吸血鬼10

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数1670難易度(4.5) 5054打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6280 S 6.5 95.8% 770.6 5060 220 72 2024/03/17
2 みき 6033 A++ 6.2 96.8% 804.0 5014 163 72 2024/03/24

関連タイピング

問題文

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(けいじのいちだんは、ぞくのなわじりをとって、そのかおをみるために、すこしはなれたところに)

刑事の一団は、賊の繩尻をとって、その顔を見る為に、少し離れた所に

(たっているじょうやとうのましたへつれていった。みたにもしょうねんのてをひいて、)

立っている常夜燈の真下へ連れて行った。三谷も少年の手を引いて、

(そのあとからついていったが、あかるいでんとうのひかりで、しょうねんのかおをひとめみると、)

そのあとからついて行ったが、明るい電燈の光で、少年の顔を一目見ると、

(かれはなぜか あっ といようなさけびごえをはっした。どくしゃしょくんがそうぞうされたごとく、みたにが)

彼はなぜか「アッ」と異様な叫声を発した。読者諸君が想像された如く、三谷が

(とりもどしたしょうねんは、しげるとはにてもにつかぬにせものであった。しげるのようふくをきた、)

取戻した少年は、茂とは似ても似つかぬ贋物であった。茂の洋服を着た、

(みもしらぬこどもであった。だが、たとえしげるがにせものでも、ぞくのほんにんがとらえられて)

見も知らぬ子供であった。だが、仮令茂が贋物でも、賊の本人が捕らえられて

(いるのだ。こどもはいつでもとりもどせる。みたにはみしらぬしょうねんをひきつれて、ぞくを)

いるのだ。子供はいつでも取戻せる。三谷は見知らぬ少年を引連れて、賊を

(とりまくけいじのいちだんにちかよっていった。ところが、これはどうしたのだ。そこにも)

取巻く刑事の一団に近寄って行った。ところが、これはどうしたのだ。そこにも

(また、じつにへんてこなことがおこっていたではないか。へえ、わしは、そんな)

また、実に変てこなことが起っていたではないか。「ヘエ、わしは、そんな

(わるいこととはしらねえで、じゅうえんのかねにめがくれて、そいつのいいつけどおりに)

悪いこととは知らねえで、十円の金に目がくれて、そいつのいいつけ通りに

(やったまでです。わしは、なにもしらねえものです おとこは、ふくめんをとって、しきりと)

やったまでです。わしは、何もしらねえ者です」男は、覆面をとって、しきりと

(わびごとをならべていた。ぼくはこいつをしっている。このさんないにのじゅくしているしんまいの)

詫言を並べていた。「僕はこいつを知っている。この山内に野宿している新米の

(こもちこじきだ。あのようふくをきせられているのは、こいつのこどもなんだよ)

子持ち乞食だ。あの洋服を着せられているのは、こいつの子供なんだよ」

(ひとりのけいじが、おとこのことばをうらがきした。それで、きさまがにせのこどもとひきかえに、)

一人の刑事が、男の言葉を裏書した。「それで、貴様が贋の子供と引換えに、

(かねをうけとると、どっかにまちうけている、そのたのんだおとこのところへ、もっていく)

金を受取ると、どっかに待受けている、その頼んだ男の所へ、持って行く

(やくそくなんだな べつのけいじが、こじきをにらみつけてどなった。いんや、かねを)

約束なんだな」別の刑事が、乞食を睨みつけて呶鳴った。「インヤ、金を

(うけとれなんて、いやしねえ。ただ、おんなのひとがしかくなつつみをもってくるから、)

受取れなんて、いやしねえ。ただ、女の人が四角な包を持って来るから、

(それをもらって、どっかへすてっちまえ、といったばかりで ほう、そいつは)

それをもらって、どっかへ捨っちまえ、といったばかりで」「ホウ、そいつは

(みょうだね。すると、ぞくのほうでは、かねづつみがしんぶんしだということを、ちゃんと)

妙だね。すると、賊の方では、金包が新聞紙だということを、チャンと

(しっていたんだな なんだかきつねにつままれたような、へんなぐあいだ。そいつのかおを)

知っていたんだな」何だか狐につままれた様な、変な具合だ。「そいつの顔を

など

(おぼえているだろう。どんなやつだった またひとりのけいじがたずねた。それが)

覚えているだろう。どんな奴だった」また一人の刑事が尋ねた。「それが

(わからねえです。おおきなくろめがねをかけて、ますくをつけて、そのおーばーこーとのそでを)

分らねえです。大きな黒眼鏡をかけて、マスクをつけて、その上外套の袖を

(かおへあてて、ものをいっていたんで・・・・・・ああ、このふうてい!どくしゃはおそらく)

