海野十三 蠅男㊳

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※➀に同じくです。


順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りく 6094 A++ 6.2 98.1% 734.3 4560 85 77 2024/10/06

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問題文

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(ひかれゆくさつじんけんじ?)

◇引かれゆく殺人検事?◇

(でんわでしらせたので、けいさつからはかかりかんがちゅうをとんでかけつけた。)

電話で知らせたので、警察からは係官が宙をとんで駈けつけた。

(さんげきのしつないにはいってみると、そうもひろくないこのへやは、なまぐさいちのこうで)

惨劇の室内に入ってみると、そうも広くないこの室は、なまぐさい血の香で

(むせぶようであった。)

噎ぶようであった。

(しおたせんせいは、のうてんをうちくだかれ、じょうはんしんをしゅにそめてしんでいた。)

塩田先生は、脳天を打ち砕かれ、上半身を朱に染めて死んでいた。

(これがかつて、おにけんじせいといわれけいひんちほうのじゅうみんからいけいされていた)

これが曾て、鬼検事正といわれ京浜地方の住民から畏敬されていた

(しおたりつのしんのすがたなのであろうか。それはあまりにもひさんなさいごだった。)

塩田律之進の姿なのであろうか。それはあまりにも悲惨な最期だった。

(かかりかんのとりしらべがはじまった。)

係官の取り調べが始まった。

(しおたせんせいがさつがいされたとうじ、このへやのうちにだれがいたか。)

塩田先生が殺害された当時、この室のうちに誰がいたか。

(それはほかでもない。むらまつけんじただひとりだったことをしょうめいするものがたくさんいた。)

それは外でもない。村松検事只一人だったことを証明する者が沢山いた。

(ぼーいもしょうげんした。かもしたどくとるも、もちろんどういした。かいかのじむしょにいて、)

ボーイも証言した。鴨下ドクトルも、もちろん同意した。階下の事務所にいて、

(しおたせんせいのところへでんわをかけたぼーいちょうもそれをひていしなかった。)

塩田先生のところへ電話を掛けたボーイ長もそれを否定しなかった。

(かもしたどくとるがてあらいじょにはいりてあらいじょからでてくるのをみていた、)

鴨下ドクトルが手洗所に入り手洗所から出て来るのを見ていた、

(おんなじむいんたちのなかにも、それにいぎをいうものがなかった。)

女事務員たちの中にも、それに異議を云う者がなかった。

(どうです、むらまつさん。これについてなにかいいたいことがありますか)

「どうです、村松さん。これについて何か云いたいことがありますか」

(とうちょくのみずたけんじが、きのどくそうに、このせんぱいにあたるむらまつにきいた。)

当直の水田検事が、気の毒そうに、この先輩にあたる村松に訊いた。

(・・・)

「・・・」

(むらまつはものをいうかわりに、くびをさゆうにふってこたえた。くちをひらくきりょくもないと)

村松は物を云うかわりに、首を左右に振って答えた。口を開く気力もないと

(いったふうであった。)

いった風であった。

(ではむらまつさん。あなたはここにしんでいるひとをころしたおぼえがありますか)

「では村松さん。貴方はここに死んでいる人を殺した覚えがありますか」

など

(むらまつは、さらにむごんのままくびをさゆうにふった。)

村松は、更に無言のまま首を左右に振った。

(では、このひとは、どうしてここにしんでいるのです)

「では、この人は、どうしてここに死んでいるのです」

(むらまつはやはりもくもくとして、かぶりをふった。)

村松はやはり黙々として、かぶりを振った。

(けんじはん。ちまみれのぶんちんについとったしもんが、うまくでよりました。)

「検事はん。血まみれの文鎮についとった指紋が、うまく出よりました。

(これだす)

これだす」

(そういって、かんしきかいんが、しろいかみにてんしゃしたしもんと、きょうきになったぶんちんとを)

そういって、鑑識課員が、白い紙に転写した指紋と、凶器になった文鎮とを

(さしだした。)

差し出した。

(それから、ちょっとむらまつしのしもんをとってくれ)

