透明猫 5 海野十三

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声はすれども姿は見えず。青二はそんな猫らしき生物を拾ってきたが…
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1 saty 4034 C 4.3 92.5% 593.2 2602 209 39 2024/09/30

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問題文

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(だいけんしょうのみせもの そのこやがけは、ろくさんのかおがすこしはきく、)

【 大懸賞の見世物 】  その小屋がけは、六さんの顔がすこしはきく、

(あるさかりばにたてられた。 「げんだいせかいのふしぎ、とうめいねこあらわる」)

ある盛り場にたてられた。 「現代世界のふしぎ、透明猫あらわる」

(「これをみないで、せかいのふしぎをかたるなかれ」)

「これを見ないで、世界のふしぎを語るなかれ」

(「しー・えっち・ぷるぼんどんけんはかせいわく、とうめいねこは1まんねんかんにいっぴき)

「シー・エッチ・プルボンドンケン博士曰く、“透明猫は一万年間に一ぴき

(あらわれるものであるんであると」 「いんちきにあらず。ちゃんと)

あらわれるものであるんであると」 「インチキにあらず。ちゃんと

(いきています。いんちきをはっけんされたかたには、そっきんできん10まんえんなりをぞうていします。)

生きています。インチキを発見された方には、即金で金十万円也を贈呈します。

(とうめいねこふきゅうけんきゅうきょうかいそうさいむらこしむつまろけいはく」 むつさんはえらいなまえまで)

透明猫普及研究協会総裁村越六麿敬白」  六さんはえらい名前まで

(こしらえて、でかでかと、とびらにはりだした。 こいつは、はたして)

こしらえて、でかでかと、とびらにはり出した。  こいつは、はたして

(おおあたりだった。20えんをはらってにゅうじょうしゃがはいること、はいること。)

大あたりだった。二十円をはらって入場者がはいること、はいること。

(「おおいりまんいんにつきしばらくきゃくどめ。そのあいだ、ここにだしてあるとうめいねこ)

「大入満員につきしばらく客どめ。そのあいだ、ここに出してある透明猫

(いけどりのだいぼうけんのずをごらんなさい。こっちにあるのは、とうめいねこのいつわり)

いけどりの大冒険の図をごらんなさい。こっちにあるのは、透明猫のいつわり

(なきしゃしんでござい。いまみおとせば、まつだいまでもはなしができん。さあ、いらっしゃい)

なき写真でござい。今見おとせば、末代までも話ができん。さあ、いらっしゃい

(いらっしゃい。いやいましばらくおおいりまんいんのきゃくどめだ」 むつさんは、)

いらっしゃい。いや今しばらく大入満員の客どめだ」  六さんは、

(ものものしいかっこうで、さかんにこやのまえにあつまるぐんしゅうをあおりつける。)

ものものしいかっこうで、さかんに小屋の前にあつまる群衆をあおりつける。

(じょうないでは、せいじが、これまたたゆうのふくをき、かおとてあしとのどはかくし、)

場内では、青二が、これまた太夫の服を着、顔と手足とのどはかくし、

(きれいにかざりたてたしょうきゅうでんのようなとうめいねこのはいったはこのそばにたって、)

きれいにかざりたてた小宮殿のような透明猫のはいった箱のそばに立って、

(つめかけるきゃくのひとりひとりに、はこのうえのあなからてをいれさせ、とうめいねこを)

つめかける客の一人一人に、箱の上の穴から手を入れさせ、透明猫を

(なでさせるのであった。 ねこはねむいところを、たくさんのひとびとになでられ、)

なでさせるのであった。  猫はねむいところを、たくさんの人々になでられ、

(けをひっぱられ、つかまれるのでおおむくれ。はこのなかをあばれまわって、ふーっ、)

毛をひっぱられ、つかまれるので大むくれ。箱の中をあばれまわって、ふーっ、

(きゃあーっ、と、うなる。 それがまたきゃくのにんきにかなった。まだじゅんばんの)

