ああ玉杯に花うけて 第三部 1

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プレイ回数536難易度(4.5) 4745打 長文
佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」です。
長文です。現在では不適切とされている表現を含みます。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 布ちゃん 5745 A 6.0 95.6% 783.0 4714 215 84 2024/08/21

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問題文

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(なんぴとがかくへいのさしいれものをしたかはえいきゅうのぎもんとしてほうむられた。)

何人が覚平のさしいれ物をしたかは永久の疑問として葬られた。

(しかしちびこうのいっかはしだいしだいにひんくにせまった。)

しかしチビ公の一家は次第次第に貧苦に迫った。

(よなかのにじにおきてとうふをつくればあさにはもうつかれてまちをまわることができない)

夜中の二時に起きて豆腐を作れば朝にはもうつかれて町をまわることができない

(まちをまわろうとすればよなかにとうふをつくることができない。)

町をまわろうとすれば夜中に豆腐を作ることができない。

(このためにおみよはおんなでひとつでわずかばかりのとうふをつくり、)

このためにお美代は女手一つでわずかばかりの豆腐をつくり、

(ちびこうひとりがうりにでることにきめた。)

チビ公一人が売りに出ることにきめた。

(せいさくのりょうがすくないので、いくらうれてももうけるきんがくはきわめてすくなくなった。)

製作の量が少ないので、いくら売れてももうける金額はきわめて少なくなった。

(ちびこうはいつもかえりみちにふるたからたにしをひろうてかえった。)

チビ公はいつも帰り道に古田からたにしを拾うて帰った。

(いっかさんにんのおかずはたにしとおからばかりであった。)

一家三人のおかずはたにしとおからばかりであった。

(おばのおせんはまいにちのようにぐちをこぼした。)

伯母のお仙は毎日のように愚痴をこぼした。

(「おまえのためにこんなことになったよ」)

「おまえのためにこんなことになったよ」

(これをきくたびにちびこうはいつもなみだぐんでいった。)

これを聞くたびにチビ公はいつも涙ぐんでいった。

(「おばさん、ぼくはどんなにもかせぐからそんなことをいわないでくださいよ」)

「伯母さん、ぼくはどんなにもかせぐからそんなことをいわないでくださいよ」

(あるひかれはとうふおけをかついでれいのうらみちをとおった、)

ある日かれは豆腐おけをかついで例の裏道を通った、

(かれのみみにとつぜんいようのおんきょうがきこえた。それはいしゃのてづかのいえであった。)

かれの耳に突然異様の音響が聞こえた。それは医者の手塚の家であった。

(ゆうひはかっとうえこみをそめてどぞうのかべがもゆるようにあかくはんしゃしていた。)

夕日はかっと植え込みを染めて土蔵の壁が燃ゆるように赤く反射していた。

(うっそうとしげったきぎのみどりのあいだに、あかるいぼたんのはなが)

欝蒼と茂った樹々の緑のあいだに、明るいぼたんの花が

(めざむるばかりにさきほこっているのがみえる。)

目ざむるばかりにさきほこっているのが見える。

(そこにおおきないけがあってどばしをかけわたしみぎわにはしろいしょうぶもみえる。)

そこに大きな池があって土橋をかけわたしみぎわには白いしょうぶも見える。

(それよりずっとおくにかいろううきょくしてしょうじのいろまっしろに、)

それよりずっと奥に回廊紆曲して障子の色まっ白に、

など

(そこらからぴあののおとがえいがをほこるかのごとくながれてくる。)

そこらからピアノの音が栄華をほこるかのごとく流れてくる。

(「ああそのいえはぼくのちちのいえだったのだ」)

「ああその家はぼくの父の家だったのだ」

(ちびこうはあんぜんとしておけをろぼうにおろしてうでをくんだ。)

チビ公は暗然としておけを路傍におろして腕をくんだ。

(「おとうさんはせいとうのためにこのいえまでなくしてしまったのだ。)

「お父さんは政党のためにこの家までなくしてしまったのだ。

(おとうさんはずいぶんひとのせわもし、このまちのためになることをしたのだが、)

お父さんはずいぶん人の世話もし、この町のためになることをしたのだが、

(いまではだれひとりそれをいうものがない。)

いまではだれひとりそれをいう者がない。

(そのこのぼくはとうふをうって・・・・・・それでもごはんをたべることができない」)

その子のぼくは豆腐を売って……それでもご飯を食べることができない」

(ちびこうはきゅうになきたくなった、かれはじぶんがうまれたときには、)

