硝子の棺で眠る姫君

(「ないど」)

『ナイド』

(「がらすのひつぎ、ねむるひめぎみ。きみはなぜこのきょうかいをこえてしまったのか？)

「硝子の棺、眠る姫君。君は何故この境界を越えてしまったのか？

(さぁ、うたってごらん・・・」)

さぁ、唄ってごらん…」

(まゆきのはだはしろくこくだんのかみはくろく)

真雪の肌は白く　黒壇の髪は黒く

(ちしおのようにあかいくちびるふゆにのぞまれうまれたわたし)

血潮のように赤い唇　冬に望まれ産まれた私

(やわらかなぬくもりすぎさりしはるのにおい)

柔らかな温もり　過ぎ去りし春の匂い

(あまくせつないいたみのこしてはははとおくへいってしまった・・・・・・)

甘く切ない痛み遺して　生母は遠くへ逝ってしまった……

(「かがみよかがみ・・・・・・このせかいでいちばん、うつくしいのは、だれなのかしら？」)

「鏡よ鏡……此の世界で一番、美しいのは、誰なのかしら？」

(「それはあなたでぃけにぎん」)

「其れは貴女――王妃様」

(「おーほほほほ！」)

「オーホホホホ！」

(ままはははつめたくなきははのあいをおもいだし)

継母は冷たく　亡母の愛を憶いだし

(ひとりだきしめきょぞうとおどるつきひをかさねむすめになった・・・・・・)

独り抱きしめ虚像と踊る　月日を重ね娘に成った……

(「かがみよかがみ・・・・・・このせかいでいちばん、うつくしいのは、だれなのかしら？」)

「鏡よ鏡……此の世界で一番、美しいのは、誰なのかしら？」

(「それはあなたでぃけにぎん)

「それは貴女――王妃様

(でしたがいまではかのじょしゅねーヴぃとひぇん！」)

でしたが今では彼女――白雪姫！」

(「きぃぃぃぃ！」)

「キィィィィ―！」

(「おぉおぉおぉぉ・・・！はぁはぁ・・・ひ、ひめー！あぁー・・・」)

「おぉおぉおぉぉ…！はぁはぁ…ひ、姫ー！あぁー…」

(「いやー！こっちこないでじいや、むりー！」)

「いやー！こっち来ないで　爺や、無理ー！」

(かりうどのじいやにおいかけられもりのおくへとにげる・・・・・・)

狩人の爺やに追いかけられ　森の奥へと逃げる……

(「わしだってほんとうは、こんなこと・・・・・・したくなかったんじゃよ」)

「ワシだって本当は、こんなこと……したくなかったんじゃよ」

(「あっ！だったら、どうして？」)

「あっ！だったら、どうして？」

(「ひめよ、おきさきさまにゃさからえぬ」)

「姫よ、お妃様にゃ逆らえぬ」

(「おねがい、たすけて！」)

「お願い、助けて！」

(「ひめよ、ころすわしもつらいんじゃよ」)

「姫よ、殺すワシも辛いんじゃよ」

(「それなら、わたしもうおうちには、かえらないとやくそくするわ」)

「それなら、私もうお城には、帰らないと約束するわ」

(「それなら、わしにもさくがある。いのししころしてみがわりにしよう！」)

「それなら、ワシにも策がある。猪殺して身代わりにしよう！」

(「うん！」)

「うん！」

(そして、わたしをまっていたのは・・・・・・。)

――そして、私を待っていたのは……。

(よいやみのせまるかげがすすむみちをのみこんでゆく)

宵闇の迫る陰が　進む道を呑み込んでゆく

(まよいこんだみしらぬもりのちいさなかわいいおうち)

迷い込んだ見知らぬ森の　小さな可愛いお家

(「ふぁ～・・・」)

「ふぁ～…」

(「あーっおいらのねどこでだれかねとるんげん！」)

「あーっ　おいらの寝床で誰か寝とるんゲン！」

(「「まじで！？」」)

「「マジで！？」」

(「しんでがると？」)

「死んでガルト？」

(「いや、まだいきてりっひ！」)

「いや、まだ生きてリッヒ！」

(「みんな、どうするんべるく？」)

「みんな、どうするんベルク？」

(「「うーん・・・」」)

「「うーん…」」

(「こういうばあいはたいていおうじさまがせっぷんすればいーねん！」)

「こういう場合は大抵　王子様が接吻すればイーネン！」

(「「おぉ！」」)

「「おぉ！」」

(「で、だれかこのなかにおうじさまはいるんしゅたいん？」)

「で、誰かこの中に王子様はいるんシュタイン？」

(「いや、このさいおじいさまでもいんじゃね？」)

「いや、この際　お爺様でも　イんじゃね？」

(「「それだ！」」)

「「それダ！」」

(「「ん～～っ」」)

「「ん～～っ」」

(「ぐーてんもるげん！」)

「ぐーてんもるげん！」

(「「おお！？」」)

「「おお！？」」

(ねおきもちょうすっきりなびしょうじょ、わたしのめざめをまっていたのは、)

寝起きも超スッキリな美少女、私の目覚めを待っていたのは、

(おかしななまりをもったしちにんのゆかいなこびとたちで、)

可笑しな訛りを持った七人の愉快な小人達で、

(そのあと、ずるがしこいははのさくりゃくにより、いくどかしにかけたが、)

その後、狡賢い継母の策略により、幾度か死にかけたが、

(そのつど、きせきてきにふっかつしつづけたのであった！)

その都度、奇跡的に復活し続けたのであった！

(「もし」)

「もし」

(「ごめんね、おばあさん。)

「ごめんね、おばあさん。

(どんなひとも、うちへは、いれちゃいけないのよ・・・・・・」)

