女仙 芥川龍之介

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美しい女仙人にも悩みがある。
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1 ねね 4300 C+ 4.4 97.4% 445.1 1965 51 29 2024/02/19

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問題文

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(むかし、しなのあるいなかにしょせいがひとりすんでいました。なにしろしなのことですから)

昔、支那の或田舎に書生が一人住んでいました。何しろ支那のことですから

(もものはなのさいたまどのしたにほんばかりよんでいたのでしょう。すると、このしょせいの)

桃の花の咲いた窓の下に本ばかり読んでいたのでしょう。すると、この書生の

(うちのとなりにとしのわかいおんながひとり、ーーそれもうつくしいおんながひとり、だれもつかわずに)

家(うち)の隣に年の若い女が一人、――それも美しい女が一人、誰も使わずに

(すんでいました。しょせいはこのわかいおんなをふしぎにおもっていたのはもちろんです。)

住んでいました。書生はこの若い女を不思議に思っていたのはもちろんです。

(じっさいまたかのじょのみのうえをはじめ、かのじょがなにをしてくらしているかはだれひとりしる)

実際また彼女の身の上をはじめ、彼女が何をして暮らしているかは誰一人知る

(ものもなかったのですから。 あるかぜのないはるのひのくれ、しょせいはふとそとへでて)

ものもなかったのですから。  或風のない春の日の暮、書生はふと外へ出て

(みると、なにかこのわかいおんなのののしっているこえがきこえました。それはまたどこかの)

見ると、何かこの若い女の罵っている声が聞えました。それはまたどこかの

(にわどりがのんびりとときをつくっているなかに、どうにもものものしくきこえる)

庭鳥がのんびりと鬨(とき)を作っている中に、如何にも物ものしく聞える

(のです。しょせいはどうしたのかとおもいながら、かのじょのいえのまえへいってみました。)

のです。書生はどうしたのかと思いながら、彼女の家の前へ行って見ました。

(するとまゆをつりあげたかのじょは、としをとったきこりのじいさんをひきすえ、)

すると眉を吊り上げた彼女は、年をとった木樵りの爺さんを引き据え、

(ぽかぽかしらがあたまをなぐっているのです。しかもきこりのじいさんはかおじゅうに)

ぽかぽか白髪頭を擲(なぐ)っているのです。しかも木樵りの爺さんは顔中に

(なみだをながしたまま、ひらあやまりにあやまっているではありませんか!)

涙を流したまま、平あやまりにあやまっているではありませんか!

(「これはいったいどうしたのです?なにもこういうとしよりを、なぐらないでもよいじゃ)

「これは一体どうしたのです? 何もこういう年よりを、擲らないでも善いじゃ

(ありませんか!ーー」 しょせいはかのじょのてをおさえ、ねっしんにたしなめに)

ありませんか!――」  書生は彼女の手を抑え、熱心にたしなめに

(かかりました。 「だいいちとしうえのものをなぐるということは)

かかりました。 「第一年上のものを擲るということは

(しゅうしんのみちにもはずれているわけです。」 「としうえのものを?)

修身の道にもはずれている訣(わけ)です。」 「年上のものを?

(このきこりはわたしよりもとししたです。」 「じょうだんをいっては)

この木樵りはわたしよりも年下です。」 「冗談を言っては

(いけません。」 「いえ、じょうだんではありません。わたしはこのきこりの)

いけません。」 「いえ、冗談ではありません。わたしはこの木樵りの

(ははおやですから。」 しょせいはあっけにとられたなり、おもわずかのじょのかおを)

母親ですから。」  書生は呆気にとられたなり、思わず彼女の顔を

(みつめました。やっときこりをつきはなしたかのじょはうつくしい、ーーというよりも)

見つめました。やっと木樵りを突き離した彼女は美しい、――というよりも

など

(りりしいかおにちのいろをかよわせ、めじろぎもせずにこういうのです。)

凜々しい顔に血の色を通わせ、目じろぎもせずにこう言うのです。

(「わたしはこのせがれのために、どのくらいくろうをしたかわかりません。けれどもせがれは)

「わたしはこの倅のために、どの位苦労をしたかわかりません。けれども倅は

(わたしのことばをきかずに、わがままばかりしていましたから、とうとうとしをとって)

わたしの言葉を聞かずに、我儘ばかりしていましたから、とうとう年をとって

(しまったのです。」 「では、・・・・・・このきこりはもう70くらいでしょう。)

しまったのです。」 「では、……この木樵りはもう七十位でしょう。

(そのまたきこりのははおやだというあなたは、いったいいくつになっているのです?」)

そのまた木樵りの母親だというあなたは、一体いくつになっているのです?」

(「わたしですか?わたしは3600さいです。」 しょせいはこういうことばと)

「わたしですか? わたしは三千六百歳です。」  書生はこういう言葉と

(いっしょに、このうつくしいとなりのおんながせんにんだったことにきづきました。しかしもう)

一しょに、この美しい隣の女が仙人だったことに気づきました。しかしもう

(そのときには、なにかこうごうしいかのじょのすがたはたちまちどこかへきえてしまいました。)

その時には、何か神々しい彼女の姿は忽ちどこかへ消えてしまいました。

(うらうらとはるのひのてりわたったなかにきこりのじいさんをのこしたまま。・・・・・・)

うらうらと春の日の照り渡った中に木樵りの爺さんを残したまま。……

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