「それから、ちょっと村松氏の指紋を取ってくれ」

(えっ、むらまつはんのをでっか)

「えッ、村松はんのをでっか」

(かんしきしはおずおずときのどくなようぎしゃむらまつけんじのかおと、めいれいするみずたけんじとのかおを)

鑑識子はオズオズと気の毒な容疑者村松検事の顔と、命令する水田検事との顔を

(みくらべた。それをきいていたむらまつけんじは、むごんのまま、みぎてをまえにつきだした。)

見較べた。それを聞いていた村松検事は、無言のまま、右手を前に突き出した。

(ああそのて、かんしきしのまえにひろげられたむらまつのてのひらには、あかぐろいちがべっとりと)

ああその手、鑑識子の前に拡げられた村松の掌には、赤黒い血がベットリと

(ついていた。かんしきしはものなれたちょうしで、むらまつのしもんをべつのかみのうえにてんしゃして、)

ついていた。鑑識子は物慣れた調子で、村松の指紋を別の紙の上に転写して、

(さしだした。)

差し出した。

(どうだね、このりょうほうのしもんは・・・)

「どうだネ、この両方の指紋は・・・」

(みずたけんじのこえは、こころなしか、すこしふるえをおびているようであった。)

水田検事の声は、心なしか、少し慄えを帯びているようであった。

(かんしきしは、めいぜられるままににまいのかみにうつしだされたしもんを、むしめがねのしたに)

鑑識子は、命ぜられるままに二枚の紙にうつし出された指紋を、虫眼鏡の下に

(じっとくらべていたが、やがてかれのひたいは、じっとりとあぶらあせがにじみだしてきた。)

ジッと較べていたが、やがて彼の額は、ジットリと脂汗が滲み出してきた。

(どうだね。しもんはあっているか、あわないか)

「どうだネ。指紋は合っているか、合わないか」

(・・・どういつにんのしもんでおます)

「・・・同一人の指紋でおます」

(かんしきしはくるしそうにこたえて、はんかちーふでひたいのあせをふいた。)

鑑識子は苦しそうに応えて、ハンカチーフで額の汗を拭いた。

(みずたけんじは、それをきくと、わきをむいていった。)

水田検事は、それを聞くと、わきを向いて云った。

(むらまつしを、さつじんようぎしゃとしてたいほせよ)

「村松氏を、殺人容疑者として逮捕せよ」

(むらまつしのてくびにはいたいたしくほばくがまきついた。かつては、はえおとこのそうさに、)

村松氏の手首には痛々しく捕縄がまきついた。曾ては、蠅男の捜査に、

(かかりかんをしきしていたかれが、いまはぎゃくにいちをかえて、さつじんようぎしゃとして)

係官を指揮していた彼が、今は逆に位置を変えて、殺人容疑者として

(こうきんされるみとなった。)

拘禁される身となった。

(ぎもんのかいじんはえおとこをとらえてみれば、それはひともあろうにはえおとこそうさの)

疑問の怪人「蠅男」を捕えてみれば、それは人もあろうに「蠅男」捜査の

(しきしゃであったむらまつけんじであったとは。そのばにいあわせたひとびとは、)

指揮者であった村松検事であったとは。その場に居合わせた人々は、

(ことのいがいにこえもなく、ただあきれるよりほかなかったのである。)

ことの意外に声もなく、ただ呆れるより外なかったのである。

(むらまつけんじにせわになっていたひとたちは、みずたけんじのとりしらべにたいして、もっと)

村松検事に世話になっていた人たちは、水田検事の取り調べに対して、もっと

(いろいろはんばくしてくれることをねがっていた。しかるにこのひとたちのきたいを)

いろいろ反駁してくれることを冀っていた。しかるにこの人たちの期待を

(うらぎって、むらまつけんじはほとんどくちをひらかなかったのである。)

裏切って、村松検事はほとんど口を開かなかったのである。

(なぜむらまつは、おおくをしゃべらなかったのであろう。かれはきょうきとだんていせられる)

なぜ村松は、多くを喋らなかったのであろう。彼は凶器と断定せられる

(ぶんちんのうえに、みずからのしもんがついているのにきがついて、もうなにをいっても)