どんな人も、家へは、入れちゃいけないのよ……」

(「おるすばんかい？えらいねぇ！)

「お留守番かい？偉いねぇ！

(さぁまっかにうれてるあっぷふぇる。おまえさんにひとつあげよう、ほれ！」)

さぁ真っ赤に熟れてる林檎。お前さんに1つあげよう、ほれ！」

(「ごめんね、おばあさん。)

「ごめんね、お婆さん。

(いらない。わたしなにも、もらっちゃいけないのよ・・・・・・」)

いらない。私何も、貰っちゃいけないのよ……」

(「あらまぁ、しんぱいしょうだねえ！)

「あらまぁ、心配性だねえ！

(そうとなりゃ、いだいてるつヴぁいふぇる。このばばとふたつにわけよう！」)

そうとなりゃ、抱いてる疑惑。この婆と2つに分けよう！」

(あらがえないさそってるとぉいふぇるななつめのつみはみつのあじ)

抗えない誘ってる悪魔7つ目の罪は蜜の味

(「いただきまーす！・・・うっ」)

「いただきまーす！…うっ」

(「ひっひっひ！」)

「ヒッヒッヒ！」

(「かがみよかがみ・・・・・・このせかいでいちばん、うつくしいのは、だれなのかしら？」)

「鏡よ鏡……此の世界で一番、美しいのは、だれなのかしら？」

(「それはあなたでぃけにぎん！」)

「其れは貴女――王妃様！」

(「おーっほっほっほっほっほ！」)

「おーっほっほっほっほっほ！」

(「なるほど、それできみはだまされたわけだね？)

「成る程、それで君は騙されたわけだね？

(ならば、あるおとこのとくしゅなせいへきをきみのふくしゅうにりようしてみようか。)

ならば、ある男の特殊な性癖を君の復讐に利用してみようか。

(さあ、もうしばし、うんめいのあいてはゆめのせかいでまつものさ」)

さあ、もうしばし、運命の相手は夢の世界で待つものさ」

(ぼくのりそうのはなよめはどこにいるのだろう？)

僕の理想の花嫁は　何処に居るのだろう？

(ああにしもひがしもきたもみなみも)

嗚呼　西も東も　北も南も

(あめにもまけずかぜにもまけず)

雨にも負けず　風にも負けず

(さがしたけれどみつからないのさ)

探したけれど　見つからないのさ

(みらいにひらくしょうじょもかこにひらいたろうばも)

未来に開く少女も　過去に開いた老婆も

(つぼみもはなもいきとしいけるすべてのひとをめでてもなおみつからない)

蕾も花も生きとし生ける全ての女性を愛でても尚見つからない

(よいやみのせまるかげがすすむみちをのみこんでゆく)

宵闇の迫る陰が　進む道を呑み込んでゆく

(まよいこんだみしらぬもりのちいさなかわいいおうち)

迷い込んだ見知らぬ森の　小さな可愛いお家

(まま、とざされたがらすのなかで、ねむるようにしんでるきみは、)

儘、閉ざされた硝子の中で、眠るように死んでる君は、

(だれよりも、ああ、うつくしい。)

誰よりも、嗚呼、美しい。

(やっと、みつけたよ！)

やっと、見つけたよ！

(「つヴぇるくたちよ、そのしたいをわたしにゆずってはくれないかな？」)

「小人達よ、その死体を私に譲ってはくれないかな？」

(「こいつ」「どう」「みても」)

「こいつ」「どう」「見ても」

(「おう」「じ」「さま」「だし」)

「王」「子」「様」「だし」

(「「「いいんじゃね？」」」)

「「「いいんじゃね？」」」

(「さぁ、もうすぐあのあほうどもがやらかすぞ・・・。こころのじゅんびはよろしいかな？おひめさま」)

「さぁ、もうすぐあの阿呆共がやらかすぞ…。心の準備は宜しいかな？お姫様」

(「おまえたち、くれぐれもしんちょうにはこぶように」)

「お前たち、くれぐれも慎重に運ぶように」

(「はい、でんか！あっ！？」)

「はい、殿下！あっ！？」

(「ぐーてんもるげん！」)

「ぐーてんもるげん！」

(「さぁ、ふくしゅうげきのはじまりだ！」)

「さぁ、復讐劇の始まりだ！」

(ましょうのはだはしろくこくようのかみはくろく)

魔性の肌は白く　黒曜の髪は黒く

(ほのおのようにあかいくちびる)

焔のように赤い唇

(やいたのがおまえのつみなら)

妬いたのが　お前の罪なら

(やけたくつでしぬまでおどれ！)

灼けた靴で――死ぬまで踊れ！

(「あははははは！あーっははははは！あはは！」)

「あははははは！あーっははははは！あはは！」

(「あちちちち！あぁーっ！あちちちち！ぎゃー！！」)

「あちちちち！あぁーっ！あちちちち！ギャー！！」

(「なーにそれ？もっとじょうずにおどってくださらないの？)

「なーにそれ？もっと上手に踊ってくださらないの？

(せっかくのかわいいむすめのこんれいなのよ？あはは！あーっははははは！あははは！」)

せっかくの可愛い娘の婚礼なのよ？あはは！あーっははははは！あははは！」

(「なんてことだ・・・」)

「なんてことだ…」

(「かがみよかがみ、めるかがみ。このせかいでいちばんかわいいのはだれかしら？うふふ」)

「鏡ヨ鏡、メル鏡。此ノ世界デ一番可愛イノハ誰カシラ？ウフフ」

(「もちろん、それはえりーぜひめさ」)

「勿論、それはエリーゼ姫さ」

(「ほんとう！うれしい！あははははは！」)

「本当！嬉シイ！アハハハハハ！」