江戸川乱歩 屋根裏の散歩者⑧

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1 にこーる 4970 B 5.1 97.3% 640.2 3271 89 45 2024/02/06

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問題文

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(さて、あるよふけのことでした。さぶろうは、ひとまわり「さんぽ」をすませて、)

さて、ある夜更けのことでした。三郎は、一まわり「散歩」を済ませて、

(じぶんのへやへかえるために、はりからはりをつたっていましたが、)

自分の部屋へ帰る為に、梁から梁を伝っていましたが、

(かれのへやとは、にわをへだてて、ちょうどむかいがわになっているむねの、いっぽうのすみのてんじょうに、)

彼の部屋とは、庭を隔てて、丁度向い側になっている棟の、一方の隅の天井に、

(ふと、これまできのつかなかった、かすかなすきまをはっけんしました。)

ふと、これまで気のつかなかった、幽かな隙間を発見しました。

(けいにすんばかりのくもがたをして、いとよりもほそいこうせんがもれているのです。)

径二寸ばかりの雲形をして、糸よりも細い光線が洩れているのです。

(なんだろうとおもって、かれはそっとかいちゅうでんとうをともして、しらべてみますと、)

なんだろうと思って、彼はソッと懐中電燈を点して、検べて見ますと、

(それはかなりおおきなきのふしで、はんぶんいじょうまわりのいたからはなれているのですが、)

それはかなり大きな木の節で、半分以上まわりの板から離れているのですが、

(あとのはんぶんで、やっとつながり、あやうくふしあなになるのをまぬかれたものでした。)

あとの半分で、やっとつながり、危うく節穴になるのを免れたものでした。

(ちょっとつめのさきでこじさえすれば、なんなくはなれてしまいそうなのです。)

ちょっと爪の先でこじさえすれば、なんなく離れてしまいそうなのです。

(そこで、さぶろうはほかのすきまからしたをみて、へやのあるじがすでにねていることを)

そこで、三郎は外の隙間から下を見て、部屋の主が既に寝ていることを

(たしかめたうえ、おとのしないようにちゅういしながら、ながいあいだかかって、とうとうそれを)

確かめた上、音のしない様に注意しながら、長い間かかって、とうとうそれを

(はがしてしまいました。つごうのいいことには、はがしたあとのふしあなが、)

はがしてしまいました。都合のいいことには、はがした後の節穴が、

(さかずきがたにしたがわがせまくなっていますので、そのきのふしをもともとどおりつめてさえおけば、)

杯形に下側が狭くなっていますので、その木の節を元々通りつめてさえ置けば、

(したへおちるようなことはなく、そこにこんなおおきなのぞきあながあるのを、)

下へ落ちる様なことはなく、そこにこんな大きな覗き穴があるのを、

(だれにもきづかれずにすむのです。)

誰にも気附かれずに済むのです。

(これはうまいぐあいだとおもいながら、そのふしあなからしたをのぞいてみますと、)

これはうまい工合だと思いながら、その節穴から下を覗いて見ますと、

(ほかのすきまのように、たてにはながくても、はばはせいぜいいちぶないがいのふじゆうなのと)

外の隙間の様に、縦には長くても、幅はせいぜい一分内外の不自由なのと

(ちがって、したがわのせまいほうでもちょっけいいっすんいじょうはあるのですから、へやのぜんけいが、)

違って、下側の狭い方でも直径一寸以上はあるのですから、部屋の全景が、

(らくらくとみわたせます。そこでさぶろうはおもわずみちくさをくって、そのへやを)

楽々と見渡せます。そこで三郎は思わず道草を食って、その部屋を

(ながめたことですが、それはぐうぜんにも、とうえいかんのししゅくにんのうちで、さぶろうのいちばん)

眺めたことですが、それは偶然にも、東栄館の止宿人の内で、三郎の一番

など

(むしのすかぬ、えんどうというしかいがっこうそつぎょうせいで、もっかはどっかのはいしゃの)

虫の好かぬ、遠藤という歯科医学校卒業生で、目下はどっかの歯医者の

(じょしゅをつとめているおとこのへやでした。そのえんどうが、いやにのっぺりした)

助手を勤めている男の部屋でした。その遠藤が、いやにのっぺりした

(むしずのはしるようなかおを、いっそうのっぺりさせて、すぐめのしたにねているのでした。)