チビ公は急になきたくなった、かれは自分が生まれたときには、

(このやしきのなかをじょちゅうやうばにだかれてこもりうたを)

この邸の中を女中や乳母にだかれて子守り歌を

(ききながらねむったことだろうとそうぞうした。)

聞きながら眠ったことだろうと想像した。

(「つまらないな」とかれはたんそくした。)

「つまらないな」とかれは歎息した。

(「いくらはたらいてもごはんがたべられないのだ、)

「いくら働いてもご飯が食べられないのだ、

(はたらかないほうがいい、しんでしまうほうがいい、ぼくなぞはいきてるしかくが)

働かない方がいい、死んでしまうほうがいい、ぼくなぞは生きてる資格が

(ないのだ、ろぼうのかえるのようにひとにふまれてへたばってしまうのだ」)

ないのだ、路傍のかえるのように人にふまれてへたばってしまうのだ」

(くらいゆううつはかれのこころをとざした。かれはじぶんのかげぼうしがいかにもあわれにほそながく)

暗い憂欝はかれの心を閉ざした。かれは自分の影法師がいかにも哀れに細長く

(かきねにくっせつしているのをみながらためいきをはいた。)

垣根に屈折しているのを見ながらため息をはいた。

(「かげぼうしまでなんだかみすぼらしいや」)

「影法師までなんだか見すぼらしいや」

(ぴあののおとはきぎのはをゆすってすずかぜにのってくる。)

ピアノの音は樹々の葉をゆすって涼風に乗ってくる。

(「おとうさんのあるものはこうふくだなあ、ああしてぼうんぼうんぴあのをひいて)

「お父さんのある者は幸福だなあ、ああしてぼうんぼうんピアノをひいて

(たのしんでいる」かれはがっかりしておけをかついだ。)

楽しんでいる」かれはがっかりしておけをかついだ。

(つかれたあしをひきずってに、さんげんあるきだすとそこでひとりのおんなのこにあった。)

つかれた足をひきずって二、三間歩きだすとそこでひとりの女の子にあった。

(それはこういちのいもうとのふみこであった。かのじょはじんじょうのごねんであった。)

それは光一の妹の文子であった。かの女は尋常の五年であった。

(しもぶくれのうりざねがおでめはおおきすぎるほどぱっちりとして)

下ぶくれのうりざね顔で目は大きすぎるほどぱっちりとして

(かみをふたつにわってりょうみみのところでむすびだまをこさえている。)

髪を二つに割って両耳のところで結び玉をこさえている。

(げんろくそでのせるにえびちゃのはかまをはき、いっしょうけんめいにごむほおずきをくちでならしていた)

元禄袖のセルに海老茶の袴をはき、一生懸命にゴムほおずきを口で鳴らしていた

(「こんばんは」とちびこうはこえをかけた。「こんばんは」とふみこはにっこりしていった。)

「今晩は」とチビ公は声をかけた。「今晩は」と文子はにっこりしていった。

(がすぐおもいだしたように、「あおきさん、にいさんがあなたをさがしてたわ」)

がすぐ思いだしたように、「青木さん、兄さんがあなたを探してたわ」

(「にいさんが?」「ああ」「なにかようじがあるんですか」)

「兄さんが?」「ああ」「何か用事があるんですか」

(「そうでしょうわたししらないけれども」ふみこはこういってまたぶうぶう)

「そうでしょう私知らないけれども」 文子はこういってまたぶうぶう

(ほおずきをならした。「きゅうようなの?」「そうでしょう」「なんだろう」)

ほおずきをならした。「急用なの?」「そうでしょう」「なんだろう」

(「あえばわかるじゃないの?」「それはそうですな」)

「会えばわかるじゃないの?」「それはそうですな」

(「にいさんがいま、いえにいるでしょう、いってちょうだいね」)

「兄さんがいま、家にいるでしょう、いってちょうだいね」

(ふみこはこういったがすぐ「わたしもいっしょにいくわ、)

文子はこういったがすぐ「私も一緒にいくわ、

(あそこにおおきないぬがいるからおいはらってちょうだいね」)

あそこに大きな犬がいるからおいはらってちょうだいね」

(「ああさかやのいぬですか」ふたりはならんであるきだした。)

「ああ酒屋の犬ですか」ふたりは並んで歩きだした。

(しょうがっこうにいたときにはふみこはまだまだおさなかった。)

小学校にいたときには文子はまだまだおさなかった。

(げたのはなおがきれてなんぎしてるのをみてちびこうはてぬぐいをさいて)

げたのはなおが切れて難儀してるのを見てチビ公はてぬぐいをさいて

(はなおをすげてやったことがある。そのときかたにつかまって)

