三人の百姓4 秋田雨雀
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問題文
(「ゆえありて、おとこのこをすつ、なさけあるひとのふところによくそだて。)
『ゆえありて、おとこのこをすつ、なさけあるひとのふところによくそだて。
(よばぬうちに、なのりいづるな、ときくれば、はるかぜふかん。」)
よばぬうちに、なのりいづるな、ときくれば、はるかぜふかん。』
(このひらがなをよむために、ふうふはひとばんついやしてしまいました。たろうえもんが)
この平仮名を読むために、夫婦は一晩費してしまいました。太郎右衛門が
(よんだときと、おかみさんのよんだときともんくがちがうのでたいへんにこまりました。)
読んだ時と、お神さんの読んだ時と文句がちがうので大変に困りました。
(「なにしろ、ひろったひとに、しんせつにしてくれろってことだべい」 とたろうえもんが)
「何しろ、拾った人に、親切にしてくれろってことだべい」 と太郎右衛門が
(いうと、おかみさんも、 「そんだ、そんだ」とどういをひょうしました。)
言うと、お神さんも、 「そんだ、そんだ」と同意を表しました。
(ふたりはそのばん、ひろったあかごをかわりばんこにだいてねました。あかごのやわらかいはだが)
二人はその晩、拾った赤児を替り番子に抱いて寝ました。赤児の柔かい肌が
(ふれると、ふたりともなんともいいあらわしがたいかいかんをかんじました。)
触れると、二人とも何んとも言い表わしがたい快感を感じました。
(よるになってから、あかごが2どほどなきましたが、ふたりはそのたびに、かいがいしく)
夜になってから、赤児が二度ほど泣きましたが、二人はその度に、甲斐甲斐しく
(おきあがって、あやしてやったり、「おしっこ」をさせてやったりしたので、)
起上って、あやしてやったり、「おしっこ」をさせてやったりしたので、
(あさがたになって、たいへんよくねむりました。おかみさんがはやくおきて、あまどをあけると、)
朝方になって、大変よく眠りました。お神さんが早く起きて、雨戸を明けると、
(そこからあかるいたいようがえんりょなくさしこんできました。おかみさんは、きゅうにじぶんが)
そこから明るい太陽が遠慮なく射し込んで来ました。お神さんは、急に自分が
(えらいにんげんにでもなったようなじまんらしいきもちがするので、ふしぎに)
偉い人間にでもなったような自慢らしい気持がするので、不思議に
(おもわれるくらいでした。 たろうえもんもたろうえもんで、じぶんにだかれてねむっている)
思われる位でした。 太郎右衛門も太郎右衛門で、自分に抱かれて眠っている
(こどものかおをみていると、そのこがほんとうにじぶんのうんだこどものようなきが)
子供の顔を見ていると、その子がほんとうに自分の生んだ子供のような気が
(するのでした。 「みろ、このこはなんていいかおしてるんだんべいな!」)
するのでした。 「見ろ、この子は何んていい顔してるんだんべいな!」
(とたろうえもんは、あさのしたくにかかっている、おかみさんをよんで、こどものかおを)
と太郎右衛門は、朝の仕度にかかっている、お神さんを呼んで、子供の顔を
(みせました。 「ほんとね、いいかおっこだこと。こんなこどもねひゃくしょう)
見せました。 「ほんとね、いい顔っこだこと。こんな子供ね百姓
(させられべいか!」 とおかみさんは、こどものねがおをみて、つくづくと)
させられべいか!」 とお神さんは、子供の寝顔を見て、つくづくと
(いうのでした。 たろうえもんがこどもをひろったといううわさがむらじゅういっぱいに)
言うのでした。 太郎右衛門が子供を拾ったという噂が村中一杯に
(ひろがりました。ゆうがたになるとむらのかみさんたちやこどもたちがぞろぞろそろってすてごを)
拡がりました。夕方になると村の神さんたちや子供たちがぞろぞろ揃って捨児を
(みにきました。そして、あまりうつくしいこなので、みんなおどろいてしまいました。)
見に来ました。そして、余り美しい児なので、みんな驚いてしまいました。
(そして、 「たろうえもんさんとこあ、なんてしあわせだんべい」)
そして、 「太郎右衛門さんとこあ、なんて仕合せだんべい」
(とくちぐちにいいはやしながらかえりました。 これまでたろうえもんのいえは)
と口々に言いはやしながら帰りました。 これまで太郎右衛門の家は
(ただしょうじきだというだけで、むらではいちばんびんぼうで、いちばんばかにされてくらした)
ただ正直だというだけで、村では一番貧乏で、一番馬鹿にされて暮した
(いえでしたが、こどもをひろってからはたいへんにぎやかなこうふくないえになってしまいました。)
家でしたが、子供を拾ってからは大変賑やかな幸福な家になってしまいました。
(しかしたろうえもんのいえにはたはたもないのに、こどもがひとりふえたので、びんぼうは)
しかし太郎右衛門の家には田畑もないのに、子供が一人殖えたので、貧乏は
(ますますびんぼうになりました。しかしたろうえもんはいちどもふへいをいったことが)
益々貧乏になりました。しかし太郎右衛門は一度も不平を言ったことが
(ありません。たをたがやしているときでも、やまですみをやいているときでも、たろうえもんは)
ありません。田を耕している時でも、山で炭を焼いている時でも、太郎右衛門は
(こどものことをおもいだすと、ゆかいでゆかいでたまりませんでした。「はやくしごとを)
子供のことを思い出すと、愉快で愉快でたまりませんでした。「早く仕事を
(おえてこどものかおをみたいもんだ」とこころのなかでおもいながらしごとをしていました。)
終えて子供の顔を見たいもんだ」と心の中で思いながら仕事をしていました。