ちくしょう谷 18

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隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。

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問題文

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(みちからやくにじゅっしゃくほどたかいがけのいちぶにふかいさけめがあり、)

道から約二十尺ほど高い崖の一部に深い裂けめがあり、

(ちょうどおうのじのようなかたちをしていて、)

ちょうど凹の字のような形をしていて、

(にんげんひとりなららくにはいれるほどのはばがあった。)

人間ひとりなら楽にはいれるほどの幅があった。

(「よし」はやとはまつきにむかっててをふった、「もうだいじょうぶだ」)

「よし」隼人は松木に向って手を振った、「もう大丈夫だ」

(まつききゅうのすけがこっちへくるあいだ、はやとはそのさけめをみまもっていたが、)

松木久之助がこっちへ来るあいだ、隼人はその裂けめを見まもっていたが、

(ひとのすがたはもちろん、もののうごくけはいもみとめられなかった。)

人の姿はもちろん、物の動くけはいも認められなかった。

(まつきはこうふんしていた。じぶんのすいそくしたことがそんなにもすばやく、)

松木は昂奮していた。自分の推測したことがそんなにもすばやく、

(めのまえでじっしょうされたことにびっくりもし、またじまんでもあったらしい。)

眼の前で実証されたことに吃驚もし、また自慢でもあったらしい。

(だがはやとはかたくくちどめをした。「すこしかんがえることがあるから、)

だが隼人は固く口止めをした。「少し考えることがあるから、

(いまのできごとはだまっていてくれ」とはやとはいった、)

いまの出来事は黙っていてくれ」と隼人は云った、

(「だれにもはなしてはいけない、わかったな」まつききゅうのすけはだまっているとちかった。)

「誰にも話してはいけない、わかったな」松木久之助は黙っていると誓った。

(「あのがけのうえはどこへつうじているのか」「だいぶつだけのおねつづきです」)

「あの崖の上はどこへ通じているのか」「大仏岳の尾根続きです」

(とまつきがこたえた、「にょらいのみねのちょっとてまえを、ひだりへまがってくると)

と松木が答えた、「如来ノ峰のちょっと手前を、左へ曲って来ると

(あのうえへでるんです、このみちよりもはんぶんくらいちかいんですが、)

あの上へ出るんです、この道よりも半分くらい近いんですが、

(おねですからかぜもつよいし、ゆきになるとあるけないので、)

尾根ですから風も強いし、雪になると歩けないので、

(ごようりんのみちはこっちへつくったのだそうです」)

御用林の道はこっちへ作ったのだそうです」

(はやとはしばらくあるいてからいった、「こんなはなしをしたこともだまっていてくれ」)

隼人は暫く歩いてから云った、「こんな話をしたことも黙っていてくれ」

(ごようりんのみまわりをすませて、きどへかえってきたはやとをみると、)

御用林の見廻りを済ませて、木戸へ帰って来た隼人を見ると、

(おかむらしちろうべえがもんのところにたっていて、いまごんぱちをおっている、とつげた。)

岡村七郎兵衛が門のところに立っていて、いま権八を追っている、と告げた。

(「あなたがおでかけになるとまもなく、こもののさんぞうとにしざわがみかけたそうです」)

「貴方がおでかけになるとまもなく、小者の三造と西沢がみかけたそうです」

など

(とおかむらはいった、「みちのむこうのいわかげからのぞいていたんだそうで、)

と岡村は云った、「道の向うの岩蔭から覗いていたんだそうで、

(すぐふたてにわかれておってでました、まだかえってきませんが、)

すぐ二た手に別れて追って出ました、まだ帰って来ませんが、

(なにかかわったことはありませんでしたか」)

なにか変ったことはありませんでしたか」

(まつききゅうのすけが「では」といいかけ、はやとをみてくちをつぐんだ。)

松木久之助が「では」と云いかけ、隼人を見て口をつぐんだ。

(はやとはなにもなかったというふうにくびをふった。)

隼人はなにもなかったというふうに首を振った。

(「ごんぱちだということはたしかなのか」「さあ、」おかむらはかたをゆりあげた、)

「権八だということは慥かなのか」「さあ、」岡村は肩をゆりあげた、

(「みたのはにしざわとこものですから、わたしはなにもしりません」)

「見たのは西沢と小者ですから、私はなにも知りません」

(はやとはむひょうじょうにやくどころのほうへさった。)

隼人は無表情に役所のほうへ去った。

(おってにでたのはにしざわはんしろうとこものさんにんである。おのだいくろうといぬいとうきちろうは、)

