幽霊船の秘密12 海野十三

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SOS信号受けて貨物船が向かった先には船がなく…

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問題文

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(とけたかいい ゆうれいせんのなかにひそんでいたなぞは、いったいなんであったろうか。)

【解けた怪異】  幽霊船の中に潜んでいた謎は、一体なんであったろうか。

(せんそうのくらがりのなかからきこえるごとごとというかいおん、それにつづいて)

船艙のくらがりの中から聞えるごとごとという怪音、それにつづいて

(きらきらとひかったもの! じゅうをもったかいたには、たいちょうふるやきょくちょうのうでをとらえ、)

キラキラと光った物!  銃をもった貝谷は、隊長古谷局長の腕をとらえ、

(「きょくちょう、あれをごらんなさい。ひかるものはふたつならんでいます。あれは)

「局長、あれをごらんなさい。光る物は二つならんでいます。あれは

(どうぶつのめですよ」 「どこだい。よくみえないが・・・・・・」)

動物の眼ですよ」 「どこだい。よく見えないが……」

(といっているとき、うおーっといううなりごえ。 「きょくちょう、いっぱつうたせて)

といっているとき、うおーっという呻りごえ。 「局長、一発撃たせて

(ください。そうしないと、こっちがやられてしまいます」 「じゃあ、・・・・・・」)

ください。そうしないと、こっちがやられてしまいます」 「じゃあ、……」

(きょくちょうのことばなかばにして、だーんとじゅうせいがひびいた。かいたにがとうとうねらいを)

局長の言葉半ばにして、だーんと銃声がひびいた。貝谷がとうとう狙いを

(さだめてうったのである。やみのなかに、たしかにてごたえがあった。それっきり)

さだめて撃ったのである。闇の中に、たしかに手応えがあった。それっきり

(うなりごえはしなくなった。 「どうしたんだろうなあ、かいたに」)

呻り声はしなくなった。 「どうしたんだろうなあ、貝谷」

(「きょくちょう。うまくしとめたんです。そばへいってみましょう」 きょくちょうとかいたにとは)

「局長。うまく仕とめたんです。そばへいってみましょう」  局長と貝谷とは

(のこりすくないきちょうなまっちをすって、そばにちかづいた。そこにはおおきなおどろきが、)

残りすくない貴重なマッチをすって、そばに近づいた。そこには大きな愕きが、

(ふたりをまっていた。 「あっ、ひょうだ!くろひょうがしんでいる!」)

二人を待っていた。 「あっ、豹だ! 黒豹が死んでいる!」

(せんそうのすみに、こうしほどもあろうというおおきなくろひょうが、みごとにひたいをうちぬかれて)

船艙の隅に、小牛ほどもあろうという大きな黒豹が、見事に額を撃ちぬかれて

(ぐたりとながくのびていた。 「ああ、もうすこしで、こいつにくわれてしまう)

ぐたりと長くのびていた。 「ああ、もうすこしで、こいつに喰われてしまう

(ところだった」 「かいたに。おまえのうでまえには、かんしんしたよ。いや、かんしんしたばかり)

ところだった」 「貝谷。お前の腕前には、感心したよ。いや、感心したばかり

(ではない。あぶないところでいのちをたすけてもらったことをかんしゃするぞ。だがーー」)

ではない。危いところで生命を助けてもらったことを感謝するぞ。だが――」

(と、いって、きょくちょうはおおきなこきゅうをして、 「おいかいたに。これでゆうれいせんのひみつが)

と、いって、局長は大きな呼吸をして、 「おい貝谷。これで幽霊船の秘密が

(とけたではないか」 「えっ、ゆうれいせんのひみつだといいますと・・・・・・」)

解けたではないか」 「えっ、幽霊船の秘密だといいますと……」

(「ほらかんぱんだのぶりっじだのにじんこつがちらばっていたことさ。つまりこのゆうれいせんには)

「ほら甲板だの船橋だのに人骨がちらばっていたことさ。つまりこの幽霊船には

など

(おりをやぶったもうじゅうがあばれていたんだ。そしてせんいんをかたっぱしからくいあらして)

檻を破った猛獣が暴れていたんだ。そして船員を片っ端から喰いあらして

(いたのにちがいない」 「ああ、なるほど。もうじゅうだから、にんげんのにくをすっかり)

いたのにちがいない」 「ああ、なるほど。猛獣だから、人間の肉をすっかり

(きれいにたべつくし、ほねだけのこしていたというわけですか。そうかも)

綺麗に喰べつくし、骨だけ残していたというわけですか。そうかも

(しれませんねえ」 といったが、あめのかんぱんやぶりっじのうえについていたおおきな)

しれませんねえ」  といったが、雨の甲板や船橋のうえについていた大きな

(まるみのあるけっこんは、このくろひょうのあしあとだったと、いまにしてふたりはおもいあたった)

丸味のある血痕は、この黒豹の足跡だったと、今にして二人は思いあたった

(ことである。まったくおそろしいことだ。こうかいちゅうのきせんのなかに、もうじゅうがあばれだして、)

ことである。全く恐ろしいことだ。航海中の汽船の中に、猛獣が暴れだして、

(せんいんをたべた。たいかいにただようふねのなかだから、にげだすこともどうすることも)

船員を喰べた。大海に漂う船の中だから、逃げだすこともどうすることも

(できなかったのであろう。 「ねえきょくちょう。せんないをあらしまわってにんげんをくった)

できなかったのであろう。 「ねえ局長。船内をあらしまわって人間を喰った

(くろひょうというのはいまうちとめたこの1とうだけでしょうか」 「さあ、どうだか」)

黒豹というのはいま撃ちとめたこの一頭だけでしょうか」 「さあ、どうだか」

(ときょくちょうはいったが、 「どうも1とうだけとはかんがえられないね。なにしろ、)

と局長はいったが、 「どうも一頭だけとは考えられないね。なにしろ、

(あのとおりじんこつがちらばっているところをみても、この1とうだけのしわざだとは)

あのとおり人骨が散らばっているところをみても、この一頭だけの仕業だとは

(かんがえられないよ」 「じゃあ、そとのやつをけいかいしなければなりませんね」)

考えられないよ」 「じゃあ、外の奴を警戒しなければなりませんね」

(「そうだ、どっかそのへんにひそんでいるやつがあるかもしれない」 そういって)

「そうだ、どっかその辺に潜んでいる奴があるかもしれない」  そういって

(いるとき、かんぱんのほうとおもわれるけんとうで、とつぜん、うわーっとだれかのひめい!)