顔へ当てて、物をいっていたんで・・・・・・」アア、この風体!読者は恐らく

(あるじんぶつをおもいだされたことであろう。ふん、あいとんびをきていたのか)

ある人物を思い出されたことであろう。「フン、合トンビを着ていたのか」

(へえ、あたらしいじょうとうのやつをきておりました ねんぱいは?はっきりわからねえが)

「ヘエ、新しい上等の奴を着て居りました」「年配は?」「ハッキリ分らねえが

(ろくじゅうくらいのじいさんでがした けいじたちは、このこもちのこじきを、いちおうけいさつにどうこうして)

六十位の爺さんでがした」刑事達は、この子持ちの乞食を、一応警察に同行して

(なおきびしくとりしらべたが、うえのこうえんでききとったいじょうのことはなにも)

なおきびしく取調べたが、上野公園で聞き取った以上のことは何も

(わからなかった。わざわざじょそうまでして、のこのこでかけていったみたには、じつに)

分らなかった。態々女装までして、ノコノコ出かけて行った三谷は、実に

(まのわるいおもいをしなければならなかった。かれはそこそこに、けいじたちに)

間の悪い思いをしなければならなかった。彼はそこそこに、刑事達に

(あいさつをしておいて、とおりがかりのたくしーのなかへにげこんで、はたやなぎけに)

挨拶をして置いて、通りがかりのタクシーの中へ逃げ込んで、畑柳家に

(ひきかえした。かえってみると、さらにおどろくべきじけんが、かれをまちうけていた。おくさんは)

引返した。帰って見ると、更に驚くべき事件が、彼を待受けていた。「奥さんは

(さいぜん、あなたからのおてがみでおでかけになりました というしょせいのことばだ。)

さい前、あなたからのお手紙でお出掛けになりました」という書生の言葉だ。

(てがみ?ぼくはそんなものかいたおぼえはないが、そのてがみがのこっていたら)

「手紙?僕はそんなもの書いた覚えはないが、その手紙が残っていたら

(みせてください みたにははげしいふあんのために、むねをわくわくさせて、さけんだ。)

見せて下さい」三谷は烈しい不安の為に、胸をワクワクさせて、叫んだ。

(しょせいがさがしだしてきたてがみというのは、なんのめじるしもない、ありふれたふうとう、)

書生が探し出して来た手紙と言うのは、何の目印もない、ありふれた封筒、

(ありふれたようし、それにたくみにみたにのひっせきをまねて、こんなことが)

ありふれた用紙、それに巧みに三谷の筆磧を真似て、こんなことが

(かいてあった。)

書いてあった。

(しずこさま。このくるまにのってすぐきてください。しげるちゃんが、けがをして、いまびょういんへ)

倭文子様。この車に乗って直ぐ来て下さい。茂ちゃんが、怪我をして、今病院へ

(かつぎこんだところです。はやくきてください。 うえの、きたがわびょういんにて、みたに。)

担ぎ込んだ所です。早く来て下さい。 上野、北側病院にて、三谷。

(それをよむと、みたにはまっさおになって、いきなりげんかんのでんわしつにとびこみ、あわただしく)

それを読むと、三谷は真青になって、いきなり玄関の電話室に飛込み、惶しく

(けいさつしょをよびだした。てがみにあるきたがわというのは、じっさいのびょういんだが、しずこが)

警察署を呼び出した。手紙にある北川というのは、実際の病院だが、倭文子が

(そこへいっていないのは、わかりきっている。では、かわいそうなかのじょはいまごろは、)

そこへ行っていないのは、分り切っている。では、可哀相な彼女は今頃は、

(どこで、どのようなおそろしいめにあっていることなのであろう。しずこは、)

どこで、どの様な恐ろしい目に合っていることなのであろう。倭文子は、

(おきてがみにおどろいて、むがむちゅうであったから、かのじょののったじどうしゃが、どこを)

置手紙に驚いて、無我夢中であったから、彼女の乗った自動車が、どこを

(どうはしっているのか、すこしもきづかなかったが、くるまがとまって、おりてみると、)

どう走っているのか、少しも気づかなかったが、車が止まって、降りて見ると、

(そこはまったくみおぼえのない、ひじょうにさびしいまちで、びょういんらしいたてものは、どこにも)

そこは全く見覚えのない、非常に淋しい町で、病院らしい建物は、どこにも

(なかった。うんてんしゅさん、ここはばしょがちがうのじゃありませんか。びょういんって、)

なかった。「運転手さん、ここは場所が違うのじゃありませんか。病院って、

(どれなんですの しずこがおどろいてたずねたときには、すでに、うんてんしゅとじょしゅとが、)