きゃあーっ、と、うなる。  それがまた客の人気にかなった。まだ順番の

など

(こないきゃくたちは、はこをのぞきこんで、ねこのこえはすれど、そのすがたがさっぱり)

こない客たちは、箱をのぞきこんで、猫の声はすれど、その姿がさっぱり

(みえないのにきょうみをつのらせる。 これはまじゅつではないかと、はこのなかをすみから)

見えないのに興味をつのらせる。  これは魔術ではないかと、箱の中を隅から

(すみまでさぐるおきゃくもおおかった。そういうひとは、とうめいねこのためにてを)

隅までさぐるお客も多かった。そういう人は、透明猫のために手を

(ひっかかれたり、ごていねいにゆびのさきをかみつかれたりして、おどろいたり、)

ひっかかれたり、ごていねいに指の先をかみつかれたりして、おどろいたり、

(かんしんしたりでひきさがるのであった。 しょにちのにゅうじょうりょうのあがりだかは、)

感心したりで引きさがるのであった。  初日の入場料のあがり高は、

(45まんえんもあって、むつさんのむなざんようをはるかにとびこした。 「まあ1まんえん)

四十五万円もあって、六さんの胸算用をはるかにとびこした。 「まあ一万円

(とっときねえ、おれも1まんえんとる。これはこんやのうちにこづかいにつかっちまって)

とっときねえ、おれも一万円とる。これは今夜のうちに小づかいに使っちまって

(いいんだ。のこりの43まんは、ぎんこうにつみたてておこう。まいにちこんなに)

いいんだ。のこりの四十三万は、銀行に積立てておこう。毎日こんなに

(はいるんじゃあ、さつでもっていては、ごうとうにしてやられるからねえ。そして)

はいるんじゃあ、さつで持っていては、強盗にしてやられるからねえ。そして

(ちょきんが1せんまんえんぐらいになったら、ここへすごいじょうせつかんをたてて、だいまじゅつと)

貯金が一千万円ぐらいになったら、ここへすごい常設館をたてて、大魔術と

(さーかすととうめいねこと、みっつをよびものにして、ここへあそびにくるひとのかねを)

サーカスと透明猫と、三つをよびものにして、ここへ遊びに来る人の金を

(みんなさらってしまうんだ」 むつさんは、えらいはないきであった。そしてそのよる)

みんなさらってしまうんだ」  六さんは、えらい鼻息であった。そしてその夜

(せいじをつれて、きんじょのおくまったいえへつれこんで、すごいごちそうをちゅうもんし、)

青二をつれて、近所の奥まった家へつれこんで、すごいごちそうを注文し、

(さけをもってこさせて、だいえんかいをやった。 むつさんのからだにさけがはいると、きゅうに)

酒をもってこさせて、大宴会をやった。  六さんの体に酒が入ると、急に

(ことばがからんできた。 「やいやい、ぼうや。なんだっておまえは、まだぼうしを)

ことばがからんで来た。 「やいやい、坊や。なんだってお前は、まだ帽子を

(とらねえんだ。おれをあまくみてやがるとしょうちしねえぞ。こら、ぼうしをとれ。)

とらねえんだ。おれを甘くみてやがるとしょうちしねえぞ。こら、帽子をとれ。

(てまえはこのそうさいむつさんーーじゃあねえ、なんとかむつまろのあそんをなんと)

手前はこの総裁六さん――じゃあねえ、何とか六麿のアソンを何と

(おもってやがるんだ」 そばにいたおんなたちが、むつさんをとめたけれど、むつさんは)

思ってやがるんだ」  そばにいた女たちが、六さんをとめたけれど、六さんは

(とうとうせいじにおどりかかって、そのぼうしをひったくってしまった。)

とうとう青二におどりかかって、その帽子をひったくってしまった。

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