いるとき、甲板の方とおもわれる見当で、とつぜん、うわーっと誰かの悲鳴!

(「あっ、だれかが・・・・・・」 「うむ、もうじゅうがでたのかもしれない。すぐいってやろう)

「あっ、誰かが……」 「うむ、猛獣が出たのかもしれない。すぐいってやろう

(かいたに、つづけ!」 ふるやきょくちょうは、たんけんをてに、せんそうからかんぱんへつうじるかいだんを)

貝谷、続け!」  古谷局長は、短剣を手に、船艙から甲板へ通じる階段を

(まっしぐらにかけあがる。)

まっしぐらに駈けあがる。

(こころぼそいだんがん かんぱんへでてみると、そこにはそうぞうしたいじょうの、)

【心細い弾丸】  甲板へ出てみると、そこには想像した以上の、

(たいへんなこうけいがてんかいしていた。ふるやきょくちょうのつれてきた2ごうていのれんちゅうが、)

たいへんな光景が展開していた。古谷局長のつれてきた二号艇の連中が、

(ますとのうえにすずなりになって、しきりにしたをむいてわめいている。 「あっ、きょくちょう。)

檣の上に鈴なりになって、しきりに下を向いて喚いている。 「あっ、局長。

(いますいます、もうじゅうが56とういます」 「えっ、どこにいる?」)

いますいます、猛獣が五六頭います」 「えっ、どこにいる?」

(と、いっているところへ、うおーっとひとこえうなりごえをあげてちかづいてきた)

と、いっているところへ、うおーっと一声呻り声をあげて近づいてきた

(1とうのらいおん。 「あっ、あぶない!」というまもなく、)

一頭のライオン。 「あっ、危い!」という間もなく、

(らいおんはきょくちょうとかいたにのうえをとびこえて、ますとのしたへーー。 そこには、)

ライオンは局長と貝谷の上をとびこえて、檣の下へ――。  そこには、

(さっきから56とうのらいおんがいりみだれて、ますとにのぼっているわじままるのせんいんを)

さっきから五六頭のライオンが入りみだれて、檣にのぼっている和島丸の船員を

(しきりにねらっている。 「うーむ、これはこまった。じゅう1ちょうでは、)

しきりに狙っている。 「うーむ、これは困った。銃一挺では、

(どうすることもできない」 と、ふるやきょくちょうはたんせいをはっした。)

どうすることもできない」  と、古谷局長は嘆声を発した。

(「でもきょくちょう。あとだんがんは5はつありますから、だんがんのあるだけうってみましょう」)

「でも局長。あと弾丸は五発ありますから、弾丸のあるだけ撃ってみましょう」

(かいたには、もうかくごをきめていた。 「まて!5はつのだんがんをうったあとを)

貝谷は、もう覚悟をきめていた。 「待て! 五発の弾丸を撃ったあとを

(かんがえると、そうかんたんにうつわけにいかないぞ。だんがんがなくなれば、)

考えると、そう簡単に撃つわけにいかないぞ。弾丸がなくなれば、

(われわれもまた、このきせんののりくみいんとおなじうんめいにおちいって、もうじゅうにくわれてはっこつに)

われわれもまた、この汽船の乗組員と同じ運命に陥って、猛獣に喰われて白骨に

(なるではないか。うつのはしばらくまて!」 もうじゅうは、ものすごいこえをあげて)

なるではないか。撃つのはしばらく待て!」  猛獣は、ものすごい声をあげて

(ほうこうする。どれもこれも、はらがへっているらしい。このほうこうにつれて、)

咆哮する。どれもこれも、腹がへっているらしい。この咆哮につれて、

(ますとのしたにはこくこくともうじゅうのかずがふえてゆく。(ふーん、いったいこのふねにはなんじゅっとうの)

檣の下には刻々と猛獣の数が殖えてゆく。(ふーん、一体この船には何十頭の

(もうじゅうがいるのかしら)とかいたにが、ためいきとともにつぶやいた。ますとのしたには、)

猛獣がいるのかしら)と貝谷が、溜息とともに呟いた。檣の下には、

(いまやすくなくとも9とうか10とうのらいおんとひょうがつどっている。わじままるのせんいんたちは、)

今や少くとも九頭か十頭のライオンと豹が集っている。和島丸の船員たちは、

(ますとのうえにしがみついたままいきたいろもない。 かいたには、つみあげたろっぷの)

檣の上にしがみついたまま生きた色もない。  貝谷は、積みあげたロップの

(かげから、もうじゅうのどうせいをじっとみまもっている。 そのあとで、ふるやきょくちょうは、)

蔭から、猛獣の動静をじっと見守っている。  その後で、古谷局長は、

(しきりにちえをしぼっていたようであったが、 「そうだ、いいことがある!」)

しきりに智慧をしぼっていたようであったが、 「そうだ、いいことがある!」

(とさけんで、かいたにのかたをたたいた。 )

と叫んで、貝谷の肩を叩いた。

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