追手に出たのは西沢半四郎と小者三人である。小野大九郎と乾藤吉郎は、

(じゅうにんのあしがるたちととうばんでごようりんにいた。それで、きどをむじんに)

十人の足軽たちと当番で御用林にいた。それで、木戸を無人に

(することはできないので、おかむらしちろうべえだけがのこったのであった。)

することはできないので、岡村七郎兵衛だけが残ったのであった。

(おってのよにんはまもなくかえってきたが、そんなにながおいをしながら、)

追手の四人はまもなく帰って来たが、そんなになが追いをしながら、

(ごんぱちをつかまえることもできなかったし、どっちへにげたかも)

権八を捉えることもできなかったし、どっちへ逃げたかも

(わからずじまいだった。にしざわはんしろうはくわしいほうこくをしようとしたが、)

わからずじまいだった。西沢半四郎は詳しい報告をしようとしたが、

(はやとはそのひつようはないとくびをふり、こんごはゆるしのないかぎり)

隼人はその必要はないと首を振り、今後は許しのない限り

(きどをあけてはならない、といった。)

木戸をあけてはならない、と云った。

(つゆにはいってから、くみたちのけいこはやすんだが、)

梅雨にはいってから、組み太刀の稽古は休んだが、

(ごようりんのしごとはつづけていたし、よるのたちばんもゆるめなかった。)

御用林の仕事は続けていたし、夜の立番もゆるめなかった。

(あめのよるはいいだろうというものもあったが、そのあめがかなりつよくふるやはんに、)

雨の夜はいいだろうと云う者もあったが、その雨がかなり強く降る夜半に、

(さくのそとでふくろうのなきごえがした。あしがるふたりがでていってみると、)

柵の外で梟の鳴き声がした。足軽二人が出ていってみると、

(あたまからみのをかぶったおんながさんにん、さくにしがみついていて、)

頭から蓑をかぶった女が三人、柵にしがみついていて、

(「いれておくれ」とよびかけた。はやとはそれをみたのである。)

「入れておくれ」と呼びかけた。隼人はそれを見たのである。

(かれもふくろうのなきごえをきいたので、かっぱをかぶってそっとこがいへで、)

彼も梟の鳴き声を聞いたので、合羽をかぶってそっと戸外へ出、

(さくにそってまわってゆくと、おんなたちがあしがるとやりあっているのをみつけた。)

柵に沿って廻ってゆくと、女たちが足軽とやりあっているのをみつけた。

(おんなたちはおもいきってひわいなことをさけび、「いれてくれ」と、)

女たちは思いきって卑わいなことを叫び、「入れてくれ」と、

(ほとんどなきごえをあげてあいがんしていた。ふゆのあいだずっとがまんしつづけたから、)

殆んど泣き声をあげて哀願していた。冬のあいだずっとがまんし続けたから、

(からだのないぶでけものがあばれている、ほねもみもやかれるようだとうったえた。)

躯の内部でけものが暴れている、骨も身も焼かれるようだと訴えた。

(「よせ」はやとはこっちからどなった、「なにをみているんだ、おいかえせ」)

「よせ」隼人はこっちからどなった、「なにを見ているんだ、追い返せ」

(ふたりのあしがるはとびあがりそうになり、あわてておんなたちをおいのけようとした。)

二人の足軽はとびあがりそうになり、慌てて女たちを追いのけようとした。

(おんなたちはじめんへひざをつくと、りょうてでかみのけをつかみながら、)

女たちは地面へ膝を突くと、両手で髪の毛をつかみながら、

(れいはいでもするかのように、つづけさまにがくんがくんとおおきくおじぎをし、)

礼拝でもするかのように、続けさまにがくんがくんと大きくおじぎをし、

(そのどうさにつれてほえた。それはにんげんのさけびやひめいとはまったくちがって、)

その動作につれて咆えた。それは人間の叫びや悲鳴とはまったく違って、

(やじゅうのほうこうそのもののようにきこえた。)

野獣の咆哮そのもののように聞えた。

(「もういい」はやとはあしがるにむかっていった、「そのちょうちんをこっちへよこして、)

「もういい」隼人は足軽に向って云った、「その提灯をこっちへよこして、

(おまえたちはながやへもどれ」あしがるのひとりがちかよってき、)

おまえたちは長屋へ戻れ」足軽の一人が近よって来、

(あめようのかさのあるちょうちんをわたし、ふたりともながやのほうへさっていった。)

雨用の笠のある提灯を渡し、二人とも長屋のほうへ去っていった。

(かれらはくちもきかず、はやとのかおもみなかった。)

