怪人二十面相55 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(なんだかへんだなとはおもいましたが、とにかくせんぽうのいうままになるという)

何だか変だなとは思いましたが、とにかく先方の言うままになるという

(やくそくですから、わしはすぐうんてんしゅに、ふるすぴーどではしるようにいいつけました)

約束ですから、儂はすぐ運転手に、フル・スピードで走るように言いつけました

(それから、どこをどうはしったか、よくもおぼえませんが、わせだだいがくの)

それから、何処をどう走ったか、よくも覚えませんが、早稲田大学の

(うしろのへんで、あとからおっかけてくるじどうしゃがあることにきづきました。)

後ろの辺で、後から追っかけて来る自動車がある事に気付きました。

(なにがなんだかわからないけれど、わしは、みょうにおそろしくなりましてな。)

何が何だか分からないけれど、儂は、妙に恐ろしくなりましてな。

(うんてんしゅにはしれはしれとどなったのですよ。 それからあとは、ごしょうちのとおりです。)

運転手に走れ走れと怒鳴ったのですよ。  それから後は、ご承知の通りです。

(おはなしをうかがってみると、わしはたった5せんえんのれいきんにめがくれて、まんまと)

お話を伺ってみると、儂はたった五千円の礼金に目がくれて、まんまと

(にじゅうめんそうのやつのかえだまにつかわれたというわけですね。)

二十面相の奴の替え玉に使われたという訳ですね。

(いやいや、かえだまじゃない。わしのほうがほんもので、あいつこそわしのかえだまです。)

いやいや、替え玉じゃない。儂の方が本物で、あいつこそ儂の替え玉です。

(まるでしゃしんにでもうつしたように、わしのかおやふくそうを、そっくりまねやがったんです)

まるで写真にでも写したように、儂の顔や服装を、そっくり真似やがったんです

(それがしょうこに、ほら、ごらんなさい。このとおりじゃ。わしはしょうしんしょうめいの)

それが証拠に、ほら、ご覧なさい。この通りじゃ。儂は正真正銘の

(まつしたしょうべえです。わしがほんもので、あいつのほうがにせものです。おわかりに)

松下庄兵衛です。儂が本物で、あいつの方が偽物です。お分かりに

(なりましたかな」 まつしたしはそういって、にゅーっとかおをまえにつきだし、)

なりましたかな」  松下氏はそう言って、ニューッと顔を前に突き出し、

(じぶんのあたまのけをちからまかせにひっぱってみせたり、ほおをつねってみせたりするのでした)

自分の頭の毛を力任せに引っぱって見せたり、頬を抓って見せたりするのでした

(ああ、なんということでしょう。なかむらかかりちょうは、またしても、ぞくのためにまんまと)

ああ、何という事でしょう。中村係長は、またしても、賊の為にまんまと

(いっぱいかつがれたのです。けいしちょうをあげての、きょうぞくたいほのよろこびも、ぬかよろこびに)

いっぱい担がれたのです。警視庁をあげての、凶賊逮捕の喜びも、ぬか喜びに

(おわってしまいました。 のちに、まつしたしのあぱーとのしゅじんをよびだして、)

終わってしまいました。  後に、松下氏のアパートの主人を呼び出して、

(しらべてみますと、まつしたしはすこしもあやしいじんぶつでないことがたしかめられたのです。)

調べてみますと、松下氏は少しも怪しい人物でない事が確かめられたのです。

(それにしても、にじゅうめんそうのようじんぶかさはどうでしょう。とうきょうえきであけちたんていを)

それにしても、二十面相の用心深さはどうでしょう。東京駅で明智探偵を

(おそうためには、これだけのよういがしてあったのです。ぶかをくうこうほてるのぼーいに)

襲う為には、これだけの用意がしてあったのです。部下を空港ホテルのボーイに

など

(すみこませ、えれべーたーがかりをみかたにしていたうえに、このまつしたという)

