怪人二十面相35 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「おや、あれはなんだったかな・・・・・・ああ、わしはおもいだしたぞ。わしはおもいだしたぞ。)

「おや、あれは何だったかな……ああ、儂は思い出したぞ。儂は思い出したぞ。

(どうして、いままで、そこへきがつかなかったのだろう。 ・・・・・・かみさまは、まだ)

どうして、今まで、そこへ気が付かなかったのだろう。  ……神さまは、まだ

(このわしをおみすてなさらないのじゃ。あのひとさえいてくれたら、わしはたすかる)

この儂をお見捨てなさらないのじゃ。あの人さえいてくれたら、儂は助かる

(かもしれないぞ」 なにをおもいついたのか、ろうじんのかおには、にわかにせいきが)

かもしれないぞ」  何を思い付いたのか、老人の顔には、俄かに生気が

(みなぎってきました。 「おい、さくぞう、さくぞうはいないか」)

漲ってきました。 「おい、作蔵、作蔵はいないか」

(ろうじんはへやのそとへでて、ぱんぱんとてをたたきながら、しきりと、じいやを)

老人は部屋の外へ出て、パンパンと手を叩きながら、しきりと、爺やを

(よびたてました。じいやがかけつけてきますと、 「はやく、「いずにっぽう」を)

呼び立てました。爺やが駆け付けて来ますと、 「早く、『伊豆日報』を

(もってきてくれ。たしかおとといのしんぶんだったとおもうが、なんでもいいから)

持って来てくれ。確か一昨日の新聞だったと思うが、何でもいいから

(3、4かぶんまとめてもってきてくれ。はやくだ、はやくだぞ」 と、おそろしいけんまくで)

三、四日ぶん纏めて持って来てくれ。早くだ、早くだぞ」 と、恐ろしい剣幕で

(めいじました。さくぞうがあわてふためいて、その「いずにっぽう」というちほうしんぶんのたばを)

命じました。作蔵が慌てふためいて、その『伊豆日報』という地方新聞の束を

(もってきますと、ろうじんはとるてももどかしく、1まい1まいとしゃかいめんを)

持って来ますと、老人は取る手ももどかしく、一枚一枚と社会面を

(みていきましたが、やっぱりおとといの13にちのしょうそくらんに、つぎのようなきじが)

見ていきましたが、やっぱり一昨日の十三日の消息欄に、次のような記事が

(でていました。 「あけちこごろうしらいしゅうみんかんたんていのだいいちにんしゃあけちこごろうしは、)

出ていました。 『明智小五郎氏来修 民間探偵の第一人者明智小五郎氏は、

(ながらく、がいこくにしゅっちょうちゅうであったが、このほどしめいをはたしてききょう、たびのつかれを)

ながらく、外国に出張中であったが、このほど使命を果たして帰京、旅の疲れを

(やすめるために、ほんじつしゅぜんじおんせんふじやりょかんにとうしゅく、4、5にちたいざいのよていである。」)

休める為に、本日修繕寺温泉富士屋旅館に投宿、四、五日滞在の予定である。』

(「これだ。これだ。にじゅうめんそうにてきたいできるじんぶつは、このあけちたんていのほかにはない。)

「これだ。これだ。二十面相に敵対出来る人物は、この明智探偵の外にはない。

(はしばけのとうなんじけんでは、じょしゅのこばやしとかいうこどもでさえ、あれほどの)

羽柴家の盗難事件では、助手の小林とかいう子どもでさえ、あれ程の

(はたらきをしたんだ。そのせんせいあけちたんていならば、きっとわしのはめつをすくってくれるに)

働きをしたんだ。その先生明智探偵ならば、きっと儂の破滅を救ってくれるに

(ちがいはないて。どんなことがあってもこのめいたんていをひっぱってこなくてはならん」)

