海野十三 蠅男㉟
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | りく | 6169 | A++ | 6.3 | 97.7% | 756.3 | 4775 | 109 | 84 | 2024/10/02 |
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問題文
(きこうどくとるのしゅつげん)
◇奇行ドクトルの出現◇
(だれだろう、こんどのぎせいは?)
「誰だろう、今度の犠牲は?」
(さあ、はえおとこからしのきょうはくじょうをうけとったといううったえは)
「さあ、蠅男から死の脅迫状を受け取ったという訴えは
(どこからもきてえしまへんぜ)
どこからも来てえしまへんぜ」
(ふーむ、へんだなけんじとしょちょうとは、つよくくびをふった。)
「フーム、変だな」検事と署長とは、強く首を振った。
(なんだ。だれがころされるか、まだわかっていないのですか)
「なんだ。誰が殺されるか、まだ分かっていないのですか」
(ほむらもあぜんとした。はえおとこはでんわでもってたしかにさつじんをせんげんしたのだった。)
帆村も唖然とした。蠅男は電話でもって確かに殺人を宣言したのだった。
(そしてそのさつじんは、まんとをしんがいさせるほどざんぎゃくをきわめたものであるらしい)
そしてその殺人は、満都を震駭させるほど残虐をきわめたものであるらしい
(ことは、はえおとこのくちぶりでさっせられた。あのみえぼうのはえおとこが、それほどのだいはんざいを)
ことは、蠅男の口ぶりで察せられた。あの見栄坊の蠅男が、それほどの大犯罪を
(やろうとしながら、あいてにけいこくじょうをださないはずはないとおもわれる。)
やろうとしながら、相手に警告状を出さない筈はないと思われる。
(そもこのせんりつすべきぎせいしゃは、どこのだれなのであろうか。)
そもこの戦慄すべき犠牲者は、何処の誰なのであろうか。
(きたきた、あれだっと、そのときさけぶものがあった。)
「来た来た、あれだッ」と、そのとき叫ぶ者があった。
(ほむらははっとしてそのほうをむいた。)
帆村はハッとしてその方を向いた。
(どうぶつえんのいりぐちから、ひとりのろうしんしがけいかんにまもられながらこっちへ)
動物園の入口から、一人の老紳士が警官に護られながらこっちへ
(あるいてくるのがみえた。それは、さっきでんれいのけいかんからほうこくのあったように、)
歩いて来るのが見えた。それは、さっき伝令の警官から報告のあったように、
(よるのどうぶつえんのなかにうろついていたぎもんのじんぶつであろう。)
夜の動物園の中にうろついていた疑問の人物であろう。
(ろうしんしはすこしねこぜのふとったからだのもちぬしだった。あたまのうえにちょこんと)
老紳士は少し猫背の太った身体の持ち主だった。頭の上にチョコンと
(ちいさいなかおれぼうしをいただき、よちよちとあるいてくる。そしてけぶかいあごひげや)
小さい中折れ帽子をいただき、ヨチヨチと歩いて来る。そして毛深い頤髭や
(くちひげをぶるぶるふるわせながら、こごえのしわがれごえでなにかぶつぶつ)
口髭をブルブルふるわせながら、低声(こごえ)の皺がれ声で何かブツブツ
(いっていた。どうやらけいかんのとりあつかいにふんがいしているらしかった。)
いっていた。どうやら警官の取り扱いに憤慨しているらしかった。
(・・・どうもおまえらはわからずやばかりじゃのう。はやくわかるおとこをだせ。)
「・・・どうもお前らは分からず屋ばかりじゃのう。早く分かる男を出せ。
(てんかになだかいわしをしらないとはなさけないやつじゃ)
天下に名高い儂を知らないとは情けない奴じゃ」
(と、ろうしんしはぷんぷんしていた。)
と、老紳士はプンプンしていた。
(おお、あれはかもしたどくとるじゃないかとまさきしょちょうは、いがいのおももちだった。)
「おお、あれは鴨下ドクトルじゃないか」と正木署長は、意外の面持だった。
(わしをしらんか、しっとるやつがいるはずやぞ。もっとえらいにんげんをだせ)
「儂を知らんか、知っとる奴が居るはずやぞ。もっと豪い人間を出せ」
(おおかもしたどくとる!)
