なかなかゆうそうなものだったそうだ。みかたはたちまちくものこを)

「ウン、なかなか勇壮なものだったそうだ。味方はたちまち蜘蛛の子を

(ちらすようにしさんして、でんちゅうのかげやきょうどうべんじょのうしろをりようしてしまったと)

散らすように四散して、電柱の陰や共同便所の後ろを利用してしまったと

(いうわけさ)

いうわけさ」

(けんじさんのおくちにかかっては、こっちはみんなしゃっぽやとしょちょうはにがわらいを)

「検事さんのお口にかかっては、こっちは皆シャッポや」と署長は苦笑いを

(した。それよりもほむらはん、えらいみょうなはなしがおますのや。それははえおとこの)

した。「それよりも帆村はん、えらい妙な話がおますのや。それは蠅男の

(きかんじゅうのことだすがな、そのきかんじゅうのじゅうしんがこっちにはかいもくみえへなんだ)

機関銃のことだすがナ、その機関銃の銃身がこっちには皆目見えへなんだ

(ちゅうのだす)

ちゅうのだす」

(え、もういちどいってください)

「え、もう一度云って下さい」

(つまり、はえおとこはきかんじゅうをならしとるのにちがいないのに、そのかんじんのじゅうしんが)

「つまり、蠅男は機関銃を鳴らしとるのに違いないのに、その肝腎の銃身が

(どこにもみえしまへんねん)

どこにも見えしまへんねん」

(それはおかしなはなしですね。はえおとこはどんなふうにかまえていたんですか)

「それはおかしな話ですね。蠅男はどんな風に構えていたんですか」

(ただこういうふうにとしょちょうはひだりうでをすいへいにまっすぐにまえにつきだしてみせ、)

「ただこういう風に」と署長は左腕を水平に真っ直ぐに前に突き出して見せ、

(ひだりうでをまえにつきだしてたっとるだけやったというはなしだす。てにはなんにも)

「左腕を前に突き出して立っとるだけやったという話だす。手には何にも

(もっとらしまへんねん。とうめいきかんじゅうやないかというものもおりまっせ)

持っとらしまへんねん。透明機関銃やないかという者も居りまっせ」

(とうめいきかんじゅう?まさか、そんなのがあろうはずがない。なにかみちがえでは)

「透明機関銃? まさか、そんなのがあろう筈がない。何か見違えでは

(ないのですか)

ないのですか」

(いや、はえおとこにむこうただれもが、いいあわしたようにそう)

「いや、蠅男に向こうた誰もが、云い合わしたようにそう

(いいよったんで・・・ふーむ)

云いよったんで・・・」「フーム」

(ほむらはそのきかいなはなしをきいて、きつねにはなをつままれたようなきがした。)

帆村はその奇怪な話を聞いて、狐に鼻をつままれたような気がした。

(そうそう、そういえばせんこくのはえおとこのでんわでは、はえおとこはこんやのうちにまた)

「そうそう、そういえば先刻の蠅男の電話では、蠅男は今夜のうちにまた

(だれかをころすといっていましたよ)

誰かを殺すと云っていましたよ」

(なにこんやのうちに、またころすってけんじがおどろいてききかえした。)

「なに今夜のうちに、また殺すって」検事が愕いて聞きかえした。

(ほんまかいなーーまさきしょちょうはきょうふのあまりしばらくはくちも)

「ほんまかいなーー」正木署長は恐怖のあまり暫くは口も

(きけなかったほどだった。)

利けなかったほどだった。

(だれかはえおとこからきょうはくじょうをうけとったものはないのですか)

「誰か蠅男から脅迫状を受け取った者はないのですか」

(けんじとしょちょうとは、おもわずふあんげなかおをみあわせた。)

検事と署長とは、思わず不安げな顔を見合わせた。

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