黒蜥蜴2
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問題文
(おまつりさわぎのあとのひろまには、ごしきのふんしとてーぷとが、ふねのでたあとの)
お祭りさわぎのあとの広間には、五色の粉紙とテープとが、船の出たあとの
(はとばのように、きたならしくちりしいて、まだふりょくをのこしたふうせんだまが、)
波止場のように、きたならしく散りしいて、まだ浮力を残した風船玉が、
(ちらほらと、てんじょうをはっているのもものさびしかった。そのぶたいうらのように)
ちらほらと、天井を這っているのも物さびしかった。その舞台裏のように
(こうりょうとしたへやの、かたすみのいすに、ひとかたまりのぼろくずみたいに、あわれに)
荒涼とした部屋の、片隅の椅子に、一かたまりのボロ屑みたいに、あわれに
(とりのこされているわかものがあった。かたのはったはでなしまのさっく・こーとに)
取り残されている若者があった。肩の張った派手な縞のサック・コートに
(あかいねくたい、どこやらきざなふうていの、けんとうせんしゅのようにはなのひしゃげた、)
赤いネクタイ、どこやらきざな風体の、拳闘選手のように鼻のひしゃげた、
(きんこつたくましい、ひとくせありげなおとこだ。それが、ふうさいににあわず、くしゅんと)
筋骨たくましい、一くせありげな男だ。それが、風采に似合わず、クシュンと
(しおれかえってうなだれているものだから、ついぼろくずにもみえたのだが。)
しおれかえってうなだれているものだから、ついボロ屑にも見えたのだが。
(ひとのきもしらないで、なにをぐずぐずしてるんだろうなあ。こっちあ、)
(人の気も知らないで、何をグズグズしてるんだろうなあ。こっちあ、
(いのちがけのどたんばなんだぜ。こうしているうちにも、でかがふみこんで)
命がけのどたん場なんだぜ。こうしているうちにも、デカがふみこんで
(きやしないかと、きがきじゃありゃしねえ かれはぶるぶるとみぶるいして)
来やしないかと、気が気じゃありゃしねえ)彼はブルブルと身ぶるいして
(もじゃもじゃのかみのけをごほんのゆびでかきあげた。そこへせいふくをきたおとこぼーいが、)
モジャモジャの髪の毛を五本の指でかきあげた。そこへ制服を着た男ボーイが、
(てーぷのやまをふみわけて、うぃすきーらしいぐらすをはこんできた。かれはそれを)
テープの山をふみ分けて、ウィスキーらしいグラスを運んできた。彼はそれを
(うけとると、おそいじゃねえか としかっておいて、ぐっとひといきにあおって、)
受け取ると、「おそいじゃねえか」と叱っておいて、グッと一息にあおって、
(もうひとつ とおかわりをめいじた。じゅんちゃん、またせちゃったわね そこへ)
「もう一つ」とお代わりを命じた。「潤ちゃん、待たせちゃったわね」そこへ
(やっと、わかもののまちかねていたひとがあらわれた。だーく・えんじぇるだ。)
やっと、若者の待ちかねていた人が現われた。ダーク・エンジェルだ。
(うるさいぼっちゃんたちを、うまくまいて、やっとひきかえしてきたのよ。さあ、)
「うるさい坊ちゃんたちを、うまくまいて、やっと引き返してきたのよ。さあ、
(あんたのいっしょうにいちどのおねがいっていうのをきこうじゃありませんか かのじょは)
あんたの一生に一度のお願いっていうのを聞こうじゃありませんか」彼女は
(まえのいすにこしかけて、まじめなかおをしてみせた。ここじゃだめです)
前の椅子に腰かけて、まじめな顔をして見せた。「ここじゃだめです」
(じゅんちゃんとよばれたわかものは、やっぱりじゅうめんをつくったまま、しずんだちょうしでこたえる。)
潤ちゃんと呼ばれた若者は、やっぱり渋面を作ったまま、沈んだ調子で答える。
(ひとにきかれるとわるいから?ええ くらいむ?ええ)
「人に聞かれると悪いから?」「ええ」「クライム?」「ええ」
(きずつけでもしたの いいや、そんなことならいいんだが くろこふじんは、)
「傷つけでもしたの」「いいや、そんなことならいいんだが」黒衣婦人は、
(のみこみよく、それいじょうはきかないでたちあがった。じゃそとでね。gがいは)
のみこみよく、それ以上は聞かないで立ちあがった。「じゃ外でね。G街は
(ちかてつこうじのにんぷのほかには、ひとっこひとりとおってやしないわ。あすこを)
地下鉄工事の人夫のほかには、人っ子一人通ってやしないわ。あすこを
(あるきながらききましょう ええ そしてこのいようないっついは、みにくい)
歩きながら聞きましょう」「ええ」そしてこの異様な一対は、みにくい
(あかねくたいのわかものと、めざめるばかりうつくしいくろてんしとは、かたをならべてたてものを)
赤ネクタイの若者と、目ざめるばかり美しい黒天使とは、肩を並べて建物を
(でた。そとはがいとうとあすふぁるとばかりがめだつ、しにたえたようなしんやの)
出た。外は街燈とアスファルトばかりが目立つ、死にたえたような深夜の
(だいどうであった。こつこつと、ふたりのくつおとがいっしゅのふしをつくってひびいていた。)
大道であった。コツコツと、二人の靴音が一種の節を作ってひびいていた。
(いったいどんなつみをおかしたっていうの。じゅんちゃんにもにあわない、ひどい)
「一体どんな罪を犯したっていうの。潤ちゃんにも似合わない、ひどい
(しょげかたね くろこふじんがきりだした。ころしたんです じゅんちゃんは、あしもとを)
