坊ちゃん⑸
関連タイピング
-
プレイ回数1342かな314打
-
プレイ回数3万歌詞1030打
-
プレイ回数95万長文かな1008打
-
プレイ回数25万長文786打
-
プレイ回数125万歌詞かな1119打
-
プレイ回数926歌詞かな1162打
-
プレイ回数1840歌詞かな1185打
-
プレイ回数4.7万長文かな316打
問題文
(ははがしんでからごろくねんのあいだはこのじょうたいでくらしていた。)
母が死んでから五六年の間はこの状態で暮していた。
(おやじにはしかられる。あにとはけんかをする。)
おやじには叱られる。兄とは喧嘩をする。
(きよにはかしをもらう、ときどきほめられる。べつにのぞみもない。)
清には菓子を貰う、時々賞められる。別に望みもない。
(これでたくさんだとおもっていた。)
これでたくさんだと思っていた。
(ほかのこどももいちがいにこんなものだろうとおもっていた。)
ほかの小供も一概にこんなものだろうと思っていた。
(ただきよがなにかにつけて、あなたはおかわいそうだ、ふしあわせだとむやみにいうものだから)
ただ清が何かにつけて、あなたはお可哀想だ、不仕合だと無暗に云うものだから
(それじゃかわいそうでふしあわせなんだろうとおもった。)
それじゃ可哀想で不仕合せなんだろうと思った。
(そのほかにくになることはすこしもなかった。)
その外に苦になる事は少しもなかった。
(ただおやじがこづかいをくれないにはへいこうした。)
ただおやじが小遣いをくれないには閉口した。
(ははがしんでからろくねんめのしょうがつにおやじもそっちゅうでなくなった。)
母が死んでから六年目の正月におやじも卒中で亡くなった。
(そのとしのしがつにおれはあるしりつのちゅうがっこうをそつぎょうする。)
その年の四月におれはある私立の中学校を卒業する。
(ろくがつにあにはしょうぎょうがっこうをそつぎょうした。)
六月に兄は商業学校を卒業した。
(あにはなんとかかいしゃのきゅうしゅうのしてんにくちがあっていかなければならん。)
兄は何とか会社の九州の支店に口があって行かなければならん。
(おれはとうきょうでまだがくもんをしなければならない。)
おれは東京でまだ学問をしなければならない。
(あにはいえをうってざいさんをかたづけてにんちへしゅったつするといいだした。)
兄は家を売って財産を片付けて任地へ出立すると云い出した。
(おれはどうでもするがよかろうとへんじをした。どうせあにのやっかいになるきはない。)
おれはどうでもするがよかろうと返事をした。どうせ兄の厄介になる気はない。
(せわをしてくれるにしたところで、けんかをするから、)
世話をしてくれるにしたところで、喧嘩をするから、
(むこうでもなんとかいいだすにきまっている。)
向うでも何とか云い出すに極っている。
(なまじいほごをうければこそ、こんなあににあたまをさげなければならない。)
なまじい保護を受ければこそ、こんな兄に頭を下げなければならない。
(ぎゅうにゅうはいたつをしてもくってられるとかくごをした。)
牛乳配達をしても食ってられると覚悟をした。
(あにはそれからどうぐやをよんできて、せんぞだいだいのがらくたをにそくさんもんにうった。)
兄はそれから道具屋を呼んで来て、先祖代々の瓦落多を二束三文に売った。
(いえやしきはあるひとのしゅうせんであるきんまんかにゆずった。)
家屋敷はある人の周旋である金満家に譲った。
(このかたはだいぶかねになったようだが、くわしいことはいっこうしらぬ。)
この方は大分金になったようだが、詳しい事は一向知らぬ。
(おれはいっかげついぜんから、しばらくぜんとのほうこうのつくまで)
おれは一ヶ月以前から、しばらく前途の方向のつくまで
(かんだのおがわまちへげしゅくしていた。)
神田の小川町へ下宿していた。
(きよはじゅうなんねんいたうちがひとでにわたるのをおおいにざんねんがったが、)
清は十何年居たうちが人手に渡るのを大いに残念がったが、
(じぶんのものでないから、しようがなかった。)
自分のものでないから、仕様がなかった。
(あなたがもうすこしとしをとっていらっしゃれば、)
あなたがもう少し年をとっていらっしゃれば、
(ここがごそうぞくができますものをとしきりにくどいていた。)
ここがご相続が出来ますものをとしきりに口説いていた。
(もうすこしとしをとってそうぞくができるものなら、いまでもそうぞくができるはずだ。)
もう少し年をとって相続が出来るものなら、今でも相続が出来るはずだ。
(ばあさんはなんにもしらないからとしさえとればあにのいえがもらえるとしんじている。)
婆さんは何も知らないから年さえ取れば兄の家がもらえると信じている。
(あにとおれはかようにわかれたが、こまったのはきよのいくさきである。)
兄とおれはかように分れたが、困ったのは清の行く先である。
(あにはむろんつれていけるみぶんでなし、)
兄は無論連れて行ける身分でなし、
(きよもあにのしりにくっついてきゅうしゅうくんだりまででかけるきはもうとうなし、)
清も兄の尻にくっ付いて九州下くんだりまで出掛ける気は毛頭なし、
(といってこのときのおれはよじょうはんのやすきげしゅくにこもって、)
と云ってこの時のおれは四畳半の安下宿に籠こもって、
(それすらもいざとなればただちにひきはらわねばならぬしまつだ。)
それすらもいざとなれば直ちに引き払わねばならぬ始末だ。
(どうすることもできん。きよにきいてみた。)
どうする事も出来ん。清に聞いてみた。
(どこかへほうこうでもするきかねといったら)
どこかへ奉公でもする気かねと云ったら
(あなたがおうちをもって、おくさまをおもらいになるまでは、しかたがないから、)
あなたがおうちを持って、奥さまをお貰いになるまでは、仕方がないから、
(おいのやっかいになりましょうとようやくけっしんしたへんじをした。)
甥の厄介になりましょうとようやく決心した返事をした。
(このおいはさいばんしょのしょきでまずきょうにはさしつかえなくくらしていたから、)
この甥は裁判所の書記でまず今日には差支えなく暮していたから、
(いままでもきよにくるならこいとにさんどすすめたのだが、きよはたといげじょほうこうはしても)
今までも清に来るなら来いと二三度勧めたのだが、清はたとい下女奉公はしても
(ねんらいすみなれたいえのほうがいいといっておうじなかった。)
年来住み馴れた家の方がいいと云って応じなかった。
(しかしいまのばあいしらぬやしきへほうこうがえをしていらぬきがねをしなおすより、)
しかし今の場合知らぬ屋敷へ奉公易えをして入らぬ気兼を仕直すより、
(おいのやっかいになるほうがましだとおもったのだろう。)
甥の厄介になる方がましだと思ったのだろう。
(それにしてもはやくうちをもての、つまをもらえの、きてせわをするのという。)
それにしても早くうちを持ての、妻を貰えの、来て世話をするのと云う。
(しんみのおいよりもたにんのおれのほうがすきなのだろう。)
親身の甥よりも他人のおれの方が好きなのだろう。