坊ちゃん(13)

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夏目漱石の坊ちゃん(13)です。

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問題文

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(いよいよがっこうへでた。はじめてきょうじょうへはいってたかいところへのったときは、)

いよいよ学校へ出た。初めて教場へはいって高い所へ乗った時は、

(なんだかへんだった。こうしゃくをしながら、おれでもせんせいがつとまるのかとおもった。)

何だか変だった。講釈をしながら、おれでも先生が勤まるのかと思った。

(せいとはやかましい。ときどきずぬけたおおきなこえでせんせいという。)

生徒はやかましい。時々図抜けた大きな声で先生と云う。

(せんせいにはこたえた。いままでぶつりがっこうでまいにちせんせいせんせいとよびつけていたが、)

先生には応えた。今まで物理学校で毎日先生先生と呼びつけていたが、

(せんせいとよぶのと、よばれるのはうんでいのさだ。)

先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥の差だ。

(なんだかあしのうらがむずむずする。おれはひきょうなにんげんではない。)

何だか足の裏がむずむずする。おれは卑怯な人間ではない。

(おくびょうなおとこでもないが、おしいことにたんりょくがかけている。)

臆病な男でもないが、惜しい事に胆力が欠けている。

(せんせいとおおきなこえをされると、)

先生と大きな声をされると、

(はらのへったときにまるのうちでどんをきいたようなきがする。)

腹の減った時に丸の内で午砲を聞いたような気がする。

(さいしょのいちじかんはなんだかいいかげんにやってしまった。)

最初の一時間は何だかいい加減にやってしまった。

(しかしべつだんこまったしつもんもかけられずにすんだ。)

しかし別段困った質問も掛けられずに済んだ。

(ひかえじょへかえってきたら、やまあらしがどうだいときいた。)

控所へ帰って来たら、山嵐がどうだいと聞いた。

(うんとぜんかんにへんじをしたらやまあらしはあんしんしたらしかった。)

うんと単簡に返事をしたら山嵐は安心したらしかった。

(にじかんめにはくぼくをもってひかえじょをでたときには)

二時間目に白墨を持って控所を出た時には

(なんだかてきちへのりこむようなきがした。)

何だか敵地へ乗り込こむような気がした。

(きょうじょうへでるとこんどのくみはまえよりおおきなやつばかりである。)

教場へ出ると今度の組は前より大きな奴ばかりである。

(おれはえどっこできゃしゃにこづくりにできているから、)

おれは江戸っ子で華奢に小作りに出来ているから、

(どうもたかいところへあがってもおしがきかない。)

どうも高い所へ上がっても押しが利かない。

(けんかならすもうとりとでもやってみせるが、こんなおおそうをよんじゅうにんもまえへならべて、)

喧嘩なら相撲取とでもやってみせるが、こんな大僧を四十人も前へ並べて、

(ただいちまいのしたをたたいてきょうしゅくさせるてぎわはない。)

ただ一枚の舌をたたいて恐縮させる手際はない。

など

(しかしこんないなかものによわみをみせるとくせになるとおもったから、)

しかしこんな田舎者に弱身を見せると癖になると思ったから、

(なるべくおおきなこえをして、しょうしょうまきじたでこうしゃくしてやった。)

なるべく大きな声をして、少々巻き舌で講釈してやった。

(さいしょのうちは、せいともけむりにまかれてぼんやりしていたから、)

最初のうちは、生徒も烟に捲かれてぼんやりしていたから、

(それみろとますますとくいになって、べらんめいちょうをもちいてたら、)

それ見ろとますます得意になって、べらんめい調を用いてたら、

(いちばんまえのれつのまんなかにいた、いちばんつよそうなやつが、いきなりきりつしてせんせいという。)

一番前の列の真中に居た、一番強そうな奴が、いきなり起立して先生と云う。

(そらきたとおもいながら、なんだときいたら、「あまりはやくてわからんけれ、)

そら来たと思いながら、何だと聞いたら、「あまり早くて分からんけれ、

(もちっと、ゆるゆるつかって、おくれんかな、もし」といった。)

もちっと、ゆるゆる遣って、おくれんかな、もし」と云った。

(おくれんかな、もしはなまぬるいことばだ。はやすぎるなら、ゆっくりいってやるが、)

おくれんかな、もしは生温い言葉だ。早過ぎるなら、ゆっくり云ってやるが、

(おれはえどっこだからきみらのことばはつかえない、)

おれは江戸っ子だから君等の言葉は使えない、

(わからなければ、わかるまでまってるがいいとこたえてやった。)

分らなければ、分るまで待ってるがいいと答えてやった。

(このちょうしでにじかんめはおもったより、うまくいった。)

この調子で二時間目は思ったより、うまく行った。

(ただかえりがけにせいとのひとりがちょっとこのもんだいをかいしゃくをしておくれんかな、もし)

ただ帰りがけに生徒の一人がちょっとこの問題を解釈をしておくれんかな、もし

(とできそうもないきかのもんだいをもってせまったにはひやあせをながした。)

と出来そうもない幾何の問題を持って逼ったには冷汗を流した。

(しかたがないからなんだかわからない、このつぎおしえてやるといそいでひきあげたら、)

仕方がないから何だか分らない、この次教えてやると急いで引き揚げたら、

(せいとがわあとはやした。そのなかにできんできんというこえがきこえる。)

生徒がわあと囃した。その中に出来ん出来んと云う声が聞える。

(べらぼうめ、せんせいだって、できないのはあたりまえだ。)

箆棒め、先生だって、出来ないのは当り前だ。

(できないのをできないというのにふしぎがあるもんか。)

出来ないのを出来ないと云うのに不思議があるもんか。

(そんなものができるくらいならよんじゅうえんでこんないなかへくるもんか)

そんなものが出来るくらいなら四十円でこんな田舎へくるもんか

(とひかえじょへかえってきた。)

と控所へ帰って来た。

(こんどはどうだとまたやまあらしがきいた。)

今度はどうだとまた山嵐が聞いた。

(うんといったが、うんだけではきがすまなかったから、)

うんと云ったが、うんだけでは気が済まなかったから、

(このがっこうのせいとはわからずやだなといってやった。やまあらしはみょうなかおをしていた。)

この学校の生徒は分らずやだなと云ってやった。山嵐は妙な顔をしていた。

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