江戸川乱歩 赤い部屋⑪
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問題文
(わたしはでんきのことはよくしらないのですが、どうかして)
私は電気のことはよく知らないのですが、どうかして
(くうちゅうでんきのさようとかで、ひらいしんのはりがねにつよいでんりゅうがながれることがあると、)
空中電気の作用とかで、避雷針の針金に強い電流が流れることがあると、
(どこかできいたのをおぼえていて、さてはそれだなときづきました。)
どこかで聞いたのを覚えていて、さてはそれだなと気附きました。
(こんなことにでくわしたのははじめてだったものですから、)
こんな事に出くわしたのは初めてだったものですから、
(めずらしいことにおもって、わたしはしばらくそこにたちどまって)
珍しいことに思って、私は暫くそこに立ち止まって
(そのはりがねをながめていたものです。)
その針金を眺めていたものです。
(すると、そこへ、せいようかんのよこてから、)
すると、そこへ、西洋館の横手から、
(へいたいごっこかなにかしてあそんでいるらしいこどものいちだんが、)
兵隊ごっこかなにかして遊んでいるらしい子供の一団が、
(がやがやいいながらでてきましたが、)
ガヤガヤ云いながら出て来ましたが、
(そのなかのむっつかななつのちいさなおとこのこが、)
その中の六つか七つの小さな男の子が、
(ほかのこどもたちはさっさとむこうへいってしまったのに、)
他の子供達はさっさと向こうへ行ってしまったのに、
(ひとりあとにのこって、なにをするのかとみていますと、)
一人あとに残って、何をするのかと見ていますと、
(いまのひらいしんのはりがねのてまえのこだかくなったところにたって、)
今の避雷針の針金の手前の小高くなった所に立って、
(まえをまくると、たちしょうべんをはじめました。)
前をまくると、立小便を始めました。
(それをみたわたしは、またもやひとつのみょうけいをおもいつきました。)
それを見た私は、又もや一つの妙計を思いつきました。
(わたしはちゅうがくじだいにみずがでんきのどうたいだということをならったことがあります。)
私は中学時代に水が電気の導体だということを習ったことがあります。
(いまこどもがたっているこだかいところから、そのはりがねのひふくのとれたぶぶんへ)
今子供が立っている小高い所から、その針金の被覆のとれた部分へ
(しょうべんをしかけるのはわけのないことです。)
小便をしかけるのは訳のないことです。
(しょうべんはみずですからやっぱりどうたいにそういありません。)
小便は水ですからやっぱり導体に相違ありません。
(そこでわたしはそのこどもにこうこえをかけました。)
そこで私はその子供にこう声をかけました。
(「おいぼっちゃん。そのはりがねへしょうべんをかけてごらん。とどくかい」)
「おい坊っちゃん。その針金へ小便をかけて御覧。とどくかい」
(するとこどもは、「なあにわけないや、みててごらん」)
すると子供は、「なあに訳ないや、見てて御覧」
(そういったかとおもうと、しせいをかえて、)
そういったかと思うと、姿勢を換えて、
(いきなりはりがねのじのあらわれたぶぶんをめがけてしょうべんをしかけました。)
いきなり針金の地の現われた部分を目がけて小便をしかけました。
(そして、それがはりがねにとどくかとどかないに、おそろしいものではありませんか、)
そして、それが針金に届くか届かないに、恐ろしいものではありませんか、
(こどもはびょんとひとつおどるようにはねあがったかとおもうと、)
子供はビョンと一つ踊る様に跳ね上がったかと思うと、
(そこへばったりたおれてしまいました。)
そこへバッタリ倒れてしまいました。
(あとできけば、ひらいしんにこんなつよいでんりゅうがながれるのは)
あとで聞けば、避雷針にこんな強い電流が流れるのは
(ひじょうにめずらしいことなのだそうですが、かようにして、)
非常に珍しいことなのだそうですが、かようにして、
(わたしはうまれてはじめて、にんげんのかんでんしてしぬところをみたわけです。)
私は生れて初めて、人間の感電して死ぬ所を見た訳です。
(このばあいもむろん、わたしはすこしだってうたがいをうけるしんぱいはありませんでした。)
この場合も無論、私は少しだって疑いを受ける心配はありませんでした。
(ただこどものしがいにとりすがってなきいっているははおやに)
ただ子供の死骸に取り縋って泣き入っている母親に
(ていちょうなくやみのことばをのこして、そのばをたちさりさえすればよいのでした。)
鄭重な悔やみの言葉を残して、その場を立ち去りさえすればよいのでした。