フランツ・カフカ 変身㉕
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問題文
(「あいつがわれわれのことをわかってくれたら」と、ちちおやはくりかえして、)
「あいつがわれわれのことをわかってくれたら」と、父親はくり返して、
(めをとじ、そんなことはありえないといういもうとのかくしんをじぶんでもうけいれていた。)
眼を閉じ、そんなことはありえないという妹の確信を自分でも受け容れていた。
(「そうしたらおそらくあいつとはなしをつけることができるんだろうが。)
「そうしたらおそらくあいつと話をつけることができるんだろうが。
(だが、こんなふうじゃあねえーー」)
だが、こんなふうじゃあねえーー」
(「あいつはいなくならなければならないのよ」と、いもうとはさけんだ。)
「あいつはいなくならなければならないのよ」と、妹は叫んだ。
(「それがただひとつのしゅだんよ。あいつがぐれごーるだなんていうかんがえから)
「それがただ一つの手段よ。あいつがグレゴールだなんていう考えから
(はなれようとしさえすればいいんだわ。そんなことをこんなにながいあいだ)
離れようとしさえすればいいんだわ。そんなことをこんなに長いあいだ
(しんじていたことが、わたしたちのほんとうのふこうだったんだわ。でも、)
信じていたことが、わたしたちのほんとうの不幸だったんだわ。でも、
(あいつがぐれごーるだなんていうことがどうしてありうるでしょう。もし)
あいつがグレゴールだなんていうことがどうしてありうるでしょう。もし
(あいつがぐれごーるだったら、にんげんたちがこんなどうぶつといっしょにくらすことは)
あいつがグレゴールだったら、人間たちがこんな動物といっしょに暮らすことは
(ふかのうだって、とっくにみぬいていたでしょうし、じぶんからすすんで)
不可能だって、とっくに見抜いていたでしょうし、自分から進んで
(でていってしまったことでしょう。そうなったら、わたしたちには)
出ていってしまったことでしょう。そうなったら、わたしたちには
(おにいさんがいなくなったでしょうけれど、わたしたちは)
お兄さんがいなくなったでしょうけれど、わたしたちは
(いきのびていくことができ、おにいさんのおもいでをたいせつにしまっておくことが)
生き延びていくことができ、お兄さんの思い出を大切にしまっておくことが
(できたでしょう。ところが、このどうぶつはわたしたちをおいかけ、)
できたでしょう。ところが、この動物はわたしたちを追いかけ、
(げしゅくにんたちをおいだすのだわ。きっとじゅうきょぜんたいをせんりょうし、わたしたちに)
下宿人たちを追い出すのだわ。きっと住居全体を占領し、わたしたちに
(とおりでよるをあかさせるつもりなのよ。ちょっとみてごらんなさい、)
通りで夜を明かさせるつもりなのよ。ちょっと見てごらんなさい、
(おとうさん」と、いもうとはとつぜんさけんだ。「またやりだしたわよ!」)
お父さん」と、妹は突然叫んだ。「またやり出したわよ!」
(そして、ぐれごーるにもまったくわからないようなきょうふにおそわれて、)
そして、グレゴールにもまったくわからないような恐怖に襲われて、
(いもうとはははおやさえもはなれ、まるで、ぐれごーるのそばにいるよりは)
妹は母親さえも離れ、まるで、グレゴールのそばにいるよりは
(ははおやをぎせいにしたほうがましだといわんばかりに、どうみてもははおやを)
母親を犠牲にしたほうがましだといわんばかりに、どう見ても母親を
(いすからつきとばしてしまい、ちちおやのうしろへいそいでにげていった。)
椅子から突きとばしてしまい、父親のうしろへ急いで逃げていった。
(ちちおやもただむすめのたいどをみただけでこうふんしてしまい、じぶんでもたちあがると、)
父親もただ娘の態度を見ただけで興奮してしまい、自分でも立ち上がると、
(いもうとをかばおうとするかのようにりょううでをかのじょのまえになかばあげた。)
妹をかばおうとするかのように両腕を彼女の前に半ば挙げた。
(しかし、ぐれごーるは、だれかを、ましていもうとをふあんにおとしいれようなどとは)
しかし、グレゴールは、だれかを、まして妹を不安に陥れようなどとは
(かんがえてもみなかった。かれはただ、じぶんのへやへもどっていこうとして、)
考えてもみなかった。彼はただ、自分の部屋へもどっていこうとして、
(からだのむきをかえはじめていただけだった。そうはいっても、そのどうさが)
身体の向きを変え始めていただけだった。そうはいっても、その動作が
(ひどくめだった。いまのくるしいじょうたいのために、こんなんなかいてんをやるばあいに)
ひどく目立った。今の苦しい状態のために、困難な回転をやる場合に