住み込ませ、エレベーター係を味方にしていた上に、この松下という

(かえだましんしまでやといいれて、とうそうのじゅんびをととのえていたのです。)

替え玉紳士まで雇い入れて、逃走の準備を整えていたのです。

(かえだまといっても、にじゅうめんそうにかぎっては、じぶんによくにたひとをさがしまわるひつようは)

替え玉と言っても、二十面相に限っては、自分によく似た人を捜し回る必要は

(すこしもないのでした。なにしろ、おそろしいへんそうのめいじんのことです。てあたりしだいに)

少しもないのでした。なにしろ、恐ろしい変装の名人の事です。手当たり次第に

(やといいれたじんぶつに、こちらでばけてしまうのですから、わけはありません。)

雇い入れた人物に、こちらで化けてしまうのですから、訳はありません。

(あいてはだれでもかまわない。くちぐるまにのりそうなおひとよしをさがしさえすれば)

相手は誰でも構わない。口車に乗りそうなお人好しを捜しさえすれば

(よかったのです。 そういえば、このまつしたというしつぎょうしんしは、)

よかったのです。  そう言えば、この松下という失業紳士は、

(いかにものんきもののこうじんぶつにちがいありませんでした。)

いかにも呑気者の好人物に違いありませんでした。

(にじゅうめんそうのしんでし あけちこごろうのじゅうたくは、みなとくりゅうどちょうのかんせいなやしきまちに)

【二十面相の新弟子】  明智小五郎の住宅は、港区竜土町の閑静な屋敷町に

(ありました。めいたんていは、まだわかくてうつくしいふみよふじんと、じょしゅのこばやししょうねんと、)

ありました。名探偵は、まだ若くて美しい文代夫人と、助手の小林少年と、

(おてつだいさんひとりの、しっそなくらしをしているのでした。 あけちたんていが、)

お手伝いさん一人の、質素な暮らしをしているのでした。  明智探偵が、

(がいむしょうからあるゆうじんのたくへたちよってきたくしたのは、もうゆうがたでしたが、)

外務省からある友人の宅へ立ち寄って帰宅したのは、もう夕方でしたが、

(ちょうどそこへけいしちょうへよばれていたこばやしくんもかえってきて、ようかんの2かいにある)

ちょうどそこへ警視庁へ呼ばれていた小林君も帰って来て、洋館の二階にある

(あけちのしょさいへはいって、にじゅうめんそうのかえだまじけんをほうこくしました。)

明智の書斎へ入って、二十面相の替え玉事件を報告しました。

(「たぶん、そんなことだろうとおもっていた。しかし、なかむらくんにはきのどくだったね」)

「たぶん、そんな事だろうと思っていた。しかし、中村君には気の毒だったね」

(めいたんていは、にがわらいをうかべていうのでした。 「せんせい、ぼくすこし)

名探偵は、苦笑いを浮かべて言うのでした。 「先生、ぼく少し

(わからないことがあるんですが」 こばやししょうねんは、いつも、ふにおちないことは、)

分からない事があるんですが」  小林少年は、いつも、腑に落ちない事は、

(できるだけはやく、ゆうかんにたずねるしゅうかんでした。 「せんせいがにじゅうめんそうをわざと)

出来るだけ早く、勇敢に尋ねる習慣でした。 「先生が二十面相をわざと

(にがしておやりになったわけは、ぼくにもわかるのですけれど、なぜあのとき、)

逃がしておやりになった訳は、僕にも分かるのですけれど、何故あの時、

(ぼくにびこうさせてくださらなかったのです。はくぶつかんのとうなんをふせぐのにも、あいつの)

僕に尾行させて下さらなかったのです。博物館の盗難を防ぐのにも、あいつの

(かくれががしれなくては、こまるんじゃないかとおもいますが」)

隠れ家が知れなくては、困るんじゃないかと思いますが」

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