ちくしょう谷 13

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プレイ回数1584難易度(4.5) 4005打 長文 長文モードのみ
隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 pechi 5799 A+ 6.5 90.0% 628.5 4100 455 71 2024/04/17

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問題文

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(おかむらしちろうべえはしらなかった。こもののなかにはごねんも)

岡村七郎兵衛は知らなかった。小者の中には五年も

(きどにつめているものがある、そのおとこはむらのことを)

木戸に詰めている者がある、その男は村のことを

(ずいぶんよくしっているようだが、しょうないろうじんについては)

ずいぶんよく知っているようだが、正内老人については

(なにもはなしたことはない。むらのにんべつにはいっていないということは、)

なにも話したことはない。村の人別にはいっていないということは、

(おそらくだれもしらないだろう、としちろうべえはいった。)

おそらく誰も知らないだろう、と七郎兵衛は云った。

(「ああそうだ」しばらくあるいてから、おかむらはふときづいたようにいった、)

「ああそうだ」暫く歩いてから、岡村はふと気づいたように云った、

(「ろうじんにはさいじょとこどもがあって、どちらもむらでびょうしした)

「老人には妻女と子供があって、どちらも村で病死した

(ということをききましたよ、ぼちへゆけばはかがあるはずです」)

ということを聞きましたよ、墓地へゆけば墓がある筈です」

(「むらのなかにあるのか」「ごあんないしましょう、いちばんたかいところです」)

「村の中にあるのか」「御案内しましょう、いちばん高いところです」

(さかをくだり、でこぼこしただんがいにそって、しるしのいしのところまでゆくと、)

坂をくだり、でこぼこした断崖に沿って、標の石のところまでゆくと、

(おかむらしちろうべえは「こっちです」とてをふり、このまえよりいちだんたかい)

岡村七郎兵衛は「こっちです」と手を振り、このまえより一段高い

(ひのきのほうへのぼっていった。いわばかりのみちであるが、)

檜のほうへ登っていった。岩ばかりの道であるが、

(みちやすぎがさわやかににおい、いわのすきまにはくさがめぶいていた。)

道や杉が爽やかに匂い、岩の隙間には草が芽ぶいていた。

(とちがわるいのか、ふうせつがきびしいためか、ここではひのきもすぎもたけがひくく、)

土地が悪いのか、風雪がきびしいためか、ここでは檜も杉も丈が低く、

(みきやしようもやせているようにみえるが、そのわかばのにおいや、)

幹や枝葉も痩せているようにみえるが、その若葉の匂いや、

(いわちをぬいてのびるくさの、あざやかなわかみどりのいろは、)

岩地をぬいて伸びる草の、あざやかな若みどりの色は、

(そのまませいめいのちからと、ねづよさをしめしているようにおもえた。)

そのまま生命の力と、根づよさを示しているように思えた。

(ぼちをほとんどのぼりつめようとするところで、おかむらしちろうべえはひだりへまがり、)

墓地を殆んど登り詰めようとするところで、岡村七郎兵衛は左へ曲り、

(ごじゅっぽほどいってから、みぎがわにあるひのきのいけがきへ、てをふってみせた。)

五十歩ほどいってから、右側にある檜の生垣へ、手を振ってみせた。

(「わたしはここでまっています」「またなくともいい」とはやとがいった、)

「私はここで待っています」「待たなくともいい」と隼人が云った、

など

(「さきにろうじんのところへいっていてくれ」)

「先に老人のところへいっていてくれ」

(ぼちはごひゃくつぼばかりのひろさで、しほうをひのきのいけがきでかこんであった。)

墓地は五百坪ばかりの広さで、四方を檜の生垣で囲んであった。

(いわくずをあつめたものか、あかみをおびたあらつちが、)

岩屑を集めたものか、あかみを帯びたあら土が、

(ところどころまんじゅうのようにもりあげてある。)

ところどころ饅頭のように盛上げてある。

(それはまだあたらしいのであろう、そのほかはもりあげたつちもひらたくなり、)

それはまだ新しいのであろう、そのほかは盛上げた土も平たくなり、

(はかであるしるしだけのように、ながさいっしゃく、はばさんすんばかりのいたがたっている。)

墓である標だけのように、長さ一尺、幅三寸ばかりの板が立っている。

(ちかよってよくみると、そのいたのひょうめんには、ししゃのぞくめいと、)

近よってよく見ると、その板の表面には、死者の俗名と、

(しんだねんがっぴがかいてあるだけで、ほうみょうのあるものはひとつもなかった。)

死んだ年月日が書いてあるだけで、法名のあるものは一つもなかった。

(はやとはじゅんにぼひょうをよんでいった。まつぞう、なんねんなんがつなんにち。)

隼人は順に墓標を読んでいった。松造、何年何月何日。

(はる、なんねんなんがつなんにち。すが。こばな。おんななまえのほうがおおいようだし、)

はる、何年何月何日。すが。こばな。女名前のほうが多いようだし、

(ふるいものはじがうすれたり、まったくきえてしまったりして、)

古いものは字がうすれたり、まったく消えてしまったりして、

(はんどくもできないのがずいぶんあった。)

判読もできないのがずいぶんあった。

(はやとはなかほどにたちどまり、はかとはいえないそのはかのむれをながめまわした。)

隼人は中ほどに立停り、墓とはいえないその墓の群を眺めまわした。

(「たとえきんせきでくみあげたはかでも、ときがたてばやがてはくずれくちてしまう」)

「たとえ金石で組みあげた墓でも、時が経てばやがては崩れ朽ちてしまう」

(かれはくちのなかで、はかのぬしによびかけるように、つぶやいた、)

