雨あがる 山本周五郎 ⑪

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投稿者投稿者ヒマヒマ マヒマヒいいね4お気に入り登録
プレイ回数932難易度(4.3) 3266打 長文
腕は立つが人が良すぎるゆえ仕官の口がない伊兵衛と妻の話。
人を押しのけて出世することが出来ない伊兵衛と、妻おたよが長雨のため街道筋の宿屋に逗留している。
寺尾聰、宮崎美子、主演で映画化。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 sada 2993 E+ 3.1 94.5% 1029.2 3271 190 67 2024/05/20

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問題文

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(「しゅぜんがもうしますには、まことにまれなるぶげいしゃ、)

「主膳が申しますには、まことに稀なる武芸者、

(そのるいのないおうでまえといいこうまいなるおこころざしといい、)

その類のないお腕前といい高邁なる御志操といい、

(ろくだかにかかわらずぜひみずいしんがねがいたい、)

禄高に拘らずぜひ御随身が願いたい、

(またはんこうにおかれましてもとくにごねっしんのようにはいされまして」)

また藩侯におかれましても特に御熱心のように拝されまして」

(「いやそんな、それはかぶんなおことばです、わたしはそんな」)

「いやそんな、それは過分なお言葉です、私はそんな」

(「そういうしだいで、とうほうとしてはすでにおめしかかえとけっていしかかったのですが、)

「そういうしだいで、当方としては既にお召抱えと決定しかかったのですが、

(そこにおもわぬこしょうがおこったのです」)

そこに思わぬ故障が起こったのです」

(いへえはいきをのみ、じめんがゆれだすようにかんじて、ぐっとひざをつかんだ。)

伊兵衛は息をのみ、地面が揺れだすように感じて、ぐっと膝を掴んだ。

(「こしょうといってもとうほうのことではなく、せきにんはそこもとからでたのですが」)

「故障といっても当方のことではなく、責任はそこもとから出たのですが」

(だいろくはひややかにつづけた、「それはあなたがかけじあいをなすった、)

大六は冷やかに続けた、「それは貴方が賭け試合をなすった、

(じょうかまちのさるどうじょうにおいてきんすをかけてしあいをし、)

城下町のさる道場において金子を賭けて試合をし、

(かってそのきんすをとってゆかれた・・・、もちろんごきおくでございましょう」)

勝ってその金子を取ってゆかれた・・・、もちろん御記憶でございましょう」

(いへえはかろうじてうなずいた。)

伊兵衛は辛うじて頷いた。

(そしていつかあおやまけのどうじょうで、あいてのさんにんのうちのひとりが、)

そしていつか青山家の道場で、相手の三人のうちの一人が、

(かれをみるなりにげだしたことをおもいだした。)

彼を見るなり逃げだしたことを思いだした。

(「たしかにおぼえております、おぼえておりますけれども」)

「たしかに覚えております、覚えておりますけれども」

(いへえはおろおろと、「それはじつはまことにきのどくなものがおりまして、)

伊兵衛はおろおろと、「それは実はまことに気の毒な者がおりまして、

(このやどにいたきゃくなんですが」)

この宿にいた客なんですが」

(「りゆうのいかんにかかわらず、ぶしとしてかけじあいをするなどということは、)

「理由のいかんに拘らず、武士として賭け試合をするなどということは、

(ふめんぼくのだいいちであるし、それをうったえでたものがあるいじょう、)

不面目の第一であるし、それを訴え出た者がある以上、

など

(とうほうとしてはてをひかざるをえません、)

当方としては手を引かざるを得ません、

(ざんねんながらこのはなしはなかったものとおおもいくださるように」)

残念ながらこの話は無かったものとお思い下さるように」

(うしおだいろくははくせんのうえにかみづつみをのせ、それをいへえのまえにおきながらいった、)

牛尾大六は白扇の上に紙包を載せ、それを伊兵衛の前に置きながら云った、

(「しゅぜんがもうしますには、さしょうながらこれを)

「主膳が申しますには、些少ながらこれを

(りょひのたしにでもおうけくださるよう、とのことでございました」)

旅費の足しにでもお受け下さるよう、とのことでございました」

(「いやとんでもない、こんな」いへえはなくようなかおでてをふった。)

「いやとんでもない、こんな」伊兵衛は泣くような顔で手を振った。

(「こんなごしんぱいはどうか、いろいろいただいていることでもあり、どうかこんな」)

「こんな御心配はどうか、いろいろ戴いていることでもあり、どうかこんな」

(「いいえありがたくちょうだいいたします」)

「いいえ有難く頂戴いたします」

(こういいながら、おたよがきて、おっとのわきにすわった。)

こう云いながら、おたよが来て、良人の脇に坐った。

(いへえはろうばいしたが、だいろくもおどろいて、)

