私はかうして死んだ!四 平林初之輔

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勝手に死亡届を出され、生きているのに戸籍上死んだ事になった男の話。

一から五までで一つの話しです。

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問題文

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(わたしはそのあしで、いんちょうからきいたたまむらのいえへいってみた。 ところが、その)

私はその足で、院長から聞いた玉村の家へ行ってみた。  ところが、その

(あたりにはたまむらというせいのいえはいっけんもなく、そのいえらしいのに、かしやのふだが)

あたりには玉村という姓の家は一軒もなく、その家らしいのに、貸家の札が

(はってあった。 きんじょでたずねてみると、たまむらというひとはついはんつきばかりまえに)

貼ってあった。  近所でたずねてみると、玉村という人はつい半月ばかり前に

(ひっこしてきて、いっしゅうかんたつかたたないうちに、またどっかへひっこしていった)

ひっこしてきて、一週間たつかたたないうちに、またどっかへ引っ越して行った

(ということであった。 「そのいえで、ちかごろふこうがあったとききましたがほんとう)

ということであった。 「その家で、近頃不幸があったと聞きましたがほんとう

(でしょうか?」とわたしは、わたしにそのはなしをしてくれた、いっけんおいてとなりのきょうぞめやの)

でしょうか?」と私は、私にその話をしてくれた、一軒おいて隣の京染屋の

(おかみさんにきいてみた。 「わたしはよくしりませんけれど、)

お内儀(かみ)さんにきいてみた。 「妾(わたし)はよく知りませんけれど、

(なんでも、ひっこしのまえのひにおそうしきのじどうしゃがきて、しにんをやきばへつれていった)

何でも、引っ越しの前の日にお葬式の自動車が来て、死人を焼場へつれて行った

(とかいうはなしでした。でもべつにおつやのあったようすもなかったし、おきょうをよむこえも)

とかいう話でした。でも別にお通夜のあった様子もなかったし、お経を読む声も

(きこえませんでしたわ。そして、そのつぎのひのおひるごろにすぐおひっこしに)

聞こえませんでしたわ。そして、その次の日のおひる頃にすぐお引っ越しに

(なったのです。ずいぶんかわったひとでしたわ」 「どこへこしていったか)

なったのです。ずいぶん変った人でしたわ」 「どこへ越して行ったか

(わかりませんか?」 とわたしはたずねてみたが、もちろんかのじょはしって)

わかりませんか?」  と私はたずねてみたが、もちろん彼女は知って

(いなかった。そして、ひっこしてきてからいっしゅうかんかそこらしかそこにいなかった)

いなかった。そして、ひっこしてきてから一週間かそこらしかそこにいなかった

(ので、きんじょのひとはおそらくだれもしらないだろうということであった。それでわたしは)

ので、近所の人は恐らく誰も知らないだろうということであった。それで私は

(きんじょをたずねることはだんねんしたがうんそうやにきけばすぐにわかるだろうくらいに)

近所をたずねることは断念したが運送屋にきけばすぐにわかるだろうくらいに

(そのときはかんがえていたのだ。ところが、きょうぞめやのおかみのはなしによると、たまむらという)

その時は考えていたのだ。ところが、京染屋のお内儀の話によると、玉村という

(おとこのひっこしのときには、べつにうんそうやがきたようすはなく、ほんにんはとらんくひとつ)

男の引っ越しの時には、別に運送屋が来た様子はなく、本人はトランク一つ

(もってたくしーでいったきりで、そのあくるひさはいがきてかしやのふだをはって)

もってタクシーで行ったきりで、その翌くる日差配が来て貸家の札をはって

(いったということであった。 そこでわたしはさはいのいえのばんちをきいて、)

行ったということであった。  そこで私は差配の家の番地をきいて、

(そこへいってみた。 「たまむらくんはどこへこしたかわかりませんか?」)

そこへ行ってみた。 「玉村君はどこへ越したかわかりませんか?」

など

(と、わたしはまえからたまむらのしりあいのようなくちょうでたずねた。 「いっしゅうかんばかり)

と、私は前から玉村の知りあいのような句調でたずねた。 「一週間ばかり

(まえにおひっこしになったのですが、どこへともおっしゃいませんでした。こんなこと)

前にお引っ越しになったのですが、どこへとも仰言いませんでした。こんなこと

(があるといけないとおもって、いてんさきをうかがったのですが、いまばんちをおぼえて)

があるといけないと思って、移転先を伺ったのですが、いま番地をおぼえて

(いないからあとでしらせるとおっしゃっていました。でもいまだになにともごつうちが)

いないからあとで知らせると仰言っていました。でもいまだに何ともご通知が

(ありませんのですよ」 さはいのおかみは、いかにももうしわけなさそうに、)

ありませんのですよ」  差配のお内儀は、いかにも申し訳なさそうに、

(わたしのかおをみながらこうわびるようにこたえた。 「にもつはとらんくひとつきりだった)

私の顔を見ながらこう詫びるように答えた。 「荷物はトランク一つきりだった

(そうですね?」 「それがね、ふしぎなんですよ。きんじょのかしふとんやからやぐを)

そうですね?」 「それがね、不思議なんですよ。近所の貸布団屋から夜具を

(ひとくみおかりになったようですが、それにはこないだなくなられたごびょうにんが、)

一組お借りになったようですが、それにはこないだ亡くなられたご病人が、

(おやすみになってらしったようですから、あのかたはこのさむいのにやぐなしで、)

おやすみになってらしったようですから、あの方はこの寒いのに夜具なしで、

(くらしてらしったにちがいないのですよ。まさかあのじゅうびょうにんといっしょにおやすみに)

暮らしてらしったにちがいないのですよ。まさかあの重病人と一緒におやすみに

(なるわけには、いきませんでしょうからね」 わたしはこのはなしをきいて、たまむらと)

なるわけには、いきませんでしょうからね」  私はこの話をきいて、玉村と

(いうおとこはきっとばんにはこのいえにとまったのではないにそういない、このじゅうびょうにんを)

いう男はきっと晩にはこの家にとまったのではないに相違ない、この重病人を

(たったひとりあきやどうぜんのいえにねかしておいてじぶんはどこかへとまりにいったにそうい)

たった一人空家同然の家に寝かしておいて自分はどこかへ泊まりに行ったに相違

(ないとかんがえた。これはじつにごんごどうだんなことだが、このさむいのにいっしゅうかんもやぐなし)

ないと考えた。これは実に言語道断なことだが、この寒いのに一週間も夜具なし

(でくらすということよりも、そのほうがごうりてきだとわたしはかんがえたのだ。)

で暮らすということよりも、その方が合理的だと私は考えたのだ。

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