黒蜥蜴18
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6080 | A++ | 6.3 | 96.5% | 887.2 | 5597 | 202 | 81 | 2024/10/02 |
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問題文
(かいろうじん)
怪老人
(あけちははいぼくした。しかしべんかいのよちがないではなかった。すくなくとも、)
明智は敗北した。しかし弁解の余地がないではなかった。少なくとも、
(いらいをうけたさなえさんほごのやくめだけは、かんぜんにはたしたからだ。いわせしは、)
依頼を受けた早苗さん保護の役目だけは、完全に果たしたからだ。岩瀬氏は、
(にょぞくをのがしたことなどはにのつぎにして、ただむすめのたすかったことをかんしゃした。)
女賊を逃したことなどは二の次にして、ただ娘の助かったことを感謝した。
(あけちのしゅわんをさんびしておかなかった。それに、こういうけっかになったたいはんの)
明智の手腕を讚美しておかなかった。それに、こういう結果になった大半の
(せきにんは、いわせしにあったといってもいいのだ。くろとかげ のへんそうをわがむすめと)
責任は、岩瀬氏にあったといってもいいのだ。「黒トカゲ」の変装をわが娘と
(しんじきって、そのとなりのべっどにねながら、ぞくのからくりをかんぱしえなかったのは)
信じきって、その隣のベッドに寝ながら、賊のからくりを看破し得なかったのは
(なんといってもいわせしのておちであった。だが、あけちはそういうことで)
なんといっても岩瀬氏の手落ちであった。だが、明智はそういうことで
(なぐさめられはしなかった。あいてもあろうに、かよわいおんなのためにこのはいぼくを)
慰められはしなかった。相手もあろうに、かよわい女のためにこの敗北を
(みたかとおもうと、くやんでもくやみたりないきもちであった。ことに、みはりの)
見たかと思うと、悔やんでも悔み足りない気持であった。殊に、見張りの
(ぶかのくちから、あいてがすばやいへんそうでのがれさったことをしると、おもわず)
部下の口から、相手が素早い変装でのがれ去ったことを知ると、思わず
(ばかっ と、そのぶかをどなりつけたほどはらがたった。いわせさん、ぼくは)
「ばかっ」と、その部下をどなりつけたほど腹が立った。「岩瀬さん、僕は
(まけました。あれほどのやつがぼくのぶらっく・りすとにのっていなかったのは)
負けました。あれほどのやつが僕のブラック・リストに載っていなかったのは
(ふしぎです。たかをくくっていたのがいけなかったのです。しかしもう)
不思議です。たかをくくっていたのがいけなかったのです。しかしもう
(このしっぱいはくりかえしません。いわせさん、いまぼくはぼくのなにかけてちかいます。)
この失敗は繰り返しません。岩瀬さん、いま僕は僕の名にかけてちかいます。
(たとえあいつがふたたびおじょうさんをねらうようなことがあっても、こんどこそはけっして)
たとえあいつが再びお嬢さんを狙うようなことがあっても、今度こそは決して
(まけません。ぼくがいきているあいだは、おじょうさんはあんぜんです。これだけを、)
負けません。僕が生きているあいだは、お嬢さんは安全です。これだけを、
(はっきりもうしあげておきます あけちはあおざめたかおに、おそろしいほどのねついを)
ハッキリ申し上げておきます」明智は青ざめた顔に、恐ろしいほどの熱意を
(こめてだんげんした。きだいのきょうてきをむこうにまわして、かれのとうそうしんはもえあがった)
こめて断言した。稀代の強敵を向こうに廻して、彼の闘争心は燃え上がった
(のだ。どくしゃしょくん、このあけちのことばをきおくにとどめておいてください。かれのせいやくは)
