おいてけ堀 1 田中貢太郎

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江戸は本所の七不思議の一つ『おいてけ堀』のお話
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1 ねね 3858 D++ 3.9 98.0% 532.1 2094 41 31 2024/01/30

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問題文

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(ほんしょのおたけぐらからひがしよっつめどおり、いまのひふくしょうあとののうこつどうのあるあたりに)

本所のお竹蔵から東四つ目通、今の被服廠跡の納骨堂のあるあたりに

(おおきないけがあって、それがほんしょのななふしぎのひとつの「おいてけぼり」であった。)

大きな池があって、それが本所の七不思議の一つの「おいてけ堀」であった。

(そのいけにはふなやなまずがたくさんいたので、つりにゆくものがあるが、いちにちつって)

其の池には鮒や鯰がたくさんいたので、釣りに往く者があるが、一日釣って

(さてかえろうとすると、どこからか、おいてけ、おいてけというこえがするので、)

さて帰ろうとすると、何処からか、おいてけ、おいてけと云う声がするので、

(きのよわいものは、つっているさかなをびくからだしてにげてくるが、きのつよいものは、)

気の弱い者は、釣っている魚を魚籃から出して逃げて来るが、気の強い者は、

(かぜかなにかのぐあいでそんなおとがするだろうくらいにおもって、へいきでかえろうとすると、)

風か何かのぐあいでそんな音がするだろう位に思って、平気で帰ろうとすると、

(みつめこぞうがでたりひとつめこぞうがでたり、ときとするとろくろくび、ときとすると)

三つ目小僧が出たり一つ目小僧が出たり、時とすると轆轤首、時とすると

(いっぽんあしのからかさのおばけがでてみちをふさぐので、きのつよいものも、それにはふるえあがって)

一本足の唐傘のお化が出て路を塞ぐので、気の強い者も、それには顫えあがって

(さかなはもとよりびくもつりざおもほうりだしてにげてくるといわれていた。)

魚は元より魚籃も釣竿もほうり出して逃げて来ると云われていた。

(きんたというつりずきのわかいしゅがあった。きんたはおいてけぼりにふながおおい)

金太と云う釣好の壮佼(わかいしゅ)があった。金太はおいてけ堀に鮒が多い

(ときいたのでつりにいった。りょうごくばしをわたったところで、しりあいのろうじんにあった)

と聞いたので釣りに往った。両国橋を渡ったところで、知りあいの老人に逢った

(「おや、きんこうか、つりにいくのか、どこだ」 「おたけぐらのいけさ、ことしはふながおおいと)

「おや、金公か、釣に往くのか、何処だ」 「お竹蔵の池さ、今年は鮒が多いと

(いうじゃねえか」 「あすこは、ふなでも、なまずでも、たんといるだろうが、)

云うじゃねえか」 「彼処は、鮒でも、鯰でも、たんといるだろうが、

(いけねえぜ、あすこにはかいぶつがいるぜ」 きんたもおいてけぼりのあやしいはなしはきいていた)

いけねえぜ、彼処には怪物がいるぜ」 金太もおいてけ堀の怪い話は聞いていた

(「いたら、ついでに、それもつってくるさ。いまどき、からかさのおばけでもつりゃ、)

「いたら、ついでに、それも釣ってくるさ。今時、唐傘のお化でも釣りゃ、

(いいかねになるぜ」 「かねになるよりゃ、あたまからしゃぶられたら、どうするのだ。)

良い金になるぜ」 「金になるよりゃ、頭からしゃぶられたら、どうするのだ。

(いくなら、ほかへゆきなよ、あんなえんぎでもねえところへいくものじゃねえよ」)

往くなら、他へ往きなよ、あんな縁儀でもねえ処へ往くものじゃねえよ」

(「なに、だいじょうぶってことよ、おいらにゃ、かんだみょうじんがついてるのだ」)

「なに、大丈夫ってことよ、おいらにゃ、神田明神がついてるのだ」

(「それじゃ、まあ、いってきな。そのかわり、くらくなるまでいちゃいけねえぜ」)

「それじゃ、まあ、往ってきな。其のかわり、暗くなるまでいちゃいけねえぜ」

(「さかながつれるなら、こんばんはつきがあるよ」 「ほんとだよ、としよりのいうことは)

「魚が釣れるなら、今晩は月があるよ」 「ほんとだよ、年よりの云うことは

など

(きくものだぜ」 「ああ、それじゃ、きをつけていってくる」)

きくものだぜ」 「ああ、それじゃ、気をつけて往ってくる」

(きんたはわらいわらいろうじんにわかれていけへいった。いけのしゅういにはでたばかりのあしのはが)

金太は笑い笑い老人に別れて池へ往った。池の周囲には出たばかりの蘆の葉が

(ひるのびふうにそよいでいた。きんたはさいしょのうちこそおばけのことをあたまに)

午の微風にそよいでいた。金太は最初のうちこそお妖怪(ばけ)のことを頭に

(おいていたが、ふながあとからあとからとつれるので、もうほかのことはわすれてしまって)

おいていたが、鮒が後から後からと釣れるので、もう他の事は忘れてしまって

(いっしょけんめいになってつった。そして、ちかくのてらからひびいてくるかねにきがついてかおを)

一所懸命になって釣った。そして、近くの寺から響いて来る鐘に気が注いて顔を

(あげた。とおかごろのつきしろがいけのにしがわのあしのはのうえにあった。)

あげた。十日比の月魄(つきしろ)が池の西側の蘆の葉の上にあった。

(きんたはそこで3ぼんやっていたつりざおをあげて、いとをまきつけ、それからみずのなかへ)

金太はそこで三本やっていた釣竿をあげて、糸を巻つけ、それから水の中へ

(つけてあったびくをあげた。びくにはいっかんもんめあまりのさかながいた。 「おもいや」)

浸けてあった魚籃をあげた。魚籃には一貫匁あまりの魚がいた。 「重いや」

(きんたはいっぽうのてにつりざおをもち、いっぽうのてにびくをもった。と、どこからか)

金太は一方の手に釣竿を持ち、一方の手に魚籃を持った。と、何処からか

(ひとごえのようなものがきこえてきた。 「おい、てけ、おい、てけ」)

人声のようなものが聞えて来た。 「おい、てけ、おい、てけ」

(きんたはやろうとしたあしをとめた。)

金太はやろうとした足をとめた。

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