火刑の魔女

(「ふぃがらい」)

「フィガライ」

(「つみをまつるいびつなさいだん。かみにささげられたしかばね。)

『罪を祀る歪な祭壇。神に捧げられた屍。

(きみはなぜ、このきょうかいをこえてしまったのか。)

君は何故、この境界を越えてしまったのか。

(さぁ、うたってごらん・・・」)

さぁ、唄ってごらん…』

(かすかなきおくのいとをたぐるように)

幽かな記憶の　糸を手繰るように

(ほのぐらいもりへあしをふみいれた)

仄昏い森へ　足を踏み入れた

(おさないきおくのみちをたどるように)

幼い記憶の　途を辿るように

(いりくんだもりのおくへとすすんだ)

入り組んだ森の　奥へと進んだ

(おがわをわたりおばけもみのきをひだりへと)

小川を渡り　お化け樅の木を左へと

(そこにたたずむわたしのせいか)

そこに佇む　私の生家

(「ものごころついたときには、すでにちちのしょうそくはふめいで、)

『物心ついた時には、既に父の消息は不明で、

(わたしはははといつもふたり、とてもまずしいくらしだった。)

私は母と何時も二人、とても貧しい暮らしだった。

(いどにどくをいれたなどと、いわれなきつみでしいたげられることもおおく、)

井戸に毒を入れた等と、謂れなき罪で虐げられる事も多く、

(わたしにとってともだちといえるのは、もりのどうぶつたちだけだった・・・・・・。」)

私にとって友達と言えるのは、森の動物達だけだった……。』

(それでもああねぇむってぃ)

それでも嗚呼ねぇお母さん

(わたしはしあわせだったよ)

私は幸せだったよ

(そのりゆうをねぇしってた？)

その理由を　ねぇ知ってた？

(あなたがいっしょだったから)

貴女が一緒だったから

(それなのになぜはははわたしをすてたのか？)

それなのに　何故母は私を捨てたのか？

(どうしてもそれがしりたくて・・・・・・)

どうしてもそれが知りたくて……

(ちいさなわたしをひろってくれたのはおおきなまちにあるしゅうどういんだった)

小さな私を拾ってくれたのは　大きな街にある修道院だった

(けれどはげしくふきあれたかいかくのあらしと)

けれどは激しく吹き荒れた改革の嵐と

(しんきょうとたちのてによってああむざんにもはかいされた)

新教徒たちの手によって　嗚呼無残にも破壊された

(じんせいはすきなものうんめいはわからないから)

人生は数奇なもの　運命は判らないから

(ひとつのおわりはあたらしいはじまりとしんじて)

ひとつの終わりは　新しい始まりと信じて

(ゆうきをもってせきねんのぎもんをとくために)

勇気をもって　積年の疑問を解く為に

(こきょうをさがすたびをはじめた)

故郷を探す旅を始めた

(おがわをわたりおばけもみのきをひだりへと)

小川を渡り　お化け樅の木を左へと

(そこにたたずむわたしのせいか)

そこに佇む　私の生家

(「わたしのらいほうをまっていたのは、いしのようにとしをとったろうばで、)

『私の来訪を待っていたのは、石のように歳を取った老婆で、

(まるでみしらぬそのじょせいが、ははであるとはにわかにはしんじがたく、)

まるで見知らぬその女性が、母であるとは俄には信じがたく、

(わたしであるときづくこともなく、ただ、しょくりょうをむさぼるははのひとみは、)

娘であると気づく事もなく、唯、食料を貪る母の瞳は、

(すでにしょうきをうしなってるいようにおもえた。」)

既に正気を失ってるいように思えた。』

(「ただいま。おかあさん。えっ？おかあさん？」)

「ただいま。お母さん。えっ？お母さん？」

(「おお、いぇすずさまのつかいのかただね。よくきてくださった。」)

「おお、イェスズ様の遣いの方だね。よくきてくださった。」

(「かたいぶろーとですが、おくちにあいましたか」)

「固いパンですが、お口に合いましたか」

(「いくらでもたべられるよ！」)

「いくらでも食べられるよ！」

(「ふらう、わたしはだれだかわからないのですか！？」)

「ご婦人、私は誰だかわからないのですか！？」

(「なにをわけのわからぬこといってるんだい！おまえもわたしをさべつするのかい？！」)

「何を訳のわからぬこといってるんだい！お前も私を差別するのかい？！」

(「よこせ！もっとくいものをよこせ！」)

「寄越せ！もっと食い物を寄越せ！」

(「っやめて！あっ・・・！」)

「ッやめて！あっ…！」

(「そして・・・・・・。」)

『そして……。』

(「いやあぁぁぁぁ！！」)

「いやあぁぁぁぁ―！！」

(かいしゅうしたけれどときはすでにおそく、)