のだ。読者諸君、この明智の言葉を記憶にとどめておいてください。彼の誓約は
(はたしてまもれるか。ふたたびしっぱいをくりかえすようなことはないか。もしそういう)
果たして守れるか。再び失敗を繰り返すようなことはないか。もしそういう
(ことがあったなら、かれはしょくぎょうてきにじめつするほかはないのだが。そのよくじつ、)
ことがあったなら、彼は職業的に自滅するほかはないのだが。その翌日、
(いわせしおやこは、よていをへんこうして、おおいそぎでおおさかのじたくにかえった。とちゅうがひじょうに)
岩瀬氏父子は、予定を変更して、大いそぎで大阪の自宅に帰った。途中が非常に
(ふあんだったけれど、ほてるずまいをつづけるよりは、はやくじたくへかえって、)
不安だったけれど、ホテル住まいをつづけるよりは、早く自宅へ帰って、
(いっかけんぞくのなかにおちつきたかったからだ。あけちこごろうもそれをすすめ、とちゅうの)
一家眷族の中に落ちつきたかったからだ。明智小五郎もそれをすすめ、途中の
(ごえいのにんにあたった。ほてるからえきまでのじどうしゃ、きしゃのなか、おおさかにとうちゃくして)
護衛の任にあたった。ホテルから駅までの自動車、汽車の中、大阪に到着して
(でむかえのじどうしゃ、ぞくのてはどこにのびてくるかわからなかったので、)
出迎えの自動車、賊の手はどこに伸びてくるかわからなかったので、
(それらのてんにはめんみつのうえにもめんみつのちゅういがはらわれた。けっきょく、さなえさんの)
それらの点には綿密の上にも綿密の注意がはらわれた。結局、早苗さんの
(いっこうはぶじにじたくにかえることができたのだ。あけちはそれからひきつづき)
一行は無事に自宅に帰ることができたのだ。明智はそれから引きつづき
(いわせけのきゃくとなって、さなえさんのしんぺんをはなれなかった。そして、すうじつは)
岩瀬家の客となって、早苗さんの身辺をはなれなかった。そして、数日は
(なんのいへんもなくすぎさった。さてどくしゃしょくん、さくしゃは、ここにぶたいをいってんして、)
なんの異変もなく過ぎ去った。さて読者諸君、作者は、ここに舞台を一転して、
(いままでこのものがたりにいちどもあらわれなかったひとりのじょせいの、ふしぎなけいけんをかたる)
今までこの物語りに一度も現われなかった一人の女性の、不思議な経験を語る
(じゅんじょとなった。それはくろとかげやさなえさんやあけちこごろうとは、なんのかんけいもない)
順序となった。それは黒トカゲや早苗さんや明智小五郎とは、なんの関係もない
(ことがらのようにみえるかもしれない。しかし、びんかんなどくしゃは、このいちじょせいのきいな)
事柄のように見えるかもしれない。しかし、敏感な読者は、この一女性の奇異な
(けいけんが、じけんにかんしてどんなふかいいみをもっているかを、よういにさとられるに)
経験が、事件に関してどんな深い意味を持っているかを、容易にさとられるに
(ちがいない。それはさなえさんがおおさかにかえってまもないあるよるのことであったが、)
違いない。それは早苗さんが大阪に帰って間もないある夜のことであったが、
(おなじおおさかしないのさかりばsまちのとおりを、りょうがわのしょう・ういんどうをながめながら、)
同じ大阪市内の盛り場S町の通りを、両側のショウ・ウインドウを眺めながら、
(ようもなげにそぞろあるきしているひとりのむすめがあった。えりとそでぐちにちょっぴりとけがわの)
用もなげに漫歩している一人の娘があった。襟と袖口にチョッピリと毛皮の
(ついたこーとが、しかしなかなかよくにあって、はい・ひーるのあしのはこびも)
ついた外套が、しかしなかなかよく似合って、ハイ・ヒールの足の運びも
(かろやかにみえたが、かのじょのうつくしいかおには、なぜかしょうきがなかった。どことなく)