「おお鴨下ドクトル!」
(おおわしのなをよんだな。ーーよんだのはおまえじゃな。うむ、これはしょちょうじゃ。)
「おお儂の名を呼んだな。ーー呼んだのはお前じゃな。うむ、これは署長じゃ。
(このあいだあってしっている。おまえはかんしんじゃが、おまえのぶかはじつに)
この間会って知っている。お前は感心じゃが、お前の部下は実に
(ぼつじょうしきぞろいじゃぞ。わしのことをはえおとことよばわりおったっ)
没常識ぞろいじゃぞ。儂のことを蠅男と呼ばわりおったッ」
(ろうしんしはかぜんかもしたどくとるだったのだ。どくとるはなおもくちをもがもがさせて、)
老紳士は果然鴨下ドクトルだったのだ。ドクトルはなおも口をモガモガさせて、
(くろかわのてぶくろをはめたてににぎったほそいすてっきをふりあげて、いまいましそうに)
黒革の手袋をはめた手に握った細いステッキを振りあげて、いまいましそうに
(うちふった。まさきしょちょうはどくとるにじじょうをはなしてりょうかいをこうたうえで、)
うちふった。正木署長はドクトルに事情を話して諒解を乞うた上で、
(なおどくとるがよるのどうぶつえんでなにをしていたのかをていちょうにしつもんした。)
なおドクトルが夜の動物園で何をしていたのかを鄭重に質問した。
(なにをしようと、わしのかってじゃ。わしのけんきゅうのはなしをしたって、おまえたちに)
「何をしようと、儂の勝手じゃ。儂の研究の話をしたって、お前たちに
(わかるものか)
分かるものか」
(それでもどくとる、いちおうおはなしくださらないとかえっておためになりませんよ)
「それでもドクトル、一応お話下さらないとかえってお為になりませんよ」
(なにためにならん。おまえはきょうはくするか。わしはいわん、しりたければ)
「ナニ為にならん。お前は脅迫するか。儂は云わん、知りたければ
(しおたりつのしんにきけ)
塩田律之進に聞け」
(えっ、しおたりつのしんというと、あのおにけんじといわれたもとのけんじせい)
「えッ、塩田律之進というと、アノ鬼検事といわれた元の検事正
(しおたせんせいのことですか)
塩田先生のことですか」
(むらまつけんじがおどろいてよこあいからでてきた。)
村松検事が愕いて横合いから出てきた。
(そうじゃ、しおたといえばあいつにきまっとる。あれはわしのむかしからの)
「そうじゃ、塩田といえばあいつにきまっとる。あれはわしの昔からの
(ゆうじんじゃとどくとるはじろりといちどうをみまわし、それにわしはしおたと)
友人じゃ」とドクトルはジロリと一同を見まわし、「それに儂は塩田と
(やくそくして、これからどうじまのほうそうくらぶにたずねてゆくことになっとる。)
約束して、これから堂島の法曹クラブに訪ねてゆくことになっとる。
(しんぱいなやつは、わしについてこい。しかしじゃまにならぬようについてこないと、)
心配な奴は、儂について来い。しかし邪魔にならぬようについて来ないと、
(えんりょなくどなりつけるぞ)
遠慮なく怒鳴りつけるぞ」
(あのゆうめいなしおたせんせいのゆうじんときいては、けんじもしょちょうも、)
あの有名な塩田先生の友人と聞いては、検事も署長も、
(おおたじたじのていであった。なかにもむらまつけんじは、しおたせんせいのもんかのしゅんさいとして)
大タジタジの体であった。なかにも村松検事は、塩田先生の門下の俊才として
(しられていた。それでかれは、このうえ、せんせいのゆうじんであるかもしたどくとるを)
知られていた。それで彼は、この上、先生の友人である鴨下ドクトルを
(けいかんたちがおこらせることをしんぱいして、)
警官たちが怒らせることを心配して、
(じゃあどくとる、しおたせんせいにはしばらくごぶさたしていましたので、)
「じゃあドクトル、塩田先生にはしばらくご無沙汰していましたので、
(これからいっしょにおともをしてもいいのですかね)
これから一緒にお伴をしてもいいのですかネ」
(なんじゃ、きこうがついてくるというのか。ついてきたけりゃ)
「なんじゃ、貴公がついて来るというのか。ついて来たけりゃ
(ついてくるがいい。しかしいまもいうとおり、じゃまにならぬようにしないと、)
ついて来るがいい。しかし今も云うとおり、邪魔にならぬようにしないと、
(このすてっきでなぐりつけるぞ)
このステッキで殴りつけるぞ」
(きじんかんのしゅじんは、なるほどきじんじみていた。けんじはそれをうまく)