どれなんですの」倭文子が驚いて尋ねた時には、既に、運転手と助手とが、

(りょうがわにおりたって、かのじょのうでをつかんでいた。びょういんっていうのは、なにかの)

両側に降り立って、彼女の腕を掴んでいた。「病院っていうのは、何かの

(まちがいでしょう。ぼっちゃんはこのいえにいらっしゃるのですよ うんてんしゅは、)

間違いでしょう。坊っちゃんはこの家にいらっしゃるのですよ」運転手は、

(へいきで、みえすいたうそをいいながら、ぐんぐんしずこをひっぱっていった。)

平気で、見えすいた嘘をいいながら、グングン倭文子を引張って行った。

(ちいさなもんをはいって、まっくらなこうしどをあけると、げんかんのしきだいらしいところへあがった。)

小さな門を這入って、真暗な格子戸を開けると、玄関の式台らしい所へ上った。

(ともしびのないへやをふたつみっつとおりすぎ、みょうなかいだんをくだったところに、じめじめとつちくさい)

燈火のない部屋を二つ三つ通り過ぎ、妙な階段を下った所に、ジメジメと土臭い

(こべやがあった。ちいさなかんてらがついているばかりで、よくわからぬけれど、)

小部屋があった。小さなカンテラがついているばかりで、よく分らぬけれど、

(はしらもなにもないこんくりーとのかべ、あかちゃけたうすべり、どうやらちていのろうごくといった)

柱も何もないコンクリートの壁、赤茶けた薄縁、どうやら地底の牢獄といった

(かんじである。こえをたててたすけをもとめるというようなことを、かんがえるひまもないほど、)

感じである。声を立てて助けを求めるという様なことを、考える隙もない程、

(とっさのできごとであった。しげるちゃんは?あたしのこどもはどこにいるのです)

咄嗟の出来事であった。「茂ちゃんは?あたしの子供はどこにいるのです」

(しずこは、だまされたとかんづいていながらも、まだあきらめきれず、)

倭文子は、だまされたと感づいていながらも、まだあきらめ切れず、

(かいなきことをくちばしった。ぼっちゃんには、じきにあわせてあげますよ。)

甲斐なきことを口走った。「坊っちゃんには、じきに会わせて上げますよ。

(しばらくしずかにして、まっておいでなさい うんてんしゅたちは、ごうまんなちょうしで、)

暫く静かにして、待っておいでなさい」運転手達は、傲慢な調子で、

(いいすてたまま、へやをでていってしまった。がらがらとしめるがんじょうなとびら、)

いい捨てたまま、部屋を出て行ってしまった。ガラガラと閉める頑丈な扉、

(かちかちとかぎのかかるおと。まあ、あなたがたは、あたしを、どうしようと)

カチカチと鍵のかかる音。「マア、あなた方は、あたしを、どうしようと

(いうのです しずこはさけびながら、とびらのところへよったが、もうおそかった。)

いうのです」倭文子は叫びながら、扉の所へ寄ったが、もう遅かった。

(おしてもたたいても、あついいたどはびくともしない。かたい、つめたいうすべりのうえに、)

押しても叩いても、厚い板戸はビクともしない。かたい、冷たい薄縁の上に、

(くずおれて、じっとしていると、ひしひしとせまるやき、ちていのあなぐらの、)

くずおれて、じっとしていると、ひしひしと迫る夜気、地底の穴蔵の、

(はかばのような、めいじょうしがたきしずけさ。しずこはきがおちつくにしたがって、わがみの)

墓場の様な、名状し難き静けさ。倭文子は気が落ちつくに従って、我身の

(おそろしいきょうぐうが、はっきりとわかってきた。しげるのことで、こころがいっぱいになっていて、)

恐ろしい境遇が、ハッキリと分って来た。茂のことで、心が一杯になっていて、

(わがみのきけんをかえりみるいとまがなかったとはいえ、どうして、こうもやすやすと、)

我身の危険を顧みる暇がなかったとはいえ、どうして、こうも易々と、

(こんなところへつれこまれたのかと、むしろふしぎなかんじがした。ふときがついて、)

こんな所へ連れ込まれたのかと、寧ろ不思議な感じがした。ふと気がついて、

(みみをすますと、どこかうえのほうから、こどものなきごえがきこえてくる。しんしんと)

耳をすますと、どこか上の方から、子供の泣声が聞えて来る。深々と

(しずまりかえったよるのなかに、ほそぼそとたえてはつづく、さびしいなきごえ。おさないこどもが、)

静まり返った夜の中に、細々と絶えては続く、淋しい泣声。幼い子供が、

(せっかんされているようすだ。)

折檻されている様子だ。

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