軽やかに見えたが、彼女の美しい顔には、なぜか生気がなかった。どことなく
(すてばちな、どうにでもなれ というようなきしょくがただよっていた。)
捨てばちな、「どうにでもなれ」というような気色がただよっていた。
(それゆえに、ともすればすとりーと・がーるなどとみちがえられそうであった。)
それゆえに、ともすればストリート・ガールなどと見ちがえられそうであった。
(げんに、かのじょをそのしゅるいのじょせいとかんがえてか、さいぜんから、それとなくかのじょの)
現に、彼女をその種類の女性と考えてか、さいぜんから、それとなく彼女の
(あとをつけているひとりのじんぶつがあった。ちゃいろのそふとに、あつぼったいちゃいろの)
あとをつけている一人の人物があった。茶色のソフトに、厚ぼったい茶色の
(おーばー、ふといとうのすてっき、おおきなろいどめがね、かみもひげもまっしろなくせに)
オーバー、太い籐のステッキ、大きなロイド目がね、髪もひげもまっ白なくせに
(てらてらとしたあからがおの、きみのわるいろうしんしだ。むすめのほうでも、とっくにそれを)
テラテラとした赤ら顔の、気味のわるい老紳士だ。娘の方でも、とっくにそれを
(きづいていた。だが、かのじょはにげようともしないのだ。しょう・ういんどうの)
気づいていた。だが、彼女は逃げようともしないのだ。ショウ・ウインドウの
(かがみをりようして、そのろうじんのようすを、なにかきょうみありげにながめさえした。sまちの)
鏡を利用して、その老人の様子を、何か興味ありげに眺めさえした。S町の
(あかるいとおりを、ちょっとまがったうすぐらいよこちょうにこーひーのうまいのでゆうめいな)
明るい通りを、ちょっと曲がった薄暗い横町にコーヒーのうまいので有名な
(きっさてんがある。むすめはふとおもいついたように、びこうのろうしんしをちょっとふりかえって)
喫茶店がある。娘はふと思いついたように、尾行の老紳士をちょっと振り返って
(おいて、そのみせへはいっていった。そして、しゅろのはちうえでめかくしをした)
おいて、その店へはいって行った。そして、シュロの鉢植えで眼かくしをした
(すみっこのぼっくすにこしかけると、なんとひとをくったむすめさんであろう、こーひーを)
隅っこのボックスに腰掛けると、なんと人を喰った娘さんであろう、コーヒーを
(ふたつちゅうもんしたのである。ひとつはむろん、あとからはいってくるろうしんしの)
二つ注文したのである。一つはむろん、あとからはいってくる老紳士の
(ためにだ。あんのじょう、ろうじんはきっさてんへはいってきた。そして、くらいてんないを)
ためにだ。案のじょう、老人は喫茶店へはいってきた。そして、暗い店内を
(じろじろながめまわしていたが、むすめをみつけると、このろうじんもかのじょのうえをいく)
ジロジロ眺め廻していたが、娘を見つけると、この老人も彼女の上を行く
(あつかましさで、そのぼっくすへちかづいていった。やあ、ごめんなさい。)
あつかましさで、そのボックスへ近づいて行った。「やあ、ごめんなさい。
(あんたおひとりかな そういいながら、かれはむすめとむかいあって、こしをおろして)
あんたお一人かな」そう言いながら、彼は娘と向かい合って、腰をおろして
(しまった。おじさん、きっといらっしゃるとおもって、あたし、こーひーを)
しまった。「おじさん、きっといらっしゃると思って、あたし、コーヒーを
(ちゅうもんしておきましてよ むすめがろうじんのばいのだいたんさでおうしゅうした。さすがのろうしんしも、)
注文しておきましてよ」娘が老人の倍の大胆さで応酬した。さすがの老紳士も、
(これにはめんくらったようにみえたが、やがて、さもわがいをえたとばかりに)
これには面くらったように見えたが、やがて、さも我が意を得たとばかりに
