怪人二十面相63 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「だが、きみがいままでみたのは、このいえのきかいじかけのはんぶんにもたりないのだよ)

「だが、君が今まで見たのは、この家の機械仕掛けの半分にも足りないのだよ

(そのなかには、ぼくのほかはだれもしらないしかけもある。なにしろ、これがぼくのほんとうの)

その中には、僕の外は誰も知らない仕掛けもある。なにしろ、これが僕の本当の

(ねじろだからね。ここのほかにもいくつかのかくれががあるけれど、それらは、てきを)

根城だからね。ここの外にも幾つかの隠れ家があるけれど、それらは、敵を

(あざむくほんのかりずまいにすぎないのさ」 すると、いつかこばやししょうねんが)

欺くほんの仮住まいに過ぎないのさ」  すると、いつか小林少年が

(くるしめられたとやまがはらのあばらやも、そのかりのかくれがのいっけんだったのでしょうか。)

苦しめられた戸山ヶ原の荒ら家も、その仮の隠れ家の一軒だったのでしょうか。

(「いずれきみにもみせるがね、このおくにぼくのびじゅつしつがあるんだよ」)

「何れ君にも見せるがね、この奥に僕の美術室があるんだよ」

(にじゅうめんそうは、あいかわらずじょうきげんで、しゃべりすぎるほどしゃべるのです。みればかれの)

二十面相は、相変わらず上機嫌で、喋り過ぎる程喋るのです。見れば彼の

(あんらくいすのうしろに、だいぎんこうのきんこのような、ふくざつなきかいじかけのおおきなてつのとびらが)

安楽イスの後ろに、大銀行の金庫のような、複雑な機械仕掛けの大きな鉄の扉が

(げんじゅうにしめきってあります。 「このおくにいくつもへやがあるんだよ。ははは・・・・・・)

厳重に締め切ってあります。 「この奥に幾つも部屋があるんだよ。ハハハ……

(おどろいているね。このちかしつは、じめんにたっているいえよりもずっとひろいのさ。)

驚いているね。この地下室は、地面に建っている家よりもずっと広いのさ。

(そして、そのへやべやに、ぼくのしょうがいのせんりひんがちゃんとぶんるいして)

そして、その部屋部屋に、僕の生涯の戦利品がちゃんと分類して

(あるってわけだよ。そのうちみせてあげるよ。 まだなにもちんれつしていない、)

あるってわけだよ。その内見せてあげるよ。  まだ何も陳列していない、

(からっぽのへやもある。そこへはね、ごくきんじつどっさりこくほうがはいることに)

空っぽの部屋もある。そこへはね、ごく近日どっさり国宝が入る事に

(なっているんだ。きみもしんぶんでよんでいるだろう。れいのこくりつはくぶつかんのたくさんのほうもつさ)

なっているんだ。君も新聞で読んでいるだろう。例の国立博物館の沢山の宝物さ

(ははは・・・・・・」 もうあけちというたいてきをのぞいてしまったのだから、それらの)

ハハハ……」  もう明智という大敵を除いてしまったのだから、それらの

(びじゅつひんはてにいれたもどうぜんだとばかり、にじゅうめんそうはさもここちよげに、)

美術品は手に入れたも同然だとばかり、二十面相はさも心地よげに、

(からからとうちわらうのでした。)

カラカラとうち笑うのでした。

(しょうねんたんていだん よくあさになってもあけちたんていがきたくしないものですから、)

【少年探偵団】  翌朝になっても明智探偵が帰宅しないものですから、

(るすたくはおおさわぎになりました。 たんていがどうはんしてでかけた、じけんいらいしゃのふじんの)

留守宅は大騒ぎになりました。 探偵が同伴して出掛けた、事件依頼者の婦人の

(じゅうしょがひかえてありましたので、そこをしらべますと、そんなふじんなんかすんで)

住所が控えてありましたので、そこを調べますと、そんな婦人なんか住んで

など

(いないことがわかりました。さてはにじゅうめんそうのしわざであったかと、ひとびとは、)

いない事が分かりました。さては二十面相の仕業であったかと、人々は、

(はじめてそこへきがついたのです。 かくしんぶんのゆうかんは、「めいたんていあけちこごろうし)

初めてそこへ気が付いたのです。  各新聞の夕刊は、「名探偵明智小五郎氏

(ゆうかいさる」というおおみだしで、あけちのしゃしんをおおきくいれて、このちんじを)

誘拐さる」という大見出しで、明智の写真を大きく入れて、この椿事を

(でかでかとかきたて、らじおもこれをくわしくほうどうしました 「ああ、たのみにおもう)

デカデカと書きたて、ラジオもこれを詳しく報道しました 「ああ、頼みに思う

(われらのめいたんていは、ぞくのとりこになった。はくぶつかんがあぶない」 1せんまんのとみんは、)

我等の名探偵は、賊の虜になった。博物館が危ない」  一千万の都民は、

(わがことのようにくやしがり、そこでもここでもひとさえあつまれば、もう、このじけんの)

我が事のように悔しがり、そこでもここでも人さえ集まれば、もう、この事件の

(うわさばかり、ぜんとのそらがなんともいえないいんうつな、ふあんのくろくもにおおわれたように、)

噂ばかり、全都の空が何ともいえない陰うつな、不安の黒雲に覆われたように、

(かんじないではいられませんでした。 しかし、めいたんていのゆうかいを、せかいじゅうでいちばん)

感じないではいられませんでした。  しかし、名探偵の誘拐を、世界中で一番

(ざんねんにおもったのは、たんていのしょうねんじょしゅこばやしよしおくんでした。 ひとばんまちあかして)

残念に思ったのは、探偵の少年助手小林芳雄君でした。  一晩待ち明かして

(あさになっても、また、1にちむなしくまってよるがきても、せんせいはおかえりになりません)

朝になっても、また、一日虚しく待って夜がきても、先生はお帰りになりません

(けいさつではにじゅうめんそうにゆうかいされたのだといいますし、しんぶんやらじおまでそのとおりに)

警察では二十面相に誘拐されたのだと言いますし、新聞やラジオまでその通りに

(ほうどうするものですから、せんせいのみのうえがしんぱいなばかりでなく、めいたんていの)

報道するものですから、先生の身の上が心配なばかりでなく、名探偵の

(めいよのために、くやしくって、くやしくって、たまらないのです。)

名誉のために、悔しくって、悔しくって、堪らないのです。

(そのうえ、こばやしくんはじぶんのしんぱいのほかに、せんせいのおくさんをなぐさめなければ)

その上、小林君は自分の心配の外に、先生の奥さんを慰めなければ

(なりませんでした。さすがあけちたんていのふじんほどあって、なみだをみせるようなことは)

なりませんでした。さすが明智探偵の夫人ほどあって、涙を見せるようなことは

(なさいませんでしたが、ふあんにたえぬあおざめたかおに、わざとえがおをつくって)

なさいませんでしたが、不安にたえぬ青褪めた顔に、わざと笑顔をつくって

(いらっしゃるようすをみますと、おきのどくで、じっとしていられないのです。)

いらっしゃる様子を見ますと、お気の毒で、じっとしていられないのです。

(「おくさんだいじょうぶですよ。せんせいがぞくのとりこなんかになるもんですか。きっとせんせいには)

「奥さん大丈夫ですよ。先生が賊の虜なんかになるもんですか。きっと先生には

(ぼくたちのしらない、なにかふかいけいりゃくがあるのですよ。それでこんなにおかえりが)

僕達の知らない、何か深い計略があるのですよ。それでこんなにお帰りが

(おくれるんですよ」)

遅れるんですよ」

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