江戸川乱歩 屋根裏の散歩者⑩

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(とうえいかんへひっこしてしごにちたったじぶんでした。)

東栄館へ引越して四五日たった時分でした。

(さぶろうはこんいになったばかりの、あるどうしゅくしゃと、きんじょのかふぇへ)

三郎は懇意になったばかりの、ある同宿者と、近所のカフェへ

(でかけたことがあります。そのときおなじかふぇにえんどうもきていて、)

出掛けたことがあります。その時同じカフェに遠藤も来ていて、

(さんにんがひとつのてーぶるへよってさけを--もっともさけのきらいなさぶろうは)

三人が一つのテーブルへ寄って酒を--尤も酒の嫌いな三郎は

(こーひーでしたけれど--のんだりして、さんにんともだいぶいいこころもちになって、)

コーヒーでしたけれど--飲んだりして、三人とも大分いい心持になって、

(つれだってげしゅくへかえったのですが、すこしのさけによっぱらったえんどうは、)

連れ立って下宿へ帰ったのですが、少しの酒に酔っぱらった遠藤は、

(「まあぼくのへやへきてください」とむりにふたりを、かれのへやへ)

「まあ僕の部屋へ来て下さい」と無理に二人を、彼の部屋へ

(ひっぱりこみました。えんどうはひとりではしゃいで、よるがふけているのもかまわず、)

引っぱり込みました。遠藤は独りではしゃいで、夜が更けているのも構わず、

(じょちゅうをよんでおちゃをいれさせたりして、かふぇからもちこしののろけばなしを)

女中を呼んでお茶を入れさせたりして、カフェから持越しの惚気話を

(くりかえすのでした。--さぶろうがかれをきらいだしたのは、そのばんからです--)

繰返すのでした。--三郎が彼を嫌い出したのは、その晩からです--

(そのとき、えんどうは、まっかにじゅうけつしたくちびるをぺろぺろとなめまわしながら、)

その時、遠藤は、真っ赤に充血した唇をペロペロと嘗め廻しながら、

(さもとくいらしくこんなことをいうのでした。)

さも得意らしくこんなことを云うのでした。

(「そのおんなとですね、ぼくはいちどじょうしをしかけたことがあるのですよ。)

「その女とですね、僕は一度情死をしかけたことがあるのですよ。

(まだがっこうにいたころですが、ほら、ぼくのはいがっこうでしょう。くすりをてにいれるのは)

まだ学校にいた頃ですが、ホラ、僕のは医学校でしょう。薬を手に入れるのは

(わけないんです。で、ふたりがらくにしねるだけのもるひねをよういして、)

訳ないんです。で、二人が楽に死ねるだけのモルヒネを用意して、

(きいてください、しおばらへでかけたもんです」)

聞いて下さい、鹽原へ出掛けたもんです」

(そういいながら、かれはふらふらとたちあがって、おしいれのところへいき、)

そう云いながら、彼はフラフラと立ち上がって、押入れの所へ行き、

(がたがたふすまをあけると、なかにつんであったひとつのこうりのそこから、)

ガタガタ襖を開けると、中に積んであった一つの行李の底から、

(ごくちいさい、こゆびのさきほどの、ちゃいろのびんをさがしてきて、ききてのほうへ)

ごく小さい、小指の先程の、茶色の瓶を探して来て、聴き手の方へ

(さしだすのでした。びんのなかには、そこのほうに、ほんのぽっちり、)

差し出すのでした。瓶の中には、底の方に、ホンのぽっちり、

など

(なにかきらきらとひかったこながはいっているのです。)

何かキラキラと光った粉が這入っているのです。

(「それですよ。これっぽっちで、じゅうぶんふたりのにんげんがしねるのですからね。)

「それですよ。これっぽっちで、十分二人の人間が死ねるのですからね。

(・・・しかし、あなたがた、こんなことしゃべっちゃいやですよ。ほかのひとに」)

・・・しかし、あなた方、こんなこと喋っちゃいやですよ。外の人に」

(そして、かれののろけばなしは、さらにながながと、とめどもなくつづいたことですが、)

そして、彼の惚気話は、更に長々と、止めどもなく続いたことですが、

(さぶろうはいま、そのときのどくやくのことを、はからずもおもいだしたのです。)

三郎は今、その時の毒薬のことを、計らずも思い出したのです。

(「てんじょうのふしあなから、どくやくをたらして、ひとごろしをする!)

「天井の節穴から、毒薬を垂らして、人殺しをする!

(まあなんというきそうてんがいな、すばらしいはんざいだろう」)

まあ何という奇想天外な、すばらしい犯罪だろう」

(かれは、このみょうけいに、すっかりうちょうてんになってしまいました。)

彼は、この妙計に、すっかり有頂天になってしまいました。

(よくかんがえてみれば、そのほうほうは、いかにもどらまてぃっくなだけ、)

よく考えて見れば、その方法は、如何にもドラマティックなだけ、

(かのうせいにはとぼしいものだということがわかるのですが、そしてまた、)

可能性には乏しいものだということが分るのですが、そして又、

(なにもこんなてすうのかかることをしないでも、ほかにいくらもかんべんなさつじんほうが)

何もこんな手数のかかることをしないでも、他にいくらも簡便な殺人法が

(あったはずですが、いじょうなおもいつきにげんわくさせられたかれは、)

あった筈ですが、異常な思いつきに幻惑させられた彼は、

(なにをかんがえるよゆうもないのでした。そして、かれのあたまには、ただもう)

何を考える余裕もないのでした。そして、彼の頭には、ただもう

(このけいかくについてのつごうのいいりくつばかりが、つぎからつぎへと)

この計画についての都合のいい理窟ばかりが、次から次へと

(うかんでくるのです。)

浮んで来るのです。

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