江戸川乱歩 D坂⑨

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1 123 6194 A++ 6.4 96.3% 433.3 2790 106 46 2024/10/20

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問題文

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(そうして、そのよるのとりしらべはひとまずおわった。)

そうして、その夜の取調べは一先ず終わった。

(わたしたちはじゅうしょせいめいなどをかきとめられ、あけちはしもんをとられて、)

私達は住所姓名などを書き留められ、明智は指紋をとられて、

(きとについたのは、もういちじをすぎていた。)

帰途についたのは、もう一時を過ぎていた。

(もしけいさつのそうさくにてぬかりがなく、またしょうにんたちもうそをいわなかったとすれば、)

もし警察の捜索に手抜りがなく、又証人達も嘘を云わなかったとすれば、

(これはじつにふかかいなじけんであった。しかも、あとでわかったところによると、)

これは実に不可解な事件であった。しかも、後で分った所によると、

(よくじつからひきつづいておこなわれた、こばやしけいじのあらゆるとりしらべもなんのかいもなくて、)

翌日から引続いて行われた、小林刑事のあらゆる取調べも何の甲斐もなくて、

(じけんははっせいのとうやのまますこしだってはってんしなかったのだ。)

事件は発生の当夜のまま少しだって発展しなかったのだ。

(しょうにんたちはすべてしんらいするにたるひとびとだった。じゅういっけんのながやのじゅうにんにも)

証人達は凡て信頼するに足る人々だった。十一軒の長屋の住人にも

(うたがうべきところはなかった。ひがいしゃのくにもともとりしらべられたけれど、)

疑うべき所はなかった。被害者の国許も取調べられたけれど、

(これまた、なんのかわったこともない。すくなくとも、)

これまた、何の変った事もない。少なくとも、

(こばやしけいじ--かれはさきにもいったとおり、めいたんていとうわさされているひとだ--が、)

小林刑事--彼は先にも云った通り、名探偵と噂されている人だ--が、

(ぜんりょくをつくしてそうさくしたかぎりでは、このじけんはぜんぜんふかかいとけつろんするほかは)

全力を尽して捜索した限りでは、この事件は全然不可解と結論するほかは

(なかった。これもあとできいたのだが、こばやしけいじがゆいいつのしょうこひんとして、)

なかった。これもあとで聞いたのだが、小林刑事が唯一の証拠品として、

(たのみをかけてもちかえったれいのでんとうのすいっちにも、らくたんしたことには、)

頼みをかけて持ち帰った例の電燈のスイッチにも、落胆したことには、

(あけちのしもんのほかなにものもはっけんすることができなかった。)

明智の指紋のほか何物も発見することが出来なかった。

(あけちはあのさいであわてていたせいか、そこにはたくさんのしもんがしるせられていたが、)

明智はあの際で慌てていたせいか、そこには沢山の指紋が印せられていたが、

(すべてかれじしんのものだった。おそらく、あけちのしもんがはんにんのそれを)

凡て彼自身のものだった。恐らく、明智の指紋が犯人のそれを

(けしてしまったのだろうと、けいじははんだんした。)

消してしまったのだろうと、刑事は判断した。

(どくしゃしょくん、しょくんはこのはなしをよんで、ぽおの「もるぐがいのさつじん」や)

読者諸君、諸君はこの話を読んで、ポオの「モルグ街の殺人」や

(どいるの「すぺっくるど・ばんど」をれんそうされはしないだろうか。)

ドイルの「スペックルド・バンド」を聯想されはしないだろうか。

など

(つまり、このさつじんじけんのはんにんは、にんげんでなくて、おらんうーたんだとか、)

つまり、この殺人事件の犯人は、人間でなくて、オランウータンだとか、

(いんどのどくへびだとかいうようなしゅるいのものだとそうぞうされはしないだろうか。)

インドの毒蛇だとかいうような種類のものだと想像されはしないだろうか。

(わたしもじつはそれをかんがえたのだ。しかし、とうきょうのdざかあたりに)

私も実はそれを考えたのだ。しかし、東京のD坂あたりに

(そんなものがいるともおもわれぬし、だいいちしょうじのすきまから、)

そんなものがいるとも思われぬし、第一障子の隙間から、

(おとこのすがたをみたというしょうにんがある。のみならず、さるるいなどだったら、)

男の姿を見たという証人がある。のみならず、猿類などだったら、

(あしあとののこらぬはずはなく、またひとめにもついたはずだ。そして、)

足跡の残らぬ筈はなく、又人目にもついた筈だ。そして、

(しびとのくびにあったゆびのあとも、まさににんげんのそれだ。)

死人(しびと)の頸にあった指の痕も、正に人間のそれだ。

(へびがまきついたとて、あんなあとはのこらぬ。)

蛇がまきついたとて、あんな痕は残らぬ。

(それはともかく、あけちとわたしとは、そのよるきとにつきながら、)

それは兎も角、明智と私とは、その夜帰途につきながら、

(ひじょうにこうふんしていろいろとはなしあったものだ。いちれいをあげると、)

非常に興奮して色々と話合ったものだ。一例を上げると、

(まあこんなふうなことを。)

まあこんな風なことを。

(「きみはぽおの「る・もるぐ」やるるーの「きいろのへや」などのざいりょうになった、)

「君はポオの『ル・モルグ』やルルーの『黄色の部屋』などの材料になった、

(あのぱりーのrosedelacourtじけんを)

あのパリーのRose Delacourt事件を

(しっているでしょう。ひゃくねんいじょうたったこんにちでも、まだなぞとしてのこっている)

知っているでしょう。百年以上たった今日でも、まだ謎として残っている

(あのふしぎなさつじんじけんを。ぼくはあれをおもいだしたのですよ。)

あの不思議な殺人事件を。僕はあれを思い出したのですよ。

(こんやのじけんもはんにんのたちさったあとのないところは、どうやら、)

今夜の事件も犯人の立去った跡のない所は、どうやら、

(あれににているではありませんか」とあけち。)

あれに似ているではありませんか」と明智。

(「そうですね。じつにふしぎですね。よく、にほんのけんちくでは、)

「そうですね。実に不思議ですね。よく、日本の建築では、

(がいこくのたんていしょうせつにあるようなしんこくなはんざいはおこらないなんていいますが、)

外国の探偵小説にある様な深刻な犯罪は起こらないなんて云いますが、

(ぼくはけっしてそうじゃないとおもいますよ。げんにこうしたじけんもあるのですからね。)

僕は決してそうじゃないと思いますよ。現にこうした事件もあるのですからね。

(ぼくはなんだか、できるかできないかわかりませんけれど、ひとつこのじけんを)

僕は何だか、出来るか出来ないか分りませんけれど、一つこの事件を

(たんていしてみたいようなきがしますよ」)

探偵して見たい様な気がしますよ」

(そうして、わたしたちはあるよこちょうでわかれをつげた。)

そうして、私達はある横町で分れを告げた。

(そのときわたしは、よこちょうをまがって、かれいちりゅうのかたをふるあるきかたで、)

その時私は、横町を曲って、彼一流の肩を振る歩き方で、

(さっさとかえっていくあけちのうしろすがたが、そのはでなぼうじまのゆかたによって)

さっさと帰って行く明智の後ろ姿が、その派手な棒縞の浴衣によって

(やみのなかにくっきりとうきだしてみえたのをおぼえている。)

闇の中にくっきりと浮き出して見えたのを覚えている。

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