改宗したけれど時は既に遅く、

(ひとりのくいぶちさえもうままならなかった。)

一人の食い扶持さえもう侭ならなかった。

(ざんげをわらうぎゃくじゅうじ。)

懺悔を嗤う逆十字。

(いのりはとどかない。)

祈りは届かない。

(ゆるしもえられぬまま、つみだけがふえてゆく・・・・・・。)

赦しも得られぬまま、罪だけが増えてゆく……。

(「なるほど、それできみはまつられてしまったわけだね？ふほんいながら。)

「なるほど、それで君は祀られてしまった訳だね？不本意ながら。

(しょうしょうじかんはかかるが、こどものうらみはこどもがはらすものさ。)

少々時間は掛かるが、子供の憾みは子供が晴らすものさ。

(よろしいかな？)

宜しいかな？

(さぁ、ふくしゅうげきをはじめようか・・・」)

さぁ、復讐劇を始めようか…」

(もりにおきざりにされたかわいそうなこどもたち)

森に置き去りにされた　可哀想な兄妹

(すてられたこのかなしいきもちはいたいほどわかるわ)

捨てられた子の　悲しい気持ちは痛いほど解るわ

(ああことりたちをあやつりぱんくずのみちしるべをけし)

嗚呼　小鳥たちを操り　パン屑の道標を消し

(まゆきのようにまっしろなとりにうたわせてさそった)

真雪のように　真っ白な鳥に歌わせて誘った

(「みて、へんぜるおにいちゃん。ほら、あそこにいえがあるわ！」)

「見て、ヘンゼルお兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ！」

(「でも、ぐれーてるそれは、こわいまじょのいえかもしれない・・・・・・けど」)

「でも、グレーテルそれは、怖い魔女の家かも知れない……けど」

(「けど？」)

「けど？」

(「はらぺこで・・・・・・」「しぬよりましさ！／しぬよりましね！」)

「腹ペコで……」「死ぬよりましさ！/死ぬよりましね！」

(「「だれかいませんか？」」)

「「誰かいませんか？」」

(「おやまぁ、かわいいおきゃくさまだこと。はらがへってるのかい？さぁ、なかへおはいり」)

「おやまぁ、可愛いお客様だこと。腹が減ってるのかい？さぁ、中へお入り」

(「やねはれーぷくーへん。まどはしろざとう。)

「屋根は焼き菓子。窓は白砂糖。

(おかしのおいしいいえを、こさえてあげようかねぇ！」)

お菓子の美味しい家を、栫えてあげようかねぇ！」

(ああえんりょはいらないよ)

嗚呼　遠慮はいらないよ

(こどもにはらいっぱいたべさせるのがわたしのささやかなゆめだった)

子供に腹一杯　食べさせるのが私のささやかな夢だった

(ああかねかしだったおっとはいきてはかえらなかったけど)

嗚呼　金貸しだった夫は　生きては帰らなかったけど

(いくばくかのいさんをことづけてくれていた・・・・・・)

幾許かの遺産を託けてくれていた……

(ろうばのこういにむしょうのこういに)

老婆の好意に　無償の行為に

(あまえたふたりはたべつづけた)

甘えた兄妹は　食べ続けた

(しょうじょはあるひまるまるふとったしょうねんをみてこわくなった)

少女はある日丸々太った　少年を見て怖くなった

(「ああ、ろうばはまじょで、ふたりをたべちゃうつもりなんだわ！」)

「嗚呼、老婆は魔女で、二人を食べちゃう心算なんだわ！」

(やられるまえにやらなきゃやばい！)

殺られる前に　殺らなきゃヤ・バ・イ！

(せなかをどん！とけとばせ！)

背中を　ドン！　と蹴飛ばせ！

(「ぎゃぁぁ！！！」)

「ギャァァ――！！！」

(「わたしたちをたべようなんて、そうはいかないんだからね」)

「私達を食べようなんて、そうはいかないんだからね」

(「やった、すごいぞぐれーてる！これでまじょもおしまいさ」)

「やった、すごいぞグレーテル！これで魔女もおしまいさ」

(「となりのとーますにも、じまんしてやらなきゃね」)

「隣のトーマスにも、自慢してやらなきゃね」

(「ああ、わるいまじょはひあぶりさ。これでおたからは」)

「ああ、悪い魔女は火あぶりさ。これでお宝は」

(「「（わたし／ぼく）たちのもの」」)

「「（私/僕）達のもの」」

(「もりにすむこどくなろうばは、すべてまじょなんだそうだよ」)

「森に住む孤独な老婆は、全て魔女なんだそうだよ」

(「もう、こどもなんてずうずうしくてうそつきで、わたしはだいきらい。)

「モウ、子供ナンテ図々シクテ嘘吐キデ、私ハ大嫌イ。

(あはははは！」)

アハハハハ！」