奇人館の主人は、なるほど奇人じみていた。検事はそれをうまく
(あしらいながら、しょちょうたちにことわりをいって、どくとるのおともをすることに)
あしらいながら、署長たちに断りを云って、ドクトルのお伴をすることに
(なった。どてのところにまっていたいちだいのけいさつのもんのついたじどうしゃがよばれ、)
なった。土手のところに待っていた一台の警察の紋のついた自動車が呼ばれ、
(それにどくとるとけんじはのりこんで、でかけていった。)
それにドクトルと検事は乗り込んで、出かけて行った。
(ほむらは、はじめてみたかもしたどくとるのさったあとをみおくりながら、)
帆村は、はじめて見た鴨下ドクトルの去ったあとを見送りながら、
(ふーむ、じつにきょうみしんしんたるじんぶつだとたんそくした。)
「フーム、実に興味深々たる人物だ」と歎息した。
(そしてまさきしょちょうのほうをむいて、かもしたどくとるがきかんしてあのだんろのなかの)
そして正木署長の方を向いて、鴨下ドクトルが帰館してあの暖炉の中の
(したいのことをどういったか、それからまたどくとるはどこにいっていたのか)
屍体のことをどう云ったか、それからまたドクトルは何処に行っていたのか
(などというかねてかれのしりたいとおもっていたことをきいてみた。)
などという予て彼の知りたいと思っていたことを訊いてみた。
(それにたいしてしょちょうはにがわらいをしながら、いやどうもばんじあのちょうしなので、)
それに対して署長は苦笑いをしながら、イヤどうも万事あの調子なので、
(じんもんにもてこずったがとまえおきして、つぎのようにせつめいした。)
訊問にも手古摺ったがと前置きして、次のように説明した。
(すなわちどくとるは、きゅうにおもいたってとうきょうにいっていたのだそうである。)
すなわちドクトルは、急に思い立って東京に行っていたのだそうである。
(そしてじゅうにがつついたちからいつかまで、うえののかがくはくぶつかんへにっさんして)
そして十二月一日から五日まで、上野の科学博物館へ日参して
(はくぶつのひょうほんをたんねんにみてきたそうである。)
博物の標本を丹念に見て来たそうである。
(やどはしたやくはつねちょうのちじんのいえにとまっていたという。)
宿は下谷区初音町の知人の家に泊まっていたという。
(それからだんろのなかのしたいは、いっこうこころあたりがないという。これはおまえたちの)
それから暖炉の中の屍体は、一向心当たりがないという。これはお前たちの
(けいかいがへたくそのせいだとぷんぷんおこっていたとのことである。)
警戒が下手くそのせいだとプンプン怒っていたとのことである。
(どくとるのいったことがまさにほんとうかどうか、それはじょうしんしてもっかとりしらべを)
ドクトルの云ったことが正に本当かどうか、それは上申して目下取り調べを
(けいしちょうにいらいしてあるということだった。)
警視庁に依頼してあるということだった。
(ほむらははやくそのほうこくがしりたいものだとおもった。しかしまだに、さんにちは)
帆村は早くその報告が知りたいものだと思った。しかしまだ二、三日は
(かかるのであろう。)
懸かるのであろう。
(それからまさきさん。どくとるのむすめのかおるさんたちはどうしました。)
「それから正木さん。ドクトルの娘のカオルさんたちはどうしました。
(いまのはなしではいきちがいになったらしいが、いまどこにいるのですか)
今の話では行き違いになったらしいが、今どこにいるのですか」
(ああそのことや。じつはどくとるからもたずねられたことやけれど、)
「ああそのことや。実はドクトルからも尋ねられたことやけれど、
(むすめはんとあのうえはらやまじといういいなずけは、どくとるがおらへんもんやさかい、)
娘はんとあの上原山治という許嫁は、ドクトルが居らへんもんやさかい、
(こっちへきたついでやいうて、いまきゅうしゅうのほうかどっかへりょこうにでとるのんや。)
こっちへ来たついでや云うて、今九州の方かどっかへ旅行に出とるのんや。
(かえりにきっとほんしょへよるというやくそくをしたんやさかい、そのうちよるやろ)
帰りにきっと本署へ寄るという約束をしたんやさかい、そのうち寄るやろ
(おもうてるねん)
思うてるねん」
(ほほう、そうですか)
「ほほう、そうですか」