伊兵衛は狼狽したが、大六も驚いて、

(あやふやにあたまをさげてなにかいおうとした。)

あやふやに頭を下げてなにか云おうとした。

(しかしおたよはそのすきをあたえなかった。)

しかしおたよはその隙を与えなかった。

(いくらかこうふんはしているが、しっかりしたちょうしで、)

いくらか昂奮はしているが、しっかりした調子で、

(はきはきとつぎのようにいった。)

はきはきと次のように云った。

(「しゅじんがかけじあいをいたしましたのはわるうございました、わたくしもかねがね)

「主人が賭け試合を致しましたのは悪うございました、わたくしもかねがね

(それだけはやめてくださるようにとねがっていたのでございます、)

それだけはやめて下さるようにと願っていたのでございます、

(けれどもそれがまちがいだったということが、わたくしにははじめてわかりました、)

けれどもそれが間違いだったということが、わたくしには初めてわかりました、

(しゅじんもかけじあいがふめんぼくだということぐらいしっていたとおもいます、)

主人も賭け試合が不面目だということぐらい知っていたと思います、

(しっていながらやむにやまれない、そうせずにいられないばあいがあるのです、)

知っていながらやむにやまれない、そうせずにいられないばあいがあるのです、

(わたくしようやくわかりました、)

わたくしようやくわかりました、

(しゅじんのかけじあいで、おおぜいのひとたちがどんなによろこんだか、)

主人の賭け試合で、大勢の人たちがどんなに喜んだか、

(どんなにすくわれたきもちになったか」)

どんなに救われた気持になったか」

(「おやめなさいよ、しつれいですから」)

「おやめなさいよ、失礼ですから」

(「はい、やめます、そしてあなたにだけもうしあげますわ」)

「はい、やめます、そして貴方にだけ申上げますわ」

(おたよはむきなおり、こえをふるわせていった、)

おたよは向き直り、声をふるわせて云った、

(「これからは、あなたがおのぞみなさるときに、)

「これからは、貴方がお望みなさるときに、

(いつでもかけじあいをなすってください、)

いつでも賭け試合をなすって下さい、

(そしてまわりのものみんな、まずしい、たよりのない、)

そしてまわりの者みんな、貧しい、頼りのない、

(きのどくなかたたちをよろこばせてあげてくださいまし」)

気の毒な方たちを喜ばせてあげて下さいまし」

(かのじょのことばはおえつのためにきえた。)

彼女の言葉は嗚咽のために消えた。

(うしおだいろくはへきえきし、ぐあいわるそうにこうたいし、)

牛尾大六は辟易し、ぐあい悪そうに後退し、

(そこでなんとなくおじぎをして、ひらりとそとへさっていった。)

そこでなんとなくおじぎをして、ひらりと外へ去っていった。

(じこくはちゅうとはんぱになったが、くぎりをつけるというきもちで、)

時刻は中途半端になったが、区切りをつけるという気持で、

(ふたりはまもなくやどをしゅったつした。)

二人は間もなく宿を出立した。

(あのばんのこめもあまっていたが、しゅぜんのくれたかねもせっぱんしてやどのしゅじんにあずけ、)

あの晩の米も余っていたが、主膳の呉れた金も折半して宿の主人に預け、

(またながあめのときやこまっているきゃくがあったら、)

またなが雨のときや困っている客があったら、

(せわをしてやってくれるようにとたのんで、)

世話をしてやって呉れるようにと頼んで、

(・・・ふうふがわらじをはいていると、あのおろくさんというおんながやってきた。)

・・・夫婦が草鞋をはいていると、あのおろくさんという女がやって来た。

(びょうてきにやせてとがったかおを(あいそわらいらしい)みじめにひきつらせながら、)

病的に痩せて尖った顔を(あいそ笑いらしい)みじめにひきつらせながら、

(「ごしんぞうさんこれもってってください」と、やくたいのふるびたのをさんじょうそこへだした、)

「御新造さんこれ持ってって下さい」と、薬袋の古びたのを三帖そこへ出した、

(「わらじにくわれたときつけるといいんですよ、)

「草鞋にくわれたとき付けるといいんですよ、

(たばこのはいなんですけどね、つばでねってつけるとよくききますよ、)

煙草の灰なんですけどね、唾で練って付けるとよく効きますよ、

(もっといいおせんべつをしたいんだけど、そうおもうばかしでね、)

もっといいお餞別をしたいんだけど、そう思うばかしでね、

(つまらないもんだけど」)

つまらないもんだけど」

(「いいえうれしいわ、ありがとう」)

「いいえ嬉しいわ、有難う」

(おたよはしたしいくちぶりでれいをいい、)

おたよは親しい口ぶりで礼を云い、

(ほんとうにうれしそうに、それをふところへいれた。)

本当に嬉しそうに、それをふところへ入れた。

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