イワンとイワンの兄2 渡辺温

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父親がイワンに残した食うに困らぬ「行末」とは。

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問題文

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(3 いわんのあには、いわんがねてしまってから、いわんなぞのしらない)

3  イワンの兄は、イワンが寝てしまってから、イワンなぞの知らない

(わるいなかまといっしょによあそびにいって、よあけになってかえってきました。)

悪い仲間と一緒に夜遊びに行って、夜明けになって帰って来ました。

(あるよるのこと、もうじきむせっぽいあさにちかかったのですが、いわんのあには、)

ある夜のこと、もうじき噎っぽい朝に近かったのですが、イワンの兄は、

(ゆうえんちのうらのあおいがすとうのしたに、よどおしよつゆにぬれながらたっていたむすめを)

遊園地の裏の青い瓦斯灯の下に、夜通し夜露に濡れながら立っていた娘を

(みつけました。むすめは、けばけばしいいろのあたらしいくつしたをはいて、それをつかいふるした)

見つけました。娘は、けばけばしい色の新しい靴下を穿いて、それを使い古した

(りぼんでゆわいてとめていましたが、むすめはみなしごでくらしにこまったため、)

リボンで結いて留めていましたが、娘は孤し児で暮しに困ったため、

(そのばんはじめてそんなところにたったのでした。それだから、むすめのすがたは)

その晩はじめてそんな処に立ったのでした。それだから、娘の姿は

(のぎくのはなのようにあわれできよらかでした。いわんのあにがむすめのそのふぜいに)

野菊の花のように哀れで清らかでした。イワンの兄が娘のその風情に

(ひきつけられたのはむりもないしだいだったのです。 「ぼくのおよめさんに)

惹きつけられたのは無理もない次第だったのです。 『僕のお嫁さんに

(ならないか?」 といわんのあにはむすめにいいよりました。)

ならないか?』 とイワンの兄は娘に云い寄りました。

(「あなた、あたしをあいしてくださるの?」 むすめはばらいろのべにがあせてしまったくちびるを)

『あなた、あたしを愛して下さるの?』 娘は薔薇色の紅が褪せてしまった唇を

(やっとひらいてそうききました。 「もちろんさ。ちかってもいいよ。」)

やっと開いてそう訊きました。 『勿論さ。誓ってもいいよ。』

(「あたし、それじゃあなたのおよめさんにしていただくわ。」 「あしたのばん、けっこんしきを)

『あたし、それじゃあなたのお嫁さんにして頂くわ。』 『明日の晩、結婚式を

(あげよう。」 そこでいわんのあにはそのみなしごのむすめをつれていえにかえりました。)

あげよう。』  そこでイワンの兄はその孤し児の娘を連れて家に帰りました。

(4 いわんのあにはふとしたひょうしで、うつくしいはなよめをむかえることができたから、)

4  イワンの兄はふとした拍子で、美しい花嫁を迎えることが出来たから、

(ひとかたならずうれしくおもいました。 「いわんや、めをさましなさい。こんなきぶんの)

一方ならず嬉しく思いました。 『イワンや、目をさましなさい。こんな気分の

(いいあさにねぼうをするなんてふこうのこっちょうだよ。はやくおきて、そしてまどのそとを)

いい朝に寝坊をするなんて不幸の骨頂だよ。早く起きて、そして窓の外を

(みてごらん。」 いわんのあには、そのあさそういっていわんをゆりおこしました。)

見てごらん。』  イワンの兄は、その朝そう云ってイワンを揺り起しました。

(いわんはまどからきんいろのあさひのいっぱいにさしているにわのけしきをながめました。)

イワンは窓から金色の朝日のいっぱいにさしている庭の景色を眺めました。

(するといわんのおどろいたことには、はなばたけのあいだを、いままでについぞみたこともない)

するとイワンのおどろいたことには、花畑の間を、今迄についぞ見たこともない

など

(にんぎょうのようにかわいらしいむすめが、いかにもたのしげに、こおどりしながらあるきまわって)

人形のように可愛らしい娘が、如何にも楽しげに、小踊りしながら歩き廻って

(いるではありませんか。いわんはめをみはったままたずねました。 「にいさん。)

いるではありませんか。イワンは眼を瞠ったまま訊ねました。 『兄さん。

(あのひとはだれだろうか?」 「にいさんのおよめさんさ。」)

あの人は誰だろうか?』 『兄さんのお嫁さんさ。』

(「それでいえのひとになったのだねーー」 「そうだよ。」)

『それで家の人になったのだね――』 『そうだよ。』

(いわんはそんなきれいなおんなのひととひとつのやねのしたにすんでいられることをおもうと)

イワンはそんな綺麗な女の人と一つの屋根の下に住んでいられることを思うと

(むねがおどりました。 いわんはしかし、むすめのすがたにみとれているうちに、)

胸が躍りました。  イワンは併し、娘の姿に見恍れているうちに、

(だんだんせつなくなりました。 いわんは、むすめのあたまのさきからあしのさきまでに、)

だんだんせつなくなりました。  イワンは、娘の頭の先から足の先迄に、

(こいをしてしまったのです。 いわんは、とうとうおもいきっていいました。)

恋をしてしまったのです。  イワンは、到頭思い切って云いました。

(「にいさん。にいさんはおよめさんと、ぼくのぎんのはこのかぎとでは、どっちが)

『兄さん。兄さんはお嫁さんと、僕の銀の箱の鍵とでは、どっちが

(よけいほしいとおもう?ーー」 「なぜ、そんなことをいいだしたのだ?」)

余計欲しいと思う?――』 『なぜ、そんな事を云い出したのだ?』

(といわんのあには、びっくりしてききかえしました。 「ぼくはにいさんが、)

とイワンの兄は、喫驚(びっくり)してきき返しました。 『僕は兄さんが、

(きんかやはたけなんかではなく、あのおよめさんとかぎとをとりかえてくれればいいと)

金貨や畑なんかではなく、あのお嫁さんと鍵とを取り換えてくれればいいと

(おもうのだけれど。」 「それはほんとうのことかい?いわんや!」)

思うのだけれど。』 『それは本当のことかい? イワンや!』

(「ほんとうだとも!」 「よろしい。きょうだいどうしのことだもの。ちっともえんりょなぞ)

『本当だとも!』 『よろしい。兄弟同志の事だもの。ちっとも遠慮なぞ

(しなくてもいい。およめさんは、どうせどっちかにひとりいればすむのだから、)

しなくてもいい。お嫁さんは、どうせどっちかに一人いれば済むのだから、

(にいさんはおまえさえよければ、よろこんでとりかえてあげようよ。」 いわんはむねから)

兄さんはお前さえよければ、喜んで取換えてあげようよ。』  イワンは胸から

(あんなにたいせつにしてはだみにつけていたぎんのこばこのかぎをとって、おしげもなく)

あんなに大切にして肌身につけていた銀の小箱の鍵をとって、惜しげもなく

(あににわたしてしまいました。)

兄に渡してしまいました。

(5 そのばん、いわんとむすめとのさかんなけっこんしきがあげられました。)

5  その晩、イワンと娘との盛んな結婚式が挙げられました。

(ーーどうしたものか、いっかのあるじであるにもかかわらず、いわんのあにはおとうとの)

――どうしたものか、一家の主であるにも拘らず、イワンの兄は弟の

(はれのしゅくえんにすがたをみせようともしませんでした。)

晴れの祝宴に姿を見せようともしませんでした。

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