風船美人4 渡辺温

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プレイ回数555難易度(5.0) 2617打 長文
毎日気球に通っている異人さんが探している地上の宝とは。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 てんぷり 5460 B++ 5.8 94.4% 445.2 2583 152 36 2024/10/25
2 saty 4629 C++ 4.9 94.4% 530.5 2609 153 36 2024/10/22

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問題文

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(わたしはかれのぐらすへあたらしくういすきいをそそがせた。 ーーこれはこいのはなしです。)

私は彼のグラスへ新しくウイスキイを注がせた。  ――これは恋の話です。

(とかれはいった。「ちじょうのたからとは、それこそてんちにかけがえもない、)

と彼は云った。「地上の宝とは、それこそ天地に掛け更えもない、

(わたしのたったひとりのこいびとなのです。」 ーーこいものがたりだったのですか)

私のたった一人の恋人なのです。」  ――恋物語だったのですか

(ーーなんとねえ!」とわたしはすくなからずめんくらった。 ーーかみさまのけいじです。)

――なんとねえ!」と私は少からず面喰った。  ――神様の啓示です。

(きいてください。・・・・・・もうほとんどみつきもまえのことですが、ここくからたずねてきたともだちを)

聞いて下さい。……もう殆ど三月も前のことですが、故国から訪ねて来た友達を

(あんないして、せとないかいのほうへけんぶつりょこうにでかけるつもりだったので、mひゃっかてんへ)

案内して、瀬戸内海の方へ見物旅行に出かけるつもりだったので、M百貨店へ

(いってかいものをしてついでにそうがんきょうをひとつかいました。そして、その)

行って買物をして序(ついで)に双眼鏡を一つ買いました。そして、その

(かいたてのそうがんきょうをもって、わたしはmひゃっかてんのおくじょうからはつのぞきにとうきょうじゅの)

買いたての双眼鏡をもって、私はM百貨店の屋上から初覗きに東京中の

(けしきをながめまわしてみました。はれたひのひるさがりで、おおきなかもつせんのたくさん)

景色を眺めまわしてみました。晴れた日の午さがりで、大きな貨物船の沢山

(うかんだあおいしながわのうみや、かぞえきれないほどのえんとつや、とたんやねや、せんたくものが)

浮かんだ碧い品川の海や、数え切れない程の煙突や、とたん屋根や、洗濯物が

(いっぱいかかっているものほしや、いろんなものがみえました。うえののやまのあおぞらに)

一っぱいかかっている物干しや、いろんなものが見えました。上野の山の青空に

(ふうせんがうかんで、そのしたにちりかけたさくらのはながすすけたふるわたのようにきたならしく)

風船が浮かんで、その下に散りかけた桜の花が煤けた古綿のように汚ならしく

(みえました。それから、そのつぎにれんずをうごかしたはずみに、おおぜいの)

見えました。それから、その次にレンズを動かしたはずみに、大ぜいの

(まちのひとびとのすがたがうつりました、そのなかに、ふとわたしはひじょうにきれいな)

市井(まち)の人々の姿が映りました、その中に、ふと私は非常に綺麗な

(むすめさんのかおをみつけました。じゅんぜんたるにほんのかみをゆったしょうじょで、とうようてきうつくしさの)

娘さんの顔を見つけました。純然たる日本の髪を結った少女で、東洋的美しさの

(てんけいともいいたい、ほとけさまのようなやさしいきよらかなかおでした。わたしはひとめみて)

典型とも云いたい、仏さまのような優しい清らかな顔でした。私は一眼見て

(はげしくこころをうたれてしまいました。たとえようもないむにむさんなれんぼのじょうが)

はげしく心を打たれてしまいました。たとえようもない無二無三な恋慕の情が

(するどくむねをかきむしりました。わたしはいくどもぴんとをあわせなおしました、しかし、)

するどく胸をかきむしりました。私は幾度もピントを合せ直しました、併し、

(あまりいらだったために、かえってさいしょのただしいしょうてんをなくしていっそう)

あまり焦立(いらだ)ったために、却って最初の正しい焦点をなくして一層

(うろたえているなかに、なさけないことにも、かのじょのすがたはやがてゆきかうひとびとのかげへ)

うろたえている中に、情ないことにも、彼女の姿はやがて行き交う人々の蔭へ

など

(かくれてしまいました。そして、どんなについきゅうしてもむだでした。わたしはあらゆる)

かくれてしまいました。そして、どんなに追求しても無駄でした。私はあらゆる

(どりょくをはらってかのじょをもういちどさがしだそうとかたくけっしんしました。それで)

努力を払って彼女をもう一度探し出そうと固く決心しました。それで

(せとないかいいきもちゅうししてそのひいらい、えんあるものならばながいあいだにはふたたびあえぬはずは)

瀬戸内海行も中止してその日以来、縁あるものならば永い間には再び会えぬ筈は

(ないとしんじて、mひゃっかてんのやねで、そのひとおなじこくげんにはかならずみはりに)

ないと信じて、M百貨店の屋根で、その日と同じ刻限には必ず見張りに

(たつことにしたのです。が、かんがえてみれば、かのじょのすがたのみえたところがうえのの)

立つことにしたのです。が、考えて見れば、彼女の姿の見えたところが上野の

(ほうこうにあたっていたことだけはあきらかなのだから、これははくらんかいのふうせんのほうがずっと)

方向に当っていたことだけは確なのだから、これは博覧会の風船の方がずっと

(ゆうりであるとさとって、さっそくけいかくをへんこうしてけいききゅうへのりました。けれども)

有利であると覚って、早速計画を変更して軽気球へ乗りました。けれども

(ひとつきたっても、ふたつきたっても、わたしのはかないこいがなんのむくいられる)

一月経っても、二月経っても、私の果敢(はか)ない恋が何の報いられる

(ところもなかったことはごぞんじのとおりです。はくらんかいはいよいよおしまいに)

ところもなかったことは御存知の通りです。博覧会はいよいよおしまいに

(なります。いまさらmひゃっかてんのおくじょうへもどるゆうきもうせてしまいました。わたしのこいと)

なります。今更M百貨店の屋上へもどる勇気も失せてしまいました。私の恋と

(したことがたとえばしべりあのだいしんりんのなかへらっかしてそのままらくようのそこふかく)

したことがたとえばシベリアの大森林の中へ落下してそのまま落葉の底深く

(えいえんにうずもれてしまったいんせきのうんめいのごとくに、よくよくふしあわせなもの)

永遠に埋もれてしまった隕石の運命の如くに、よくよく不仕合せなもの

(かもしれません。」 せいようじんはすすりなきにないた。)

かも知れません。」  西洋人はすすり泣きに泣いた。

(ーーそれは、それは・・・・・・」とそういってわたしもついかなしくなった。)

――それは、それは……」とそう云って私もつい悲しくなった。

(わたしはよろめきながらあわててたちあがっておんなのこをよんだ。)

私はよろめきながら周章(あわ)てて立ち上って女の子を呼んだ。

(ーーおけいちゃん、おけいちゃん!えくぼういすきいのおかわりじゃ!」)

――おけいちゃん、おけいちゃん! えくぼウイスキイのお代りじゃ!」

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