怪人二十面相57 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(あけちたんていは、そのひごぜんちゅうは、どこかへでかけていましたが、3じかんほどで)

明智探偵は、その日午前中は、何処かへ出掛けていましたが、三時間程で

(きたくすると、おうらいからそんなこじきがみはっているのを、しってかしらずにか、)

帰宅すると、往来からそんな乞食が見張っているのを、知ってか知らずにか、

(おもてにめんした2かいのしょさいで、つくえにむかって、しきりになにかかきものをしています。)

表に面した二階の書斎で、机に向かって、しきりに何か書き物をしています。

(そのいちがまどのすぐちかくなものですから、こじきのところから、あけちのいっきょいちどうが、)

その位置が窓のすぐ近くなものですから、乞食の所から、明智の一挙一動が、

(てにとるようにみえるのです。 それからゆうがたまでのすうじかん、こじきはこんきよく)

手に取るように見えるのです。  それから夕方までの数時間、乞食は根気よく

(じめんにすわりつづけていました。あけちたんていのほうも、こんきよくまどからみえるつくえに)

地面に座り続けていました。明智探偵の方も、根気よく窓から見える机に

(むかいつづけていました。 ごごはずっと、ひとりのほうもんきゃくもありませんでしたが)

向かい続けていました。  午後はずっと、一人の訪問客もありませんでしたが

(ゆうがたになって、ひとりのいようなじんぶつが、あけちていのひくいせきもんのなかへはいっていきました)

夕方になって、一人の異様な人物が、明智邸の低い石門の中へ入って行きました

(そのおとこは、のびほうだいにのばしたかみのけ、かおじゅうをうすぐろくうめているぶしょうひげ、)

その男は、伸び放題に伸ばした髪の毛、顔中を薄黒く埋めている無精髭、

(きたないせびろふくを、めりやすのしゃつのうえにじかにきて、しまめもわからぬとりうちぼうしを)

汚い背広服を、メリヤスのシャツの上に直に着て、縞目も分からぬ鳥打帽子を

(かぶっています。ふろうにんといいますか、るん・ぺんといいますか、みるからに)

被っています。浮浪人と言いますか、ルン・ペンと言いますか、見るからに

(うすきみのわるいやつでしたが、そいつがもんをはいってしばらくしますと、とつぜんおそろしい)

薄気味の悪い奴でしたが、そいつが門を入って暫くしますと、突然恐ろしい

(どなりごえが、もんないからもれてきました。 「やい、あけち、よもやおれのかおを)

怒鳴り声が、門内から洩れてきました。 「やい、明智、よもや俺の顔を

(みわすれやしめえ。おらあおれいをいいにきたんだ。さあ、そのとをあけてくれ。)

見忘れやしめえ。おらあお礼を言いに来たんだ。さあ、その戸を開けてくれ。

(おらあうちのなかへはいって、おめえにもおかみさんにも、ゆっくりおれいが)

おらあうちの中へ入って、おめえにもおかみさんにも、ゆっくりお礼が

(もうしてえんだっ。なんだと、おれにようはねえ?そっちでようがなくっても、)

申してえんだッ。何だと、俺に用はねえ? そっちで用がなくっても、

(こっちにゃ、うんとこさようがあるんだ。さあ、そこをどけ。おらあ、きさまの)

こっちにゃ、ウントコサ用があるんだ。さあ、そこをどけ。おらあ、きさまの

(うちへはいるんだ」 どうやらあけちじしんが、ようかんのぽーちへでて、)

うちへ入るんだ」  どうやら明智自身が、洋館のポーチへ出て、

(おうたいしているらしいのですが、あけちのこえはきこえません。ただふろうにんのこえだけが)

応対しているらしいのですが、明智の声は聞こえません。ただ浮浪人の声だけが

(もんのそとまでひびきわたっています。 それをきくと、おうらいにすわっていたこじきが、)

門の外まで響き渡っています。  それを聞くと、往来に座っていた乞食が、

など

(むくむくとおきあがり、そっとあたりをみまわしてから、せきもんのところへしのびよって、)

ムクムクと起き上り、ソッと辺りを見回してから、石門の所へ忍び寄って、

(でんちゅうのかげからなかのようすをうかがいはじめました。 みると、しょうめんのぽーちのうえに)

電柱の影から中の様子を窺い始めました。  見ると、正面のポーチの上に

(あけちこごろうがつったち、そのぽーちのいしだんへかたあしかけたふろうにんが、)

明智小五郎がつっ立ち、そのポーチの石段へ片足かけた浮浪人が、

(あけちのかおのまえでにぎりこぶしをふりまわしながら、しきりとわめきたてています。)

明智の顔の前で握り拳を振り回しながら、しきりと喚き立てています。

(あけちはすこしもとりみださず、しずかにふろうにんをみていましたが、ますますつのる)

明智は少しも取り乱さず、静かに浮浪人を見ていましたが、ますます募る

(ぼうげんに、もうがまんができなくなったのか、 「ばかっ。ようがないといったら)

暴言に、もう我慢が出来なくなったのか、 「ばかッ。用がないと言ったら

(ないのだ。でていきたまえ」 と、どなったかとおもうと、いきなりふろうにんを)

ないのだ。出て行き給え」 と、怒鳴ったかと思うと、いきなり浮浪人を

(つきとばしました。 つきとばされたおとこは、よろよろとよろめきましたが、)

突き飛ばしました。  突き飛ばされた男は、ヨロヨロとよろめきましたが、

(ぐっとふみこたえて、もうしにものぐるいで、「うぬ!」とうめきざま、)

グッと踏み堪えて、もう死にもの狂いで、「ウヌ!」と呻きざま、

(あけちめがけてくみついていきます。 しかし、かくとうとなってはいくらふろうにんが)

明智めがけて組みついていきます。  しかし、格闘となってはいくら浮浪人が

(らんぼうでも、じゅうどう3だんのあけちたんていにかなうはずはありません。たちまちうでを)

乱暴でも、柔道三段の明智探偵に敵う筈はありません。たちまち腕を

(ねじあげられ、やっとばかりに、ぽーちのしたのしきいしのうえに、なげつけられて)

捩じ上げられ、ヤッとばかりに、ポーチの下の敷石の上に、投げつけられて

(しまいました。おとこは、なげつけられたまま、しばらくいたさにみうごきも)

しまいました。男は、投げつけられたまま、暫く痛さに身動きも

(できないようすでしたが、やがて、ようやくおきあがったときには、ぽーちのどあは)

出来ない様子でしたが、やがて、ようやく起き上がった時には、ポーチのドアは

(かたくとざされ、あけちのすがたは、もうそこにはみえませんでした。)

固く閉ざされ、明智の姿は、もうそこには見えませんでした。

(ふろうにんはぽーちへあがっていって、どあをがちゃがちゃいわせていましたが、)

浮浪人はポーチへ上がっていって、ドアをガチャガチャいわせていましたが、

(なかからしまりがしてあるらしく、おせどもひけども、うごくものではありません。)

中から締まりがしてあるらしく、押せども引けども、動くものではありません。

(「ちくしょうめ、おぼえていやがれ」 おとこは、とうとうあきらめたものか、)

「畜生め、覚えていやがれ」  男は、とうとう諦めたものか、

(くちのなかでのろいのことばをぶつぶつつぶやきながら、もんのそとへでてきました。)

口の中で呪いの言葉をブツブツ呟きながら、門の外へ出て来ました。

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