かれらは口もきかず、隼人の顔も見なかった。

(ぶすっとしてさってゆくふたりのすがたには、)

ぶすっとして去ってゆく二人の姿には、

(ふまんといかりがあらわれているようであった。)

不満と怒りがあらわれているようであった。

(むずかしいものだな。はやとはかれらをみおくりながらといきをつき、)

むずかしいものだな。隼人はかれらを見送りながらと息をつき、

(それからおんなたちのほうへあゆみよった。)

それから女たちのほうへ歩みよった。

(「こんなことをしてはいけないときんじてあるはずだ」とはやとはしずかにいった、)

「こんなことをしてはいけないと禁じてある筈だ」と隼人は静かに云った、

(「さんにんともうちへかえれ、もうきどのものはけっしてでてきはしない、)

「三人ともうちへ帰れ、もう木戸の者は決して出て来はしない、

(あめのなかでまごまごしているとかぜをひくぞ」)

雨の中でまごまごしていると風邪をひくぞ」

(ひざをついたおんなは、おなじどうさをくりかえしながら、けもののようにほえてい、)

膝を突いた女は、同じ動作を繰り返しながら、けもののように咆えてい、

(ほかのふたりははやとにいどみかかった。こえをひそめるかとおもうとわめき、)

他の二人は隼人に挑みかかった。声をひそめるかと思うと喚き、

(わらいごえがなきごえになり、みみをおおいたくなるほどあけすけなことを、)

笑い声が泣き声になり、耳を掩いたくなるほどあけすけなことを、

(みぶりてまねでこちょうしながら、あきるようすもなくさけびつづけた。)

身ぶり手まねで誇張しながら、飽きるようすもなく叫び続けた。

(はやとはあっとうされた。それはもうしきじょうなどというものではない、)

隼人は圧倒された。それはもう色情などというものではない、

(もっとこんぽんてきで、はかりがたくきょうだいな、そしてちょうしぜんななにかのちからが)

もっと根本的で、はかりがたく強大な、そして超自然ななにかの力が

(はたらいているようだ。ひわいをきわめたことばや、みぶりやこえのよくようは、)

はたらいているようだ。卑わいを極めた言葉や、身ぶりや声の抑揚は、

(かのじょたちがそうしようとおもってしているのではなく、なにかのちからにしはいされて、)

彼女たちがそうしようと思ってしているのではなく、なにかの力に支配されて、

(じぶんではいしきせずにやっているようにさえかんじられた。)

自分では意識せずにやっているようにさえ感じられた。

(これがふせぎきれるだろうか。はやとはじぶんにといかけた。)

これが防ぎきれるだろうか。 隼人は自分に問いかけた。

(ふせぐことがりにかなうだろうか。)

防ぐことが理にかなうだろうか。

(おんなたちはさけび、あいそし、ほうこうし、わらい、またわめきつづけ、)

女たちは叫び、哀訴し、咆哮し、笑い、また喚き続け、

(はやとはあたまをたれてたっていた。するとやがて、しょうないろうじんのこえがきこえた。)

隼人は頭を垂れて立っていた。するとやがて、正内老人の声が聞えた。

(めをあげると、みのをき、かさをかぶったろうじんが、さくのむこうにたっていた。)

眼をあげると、蓑を着、笠をかぶった老人が、柵の向うに立っていた。

(「あなたはあしたのおやくがあります」とろうじんはいった、)

「貴方は明日のお役があります」と老人は云った、

(「このおんなたちはわたしがみておりますから、どうぞいっておやすみください」)

「この女たちは私がみておりますから、どうぞいっておやすみ下さい」

(「いや、ごろうたいではむりです」「わたしのほうがあつかいなれております、)

「いや、御老躰ではむりです」「私のほうが扱い馴れております、

(いいときをみてつれてもどりますから、あなたはどうかやすんでください」)

いいときをみて伴れ戻りますから、貴方はどうかやすんで下さい」

(はやとはちょっとかんがえてから、「ではこのちょうちんをかしましょう」といったが、)

隼人はちょっと考えてから、「ではこの提灯を貸しましょう」と云ったが、

(ろうじんはそれもいらないとてをふった。しょうないろうじんがくるとすぐ、)

老人はそれも要らないと手を振った。正内老人が来るとすぐ、

(おんなたちもしずかになったので、はやとはあとのことをろうじんにたのみ、)

女たちも静かになったので、隼人はあとのことを老人に頼み、

(じぶんのへやへかえった。)

自分の部屋へ帰った。

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