夢野久作 ビール会社征伐 1/2

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(まいど、さけのおはなしでもうしわけないが、おもいだしてもはらのかわがぴくぴくしてくる)

毎度、酒のお話で申訳ないが、思い出しても腹の皮がピクピクして来る

(さとうのけっさくとしてきろくしておくひつようがあるとおもう。きゅうしゅうふくおかのみんせいけいしんぶん、)

左党の傑作として記録して置く必要があると思う。九州福岡の民政系新聞、

(きゅうしゅうにっぽうしゃがせいゆうかいばんのうじだいでけいえいなんにおちいっていた)

九州日報社が政友会万能時代で経営難に陥っていた

(あるなつのさいちゅうのはなしげんようしゃばりのしゅごうやせんこつがずらりとそろっている)

或る夏の最中の話……玄洋社張りの酒豪や仙骨がズラリと揃っている

(どうしゃのへんしゅうぶいんいちどう、げっきゅうがきちんきちんともらえないのでさけがのめない。)

同社の編集部員一同、月給がキチンキチンと貰えないので酒が飲めない。

(みな、しごとをするげんきもなくつくえのまわりにあおざめたごうけつめんをちんれつして、)

皆、仕事をする元気もなく机の周囲《まわり》に青褪めた豪傑面を陳列して、

(あふりあふりとしにかかったかわざかなみたいなあくびをりれーしいしい)

アフリアフリと死にかかった川魚みたいな欠伸をリレーしいしい

(なみだぐんでいるこうけいは、さながらにききんねんのそんかいをそのままである。)

涙ぐんでいる光景は、さながらに飢饉年の村会をそのままである。

(どうかしてぞんぶんにうまいさけをのむちえはないかというので、)

どうかして存分に美味《うま》い酒を飲む知恵はないかと言うので、

(でるはなしはそのことばっかり。そのうちにきゅうすればつうずるとでもいうものか、)

出る話はその事バッカリ。そのうちに窮すれば通ずるとでも言うものか、

(いっとうのみすけのけいさつまわりくんがめいあんをだした。)

一等呑助の警察廻り君が名案を出した。

(いまでもふくおかにししゃをもっているばつばつびーるがいしゃはとうじ、)

今でも福岡に支社を持っている××麦酒《ビール》会社は当時、

(きゅうしゅうでもいちりゅうのていきゅうのだいせんしゅをもうらしていた。)

九州でも一流の庭球の大選手を網羅していた。

(きゅうしゅうのじつぎょうていきゅうかいでもばつばつびーるのむかうところいってきなしというくらいで、)

九州の実業庭球界でも××麦酒の向う処一敵なしと言う位で、

(どうししゃのよこにせんえんばかりかけたどうどうたるていきゅうこーとをふたつもっていた。)

同支社の横に千円ばかり掛けた堂々たる庭球コートを二つ持っていた。

(「あのばつばつびーるにひとつていきゅうじあいをもうしこんでやろうじゃないか」)

「あの××麦酒に一つ庭球試合を申込んで遣ろうじゃないか」

(というと、みなそうだちになってさんせいした。)

と言うと、皆総立ちになって賛成した。

(「はたしてごちそうにびーるがでるかでないか」)

「果して御馳走に麦酒が出るか出ないか」

(とちぎするものもいたが、)

と遅疑する者もいたが、

(「でなくとももともとじゃないか」)

「出なくともモトモトじゃないか」

など

(というのでいっさいのいぎをいっしゅうして、すぐにでんわであいてにちゃれんじすると、)

と言うので一切の異議を一蹴して、直ぐに電話で相手にチャレンジすると、

(「ちょうどせんしゅもそろっております。いつでもよろしい」)

「ちょうど選手も揃っております。いつでも宜しい」

(といういろよいへんじである。)

と言う色よい返事である。

(「それではあしたがにちようでゆうかんがありませんからごぜんちゅうにおねがいしましょう。)

「それでは明日が日曜で夕刊がありませんから午前中にお願いしましょう。

(ごごはしごとがありますからごくみでごかいげーむ。ごぜんくじからけっこうです。)

午後は仕事がありますから……五組で五回ゲーム。午前九時から……結構です。

(どうぞよろしく」)

どうぞよろしく……」

(というはなしがきまった。びーるがいしゃでもぬけめはない、)

という話が決定《きま》った。麦酒会社でも抜け目はない、

(しんぶんしゃとしあいをすればしんぶんにきじがでるこうこくになるとおもったものらしいが、)

新聞社と試合をすれば新聞に記事が出る……広告になると思ったものらしいが、

(それにしてもこっちのじつりょくがわからないのでさくせんをたてるのにこまったという。)

それにしてもこっちの実力がわからないので作戦を立てるのに困ったと言う。

(こまったはずである。じつはこっちでもひどいせんしゅなんにおちいっていた。)

困った筈である。実はこっちでもヒドイ選手難に陥っていた。

(もともとてにすらしいものができるのは、しょうじきのところ)

モトモトテニスらしいものが出来るのは、正直のところ

(いってきもさけののめないひっしゃのひとくみだけで、ほかはみな、しなのへいたいといっぱん、)

一滴も酒の飲めない筆者の一組だけで、ほかは皆、支那の兵隊と一般、

(てにすなんてろくにみたこともないれんちゅうがわれもわれもとのどをならして)

テニスなんてロクに見た事もない連中が吾も吾もと咽喉《のど》を鳴らして

(さんかするのだから、きしんそうれつになくといおうかなんといおうか。)

参加するのだから、鬼神壮烈に泣くと言おうか何と言おうか。

(しゅしょうたるひっしゃがよわりあげたてまつったことひととおりでない。)

主将たる筆者が弱り上げ奉ったこと一通りでない。

(「おい。しゅしょう。きさまはいってきものめないのだからせんしゅたるしかくはない。)

「オイ。主将。貴様は一滴も飲めないのだから選手たる資格はない。

(おれがたいしょうになってやるからきさまはのけ。)

俺が大将になって遣るから貴様は退《の》け。

(まけたらおれがじゅうどうよだんのうでまえであいてをたたきつけてやるから。なあ」)

負けたら俺が柔道四段の腕前で相手をタタキ付けて遣るから。なあ」

(というようなぎゃんぐはりがでてきたりして、)

と言うようなギャング張りが出て来たりして、

(しゅしょうのあたまがすっかりこんらんしてしまった。)

主将のアタマがすっかり混乱してしまった。

(しかたなしにそいつをせんしゅがいのまねーじゃーかくにかそうして)

仕方なしにそいつを選手外のマネージャー格に仮装して

(どうこうをゆるすようなしまつそれからげんこうしにてにすこーとのずをえがいて)

同行を許すような始末……それから原稿紙にテニス・コートの図を描いて

(いちどうにしょうはいのりくつをせつめいしはじめたが、しんけんにきくやつはひとりもいない。)

一同に勝敗の理屈を説明し始めたが、真剣に聞く奴は一人もいない。

(「やってみたら、わかるだろう」)

「やってみたら、わかるだろう」

(とかなんとかいってどんどんかえってしまったのにはあきれた。)

とか何とか言ってドンドン帰ってしまったのには呆れた。

(いきすでにてきをのんでいるらしかった。)

意気既に敵を呑んでいるらしかった。

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