違いはないて。どんな事があってもこの名探偵を引っぱって来なくてはならん」

(ろうじんは、そんなひとりごとをつぶやきながら、さくぞうじいやのにょうぼうをよんできものを)

老人は、そんな独り言を呟きながら、作蔵爺やの女房を呼んで着物を

など

(きがえますと、たからものべやのがんじょうないたどをぴったりしめ、そとからかぎをかけ、)

着替えますと、宝物部屋の頑丈な板戸をピッタリ閉め、外から鍵を掛け、

(ふたりのめしつかいに、そのまえでみはりばんをしているようにかたくいいつけて、)

二人の召使いに、その前で見張り番をしているように固く言い付けて、

(そそくさとやしきをでかけました。 いうまでもなく、いくさきは、)

ソソクサと屋敷を出掛けました。  言うまでもなく、行く先は、

(しゅぜんじおんせんふじやりょかんです。そこへいって、あけちたんていにめんかいし、たからもののほごを)

修繕寺温泉富士屋旅館です。そこへ行って、明智探偵に面会し、宝物の保護を

(たのもうというわけです。 ああ、まちにまっためいたんていあけちこごろうが、とうとう)

頼もうという訳です。  ああ、待ちに待った名探偵明智小五郎が、とうとう

(かえってきたのです。しかも、ときもとき、ところもところ、まるでもうしあわせでもしたように)

帰って来たのです。しかも、時も時、所も所、まるで申し合わせでもしたように

(ちょうど、にじゅうめんそうがおそおうというくさかべしのびじゅつじょうのすぐちかくに、)

ちょうど、二十面相が襲おうという日下部氏の美術城のすぐ近くに、

(にゅうとうにきていようとは、さもんろうじんにとっては、じつに、ねがってもないしあわせと)

入湯に来ていようとは、左門老人にとっては、実に、願ってもない幸せと

(いわねばなりません。)

言わねばなりません。

(めいたんていあけちこごろう ねずみいろのとんびにみをつつんだ、こがらの)

【名探偵明智小五郎】  鼠色の外套(とんび)に身をつつんだ、小柄の

(さもんろうじんが、ながいさかみちをちょこちょことはしらんばかりにして、ふじやりょかんに)

左門老人が、長い坂道をチョコチョコと走らんばかりにして、富士屋旅館に

(ついたのは、もうごご1じごろでした。 「あけちこごろうせんせいは?」)

着いたのは、もう午後一時頃でした。 「明智小五郎先生は?」

(とたずねますと、うらのたにがわへさかなつりにでかけられましたとのこたえ。そこで、じょちゅうを)

と尋ねますと、裏の谷川へ魚釣りに出掛けられましたとの答え。そこで、女中を

(あんないにたのんで、またてくてくと、たにがわへおりていかなければなりませんでした。)

案内に頼んで、またテクテクと、谷川へ降りて行かなければなりませんでした。

(くまざさなどのしげったあぶないみちをとおってふかいたにまにおりると、うつくしいみずが)

熊笹などの茂った危ない道を通って深い谷間に降りると、美しい水が

(せせらぎのおとをたててながれていました。 ながれのところどころに、とびいしのように)

せせらぎの音をたてて流れていました。  流れの所々に、飛び石のように

(おおきないわがあたまをだしています。そのいちばんおおきなたいらないわのうえに、どてらすがたのひとりの)

大きな岩が頭を出しています。その一番大きな平らな岩の上に、褞袍姿の一人の

(おとこがせをまるくして、たれたつりざおのさきをじっとみつめています。 「あのかたが、)

男が背を丸くして、垂れた釣り竿の先をじっと見詰めています。 「あの方が、

(あけちせんせいでございます」じょちゅうがさきにたって、いわのうえをぴょいぴょいと)

明智先生でございます」  女中が先に立って、岩の上をピョイピョイと

(とびながら、そのおとこのそばへちかづいていきました。)

跳びながら、その男の傍へ近付いて行きました。

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