私はかうして死んだ!三 1  平林初之輔

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勝手に死亡届を出され、生きているのに戸籍上死んだ事になった男の話。

一から五までで一つの話しです。
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1 ねね 4534 C++ 4.6 97.3% 477.7 2226 60 29 2024/04/21

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問題文

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(わたしはこのとおりいきている。だが、すべてのじじょうはわたしがしんだことをしょうめいして)

私はこの通り生きている。だが、すべての事情は私が死んだことを証明して

(いる。このよのなかに、わたしのいきていることをしょうめいするしゅだんは、わたしがじぶんでその)

いる。この世の中に、私の生きていることを証明する手段は、私が自分でその

(すじへなのりでるいがいにない。いな、それとてもたしかなしゅだんとはいえぬ。むらのひとは)

筋へ名乗り出る以外にない。否、それとてもたしかな手段とは言えぬ。村の人は

(20ねんもまえのわたしをわすれているらしいから、ただこうとうのしょうげんだけでしんじてくれるか)

二十年も前の私を忘れているらしいから、ただ口頭の証言だけで信じてくれるか

(どうかぎもんだ。しかしわたしは、そんなめんどうなことをしてまでわたしのいきていることを)

どうか疑問だ。しかし私は、そんな面倒なことをしてまで私の生きていることを

(しょうめいするひつようがあるだろうか?わたしのいきていることによってつめのあかほどでも)

証明する必要があるだろうか? 私の生きていることによって爪の垢ほどでも

(わたしはりえきをきたいしえただろうか?むしろわたしは、だれかのいたずらかしらぬが、)

私は利益を期待し得ただろうか? むしろ私は、誰かのいたずらか知らぬが、

(わたしをぐうぜんにもこんなきみょうないちにおいてくれたことをかんしゃしたくらいだ。)

私を偶然にもこんな奇妙な位置においてくれたことを感謝したくらいだ。

(わたしはとうきょうへかえるときゅうにりっこうほだんねんをせいめいした。そしてだれがなんときいても、)

私は東京へ帰ると急に立候補断念を声明した。そして誰が何ときいても、

(ただいっしんじょうのつごういってんばりでおしとおしてしまった。これはむさんとうのとうしとして)

ただ一身上の都合一点張りで押しとおしてしまった。これは無産党の闘士として

(たしかによいたいどとはいえぬ。だが、こせきのないにんげんにはりっこうほのしかくはないし)

たしかによい態度とは言えぬ。だが、戸籍のない人間には立候補の資格はないし

(だいぎしになるよりもしんだにんげんとしていきてゆくほうがわたしにははるかにゆうわくてきだった)

代議士になるよりも死んだ人間として生きてゆく方が私には遥かに誘惑的だった

(だがわたしはだれにもしらせずに、このしんそうをわたしひとりでぜひつきとめてみようと)

だが私は誰にも知らせずに、この真相を私一人で是非つきとめてみようと

(おもいたった。というのは、わたしをころしたひとにふくしゅうしたり、そのひとにじはくをせまったり)

思いたった。というのは、私を殺した人に復讐したり、その人に自白を迫ったり

(するためではなくて、むしろ、そのひとにじはくなどをされてはこまるとおもったからだ)

するためではなくて、むしろ、その人に自白などをされては困ると思ったからだ

(このふしぎなきょうぐうをずっとつづけていったらどんなことになるかをためしてみたい)

この不思議な境遇をずっとつづけて行ったらどんなことになるかを試してみたい

(とおもったからだ。 でわたしはまずわたしのしぼうをしんだんしたせごしゆうたろうといういしを)

と思ったからだ。  で私はまず私の死亡を診断した瀬越雄太郎という医師を

(たずねた。 せごしいいんはしんだんしょにかいてあったばんちにまちがいなくあった。)

たずねた。  瀬越医院は診断書に書いてあった番地にまちがいなくあった。

(わたしはなまえをいつわっていんちょうにあった。かれはそのときのじじょうをよくおぼえていて、きさく)

私は名前を偽って院長に会った。彼はその時の事情をよくおぼえていて、気さく

(になにもかもはなしてくれた。 「ついここからふたつめのとおりのさいしょのろじをまがった)

に何もかも話してくれた。 「ついここから二つ目の通りの最初の路次を曲った

など

(みぎがわのいえですよ。わたしをむかえにきたので、さいしょわたしがいったのは、なくなられたまえの)

右側の家ですよ。私を迎えに来たので、最初私が行ったのは、亡くなられた前の

(ひでしたが、ひとめみてもうだめだってことがわかりました。ずいぶんながねん)

日でしたが、一目見てもう駄目だってことがわかりました。ずいぶん永年

(わずらったものとみえて、りょうほうのはいがすっかりめちゃめちゃにこわされて、まだ)

わずらったものと見えて、両方の肺がすっかり滅茶々々にこわされて、まだ

(いきているのがきせきだとおもわれるくらいでしたからね。あのびょうきのかんじゃはいきを)

生きているのが奇跡だと思われるくらいでしたからね。あの病気の患者は息を

(ひきとるまでいしきがめいりょうなのがふつうですが、そのおとこは、まるで、つよいさけでも)

ひきとるまで意識が明瞭なのが普通ですが、その男は、まるで、強い酒でも

(のんだあとのように、ひどくしんぞうがよわっていて、ねつもあのびょうきのかんじゃとしては)

飲んだあとのように、ひどく心臓が弱っていて、熱もあの病気の患者としては

(いじょうにたかく、わたしがみたときはこんすいじょうたいだったので、わたしはどうにもほどこすすべがない)

異常に高く、私が診たときは昏睡状態だったので、私はどうにも施すすべがない

(ので、ただかんふるのちゅうしゃをしてあげただけでした。もっともかんじゃがつよくこうふん)

ので、ただカンフルの注射をしてあげただけでした。もっとも患者が強く興奮

(するとああいうしょうじょうをあらわすことはめずらしくないのです」 )

するとああいう症状をあらわすことは珍しくないのです」

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