彼は口の中で、墓のぬしに呼びかけるように、呟いた、

(「しんでしまったあなたがたには、ほうみょうがつこうとつくまいと、)

「死んでしまった貴方がたには、法名が付こうと付くまいと、

(くようされようとされまいと、なんのかかわりもないだろう、)

供養されようとされまいと、なんのかかわりもないだろう、

(そういうことはみないきているもののなぐさめだ」)

そういうことはみな生きている者の慰めだ」

(はやとはふかくながいためいきをついた。かれはするどいくつうをおさえるかのように、)

隼人は深く長い溜息をついた。彼はするどい苦痛を抑えるかのように、

(くちびるをひきしめ、まゆをしかめた。あかくしらちゃけたあらつちに、)

唇をひきしめ、眉をしかめた。あかくしらちゃけたあら土に、

(ちいさなしるしをたてただけの、それらのはかのぬしは「ざいにん」であった。)

小さな標を立てただけの、それらの墓のぬしは「罪人」であった。

(そのぼちのしょうさつたるながめが、そんなにもするどくかれのこころをうったのは、)

その墓地の蕭殺たる眺めが、そんなにもするどく彼の心を撃ったのは、

(かれらが「ざいにんであった」というりゆうからであるかもしれない。)

かれらが「罪人であった」という理由からであるかもしれない。

(つみをおかしてとらわれるようなものは、たいていきがよわく、めはしもきかず、)

罪を犯して捕われるような者は、たいてい気が弱く、めはしもきかず、

(こどくなにんげんのようである。はやとはいまそのはかつちのしたから、)

孤独な人間のようである。隼人はいまその墓土の下から、

(かれらのなげきのこえがきこえてくるようにおもい、)

かれらの嘆きの声が聞えてくるように思い、

(めをつむってじっとうなだれていた。)

眼をつむってじっとうなだれていた。

(まもなく「あの」とよびかけるものがあった。めをあいてふりかえると、)

まもなく「あの」と呼びかける者があった。眼をあいて振返ると、

(あやというむすめが、ぼちのはしにたっていた。)

あやという娘が、墓地の端に立っていた。

(「あの」とむすめはあかくなりながらいった、「しょうないさまがまって」)

「あの」と娘は赤くなりながら云った、「正内さまが待って」

(そういいかけたが、とつぜん、くちをおおきくあいてさけびながら、)

そう云いかけたが、突然、口を大きくあいて叫びながら、

(つぶてのようにはしってきて、はやとにたいあたりをくれた。)

つぶてのように走って来て、隼人に躰当りをくれた。

(はやとはむすめのからだをうけとめてよろめき、どうじに、うしろからななめに、)

隼人は娘の躯を受けとめてよろめき、同時に、うしろから斜めに、

(くうをきってなにかがとんでき、にじゅっしゃくほどむこうのはかつちにつきたつのをみた。)

空を切ってなにかが飛んで来、二十尺ほど向うの墓土に突き立つのを見た。

(いとがはしったようにみえたが、はかつちにつきたったのはやであった。)

糸がはしったようにみえたが、墓土に突き立ったのは矢であった。

(「あぶない」むすめはけんめいにはやとをおしやった、「せんせい、あぶない、ごんぱちです」)

「危ない」娘はけんめいに隼人を押しやった、「先生、危ない、権八です」

(はやとはおされながらふりかえった。じゅうごろっけんうしろのだんがいのちゅうふくに、)

隼人は押されながら振返った。十五六間うしろの断崖の中腹に、

(ひとのすがたがちらっとみえた。なにかをかぶったあたまと、)

人の姿がちらっと見えた。なにかをかぶった頭と、

(にのやをもったみぎてがみえただけで、それはむこうへ)

二の矢を持った右手が見えただけで、それは向うへ

(とびおりでもするように、さっといわかげにきえてしまった。)

とびおりでもするように、さっと岩蔭に消えてしまった。

(「だいじょうぶだ、もうだいじょうぶだ」あやはりょうてではやとにしがみついたまま、)

「大丈夫だ、もう大丈夫だ」あやは両手で隼人にしがみついたまま、

(はのおとがするほどはげしくふるえていた。はやとはてをはなそうとしたが、)

歯の音がするほど激しくふるえていた。隼人は手を放そうとしたが、

(むすめのてゆびはかんせつがこわばっていて、ほとんどいっぽんずつ)

娘の手指は関節が硬ばっていて、殆んど一本ずつ

(ゆびをひらかなければならなかった。)

指をひらかなければならなかった。

(「さあゆこう」はやとはあるきだしながらきいた、)

「さあゆこう」隼人は歩きだしながら訊いた、

(「いまのはほんとうにごんぱちだったのか」あやはまだふるえていた、)

「いまのは本当に権八だったのか」あやはまだふるえていた、

(「そうだとおもいます」「はっきりみえたのか」)

「そうだと思います」「はっきり見えたのか」

(「いいえ」とむすめはかぶりをふった、「ゆみをいようとするところをみただけです、)

「いいえ」と娘はかぶりを振った、「弓を射ようとするところを見ただけです、

(でも、ごんぱちのほかにあんなことをするものはいないとおもいます」)

でも、権八のほかにあんなことをする者はいないと思います」

(はやとははかつちにつきたっているやをぬきとり、それをもって、)

隼人は墓土に突き立っている矢を抜き取り、それを持って、

(あやといっしょにしょうないろうじんのじゅうきょへいった。)

あやといっしょに正内老人の住居へいった。

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