しょげかたね」黒衣婦人が切り出した。「殺したんです」潤ちゃんは、足もとを
(みつづけながら、ひくいぶきみなこえでいいきった。まあ、だれをさ くろこふじんは)
見つづけながら、低い無気味な声で言い切った。「まあ、だれをさ」黒衣婦人は
(このおどろくべきこたえに、さしてこころをうごかしたようすもなかった。いろがたきをです。)
この驚くべき答えに、さして心を動かした様子もなかった。「色敵をです。
(きたじまのやろうとさきこのあまをです。まあ、とうとうやってしまったの・・・・・・)
北島の野郎と咲子のあまをです。」「まあ、とうとうやってしまったの……
(どこで?やつらのあぱーとで。しがいはおしいれのなかにつっこんであるんです。)
どこで?」「やつらのアパートで。死骸は押入れの中に突ッこんであるんです。
(あすのあさになったら、ばれるにきまってます。さんにんのいきさつは、みんなが)
あすの朝になったら、ばれるにきまってます。三人のいきさつは、みんなが
(しっているんだし、こんやあいつたちのへやへはいったのはぼくだということが、)
知っているんだし、今夜あいつたちの部屋へはいったのは僕だということが、
(あぱーとのばんにんやなんかにしれているんだから、つかまったらおしまいです)
アパートの番人やなんかに知れているんだから、捕まったらおしまいです
(......ぼくはもうすこししゃばにいたいんです たかとびでもしようって)
......僕はもう少ししゃばにいたいんです」「高飛びでもしようって
(いうの ええ......まだむ、あんたはいつも、ぼくをおんじんだといって)
いうの」「ええ......マダム、あんたはいつも、僕を恩人だといって
(くれますね そうよ。あのあぶないばあいをすくってもらったのだもの。あれから)
くれますね」「そうよ。あの危ない場合を救ってもらったのだもの。あれから
(あたし、じゅんちゃんのうでっぷしにはほこれんでいるのよ だから、おんがえしを)
あたし、潤ちゃんの腕っぷしにはほこれんでいるのよ」「だから、恩返しを
(してください。たかとびのひようを、せんえんばかりぼくにかしてください それは、)
してください。高飛びの費用を、千円ばかり僕に貸してください」「それは、
(せんえんぽっちわけないことだけれど、あんた、にげおおせるとおもっているの。)
千円ぽっちわけないことだけれど、あんた、逃げおおせると思っているの。
(よこはまかこうべのはとばでまごまごしているうちに、つかまってしまうのがおちだわ。)
横浜か神戸の波止場でマゴマゴしているうちに、捕まってしまうのが落ちだわ。
(こんなばあいに、あわをくってにげだすなんてぐのこっちょうよ くろこふじんは、さも、)
こんな場合に、あわを食って逃げ出すなんて愚の骨頂よ」黒衣婦人は、さも、
(そういうことにはなれきっているようなくちぶりであった。じゃあ、このとうきょうに)
そういうことには慣れきっているような口ぶりであった。「じゃあ、この東京に
(かくれていろっていうんですか ああ、まだしもそのほうがましだとおもうわ。)
かくれていろっていうんですか」「ああ、まだしもその方がましだと思うわ。
(しかし、それでもあぶないことはあぶないのだから、もっとうまいほうほうが)
しかし、それでもあぶないことはあぶないのだから、もっとうまい方法が
(あるといいんだけれど......くろこふじんはつとたちどまって、なにかしあんを)
あるといいんだけれど......」黒衣婦人はつと立ち止まって、何か思案を
(しているようすであったが、とつぜんみょうなことをたずねた。じゅんちゃんのあぱーとの)
している様子であったが、突然妙なことをたずねた。「潤ちゃんのアパートの
(へやは、ごかいだったわね ええ、だが、それがどうしたというんです)
部屋は、五階だったわね」「ええ、だが、それがどうしたというんです」
(わかものはいらいらしてこたえた。まあ、すてきだ うつくしいひとのくちびるから、)
若者はいらいらして答えた。「まあ、素敵だ」美しい人の唇から、
(びっくりするようなこえがほとばしった。うまいことがあるのよ。まるで)
びっくりするような声がほとばしった。「うまいことがあるのよ。まるで
(もうしあわせたでもしたようだわ。ねえ、じゅんちゃん、あんたまったくあんぜんに)
申し合わせたでもしたようだわ。ねえ、潤ちゃん、あんたまったく安全に
(なれるほうほうがあるわ なんです、それは。はやくおしえてください くろてんしは、)
なれる方法があるわ」「なんです、それは。早く教えてください」黒天使は、
(なぜかえたいのしれぬうすわらいをうかべて、あいてのあおざめたかおをじっと)
なぜかえたいの知れぬ薄笑いを浮かべて、相手の青ざめた顔をじっと
(のぞきこみながら、いちごいちごちからをいれていった。あなたがしんでしまうのよ。)
のぞきこみながら、一語々々力を入れて言った。「あなたが死んでしまうのよ。
(あまみやじゅんいちというにんげんをころしてしまうのよ え、え、なんですって?)
雨宮潤一という人間を殺してしまうのよ」「え、え、なんですって?」
(じゅんいちせいねんは、あっけにとられて、ぽかんとくちをあいて、あんこくがいのじょおうの)
潤一青年は、あっけにとられて、ポカンと口をあいて、暗黒街の女王の
(うつくしいかおをみつめるばかりであった。)
美しい顔をみつめるばかりであった。