(にこにこして、むすめのうつくしいかおをまっしょうめんからながめながら、みょうなことをたずねた。)
ニコニコして、娘の美しい顔をまっ正面から眺めながら、妙なことをたずねた。
(どうじゃな、しつぎょうのあじは?すると、こんどはむすめのほうでぎょっとしたらしく、)
「どうじゃな、失業の味は?」すると、今度は娘の方でギョッとしたらしく、
(かおをあかくして、どもりどもりこたえた。まあ、しってらしたの?あなた、)
顔を赤くして、どもりどもり答えた。「まあ、知ってらしたの?あなた、
(どなたでしょうか ふふふふふふ、あんたのちっともごぞんじないろうじんじゃ。)
どなたでしょうか」「フフフフフフ、あんたのちっともご存知ない老人じゃ。
(だが、わしのほうでは、あんたのことをすこしばかりしっているのですよ。)
だが、わしの方では、あんたのことを少しばかり知っているのですよ。
(いってみようかね。あんたのなまえはさくらやまようこ、かんさいしょうじかぶしきがいしゃの)
いってみようかね。あんたの名前は桜山葉子、関西商事株式会社の
(たいぴすとじょうであったが、じょうやくとけんかして、きょうくびになったばかりじゃ。)
タイピスト嬢であったが、上役と喧嘩して、きょう首になったばかりじゃ。
(はははははは、どうだね、あたったでしょう ええ、そうよ。あなたは)
ハハハハハハ、どうだね、当たったでしょう」「ええ、そうよ。あなたは
(たんていさんみたいなかたね ようこは、たちまちさいぜんからのすてばちなひょうじょうに)
探偵さんみたいなかたね」葉子は、たちまちさいぜんからの捨てばちな表情に
(かえって、そんなことにおどろくもんかというちょうしで、うけながした。まだある。)
返って、そんなことに驚くもんかという調子で、うけ流した。「まだある。
(あんたはきょうさんじごろにかいしゃをでてからいままで、いちどもいえへかえっていない。)
あんたはきょう三時頃に会社を出てから今まで、一度も家へ帰っていない。
(ともだちをほうもんしようともしない。ただぶらぶらとおおさかのまちじゅうをあるきまわって)
友だちを訪問しようともしない。ただブラブラと大阪の町じゅうを歩き廻って
(いた。いったいこれからどうするつもりなんだね ろうじんはなにもかもしっている。)
いた。一体これからどうするつもりなんだね」老人は何もかも知っている。
(かれはきっと、そのごごさんじからよふけまで、ずっとようこをびこうしつづけて)
彼はきっと、その午後三時から夜ふけまで、ずっと葉子を尾行しつづけて
(いたのにちがいない。いったいぜんたいなんのもくてきで、そんなばかばかしいほねおりを)
いたのにちがいない。一体全体なんの目的で、そんなばかばかしい骨折りを
(したのであろう。それをきいてどうなさいますの。で、もしあたしがこんばんから)
したのであろう。「それを聞いてどうなさいますの。で、もしあたしが今晩から
(すとりーと・がーるにてんぎょうしたとしたら・・・・・・むすめがやけっぱちなうすわらいを)
ストリート・ガールに転業したとしたら……」娘がやけっぱちな薄笑いを
(うかべていった。はははははは、わしがそういうふりょうろうじんにみえるかね。)
浮かべて言った。「ハハハハハハ、わしがそういう不良老人に見えるかね。
(ちがうちがう。それに、あんたはそんなまねのできるたちじゃない。わしが)
ちがうちがう。それに、あんたはそんなまねのできるたちじゃない。わしが
(しらんとおもっているのかね、にじかんほどまえ、きみがくすりやのみせへはいって、かいものを)
知らんと思っているのかね、二時間ほど前、君が薬屋の店へはいって、買物を
(したのを ろうしんしは、どうだというように、ぐっとようこのめをみすえた。)
したのを」老紳士は、どうだというように、グッと葉子の眼を見すえた。