はなおをすげてやったことがある。そのとき肩につかまって

(かたあしをちびこうのかたあしのうえにのせたことをかれはきおくしている。)

片足をチビ公の片足の上に載せたことをかれは記憶している。

(ふたりはこういちのいえのうらぐちのまえへきた。「まっててね」)

ふたりは光一の家の裏口の前へきた。「待っててね」

(ふみこはあしをけあげてはしりだし、かってぐちのとをあけたかとおもうとおおきなこえでさけんだ)

文子は足をけあげて走りだし、勝手口の戸をあけたかと思うと大きな声で叫んだ

(「にいさん、あおきさんをつれてきたわ、にいさんはやく」こういちのすがたが)

「兄さん、青木さんをつれてきたわ、兄さん早く」光一の姿が

(とのあいだからあらわれた。「やかましいやつだな、おてんば!」)

戸のあいだからあらわれた。「やかましいやつだな、おてんば!」

(「そんなことをいったらあおきさんをつれてきてあげないわ」)

「そんなことをいったら青木さんをつれてきてあげないわ」

(「おまえがつれてこなくてもあおきくんはここにいるじゃないか」)

「おまえがつれてこなくても青木君はここにいるじゃないか」

(こういちはわらいながらちびこうのほうをむき、「きみ、ちょっとはいってくれたまえ」)

光一はわらいながらチビ公の方を向き、「きみ、ちょっとはいってくれたまえ」

(「ぼくはどろあしですから」「そうか、じゃにわへいこう」)

「ぼくはどろあしですから」「そうか、じゃ庭へいこう」

(ちびこうはおけをかたすみにおいてこういちのうしろにしたがった。)

チビ公はおけを片隅において光一の後ろにしたがった。

(ふたりは、うのはながゆきのごとくさきみちているなかにわへでた。)

ふたりは、うの花が雪のごとくさきみちている中庭へでた。

(そこのけいしゃにいましもおいこまれたにわとりどもは、)

そこの鶏舎にいましも追いこまれたにわとりどもは、

(まだごたごたひしめきあっていた。)

まだごたごたひしめきあっていた。

(「きみにそうだんがあるんだがね」とこういちはきんちょくなかおをしていいだした。)

「きみに相談があるんだがね」と光一は謹直な顔をしていいだした。

(「ぼくはぼくのちちともよくそうだんのうえでこのことをきめたんだが」)

「ぼくはぼくの父ともよく相談のうえでこのことをきめたんだが」

(「どんなことですか」「つまり、きみにもいろいろふこうなじじょうがかさなってる)

「どんなことですか」「つまり、きみにもいろいろ不幸な事情が重なってる

(ようだがきみはもうすこしがくもんをするきがないかね」「それはぼくだって・・・・・・」)

ようだがきみはもう少し学問をする気がないかね」「それはぼくだって……」

(とちびこうははやくちにいった。「がくもんはしたいけれどもぼくのいえは・・・・・・」)

とチビ公は早口にいった。「学問はしたいけれどもぼくの家は……」

(「だからねえきみ、きみがちゅうがっこうをやってだいがくをやるまでのがくしならぼくのちちが)

「だからねえきみ、きみが中学校をやって大学をやるまでの学資ならぼくの父が

(だしてあげるとこういうのだ。きみはがっこうでいつもゆうとうだったしね、)

だしてあげるとこういうのだ。きみは学校でいつも優等だったしね、

(それからきみのせいしつやひんこうのことについてはこのまちのひとはだれでもしってるんだ)

それからきみの性質や品行のことについてはこの町の人はだれでも知ってるんだ

(からね、とうふやをしてるよりも、がくもんをしたら、きっとせいこうするだろうとちちも)

からね、豆腐屋をしてるよりも、学問をしたら、きっと成功するだろうと父も

(いうんだ、じつはね、こんどせいばんのおやじのいっけんできみのおじさんがあんなことに)

いうんだ、実はね、こんど生蕃の親父の一件できみの伯父さんがあんなことに

(なったろう、それできみはよるもひるもかせぎどおしにかせいでいるのをみて)

なったろう、それできみは夜も昼もかせぎどおしにかせいでいるのを見て

(ぼくのちちは・・・・・・」「ああわかった」と、ちびこうはおもわずさけんだ。)

ぼくの父は……」「ああわかった」と、チビ公は思わず叫んだ。

(「おじさんのさしいれものをしてくれたのはあなたのおとうさんですね」)

「伯父さんのさしいれ物をしてくれたのはあなたのお父さんですね」

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