(あたまのたすけをかりなければならなかったからだ。そこであたまをなんどももたげては、)
頭の助けを借りなければならなかったからだ。そこで頭を何度ももたげては、
(ゆかにうちつけた。かれはじっととまって、あたりをみまわした。)
床に打ちつけた。彼はじっととまって、あたりを見廻した。
(かれのぜんいはみとめられたようだった。ひとびとはただいっしゅん)
彼の善意はみとめられたようだった。人びとはただ一瞬
(ぎょっとしただけだった。そこでみんなは、ちんもくしたまま、)
ぎょっとしただけだった。そこでみんなは、沈黙したまま、
(かなしげにかれをじっとみつめた。ははおやはりょうあしをぴったりつけたまま)
悲しげに彼をじっと見つめた。母親は両脚をぴったりつけたまま
(まえへのばして、いすにすわっていた。ひろうのあまり、めがほとんど)
前へのばして、椅子に坐っていた。疲労のあまり、眼がほとんど
(しぜんにとじそうだった。ちちおやといもうととはならんですわり、いもうとはかたてを)
自然に閉じそうだった。父親と妹とは並んで坐り、妹は片手を
(ちちおやのくびにまわしていた。)
父親の首に廻していた。
(「これでもうむきをかえてもいいだろう」と、ぐれごーるはかんがえて、)
「これでもう向きを変えてもいいだろう」と、グレゴールは考えて、
(かれのしごとにまたとりかかった。ほねがおれるためにいきがはあはあいうのを)
彼の仕事にまた取りかかった。骨が折れるために息がはあはあいうのを
(おさえることはできなかった。そこで、ときどきやすまないではいられなかった。)
抑えることはできなかった。そこで、ときどき休まないではいられなかった。
(ところで、かれをおいたてるものはいなかった。ばんじはかれじしんのやるがままに)
ところで、彼を追い立てる者はいなかった。万事は彼自身のやるがままに
(まかせられた。かいてんをやりおえると、すぐにまっすぐにはいもどりはじめた。)
まかせられた。回転をやり終えると、すぐにまっすぐにはいもどり始めた。
(じぶんとじぶんのへやとをへだてているきょりがおおきいことにびっくりした。)
自分と自分の部屋とを距てている距離が大きいことにびっくりした。
(そして、からだがすいじゃくしているのにどうしてついさっきはこのおなじみちを、)
そして、身体が衰弱しているのにどうしてついさっきはこの同じ道を、
(こんなにとおいとはほとんどきづかないではっていけたのか、りかいできなかった。)
こんなに遠いとはほとんど気づかないではっていけたのか、理解できなかった。
(しょっちゅうただはやくはっていくことだけをかんがえて、かぞくのものが)
しょっちゅうただ早くはっていくことだけを考えて、家族の者が
(ことばやさけびごえをかけてかれをじゃますることはない、というのには)
言葉や叫び声をかけて彼をじゃますることはない、というのには
(きづかなかった。もうどあのところにまでたっしたときになってやっと、)
気づかなかった。もうドアのところにまで達したときになってやっと、
(あたまをふりかえらせてみた。かんぜんにふりかえったのではない。というのは、)
頭を振り返らせてみた。完全に振り返ったのではない。というのは、
(くびがこわばっているのをかんじたのだった。ともあれ、じぶんのはいごでは)
首がこわばっているのを感じたのだった。ともあれ、自分の背後では
(なにひとつへんかがおこっていないことをみてとった。ただいもうとだけが)
何一つ変化が起こっていないことを見て取った。ただ妹だけが
(たちあがっていた。かれのさいごのしせんがははおやのうえをかすめた。ははおやはもう)
立ち上がっていた。彼の最後の視線が母親の上をかすめた。母親はもう
(かんぜんにねむりこけていた。)
完全に眠りこけていた。
(じぶんのへやへはいるやいなや、どあがおおいそぎでしめられ、しっかりと)
自分の部屋へ入るやいなや、ドアが大急ぎで閉められ、しっかりと
(とめがねをかけられ、へいさされた。はいごにとつぜんおこったおおきなものおとに)
とめ金をかけられ、閉鎖された。背後に突然起こった大きな物音に
(ぐれごーるはひどくびっくりしたので、ちいさなあしががくりとした。)
グレゴールはひどくびっくりしたので、小さな脚ががくりとした。
(あんなにいそいだのはいもうとだった。もうたちあがってまっていて、)
あんなに急いだのは妹だった。もう立ち上がって待っていて、
(つぎにさっととんできたのだった。ぐれごーるにはいもうとがやってくるあしおとは)
つぎにさっと飛んできたのだった。グレゴールには妹がやってくる足音は
(ぜんぜんきこえなかった。どあのかぎをまわしながら、「とうとうこれで!」と、)
全然聞こえなかった。ドアの鍵を廻しながら、「とうとうこれで!」と、
(いもうとはさけんだ。)
妹は叫んだ。