虫唾の走る様な顔を、一層のっぺりさせて、すぐ目の下に寝ているのでした。

(ばかにきちょうめんなおとことみえて、へやのなかは、ほかのどのししゅくにんのそれにもまして、)

馬鹿に几帳面な男と見えて、部屋の中は、他のどの止宿人のそれにもまして、

(きちんとせいとんしています。つくえのうえのぶんぼうぐのいち、ほんばこのなかのしょもつのならべかた、)

キチンと整頓しています。机の上の文房具の位置、本箱の中の書物の並べ方、

(ふとんのしきかた、まくらもとにおきならべた、はくらいものでもあるのか、みなれぬかたちの)

蒲団の敷き方、枕許に置き並べた、舶来物でもあるのか、見なれぬ形の

(めざましどけい、しっきのまきたばこいれ、いろがらすのはいざら、いずれをみても、)

目醒し時計、漆器の巻煙草入れ、色硝子の灰皿、いずれを見ても、

(それらのしなもののしゅじんこうが、よにもきれいずきな、じゅうばこのすみをようじでほじくるような)

それらの品物の主人公が、世にも綺麗好きな、重箱の隅を楊子でほじくる様な

(しんけいかであることをしょうこだてています。またえんどうじしんのねすがたも、)

神経家であることを証拠立てています。又遠藤自身の寝姿も、

(じつにぎょうぎがいいのです。ただ、それらのこうけいにそぐわぬのは、かれが)

実に行儀がいいのです。ただ、それらの光景にそぐわぬのは、彼が

(おおきなくちをあいて、かみなりのようにいびきをかいていることでした。)

大きな口をあいて、雷の様に鼾をかいていることでした。

(さぶろうは、なにかきたないものでもみるように、まゆをしかめて、えんどうのねがおをながめました。)

三郎は、何か汚いものでも見る様に、眉をしかめて、遠藤の寝顔を眺めました。

(かれのかおは、きれいといえばきれいです。なるほどかれじしんでふいちょうするとおり、おんななどには)

彼の顔は、綺麗といえば綺麗です。成程彼自身で吹聴する通り、女などには

(すかれるかおかもしれません。しかし、なんというまのびな、ながながとしたかおの)

好かれる顔かも知れません。しかし、何という間延びな、長々とした顔の

(ぞうさでしょう。こいとうはつ、かおぜんたいがながいわりには、へんにせまいふじびたい、みじかいまゆ、)

造作でしょう。濃い頭髪、顔全体が長い割には、変に狭い富士額、短い眉、

(ほそいめ、しじゅうわらっているようなめじりのしわ、ながいはな、そしていようにおおぶりなくち。)

細い目、始終笑っている様な目尻の皺、長い鼻、そして異様に大ぶりな口。

(さぶろうはこのくちがどうにもきにいらないのでした。はなのしたのところからだんをなして、)

三郎はこの口がどうにも気に入らないのでした。鼻の下の所から段を為して、

(うわあごとしたあごとが、おんもりとぜんぽうへせりだし、そのぶぶんいっぱいに、)

上顎と下顎とが、オンモリと前方へせり出し、その部分一杯に、

(あおじろいかおとみょうなたいしょうをしめして、おおきなむらさきいろのくちびるがひらいています。そして、)

青白い顔と妙な対照を示して、大きな紫色の唇が開いています。そして、

(ひこうせいびえんででもあるのか、しじゅうはなをつまらせ、そのおおきなくちをぽかんとあけて)

肥厚性鼻炎ででもあるのか、始終鼻を詰らせ、その大きな口をポカンとあけて

(こきゅうをしているのです。ねていて、いびきをかくのも、やっぱりはなのびょうきの)

呼吸をしているのです。寝ていて、鼾をかくのも、やっぱり鼻の病気の

(せいなのでしょう。)

せいなのでしょう。

(さぶろうは、いつでもこのえんどうのかおをみさえすれば、なんだかこう)

三郎は、いつでもこの遠藤の顔を見さえすれば、何だかこう

(せなかがむずむずしてきて、かれののっぺりしたほっぺたを、いきなり)

背中がムズムズして来て、彼ののっぺりした頬っぺたを、いきなり

(なぐりつけてやりたいようなきもちになるのでした。)

殴りつけてやりたい様な気持になるのでした。

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