文鎮の上に、自らの指紋がついているのに気がついて、もう何を云っても

(まぬかれぬところと、さつじんざいをかくごしたのであろうか。それともなにかほかに、)

免れぬところと、殺人罪を覚悟したのであろうか。それとも何か外に、

(しゃべりたくないげんいんがあったのであろうか。)

喋りたくない原因があったのであろうか。

(かんけいしゃたちに、ひとまずきゅうけいがせんせられ、ようぎしゃむらまつけんじはべっしつに)

関係者たちに、ひとまず休憩が宣せられ、容疑者村松検事は別室に

(ひかれていった。げんばでは、むざんなさいごをとげたしおたせんせいのなきがらのうえに、)

引かれていった。現場では、無慚な最期をとげた塩田先生の亡骸の上に、

(かーきいろのぬのがふわりとかけられた。)

カーキ色の布がフワリとかけられた。

(みずたけんじのいっこうは、よしんはんじとくんで、さんげきのへやのうちに、いろいろと)

水田検事の一行は、予審判事と組んで、惨劇の室のうちに、いろいろと

(しょうこがためをしてゆくのであった。)

証拠固めをしてゆくのであった。

(ちょうどそのなかばに、きゅうをきいて、ほむらたんていやまさきしょちょうたちがかけつけた。)

丁度その半ばに、急を聞いて、帆村探偵や正木署長たちが駈けつけた。

(いくらむらまつけんじのみかたがかけつけたとて、はんこうははんこうであった。みずたけんじから)

いくら村松検事の味方が駈けつけたとて、犯行は犯行であった。水田検事から

(くわしいせつめいがのべられると、むらまつけんじのむざいせつをしんじていたほむらたちも、)

詳しい説明が述べられると、村松検事の無罪説を信じていた帆村たちも、

(それでもむらまつけんじはしおたせんせいごろしにむかんけいであるとはいえなかった。)

それでも村松検事は塩田先生殺しに無関係であるとはいえなかった。

((しかし、これはなにかおおきなまちがいがあるのにちがいない))

(しかし、これは何か大きな間違いがあるのに違いない)

(ほむらはあくまでそれをしんじていた。)

帆村はあくまでそれを信じていた。

(でも、ないぶからかぎをかけたみっしつのさつじんじけんーーしおたせんせいはぶんちんでのうてんを)

でも、内部から鍵をかけた密室の殺人事件ーー塩田先生は文鎮で脳天を

(うちくだかれ、むらまつにはきょうきであるぶんちんをにぎっていたしょうこがある。まどはうちから)

打ち砕かれ、村松には凶器である文鎮を握っていた証拠がある。窓は内から

(かぎこそかかっていなかったがしまっていたそうである。もしまどが)

鍵こそかかっていなかったが閉まっていたそうである。もし窓が

(あいていたとしても、だれがまどのそとからしんにゅうしてこられるだろう。なにしろこの)

明いていたとしても、誰が窓の外から侵入して来られるだろう。何しろこの

(ほうそうくらぶ・びるというのは、すべすべしたたいるばりのがいへきをもっており、)

法曹クラブ・ビルというのは、スベスベしたタイル張りの外壁をもっており、

(おくじょうにはひさしのようなものがいっけんほどもそとにでばっていたし、にんげんわざでは、)

屋上には廂のようなものが一間ほども外に出張っていたし、人間業では、

(とうていまどのそとからしのびこむことができそうもなかった。)

到底窓の外から忍びこむことが出来そうもなかった。

(すると、むらまつけんじのはんこうでないというしょうこは、ちょっとこんなんになるわけだった。)

すると、村松検事の犯行でないという証拠は、ちょっと困難になるわけだった。

(ほむらは、みずたけんじにたのんで、むらまつにひとめあわせてくれるようにたのんでみた)

帆村は、水田検事に頼んで、村松に一目会わせてくれるように頼んでみた

(けれど、このさいのこととて、それもあっさりことわられてしまった。)

けれど、この際のこととて、それもあっさり断られてしまった。

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